趣味のインターネット地図ウォッチ

第157回

GPS一筋、「GARMIN」のアジア担当者・Tony An氏に聞く日本戦略

 3月14日、東京ビッグサイトで開催された「第4回国際自動車通信技術展」にて、GPS機器の世界的メーカーである「GARMIN」のアジアマーケティングディレクター、Tony An(安志東)氏による講演が行われた。「GARMINの日本戦略」と題したこの講演において、An氏はGARMINが今後日本で発売する新製品について詳しく解説。一方、GARMINの日本の正規代理店である株式会社いいよねっとの展示ブースには、自動車向け機器だけでなく、アウトドア向けや自転車用、フィットネス用などさまざまなカテゴリーのGARMIN新製品が並んだ。

 いいよねっとによると、GARMIN製品の主要ジャンルを展示会で一堂に紹介するのはこれが初めてであると同時に、GARMINスタッフによる日本での講演も初だという。そこで今回は、GARMINブースの展示と、Tony An氏の講演内容およびインタビューをお伝えしたい。

GARMINの展示ブース

GARMIN製品を一堂に紹介

 自動車をテーマにした展示会ということで、展示ブースではポータブルナビ「nuvi」の2013年モデルが大きく目立っていた。ラインナップは7インチディスプレイ搭載の「nuvi 2795」、5インチの「nuvi 2595v」「nuvi 2592」「nuvi2590」の4機種。これら2013年モデルの特徴は、地図データに、PC用地図ソフトやスマートフォンアプリなどでおなじみのMAPPLEデジタルデータが採用されたことだ。nuvi 2590を除く3モデルは市街地図やガイドブックデータも収録しており、しかもこの地図データは更新料が3年間無料で提供される。

 さらにnuvi 2795については、Bluetoothによるスマートフォンとの連携機能「スマートフォンリンク」にも対応する。これはAndroidスマートフォンのモバイルGoogle マップから店や観光スポットを探して、ドライブ前にnuviにデータ転送するだけでルート案内が開始される機能だ。

nuviの2013年モデル
nuvi 2795
nuvi 2595v
nuvi 2592
nuvi 2590

 自動車関連製品としてもう1つ注目されるのが、GPS搭載ドライブレコーダー「GDR35」。アジア向け製品として開発されたこの製品は、バックカメラを接続可能で、画面も上下2分割で同時にカメラ映像を映し出せる。映像と電源ケーブルが1つに統合されており、フルHD動画の録画も可能だという。

GDR35

 このほか、登山用のGPSウォッチ「fenix J」やGPSサイクルコンピューター「Edge810J」および「Edge510J」など、今後発売予定の新製品も展示された。fenix Jには、記録したログやポイントデータなどをスマートフォンに読み込める機能「ベースキャンプモバイル」に対応する。

 Edge810JおよびEdge510Jは、同製品で取得した心拍数やスピード/ケイデンス、パワーなどの走行データをクラウドサービス「GARMIN Connect」に送受信できるスマートフォンアプリ「GARMIN Connect Mobile」に対応するほか、自分が走っている場所をリアルタイムに公開できる「Live Tracking」、事前に作成したコースデータやワークアウトデータをスマートフォンからEdgeシリーズに送受信できる機能などを搭載する。このほか、先日発売された軽量・コンパクトなGPSランニングウォッチ「ForeAthelete 10J」も展示されていた。

fenix J
Edge810J(左)とEdge510J(右)
ForeAthleteシリーズ

 講演では、初めにGARMINの沿革について紹介。1989年設立の同社は、2012年において世界のGPS機器の40%のシェアを獲得しており、無借金経営で預金額は25億ドルであると、健全経営をアピール。英国エコノミスト誌においては、2012年コンシューマー製品のイノベーション賞を獲得したという。

 社員数は現在9360名で、米国カンザス州の本社には研究開発、航空関連、北米のマーケティング・営業機能などがある。工場は台湾および米国にあり、台湾には3つの工場を保有している。GARMINの強みはハードウェア、ソフトウェア、システムインテグレーション、設計、製造、マーケティングのプロセスをすべて組織内で行う垂直統合力にあり、これによって製品やサービスの品質を確保し、競争力のある組織構造を実現しているとのこと。市場シェアは前述したように世界市場では40%を占めており、北米では70%にも上る。

 さらにAn氏は、日本におけるこれまでのGARMINの製品リリースの歴史を振り返った。同社は2002年に日本初の地形図搭載ハンディGPS「eTrex Vista」を発売。続いて2004年には日本初のGPSランニングウォッチ「ForeAthlete201」、2005年には日本初の防水・耐震性能を備えたバイク専用ナビ「StreetPilot2610」、2006年には車載用ポータブルナビ「nuviシリーズ」、2009年には日本初のGPSサイクルコンピューター「Edge705」を発売した。さらに2011年には海外メーカーとしては初めてVICS対応ポータブルナビを発売し、昨年には世界初のGPS・みちびき(QZSS)・GLONASSの3つの測位システムに対応したハンディナビを発売した。

 このような過去の製品リリースを振り返った上で、2013年の新製品群について紹介した。発表によると、Edge510J/810Jについては今年の6月、fenix Jは夏頃に発売予定とのこと。

