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第81回:「Google Earth Enterprise」で独自の“地球儀”構築

有償版Google Maps/Earthの全体像に迫る


 グーグルが10日、地理空間情報ソリューションの最新情報と事例を紹介する「Google Enterprise GEO Day」を東京都内で開催した。「Google Maps」と「Goole Earth」の企業向けバージョンを紹介するためのイベントで、Googleの米国本社スタッフによる解説だけでなく、これらサービスの日本代理店となっているパートナー企業による講演も行われ、さまざまな導入事例が紹介された。

 Googleが提供している無料の地図関連サービスは個人ユーザーにもおなじみだが、企業向けの有償版は普段あまり接することがないのではなかろうか。今回は、そんなGoogleの企業向けサービスがどんなものなのか、同イベントの模様をレポートする。

エンタープライズ向けの地図サービスは3種類

 オープニングセッションとして、まずグーグルのセールスマネージャーである大須賀利一氏が登場。グーグルの企業向けサービスの概要を説明し、エンタープライズ事業は現在、同社の広告ビジネスよりも成長率が高く、重要な位置を占めていると述べた。さらに地図関連のサービスとしては「Google Maps API Premier」「Google Earth Pro」「Google Earth Enterprise」の3つを挙げ、これらのサービスの活用事例として、旅行サイトや不動産サイト、運送車両管理、気象・地震情報、行政分析、営業マーケティングツールなど、さまざまな分野を挙げた。


グーグルのセールスマネージャーである大須賀利一氏企業向け地図サービスは3種類

「Google Maps API Premier」とGISとの連携

 続いてのセッションでは、Google米国本社のエンタープライズプロダクトマネージャーであるDaniel Chu氏が登場。「Google Maps for Business~Google Maps API Premier」と題して講演した。Chu氏は、「エンタープライズ分野で扱われるデータのうち、80%はロケーションデータを含んでいる」と語り、位置情報の重要性を強調。その上で、Google Maps APIの有償版である「Premier」について紹介した。

 「Google Maps API Premier」は、会員向けにアクセス制限のあるサイトや有料サイト、イントラネット、アプリケーション内での利用、移動体のトラッキング機能での利用、ファイアーウォール内での利用などの場合に必要となる。また、Static Mapsやジオコードのリクエスト制限についても、無償版より大幅に緩和されている。これに加えて、テクニカルサポートを受けることも可能だ。Chu氏は、大手不動産サイト「Redfin」などの事例を紹介するとともに、今後の展開として、建物を斜め45度から見た画像も閲覧可能になることにも触れた。


GoogleエンタープライズプロダクトマネージャーのDaniel Chu氏ゼンリンデータコムの松尾祐二氏

 Chu氏に続いて、Google Maps APIの具体的な利用事例として、ゼンリンデータコム営業本部長の松尾祐二氏が登場し、「APIで広がるGISサービス」と題して講演。松尾氏は、有償版のPremierと無償版の違いを説明した上で、不動産ポータルサイト「HOME'S」や、遊技台メーカーである平和のスペシャルサイトで、アニメ「ルパン三世」を題材にしたコンテンツなどに活用されている事例を紹介した。

 さらに、NTTデータやマップマーケティングなどが提供するGIS(地理情報システム)サービスにおいても、Google Maps API Premierが利用されていることを紹介。今後は、トラックの運行状況や燃費効率の向上など、移動体管理の分野を積極的に展開していくと語った。また、Google Maps API Premierと住宅地図との連携についてもアピールした。

 このほか、国際航業ソリューション事業部・企画担当部長の藤原康史氏による「Google Maps & Earthの自治体向けソリューション」という講演も行われた。ここでは公共分野におけるGoogle Maps/Earthの活用状況を紹介。藤原氏は、「都道府県における住民公開型GISで、Google Mapsが占める割合は45%」と述べ、住民向けの公共施設案内や、景観検討への活用の事例について語った。さらに、360度全方位カメラで撮影した写真をGoogle Maps/Earth上に表示するなど、災害報告の事例も挙げた。

 また、今後の展開について、斜め45度からの写真など新たなコンテンツとのマッシュアップ、まちづくりや大規模開発への活用、広域防災情報システムなどを挙げた。


Google Maps API無償版とPremierとの違い国際航業の藤原康史氏

「Google Earth Enterprise」で独自の“地球儀”を構築する米国各州

 Google Mapsについての講演が行われた前半に対して、一時休憩を挟んでスタートした後半は、Google Earth関連の話題となった。まずは、Google米国本社のエンタープライズプロダクトマネージャーであるDylan Lorimer氏が「Google Earth for Business~Google Earth Pro/Enterprise」と題して講演を行った。

