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第83回:サイクリストに話題、ユピテルのハンディGPS「ASG-CM11」


 日増しに暖かくなる毎日だが、外に出てサイクリングやランニングを楽しんでいる人も多いのではないだろうか。このような長距離を移動するスポーツに役立つアイテムとしてお勧めなのがハンディGPSだ。そこで今回は、昨年末に発売されて静かな人気を呼んでいるユピテルの「ハンディGPSマップ ATLAS ASG-CM11」を紹介しよう。


ハンディGPSマップ ATLAS ASG-CM11

地図データ内蔵のハンディGPS

 ASG-CM11は、地図データを内蔵したハンディGPSだ。コンパクトな本体にタッチパネル式液晶ディスプレイとGPSが内蔵されており、現在地を地図上で確認できる。このような携帯用GPS端末は米GARMINの製品が有名だが、国内メーカーから発売されるのは珍しい。

 最近は自転車や徒歩での使い勝手も考慮したPND(小型カーナビ)も人気だが、あくまでもカーナビ機能がメインのPNDに対して、ASG-CM11はサイクリングやランニング、ウォーキングで使うことを主目的にしている点が大きく異なる。地図で現在地を確認できるだけでなく、ラップタイムをはじめとした計測機能が充実しており、サイクルコンピューターとしても使用可能だ。自転車に取り付けるためのマウントが標準装備されているのもサイクリストにはうれしい。

 サイクリングやランニング用途を想定しているせいか、本体はPNDと比べてひと回り小さく軽く、画面も3.0V型と小型だ。タッチパネル式のGPS端末というとGARMINのOregonシリーズがあるが、Oregonと並べてみても小さく、サイズは58×105×23mm(横×縦×厚さ)、重量はバッテリー込みで124gとなっている。防水機能はIPX6レベルだ。

 電源は、Oregonが単3形電池を使用するのに対して、ASG-CM11はリチウムイオン充電池を使用している。稼働時間は、一定時間が経つとバックライト点灯をオフにする“エコモード”をオンにした場合は約16時間、オフにした場合は約4.5時間。エコモードをオンにすれば1日は持つだろうが、キャンプしながらの自転車旅行など、AC電源を確保できない環境で連泊する場合は使いづらいだろう。ちなみにバッテリーの装着部にはmicroSDのスロットも搭載しており、軌跡ログなどはmicroSDカードに保存される。


操作ボタンの少ないシンプルなデザイン両サイドには電源ボタンとメニューボタンを搭載

カードスロットを兼ねた充電池の収納部GARMINのOregon 400Cとの比較

地図データには昭文社のMAPPLEを使用

 地図データとして使用しているのは、昭文社の「MAPPLEデジタルデータ」。インターネットの地図サイト「ちず丸」や、地図ソフト「スーパーマップル・デジタル」、カーナビなどさまざまなサービスで使われている地図だ。ただし、これらに比べるとASG-CM11で表示する地図情報は少ない。住所表記を中心に官公庁や駅名、主要なビル名などは表示されているが、交差点名などは入っていない。

 一方で、地下鉄の線や駅がはっきりと描かれていたりと、「MAPPLE」らしさは随所に感じられる。番地ごとに色分けされているのでカラフルで見やすく、信号機のある交差点にマークが入っているのもわかりやすい。なお、山岳部には等高線やトレッキングルートが入っていないので、登山の用途には向かない。

 残念なのは、せっかくタッチパネルを採用しているにもかかわらず、ドラッグによるスクロールができないこと。地図を移動させるときは、地図の端をタッチすると、触った地点が中心に移動する。また、画面の切り替え速度は速いとはいえず、少々もどかしさを感じた。


新宿都庁付近新宿歌舞伎町付近

渋谷109付近銀座4丁目交差点付近(最も拡大した状態)

