5分でわかるブロックチェーン講座

日銀が分散型金融「DeFi」のレポートを公開、メリットとリスクを指摘

ブロックチェーンの価値を「開発者のエコシステム」で評価する

 暗号資産・ブロックチェーンに関連するたくさんのニュースの中から見逃せない話題をピックアップ。1週間分の最新情報に解説と合わせて、なぜ重要なのか筆者の考察をお届けします。

ブロックチェーンの価値を開発者で評価

 暗号資産メディア大手Decryptが、ブロックチェーンプロジェクトを開発者コミュニティのアクティブさで評価するレポートを公開した。トークンの時価総額で評価しない新たな指標を提案している。

 ほぼ全てのブロックチェーンプロジェクトが、独自のトークンを発行している。一般的に、トークンの時価総額がそのプロジェクトの価値を示す指標として用いられているものの、中には価値を正しく反映していないものが多数存在するのも事実だ。

 プロジェクトに目立った進捗がなくても、例えばどこかの取引所に上場したという理由だけでトークンの価格が上がり時価総額が高まることも珍しくない。残念ながら、日本の取引所が扱っているトークンの一部がそうした要素をはらんでいる(もちろん筆者の主観である)。

 そこでDecryptが提案するのが、プロジェクトごとに開発者がどれだけアクティブに活動しているかといった指標だ。ブロックチェーンプロジェクトの本質的な価値は、どれだけ多くの開発者がアクティブに活動しているかであり、実際今回のレポートで評価されたのはイーサリアムやPolkadot、Filecoin、その他DeFiプロジェクトとなっていった中身のあるものである。

 イーサリアムでは、約2,300人もの開発者がアクティブに活動しており、過去3年間で215%も増加しているという。ブロックチェーン間のインターオペラビリティに取り組むPolkadotは、約400人の開発者を抱えているとした。この数値はプロジェクト発足から3年という期間を考慮すると、当時のイーサリアムを上回る数値になるという。

 分散型ストレージのFilecoinは、2020年10月にプロジェクトが立ち上がったばかりであるにも関わらず、わずか1年未満で開発者の数が3倍に増えたとされている。DeFiプロジェクトとしては、AvalancheやCelo、Uniswapといった名前があげられた。

 優良なプロジェクトには、必ず活発な開発者コミュニティが存在する。優れたサービスには優れた人材が集まり、優れた人材がサービスをより良いものにアップデートしていくからだ。ブロックチェーンの覇者であるイーサリアムは、そうしてエコシステムを拡大し続けてきた。

 数多あるブロックチェーンプロジェクトを比較する際には、単なるトークンの時価総額ではなく、OSSらしくどれだけ多くのコミッターがいるかなどを確認すべきだろう。

参照ソース


    Who Are the Fastest Growing Developer Communities in Crypto?
    [Decrypto]
    「空き容量」を使った分散型ストレージ「Filecoin(ファイルコイン)」がついに始動、次世代のインターネットの姿とは
    [INTERNET Watch]

日銀がDeFiの分析レポートを公開

 日本銀行で決済システムの整備などを担当する決済機構局から、「自律的な金融サービスの登場とガバナンスの模索」と題した日銀レビューシリーズが公開された。

 ブロックチェーン業界の世界的なバイブルであるマスタリングビットコイン/イーサリアムの訳者である鳩貝淳一郎氏と、北條真史氏により作成されている。

 今回の日銀レビューは、DeFiとWeb3.0ガバナンスに関する内容となった。日銀はDeFiに対して、国内でも利用が急増し利用者のニーズに応える新たな金融サービスを生み出す可能性があるとした上で、課題やリスクについても指摘している。

 レポート内では、具体的なプロジェクトとしてDEXのUniswapとレンディングのCompoundを例にあげた。レビューレポートとはいえ、日銀の文書に具体的なプロジェクト名が掲載されるのは珍しいケースだと言える。

 UniswapとCompoundを引き合いに出し、2020年に大きく注目を集めたイールドファーミングと流動性マイニングについても紹介された。これらに象徴されるのが、ブロックチェーンによって発行されるガバナンストークンだ。

 レポートでもガバナンストークンについては言及されており、インターネットのガバナンスに関連した国際機関の例を出してこれらに学ぶ必要があるとしている。具体的には、IETFやICANN、W3Cといった組織だ。

 今回のレポートは、ボリュームと難易度の観点からこれまでのDeFiの概要を解説したドキュメントの中で最も優れたものだと感じた。これに付随して、今週は日銀がDeFiに対して認識している将来性とリスクについてまとめていきたい。

参照ソース


    暗号資産における分散型金融―自律的な金融サービスの登場とガバナンスの模索―
    [日本銀行]
    「DeFiバブル」で不具合プロジェクトに500億円が集まる、YAMトークンの栄枯盛衰
    [INTERNET Watch]

