5分でわかるブロックチェーン講座

AlipayがCBDCへの対応を発表、Gnosis Safeがイーサリアムのセカンドレイヤーに対応

ブロックチェーンのレイヤー構造について考察

 暗号資産・ブロックチェーンに関連するたくさんのニュースの中から見逃せない話題をピックアップ。1週間分の最新情報に解説と合わせて、なぜ重要なのか筆者の考察をお届けします。

※編集部より:本記事は先週18日に掲載する予定でしたが、編集部の作業上の問題により、掲載が本日となってしまいました。みなさまにお詫びさせていただきます。

Alipayが中国のCBDCに対応

 アリババグループ傘下の決済プラットフォームAlipayが、中国のCBDCへ対応したことを発表した。Alipayユーザーは、アプリを通してCBDCへのアクセスが可能となる。

 世界をリードする形でCBDCへの取り組みを進める中国だが、これまでCBDCへアクセスするには、民間サービスからではなく国営銀行に申請を出す必要があった。国営銀行に対して申請書を提出し承認されると、CBDCを管理するためのウォレットがダウンロードできるようになる。

 そのため、中国のCBDCは実はまだまだ一般に普及しているとは言い難く、官僚や公務員に対する試験的な運用フェーズを抜け出せてはいなかった。しかしながら、今回のAlipay対応により一気に次のフェーズへと上がることになるだろう。現時点で中国のCBDCにアクセスする手段は主に次の3つだ。

  • 専用のハードウェアウォレット
  • ログイン不要のスタンドアロン型モバイルアプリ
  • Alipayなどのサードパーティアプリ内ウォレット

 米メディアThe Blockの記事には、Alipayではなく国営銀行ICBCのものになるが実際のCBDCウォレットアプリのスクリーンショットが掲載されている。アプリに接続された銀行口座からCBDCへの入金や引き出し、QRコード決済、P2P取引といった機能が利用可能だ。

参照ソース


    China's digital yuan inches closer to full rollout with AliPay, ICBC activations
    [The Block]

ブロックチェーンのレイヤー構造

 分散型予測市場Gnosis(ノーシス)が提供するカストディサービスGnosis Safeが、ブロックチェーンにおけるレイヤー構造の重要性について解説するブログを公開した。

 Gnosisは、「群衆の知恵」を結集することでより正確な未来を予測するメカニズムである予測市場を、ブロックチェーンを活用することで分散的に実現しているプロジェクトだ。ローンチ当初はギャンブルの文脈で利用されることが多かったが、最近は分散型オラクルとして主にDeFi市場で主要な役割を果たしている。

 例えばDeFi市場が参照するトークンの価格が本当に正しいかどうかという点について、Gnosisで分散的に投票を行い得票率の高い価格をDeFi市場におけるトークン価格として参照していたりする。

 結果的に選ばれた選択肢に投票したユーザーがGnosisの独自トークンを獲得できる設計だ。これが分散型予測市場を発展させた、分散型オラクルの仕組みである。

 そんなGnosisが提供しているカストディサービスGnosis Safeが、ブロックチェーンのレイヤー構造における役割分担の重要性についてブログで解説していた。

 Gnosisのようなアプリケーションは、基本的にまずイーサリアム上にデプロイされる。しかしながらイーサリアムにはスケーラビリティ問題が存在し、トランザクションを実行する度に高額の手数料が発生してしまう状況だ。

 そのため、昨今はイーサリアムに対応しつつ他のブロックチェーンにも対応する動きが出てきている。合わせて、イーサリアムのスケーラビリティ問題を解決しようとするセカンドレイヤーの取り組みも盛んになってきた。

 今回紹介するのは、最下層(レイヤー1)に位置するブロックチェーンとその上に構築されるセカンドレイヤー(レイヤー2)の役割分担についてである。

参照ソース


    Gnosis Safe’s Multichain Future
    [Gnosis]