表示の自由度が高いメーター表示モード

 本機には地図表示モードのほかにメーター表示モードも搭載されており、このモードの場合は移動距離や速度、タイム、平均速度、ラップ数、最高速度、目的地方向、方位などさまざまな情報を一覧表示できる。表示できる項目数は最大10個で、最小4個まで減らせる。特定の項目の表示を大きくすることも可能だ。また、地図表示モードのときにも上部に2つまで情報を表示させられる。サイクルコンピューターとして使う場合は、このような情報表示の自由度の高さはうれしい。


メーター表示モード(4項目表示)メーター表示モード(7項目表示)メーター表示モード(10項目表示)

 サイクリングやランニングに役に立つ機能としては、ほかにアラート設定と自動ポーズ/自動ラップ設定がある。アラート設定では、設定した距離になるとブザー音が鳴るようにしたり、設定した速度の範囲から外れた場合に鳴るようにしたりすることができる。

 自動ポーズは移動が止まったときに計測を中止する機能で、ふたたび動き出せば計測が再開される。信号待ちや休憩のときも自動的に計測が中止されるので、動いている間だけのタイムを計測したいときに便利だ。また、自動ラップは設定した距離や時間ごとにラップタイムを記録する機能で、キロあたりの速度をチェックしたいときなどに便利だ。

 このほか、方位を計測する電子コンパスや、道路に合わせて現在地を補正するマップマッチング機能の切り替えなどもできる。軌跡ログの取得機能も付いているので、取得したログをASG-CM11の地図やPCの地図で表示させることも可能だ。


メーター表示モードの設定画面システム設定画面

 USBマスストレージクラスに対応しているので、軌跡ログをPCに転送する際はmicroSDの内容を見て直接ログデータをコピーするか、ユピテルのWebサイトから無料でダウンロードできる「ATLASTOUR」というWindows用ソフトを使う。軌跡ログのファイルはGPX形式なので、Google EarthやGoogleマップのマイマップでそのまま読み込むことが可能だ。


ATLASTOURに軌跡ログを転送

携帯電話で周辺情報を入手

 なお、本機にはPNDのようなルート検索機能やナビゲーション機能はない。その代わり目的地まで直線を地図上に表示する機能があり、現在地から目的地までの直線距離も表示される。この直線を見れば目的地の方向がわかるので、迷子になる恐れは減るだろう。

 目的地の検索は業種別・電話番号・住所の3つに加えて、登録した地点から検索する方法もある。業種別では、公共機関だけでなく、ファミリーレストランやコンビニなども含まれている。施設情報の収録件数は、業種別検索および電話番号検索が約780万件、住所検索が約3600万件、登録地点検索が100件。

 検索の結果は地図上に示されるのではなく、施設名・住所・電話番号・緯度/経度などが書かれた詳細情報画面で表示される。この画面にはQRコードも表示され、これを利用して携帯電話でサイトにアクセスすると、ユピテルが提供する地図サイトを参照できる。

 これは、以前から同社の自動車用レーダー探知機向けに提供されていた「ity.MAP」という地図表示サービスで、駐車場情報や季節情報が得られることに加えて、ガソリンスタンドの価格を検索できる「e燃費」や、グルメ情報サービス「ぐるなび」の情報を利用した周辺検索が可能だ。地図上の情報もASG-CM11の地図に比べて充実している。

 これはこれで便利なのだが、残念なのは、詳細情報が出たスポットの位置を、ASG-CM11の地図上で改めて確認できないこと。とりあえず駅など最寄りのわかりやすいスポットで検索して、あとは地図上で本来の目的地となる施設を探して設定するといった使い方ができないのだ。もちろん、地図を手でスクロールさせて目的地周辺を表示させて、そこから直接、目的地を登録することは可能なのだが、その前段階で検索機能を使うことができないわけだ。また、地図上でポイントを指定してその周辺エリアを検索することができないのも不便に感じだ。このあたりは、将来的にファームウェアのバージョンアップでぜひ検討していただきたい。