今週の「なぜ」日銀のDeFiレポートはなぜ重要か

 今週はDecryptによるブロックチェーンプロジェクトの評価方法と日銀のDeFiレポートに関するトピックを取り上げた。ここからは、なぜ重要なのか、解説と筆者の考察を述べていく。

【まとめ】

日銀が考えるDeFiのメリットとリスク
リスクの全ては利用者保護に帰着する
DeFiに対する規制の難しさは日銀も認識している

 それでは、さらなる解説と共に筆者の考察を説明していこう。

日銀が考えるDeFiのメリット

 毎年少しずつだが、DeFiに関する当局の動きが目立つようになってきている。もちろん当局は規制の観点から動くことになるわけだが、中には一定DeFiによるイノベーションを評価する姿勢も感じ取れる。

 特に今回のレポートのように、個人に裁量権を持たせた形で見解を示す際には肯定的な様子が顕著だ。個人の見解とはいえ、現時点で日銀がDeFiをどのように捉えているかを知るには、こういったレポートの存在は貴重だと言える。日銀は、DeFiのメリットについて次のように整理している。

・競争をもたらす可能性

 DeFiでは、既存金融のインフラ部分(カストディアンやエスクローエージェント、中央清算機関など)が自律的なプログラムによって担われている。そのため、第三者による監査の必要性が低減され、既存金融のインフラシステムと比較して運営が効率化される可能性を秘めている

・新たなサービス創造の可能性
 DeFiの特徴は誰でも容易に金融サービスを開発できる点にある。そのためテスト的な試みを行いやすく、随時ブラッシュアップしていくことも可能だ。また、現状はほとんどのDeFiサービスがイーサリアムという1つのプラットフォーム上で稼働しているため、複数のサービスに接続することで新たなサービスを構築できる可能性がある

・アクセシビリティが向上する可能性
 既存金融のようにDeFiには国境が存在しないため、インターネットさえあれば誰でもサービスを利用することができる。

日銀が考えるDeFiのリスク

 DeFiに存在するリスクについては以下のように整理されている。日銀としては、特に利用者保護の観点を重要視しており、スマートコントラクトの予期せぬ不具合などによって発生する被害をいかに最小限にとどめるかを意識しているようだ。

・利用者保護
 DeFiには、中央集権型取引所のような上場審査機関が存在しないため、流動性が低いものも含め様々なトークンが取引されている。そのため、既存の金融商品と比べて複雑な値動きをするケースが多い。また、レバレッジに関する規制も存在しないため、予期せぬ損失から利用者を守る仕組みが必要だといえる。

・スマートコントラクトの不具合と影響拡大
 DeFiのメリットとして新たなサービス創造の可能性をあげたが、これはスマートコントラクトによって複数のDeFiサービスを容易に接続できる点にある。しかしながら、これは一定のリスクになるとも言える。スマートコントラクトに内包されたバグや脆弱性が顕現化した場合、自動実行されるプログラムを停止することは極めて困難だからだ。

 実際、これまでに複数のDeFiサービスでスマートコントラクトの相互接続が原因となって発生した事件が度々起きている。中にはスマートコントラクトの検証を十分に行わずにリリースを急ぐサービスも存在していたため、予期せぬ不具合が連鎖した形だ。

規制実行の難しさ

 日銀レポートでは、DeFiの特性上規制の実効性を確保することは極めて難しいと見解を示している。分散的に運営されるDeFiサービスの場合、特定の管理者が存在しないため規制対象や責任主体の特定が困難だという。

 また、ブロックチェーンの耐改ざん性がネガティブに働く可能性も指摘した。仮に規制を整備したとしても、スマートコントラクトによって自動実行され続けるプログラムを停止または修正することは難しく、ほとんど意味のない規制になってしまう可能性があるのだ。

 今回は日銀からのレビューレポートとなっているが、いざDeFiの規制を議論することになった場合のステークホルダーは金融庁が中心となる。加えて、FATF(金融活動作業部会)やBGIN ( Blockchain Governance Initiative Network)、民間団体が関わることになるだろう。

 こういったステークホルダーの知識レベルや動向を把握しておくことは、国内でDeFiサービスを開発する際に欠かせない観点となる。

田上 智裕(株式会社techtec代表取締役)

リクルートで全社ブロックチェーンR&Dを担当後、株式会社techtecを創業。“学習するほどトークンがもらえる”オンライン学習サービス「PoL(ポル)」や企業のブロックチェーン導入をサポートする「PoL Enterprise」を提供している。海外カンファレンスでの登壇や行政でのオブザーバー活動も行う。Twitter:@tomohiro_tagami