5分でわかるブロックチェーン講座

Kraken Venturesが発足、その投資領域は?DeFiを無料で触れるDeFi Simulationが登場

DeFi、Web3...各ファンドの投資戦略に共通する未来のブロックチェーン業界

 暗号資産・ブロックチェーンに関連するたくさんのニュースの中から見逃せない話題をピックアップ。1週間分の最新情報に解説と合わせて、なぜ重要なのか筆者の考察をお届けします。

Krakenが投資ファンドを設立

 米大手暗号資産取引所のKrakenが、投資ファンドKraken Venturesを設立した。ファンドサイズは明かされていないものの、数十万ドルから数百万ドルを1件あたりに投資していくという。

 暗号資産・ブロックチェーン業界では取引所が主なプロフィットセンターとなっており、そこで得た利益をベンチャー投資に回すことでエコシステムを拡大させている。取引額のトップ3を占めるBinance(Binance Labs)、Coinbase(Coinbase Ventures)、Huobi Global(Huobi Labs)もそれぞれファンドを設立しており、4番手となるKrakenもファンド事業に参入した形だ。

 Kraken Venturesでは、主に以下のような領域を投資対象にするという。Web3やDeFiといった本丸を抑えつつ、それらの基盤となる金融インフラや周辺ツールも対象となっている。

Image: Shutterstock.com

・FinTech: 金融サービス特化ではなく、プラスαとしてのFinTechに投資。主にB2B企業が対象
・Financial Infrastructure: オープンバンキングから貿易の監視まで、未来の経済基盤となるインフラシステムに投資。具体的には、サイバーセキュリティやアナリティクス、デベロッパーツールなど
・Web3/DeFi: 本質的な価値を持つプロトコルに投資。ブロックチェーンのスケーリングソリューションや各種DeFiプロトコル(DEXやデリバティブ、保険など)が対象
・Customer Crypto Protocols: 消費者向けのトークンを活用したプラットフォーム型サービスに投資
・Digital Economies: 銀行との複雑な関係性を排除した自己完結型(デジタルに閉じた空間)のエコシステムへ投資
・Enabling Tech: 金融サービスに変革をもたらすテクノロジーに投資。具体的には、人工知能や機械学習、ディープラーニングなどが対象

 残念ながら日本では極めて稀なものの、世界的にはブロックチェーン事業へのベンチャー投資が積極的に行われている。業界特化のファンドだけでなく、a16zやUSV、Sequoiaといった著名ファンドも多額の投資を行ってきた。

 今週は、これらのファンドが公表している投資戦略について考察していきたい。共通点を見つけることで、中長期的な業界動向が伺えるだろう。

参照ソース


    Kraken Backs Launch of Venture Capital Fund
    [Kraken]

DeFiを無料で触れる新サービス

 DeFiアグリゲーションInstadappが、仮想環境で各種DeFiサービスを試すことができる新サービスDeFi Simulationをローンチした。ガス代(手数料)を必要とせず、気軽にDeFiに触ることができるサービスとして話題を集めている。

 先週の記事で紹介した通り、DeFiを理解するにはレイヤー構造の知識を持っておくと良い。Instadappは、最上位に位置するアグリゲーションレイヤーに分類され、無数に存在するDeFiサービスを1つのインターフェースから使用することができる。

 今回ローンチされたDeFi Simulationは、現状のDeFiが抱える大きな2つの課題を解決することが期待される。1つ目は、イーサリアムのガス代問題だ。

 現状のイーサリアムは処理性能が低いため、価格の高騰などで取引量が増加した場合には、ガス代を高く設定しないといつまで経っても取引が通らない状態になっている。そのため、日に日にガス代は高騰し気軽にアプリケーションを動かすことができないのだ。

 DeFiもこの影響を受け、結果的に富裕層の遊び場状態に陥っている。この点については、こちらの記事でも詳しく紹介した。DeFi Simulationは、仮想環境でDeFiサービスを動かすことができるためガス代が発生しない。

 用途としては、本番環境でDeFiサービスを動かす前に仮想環境で試してみることにより、実際に必要なガス代を把握することができる点にある。ガス代を直接的に削減するわけではないものの、本当に必要な金額を知ることができるため、不必要に高く設定しなくて良くなる。

 DeFiの抱える課題の2つ目は、扱う難易度の高さだ。ブロックチェーン×金融ということもあり、DeFiに慣れるまでには相当の時間が求められる。今ではエンジニアリングのスキルは必要ではなくなったが、それでも基本的に全てが英語のため感覚的に触ることは難しいだろう。