 Lorimer氏は、Keyhole社から始まるGoogle Earthの歴史を紹介した上で、有償版の「Google Earth Pro」を紹介。同サービスは企業のニーズに合わせて作られたもので、高解像度の画像が印刷可能である点や、正確なマッピングツールが使用できること、バッチジオコードのサポート、GISデータのインポート、動画作成機能、高解像度画像の保存機能など、「ビジネスにパワーを与えるための機能が追加されている」と語った。

 Google Earth Proの事例として、不動産業界における開発用の土地の選定や、エネルギー分野では風力発電の設置場所の解析、さらに救急や消防、気象観測などの分野でも活用されていることを紹介した。

 一方で、もう1つの企業向けサービスである「Google Earth Enterprise」についても解説した。Google Earth Enterpriseは、Google Earth無償版やGoogle Earth Proのように、Googleが提供する単一の“globe(地球儀)を”使用するのではなく、地球儀そのものを自由に構築できるソリューションであり、データベース構築ツールの「Google Earth Fusion」および配信ツールの「Google Earth Server」で成り立っている。アーキテクチャーは柔軟で、構築できる地球儀やマップの数は無制限だ。

 現在、Google Earth Enterpriseを利用して、米国の多くの州が独自の地球儀を構築し、州内の情報を集約しているという。Lorimer氏はその事例として、アラバマ州が構築した「Virtual Alabama」を紹介した。このデモでは、アラバマ州以外の地域にはほとんど情報がないのっぺりとした地球儀が登場し、アラバマ州内の情報だけがぎっしり盛り込まれている様子が表示された。このほか、ハイチ大地震の救済活動のために作られたサイトなども紹介した。


GoogleエンタープライズプロダクトマネージャーのDylan Lorimer氏アラバマ州が運営する「Virtual Alabama」

Google Earthに足りないのは「人や動植物の息づかい」

 Google Earth関連の日本の事例としては、デジタル・アース代表取締役の雨車美和氏が、「最新のテクノロジーが新しい価値観を創造する!~Google Earthの応用事例紹介~」と題して講演。Google Earth Enterpriseで構築する地球儀の事例として、衛星から得られたASTER GDEM(30mメッシュ)を利用したものや、国土地理院50m標高データを利用した地球儀を紹介した。

 さらに、防災科学技術研究所が提供する「深部地盤(第28層)をベースマップにした地球儀」の事例では、地下の様子がわかるユニークな地球儀を紹介。また、静岡県危機管理局の「災害情報地図共有システム」の事例では、紙の地図をデジタルデータとして取り込んでベースマップにした地球儀も紹介した。


デジタル・アースの雨車美和氏Google EarthとGoogle Earth Enterpriseとの比較

 このほか、Google Earth Serverの活用としては、東京大学空間情報科学研究センター特任研究員の古橋大地氏が、「『空間情報教材共有システム』としてのGoogle Earth Server活用」と題して講演した。古橋氏は、共同利用データの可視化や空間情報表現の追求、教育現場での活用などを目的にGoogle Earth Serverの導入を決め、今春から利用を開始すると語る。

 古橋氏は、Google Earthに現在足りないものとして「人や動植物の息づかい」を挙げ、これらをGoogle Earth上でいかに表現するかを課題としていると説明。人の流れを可視化する「人の流れプロジェクト」などを紹介した。また、Google Earthは建物の中の情報が乏しいということで、ビルのフロア情報の視覚化なども課題として挙げた。


深部地盤(第28層)をベースマップにした地球儀紙地図をベースマップにした地球儀

 Google Maps API Premier、Google Earth Pro、そしてGoogle Earth Enterpriseと、Googleの企業向け地図サービスの全体像を解説した今回のイベント。一見すると一般ユーザーには縁遠いものと思われるかもしれないが、企業が一般公開しているサイトや、自治体が運営する防災サイトなど、すでに私たちが接しているケースも少なくないことがわかった。

 そして、グーグルおよび同社のパートナーとなっている位置情報関連の企業が、この分野に並々ならぬ熱意を持っていることも肌で感じられた。グーグルとしては、地図サービスをテーマにした企業向けイベントは今回が初めてとのことだが、今後もこのようなイベントの機会が増えることが期待される。


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2010/3/11 15:12


碓氷 貫
フリーライター/編集者。Eコマースや地図サービス、データベース、コンテンツなど、Webサイトの価値を高めるさまざまなサービスをテーマに活動している。地図やハンディGPSを片手に街や山を徘徊する一方で、通販サイトでお買い得品をチェックすることにも余念がない。