5分でわかるブロックチェーン講座
にわかに活気付くステーブルコイン、世界統一通貨は生まれるのか
「FinCEN Files」の漏洩事件を業界目線で考察
2020年9月30日 09:15
欧州連合(EU)がステーブルコインの規制へ動く
今週(2020年9月22日~9月28日)は規制や行政に関するトピックが数多く報じられた1週間だった。まずは、ヨーロッパの動きから紹介していく。
欧州連合(EU)が、暗号資産・ブロックチェーンとりわけステーブルコインに関する規制の枠組みを、2024年までに整備する方針であることを明らかにした。背景には、Facebook主導のLibra(リブラ)の存在があるようだ。
今回の発表では、Libraを含むステーブルコインに対する規制が必要であると言及した。Libra誕生以前よりステーブルコインは存在していたが、Libraのインパクトが非常に強く、世界共通の通貨として成立する可能性を秘めている点を感じ取ったのだろう。
ご存知の通り、EUにはユーロという共通通貨が存在する。そのため、ステーブルコインの発展はEUの金融・経済圏の安定性を脅かす可能性があるのだ。これは、EUに限らず世界各国の規制当局が危惧していることである。
2024年の枠組み整備を目指す方針として、EU圏内で暗号資産関連のサービスを運営する場合には、物理的な拠点を設ける必要性を示唆した。その上で、影響力の大きいステーブルコインについては、欧州銀行監督機構(EBA)の監視下に置く方針を示している。
また今回の規制整備に際して、サンドボックス制度を導入することも発表している。既存産業を守りつつも、新興産業の可能性も模索していく姿勢は日本政府も見習うべきではないだろうか。
米国の銀行がステーブルコインの裏付け資産を管理へ
続いて、米国通貨監督庁(OCC)の動きを取り上げる。以前紹介したが、OCCは国立銀行と貯蓄貸付組合に対して暗号資産の取り扱いを許可する方針を公表している。米国の銀行に対して、暗号資産への介入を積極的に促す姿勢を見せているのだ。
そしてOCCは今回、国立銀行(National Banks)と連邦貯蓄協会(Federal Saving Association)に対してステーブルコインを発行するための準備資産を保有できるよう許可を出した。
ステーブルコインは、ビットコインをはじめとする暗号資産の価格変動(ボラティリティ)が大きい問題を解消するために誕生した暗号資産だ。概念は法定通貨と変わらず、基本的には何かの資産(法定通貨や暗号資産)を担保にして発行される。
そのためステーブルコインの発行体は、発行するステーブルコインの総額を上回る(最低でも同額)担保資産を保有する必要がある。そうでなければ、ステーブルコインの価格が正しいといえる根拠が存在しないからだ。ステーブルコインに関するより詳細な解説は、こちらの記事を参照いただきたい。
今回のOCCの発表は、このステーブルコイン発行体の需要に対応したものだ。銀行がステーブルコインを発行するわけではなく、ステーブルコインの発行体が価格の裏付けとなる担保資産を大量に保有しなければならないため、これを銀行に預けられるようにしたのである。
なお、担保資産を保管する銀行側は、日次の頻度で、発行されたステーブルコインの総額と預けられている担保資産の総額を確認するオペレーションを組むことになるという。つまり、ステーブルコインの発行額が担保資産を上回っていないか毎日確認しなければならないのだ。これは相当なコストが発生することが予想される。
背景には、再燃する「Tether問題」が関係してそうだ。
参照ソース
米通貨監督庁ガイダンス、銀行がステーブルコインの準備資産を保管可能に
[CoinPost]
Federally Chartered Banks and Thrifts May Engage in Certain Stablecoin Activities
[OCC/CoinDesk]
FinCEN Filesの漏洩
最後は、暗号資産・ブロックチェーン業界に限らず大きく話題となった「FinCEN Files」の漏洩についてだ。
米国財務省の金融犯罪取締ネットワーク(FinCEN)が管理する機密文書「FinCEN Files」が漏洩した。文書には、20年間にわたり違法性が問題視されながらも摘発されなかった資金移動について記載されており、合計額が200兆円を超えていたとされている。