目的地までの直線が表示される業種別検索のリスト

施設の詳細情報ity.MAPの画面

自転車への取り付けはRAMマウントを採用

 細かい点で不満もあるのだが、逆に大いに気に入った点もある。それはサイクルマウントに米RAM Mounting Systems社製のRAMマウントを採用していること。RAMマウントは定評のあるシステムマウントで、PNDやハンディGPSをバイクや自転車、船舶などに取り付けるためのマウントとして人気だ。

 RAMマウントは、ラバーコーティングされた金属製のボールジョイントを使用した汎用アームと堅牢なUボルトベースを使うのが定番の構成だが、ASG-CM11に同梱されている専用のベースマウントはアームを使わず、結束バンドを使って自転車のハンドルバーに取り付けるシンプルなタイプだ。

 ただし、RAMマウント用のフォルダーが付いているので、これを利用すれば汎用アームにも簡単に取り付けられる。林道など振動の激しいオフロードで使う場合は、ボールジョイントのアームやベースを別途購入したほうが安心かもしれない。


結束バンドで取り付けるベースマウント取り付けた状態

フォルダーとマウントとの接合部RAMマウントのアームにも取り付けられる

測位性能の高さも魅力

 今回は、このRAMマウント用フォルダーを利用して、サンプル機を実際に自転車に取り付けて軌跡ログを取ってみた。比較対象として、測位性能に定評のあるGARMINのハンディGPS「GPSMAP60CSx」(英語版)と、ソニーのPND「NV-U3C」も同時に車載してログを取り比べた。


(左から)GPSMAP60CSx、ASG-CM11、NV-U3C

 走ったのは、東京メトロ銀座線・田原町駅の前を出発して上野方向に向かい、国道4号を左に入ったあと、今度は春日通りに入るというルート。ログ取得間隔は1秒ごとに設定してある。ファームウェアは4月2日時点での最新バージョンを使用した。

 ほかの2つと比較してみても、ASG-CM11のログはなかなか健闘していることがわかる。特に上野駅付近は首都高の高架や歩道橋、ビルなどが錯綜し、かなり測位をしにくいエリアなのだが、ログが暴れるのも最低限で済んでいる。実際に通ったルートに最も近いのはGPSMAP60CSxだが、ASG-CM11でも実用上は十分だと思う。


赤線がASG-CM11、青線がGPSMAP60CSx、緑線がNV-U3C

国道4号付近の拡大図

 このようにASG-CM11は、GPSとしての基本機能はしっかりとしており、本機は日本国内の市街地の道路地図が収録されたハンディGPSとしてなかなか魅力的な存在だと感じた。実勢価格は3万円台後半と、PNDに比べると少し高いが、計測機能が充実しているので、サイクリストが使うならお勧めは断然こちらだ。携帯音楽プレーヤー用のアームバンドなどに収納すれば、ランニングやウォーキング用にも使える。

 同じような製品としてはGARMINのEdgeシリーズがあるが、こちらの日本語版は実勢価格が9万円台と高価で、サイクルコンピューターとしても使える日本の道路地図入りのハンディGPSというと、ほかにはほとんど選択肢がない。ただし、Edgeはナビゲーション機能や心拍数の計測機能、クランクの回転数を計測するケイデンスセンサーなど、多彩な機能が利用できる。ASG-CM11ではこれらの機能は使えないが、全国の地図データとタイム計測機能、そして施設検索機能だけあればいいという人にとっては、なかなかお買い得といえるのではないだろうか。

 現在地の場所を地図で確認できたり、速度がリアルタイムにわかるようになったりすると、サイクリングやランニングはもっと楽しくなる。それを実現するためのアイテムとして、ASG-CM11は有力な候補となるだろう。


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2010/4/8 06:00


片岡 義明
地図に関することならインターネットの地図サイトから紙メディア、カーナビ、ハンディGPS、地球儀まで、どんなジャンルにも首を突っ込む無類の地図好きライター。地図とコンパスとGPSを片手に街や山を徘徊する日々を送る一方で、地図関連の最新情報の収集にも余念がない。4月22日に書籍「パソ鉄の旅-デジタル地図に残す自分だけの鉄道記-」がインプレスジャパンから発売。