講演を行うTony An氏
GDR35の特徴
nuviの地図にMAPPLEデジタルデータを採用
2002年発売のeTrex Vista
2004年発売のForeAthlete201
2005年発売のStreetPilot2610
fenix Jは夏ごろに発売

Tony An氏インタビュー

 講演後、Tony An氏に今後の日本への製品戦略や展望についてインタビューを行ったので、そのやりとりを紹介しよう。

Tony An氏

――日本のGPS市場はほかの地域とどのような違いがあるとお考えですか。

 とてもタフな(難しい)マーケットだと思います。日本では高品質で、それでいて低価格を要求されますし、しかも日本人はジャパンブランドがとても好きです。GARMINは日本においてアウトドア用携帯GPSとフィットネス用(ランニング用)GPSについては成功していますが、PND(カーナビ)についてはパナソニックやソニー、パイオニアなどの日本メーカーに比べて厳しい状況です。そこで我々は今年、新機能のスマートフォンリンクやボイスコマンド(音声認識機能)、3年間更新料が無料のMAPPLEの地図を追加しました。このような取り組みにより、日本メーカーに少しでも近付きたいと考えています。

――現在、日本向けの製品で最も重視しているのはどのジャンルですか。

 日本ではフィットネス用GPSがこれからかなり伸びると思います。現在、GARMINのフィットネス用GPSは日本において50%のシェアを持っており、今後も拡大するでしょう。登山用の携帯GPSはシェア80%を獲得していますが、この分野は売上が急激に伸びたり減ったりということはなく安定していますので、今の状況を保ち続けていきたいと思います。

――今回発表したGPS搭載ドライブレコーダー「GDR35」のようなアジア限定製品も今後増えていくのでしょうか。

 ドライブレコーダーは欧米ではそれほど普及していませんが、台湾や韓国ではかなりの人気で、日本においてもさらに需要が増えると考えています。GDR35はアジアのデザインチームがアジア向けに開発した製品であり、今後はこのラインナップを増やしていきます。もちろんほかに魅力的なGPSマーケットがあればそちらにも参入したいと考えていますが、今は具体的にはコメントできません。

――GARMINのGPSは精度の高さが評価されていますが、技術的に他社とどのような違いがあるのでしょうか。

 GPSはたとえCPUチップが同じであっても、測位精度は同じ結果にはなりません。私たちは23年間、ひたすらGPS専業でずっと取り組んできました。ソフトウェア、ハードウェア、CPU、インテグレーションの仕方、テスト、生産体制、これらを23年かけて少しずつノウハウを蓄積してきたことによって、すべての要素において高い水準を達成しており、これらの技術の組み合わせにより高精度を実現しています。

――近年スマートフォンが普及してきましたが、このような状況の中で今後、GPS専用機の需要はどのように変化すると思いますか。

 スマートフォンにはGPSだけでなくカメラや計算機も搭載されていますが、それでもニコンやキヤノンなどのカメラメーカーは無くなりません。GARMINもまたGPSの専業メーカーとして、良いデバイスを作り続けていきたいと考えています。もちろんGPS専用機の販売に全く影響がないとは思っていませんが、GPS専用機が完全に無くなることはないでしょう。例えばフィットネス用のGPSウォッチであればスマートフォンより携帯性に優れているというメリットがありますので、各分野に適した製品を作ることが大切だと考えています。

 そして何よりも、我々はスマートフォンを競争相手や敵だとは考えていません。スマートフォンは握手ができる友人だと考えており、スマートフォンリンクやGARMINコネクトモバイルのような機能を使って、よりユーザーが便利な環境を作っていきたいと思います。

――現在、GARMINの機器はGPS/GLONASS/QZSSに対応していますが、Galileoや北斗(Beidou)などほかの測位システムに対応する予定は? また、屋内測位への取り組みについてはどのように考えていますか。

 今年中に中国市場向けに、政府のプロジェクト用の製品としてBeidou対応の携帯用GPSを投入する予定です。Beidouは現在、GPSとは異なるチップを使う必要がありますが、チップメーカーが対応すれば日本向けの製品でも対応させたいと思います。屋内測位については、我々は現在のところこの分野にフォーカスしていません。屋内測位とは違いますが、GARMINのフィットネス用GPSは室内のトレッドミルでの走行データを記録する機能は搭載しています。

――日本のGPSユーザーにメッセージをお願いします。

 GARMINは世界で40%、米国では70%とナンバーワンの市場シェアを誇るGPSメーカーであり、23年間、GPS一筋で取り組んできた企業です。日本のみなさんにはぜひGARMIN製品を使っていただいて、PNDだけではなくフィットネスやアウトドアなどいろいろな製品があるので、ぜひ使っていただきたいと思います。今後も日本のマーケットに対して継続的に新しい機能や技術を提供していきますので、よろしくお願いします。

GARMINブースの前。左は正規代理店である株式会社いいよねっとの代表取締役・真鍋陽一氏

片岡 義明

IT・家電・街歩きなどの分野で活動中のライター。特に地図や位置情報に関す ることを中心テーマとして取り組んでおり、インターネットの地図サイトから法 人向け地図ソリューション、紙地図、測位システム、ナビゲーションデバイス、 オープンデータなど幅広い地図関連トピックを追っている。測量士。インプレスR&Dから書籍「位置情報ビッグデータ」(共著)が発売中。