問題となったのは文書が漏洩した事実ではなく、国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)によって実施された調査の結果だ。調査報告書によると、違法性が問題視されながらも摘発されなかった資金移動の多くが、世界各国の大手金融機関によるものだったという。
具体的には、JPモルガン・チェースやHSBC、スタンダード・チャータード銀行、ドイツ銀行などである。これらの金融機関は、不正な資金移動の流れを阻止できなかったとしてFinCENより罰金を科されている一方、罰金額を上回る利益を不正送金から得ているという。
そして、肝心のFinCENも罰金を科すだけで法的に裁くことはしていないと指摘されている。つまり、金融犯罪取締ネットワークとしての機能を果たしていないのだ。
この指摘については、透明性と追跡性に優れたブロックチェーン上で展開される暗号資産業界からも、厳しい意見が上がっている。今回の一件は集権性の最たる弊害であり、オペレーションが機能しない場合はテクノロジーの仕組みで解決すべきだ、との指摘が見受けられた。
今週の「なぜ」ステーブルコインはなぜ重要なのか
今週は世界各国の規制や行政の取り組みに関するトピックを取り上げた。ここからは、なぜ重要なのか、解説と筆者の考察を述べていく。
【まとめ】
ステーブルコインの2つの用途
国勢に左右されないステーブルコイン
ステーブルコインは通貨を統一するのか
それでは、さらなる解説と共に筆者の考察を説明していこう。
ステーブルコインの2つの用途
DeFiやCBDCの盛り上がりに伴い、ステーブルコインへの注目度も日に日に高まってきているように感じる。日本でも、安倍政権時代に国会で麻生財務大臣がステーブルコインについて言及するなど、もはや専門用語ではなくなってきているとさえ言えるのではないだろうか。
ステーブルコインには、大きく分けて2つの用途があると考えている。1つ目は、DeFi市場における基軸通貨としての使い道だ。ブロックチェーン上で発行されるステーブルコインは、同じくブロックチェーン上で稼働するWebサービスと相性が良い(相互互換性がある)。
資金の逃げ先としてのステーブルコイン
2つ目は、資産の逃げ先としてだ。日本に住んでいると実感できないが、自国通貨を信用していない人々は世界中に数多く存在する。アルゼンチンやベネズエラなどの地域では、通貨がデフォルトする前に何か他の資産に自己資金を逃がしたいと誰しもが考えていただろう。
また政治情勢の不安定な香港でも、人民元としてではなく他の資産で資金を保有していたいという需要はかなり存在する。そこで登場するのが暗号資産だ。しかしながら、ビットコインはボラティリティが高いため、ステーブルコインに白羽の矢が立ったのである。
暗号資産であれば、国勢に左右されることなく資産を移すことができ、さらにステーブルコインであれば大きな価格変動の心配がない。これは、単純に法定通貨をデジタル化しただけのCBDC(Central Bank Digital Currency)では実現できないのだ。
ステーブルコインは世界統一通貨になるのか
TetherやDaiなど、ステーブルコインは以前より着実に市民権を獲得してきた。一気に拡大するきっかけとなったのがLibraである。Libraによってステーブルコインに注目が集まり、良くも悪くも規制の整備が進んだといえるだろう。
Libra自体は、これまでに存在していたステーブルコインと何ら変わりない。にも関わらず、Libraだけが規制の影響を大きく受けることになってしまった。理由は一度に大きくやろうとしすぎたことだと、個人的には振り返っている。
数あるステーブルコインの中でも、ベンチマークとしての存在になってしまったことで、今回のEUのように名指しで規制の対象にされてしまったのである。当然、規制当局は既存金融の安定性を重視するため、Libraのように世界のイデオロギーを覆すような取り組みは淘汰されてしまうのだ。これについては、日本銀行の雨宮副総裁も言及している。
昨今の規制の流れをみていると、ステーブルコインが世界統一通貨になる未来はあまり想像できない。国境が存在する限り、そこには侵してはならない金融の安定性が根付いているからだ。ステーブルコインは法定通貨と共存し、実用化という側面では、相性の良い特定の用途でのみ繁栄していくことが予想される。