5分でわかるブロックチェーン講座

ガートナーがハイプサイクル2020を公開、注目のブロックチェーンは?

「Tether問題」からみるステーブルコインの価値を考察

 暗号資産・ブロックチェーンに関連するたくさんのニュースの中から見逃せない話題をピックアップ。1週間分の最新情報に解説と合わせて、なぜ重要なのか筆者の考察をお届けします。

ガートナーがハイプサイクル2020を公開

 リサーチ・アドバイザリ企業のガートナーが「日本における未来志向型インフラ・テクノロジのハイプ・サイクル:2020年」を発表した。注目のブロックチェーンは、2019年に続き「過度な期待のピーク期」から「幻滅期」に差し掛かる場所に位置している。

 2019年との主な違いとしては、新たに「ブロックチェーンによるトークン化」「非中央集権アプリケーション」「ブロックチェーン・ソサエティ」「非中央集権型web」が追加された点があげられる。ブロックチェーンと一口に括られていたが、実用化が進むにつれて細分化された結果だといえるだろう。

 担当アナリストによると、今年のハイプサイクルには新型コロナウイルスの影響が大きく加味されているという。ブロックチェーン以外には、「5G」や「ロボティック・プロセス・オートメーション(RPA)」、「デジタル・ヘルス」をキーワードとして取り上げており、トレンドに即したものとなっている。

 なお、著者の肌感としては幻滅期に差し掛かっている「ブロックチェーン」は主にエンタープライズ領域のものを意味し、「ブロックチェーン・ソサエティ」を除くその他の新カテゴリ「ブロックチェーンによるトークン化」、「非中央集権アプリケーション」、「非中央集権型web」は、個人向け市場を意味するものではないかというところだ。このように捉えると、ある程度は納得のいく分析だと感じている。

 一方で、各産業へのブロックチェーンの導入には「モノのインターネット(IoT)」が欠かせないため、他の要素の推移についても引き続き注目していきたい。

参照ソース


    ガートナー、「日本における未来志向型インフラ・テクノロジのハイプ・サイクル:2020年」を発表
    [Gartner]

ステーブルコインTether(テザー)へ再び財務記録の提出命令

 ステーブルコインTether(USDT)の発行・管理を行うTether社およびBitfinex社に対して、ニューヨーク司法当局(NYAG)が財務記録の提出命令を裁判所に求めた。

 Tetherは、米ドルを担保にして発行されるステーブルコインだ。Thther社とBitfinex社が発行の役割を担っており、DeFiではなくCeFi(Centralized Finance)に該当する。このTetherには、以前より「Tether問題」というものが存在している。

 これは、Tetherを管理するTether社は本当にその担保資産を保有しているのか、という問題だ。Tetherは米ドルを担保にして発行されるため、発行元には当然その価値の裏付けとなる担保資産が存在するはずだ。

 執筆時点(2020年9月)で発行されているTetherの総額は約140億ドルにおよぶ。設立数年のベンチャー企業が、そこまでの米ドル資産を保有しているとは考えにくいのだ。

 そのため、Tether社はこれまでに何度かニューヨーク司法当局より財務記録の提出命令を求められている。しかしながら、その求めに応じたことは1度もない。この後のパートでは、この「Tether問題」にみるステーブルコインの価値や信用について考察していきたい。

参照ソース


    速報 NY司法当局、テザー社の財務記録提出を求める申請書を提出
    [CoinPost]
    NY AG Asks Court for New Order to Make Bitfinex Turn Over Tether Loan Documents
    [CoinDesk]

今週の「なぜ」「Tether問題」はなぜ重要なのか

 今週はガートナーのハイプサイクル2020とステーブルコインTetherに関するトピックを取り上げた。ここからはなぜ重要なのか、解説と筆者の考察を述べていく。

【まとめ】

Tetherは担保資産がブラックボックス化している
なぜTetherの価格は安定しているのか
信用で成り立つ通貨の価値

 それでは、さらなる解説と共に筆者の考察を説明していこう。

ステーブルコインの種類

 徐々に市民権を得つつあるステーブルコインには、いくつかの種類が存在する。大きく分けて「法定通貨担保型」「暗号資産担保型」「無担保型」だ。

 まず法定通貨担保型の代表例は、今回取り上げたTetherであり文字通り法定通貨(ドルや円、ポンドなど)を担保にして発行される。Facebook主導プロジェクトとして話題になったLibraも、このカテゴリに分類される。

 暗号資産担保型の代表例は、主にDeFi市場の基軸通貨として流通しているDaiがあげられる。仕組みとしては法定通貨担保型と同じであり、Dai以外の暗号資産を担保にして発行される。発行プロセスは全てスマートコントラクトで実行される点が特徴だ。

 最後に無担保型だが、これは上記の2つとは仕組みから異なっている。文字通り、担保資産が無い状態で通貨が発行され、発行体の制御するアルゴリズムによって価格をコントロールしている。

etherは担保資産がブラックボックス化している

 DeFiの成長と共にステーブルコインの知名度も上がってきたが、ステーブルコイン=DeFiという定義は誤りだ。Tetherがその代表例としてあげられる。

 一般的に、ステーブルコインとはブロックチェーン上で発行される、価格の安定した通貨のことを意味する。そのため特定の管理者は存在せず、担保資産の総量や需給のパラメータには透明性があって然るべきと言えるだろう。

 Tetherはブロックチェーン上で発行されているものの、この条件を1つも満たしていない。特に重要なのが、ステーブルコインの最大の特徴である価格の安定性を表す担保資産がブラックボックスである点だ。なぜ重要かというと、担保資産が実は存在していなかったと判明した場合に、間違いなく価格が暴落するからである。これではステーブルコインとは言えないだろう。

なぜTetherの価格は安定しているのか

 長年Tether問題の経過を観察してきた身としては、ほぼ間違いなくTether社は市場に流通するTetherの総額と同額の米ドルを保有していないと考えている(他意はない点を強調したい)。Tetherは、1USDT(Tetherの通貨単位)=1米ドルになるよう需給が調整されているため、担保資産が全額存在していない場合はこの価格ロジックが崩壊することになるのだ。

 ここで浮上するのが、現状なぜTetherの価格は1ドルに固定できているかという疑問である。これがまさにTether問題の根幹だ。Tetherの保有者は現時点でTether社に担保資産がなくても将来的には用意されるはず、といった信用を持っており、その結果成り立っていると考えられる。

 実際、全額とまではいかないもののTether社はこれまでに複数回の資金調達を実施している。推測の域を超えないが、全額を用意するまで当局の財務記録の提出には応じない構えなのだろう。「非中央集権」そして「信頼不要」をコンセプトに掲げるブロックチェーン業界において、Tetherは非常に稀有な存在として注目されている。

田上 智裕(株式会社techtec代表取締役)

リクルートで全社ブロックチェーンR&Dを担当後、株式会社techtecを創業。“学習するほどトークンがもらえる”オンライン学習サービス「PoL(ポル)」や企業のブロックチェーン導入をサポートする「PoL Enterprise」を提供している。海外カンファレンスでの登壇や行政でのオブザーバー活動も行う。Twitter:@tomohiro_tagami