 さらに、DeFiで何かやろうとすると全ての行動に対してガス代が発生するため、ガス代が高騰していると気軽に触ってみることもできなくなる。DeFi Simulationであればガス代が発生しないため、DeFiに慣れるまでいくらでも試してみることができるのだ。

 なお、DeFi Simulationを使用する際は仮想環境で使用できる仮想トークンが付与されるため、ガス代だけでなく原資金も不要となっている。

参照ソース


    Introducing DeFi Simulation - User's gas FREE environment to try DeFi without spending a dime
    [Instadapp]
    Instadapp DeFi Simulation
    [DeFi Simulation]

今週の「なぜ」投資ファンドはなぜ重要か

  今週はKraken Venturesの設立やInstadappのDeFi Simulationに関するトピックを取り上げた。ここからは、なぜ重要なのか、解説と筆者の考察を述べていく。

【まとめ】

暗号資産・ブロックチェーン業界では株式出資だけでなくトークン出資が行われる
新興市場を作るのは投資ファンド
ファンドの戦略から予想される未来はWeb3とDeFiが中心となる

 それでは、さらなる解説と共に筆者の考察を説明していこう。

ブロックチェーン業界では当たり前になったトークン出資

 暗号資産・ブロックチェーン業界への投資スキームには、主に2つの方法があげられる。1つはビットコインやイーサリアムといった、既にある程度の市場が形成されている暗号資産への投資だ。

 こちらは、テスラやマイクロストラテジーといった大企業の大量購入によりもはや既知のものとなっているだろう。2つ目が、Kraken Venturesのように業界のベンチャー企業に対する投資だ。

 ブロックチェーン業界特有の投資スキームとしてあげられるのが、株式への投資だけでなくトークンへの投資が行われている点だろう。株式へ投資する代わりに、その企業が発行するトークンへ出資し保有するというスキームだ。

 株式なら証券取引所への上場を目指し、トークンなら暗号資産取引所への上場を目指す。今のところ、後者の方が実現までの期間が圧倒的に短いため、このようなスキームが好まれる傾向にある。Kraken Venturesでも、トークン出資を行っていく戦略を明確にしている。

誰が新興市場を作っているのか

 ブロックチェーン業界のような新興市場でベンチャー企業を経営する身として、「誰が市場を作っているのか」ということを考える時間を意識的に作るようにしてきた。2019年末に米国カリフォルニア州のサンフランシスコに滞在していたのだが、そこで得たインサイトは示唆に富むものがあると考えている。

 先述の通り、米国ではKraken Venturesのような特化型ファンドに限らず、a16zやUSV、Sequoiaといった巨大ファンドがブロックチェーン業界への積極的な投資を進めている。

 こちらの記事でも考察したが、日本では3桁億円の投資ファンドが組成されることは極めて稀だ。しかしながら、米国では特化型ファンドで3桁億円が当たり前の状況となっている。日米における違いの最たるものは、バランスシートの右側の金額だと言えるだろう。

 資金力に違いがあると、当然ながらできることに違いが出てくる。つまり、新興産業の市場を作っているのは彼らのような投資ファンドなのだ。従って、中長期的な業界動向を予想する上では、彼らの投資戦略を参考にしない手はないと言える。

各ファンドに共通するWeb3とDeFi

 以上を踏まえ、いくつかのファンドに共通する投資戦略を見ていきたい。今回は、投資戦略が詳細に説明されているKraken Venturesとa16z Crypto Fund Ⅱ、Union Square Ventures(USV)を対象にした。

Kraken Venturesの投資領域: Financial Infrastructure、Web3/DeFi、Customer Crypto Protocols
a16z Crypto Fund Ⅱの投資領域 Next Generation Payment、DeFi、Web3、Modern store of Value
USVの投資領域 Holding Tokens、Crypto Networks(Web3)、Financial Systems(DeFi)

田上 智裕(株式会社techtec代表取締役)

リクルートで全社ブロックチェーンR&Dを担当後、株式会社techtecを創業。“学習するほどトークンがもらえる”オンライン学習サービス「PoL(ポル)」や企業のブロックチェーン導入をサポートする「PoL Enterprise」を提供している。海外カンファレンスでの登壇や行政でのオブザーバー活動も行う。Twitter:@tomohiro_tagami