今週の「なぜ」レイヤー1とレイヤー2の役割分担はなぜ重要か

 今週はAlipayによるCBDCへの対応やブロックチェーンのレイヤー構造に関するトピックを取り上げた。ここからは、なぜ重要なのか、解説と筆者の考察を述べていく。

【まとめ】

イーサリアムの抱えるスケーラビリティ問題を機に他のブロックチェーンやセカンドレイヤーが台頭している
レイヤー1とレイヤー2の役割はより明確化されていく
イーサリアム2.0ローンチ後に果たして他のブロックチェーンは生き残っているのか

 それでは、さらなる解説と共に筆者の考察を説明していこう。

イーサリアムとその他のブロックチェーン、セカンドレイヤー

 イーサリアムでは、スケーラビリティ問題を解決するために2020年12月より「イーサリアム2.0」が進められている。これは、過去にも先にも恐らく全ブロックチェーンエコシステムにおける最大のアップデートである。

 そのため、開発難度が高く進捗は芳しくないのが事実だ。そこで存在感を増しつつあるのが他のブロックチェーン(レイヤー1、L1)である。具体的には、AvalancheやCelo、Binance Smart Chain(BSC)、Solanaといったものだ。

 他の多くのブロックチェーンに共通する点としては、EVM(Ethereum Virtual Machine)に互換性を持たせている点があげられる。多くのアプリケーションがイーサリアム上に展開されているため、それらに対して自分たちのブロックチェーンにもスムーズに対応してもらうための戦略だ。

 なお肝心のイーサリアムも、セカンドレイヤー(レイヤー2、L2)と呼ばれる拡張ソリューションが次々と誕生している。こちらはOptimismやSKALE、Polygon、Arbitrumといったものだ。

レイヤー1とレイヤー2の役割

 今回Gnosis Safeは、Arbitrum(L2)、Polygon(L2)、BSC(L1)への対応を行うことを発表した。イーサリアムエコシステムにおけるUX改善を引き続き行いつつ、他のチェーンへの対応も進めていく方針だ。

 Gnosis Safeのブログでは、イーサリアムのL2だけでなく対応するL1の数を増やしていくことの重要性についても解説されている。結論としては、L1の役割はセキュリティとトランザクションの検証性、L2の役割はスケーラビリティになるという。

 つまり、L1に高いスケーラビリティ性能は必要なく、その役割はL2が担うためL1はより強固なセキュリティを持つネットワークを形成すべきであるとしている。もちろん、その最たるものはイーサリアムだが、イーサリアムに依存せずEVM互換の他ブロックチェーンについても、セキュリティと検証性の観点から更なる台頭が必要だ。

イーサリアム2.0以降のブロックチェーン

 イーサリアム2.0が完了した場合、現状エコシステムを拡大しつつある他のブロックチェーンがどれだけ生き残るかは断言できない。現時点で他のブロックチェーンにユーザーが流れているのは、イーサリアムの高い手数料が唯一の課題だと言えるからだ。

 ブロックチェーンはOSのようなものであるため、例えばモバイルOSがiOSとAndroidにほとんど集約されている点を考慮すると、ブロックチェーンもイーサリアムとその他1,2つに淘汰されるのではないだろうか。

 イーサリアムに勝るエコシステムを形成することはもはや現実的ではなく、イーサリアム2.0によって手数料の課題が解消された時にユーザーがどのような動きをするかは、個人的にも非常に興味深いトピックとして捉えている。

田上 智裕(株式会社techtec代表取締役)

リクルートで全社ブロックチェーンR&Dを担当後、株式会社techtecを創業。“学習するほどトークンがもらえる”オンライン学習サービス「PoL(ポル)」や企業のブロックチェーン導入をサポートする「PoL Enterprise」を提供している。海外カンファレンスでの登壇や行政でのオブザーバー活動も行う。Twitter:@tomohiro_tagami