地図と位置情報

u-blox、車載用の推測航法GNSSレシーバーの新製品「NEO-M8U」と「EVA-M8E」、電波の弱い場所でも高精度な測位が可能

連載「趣味のインターネット地図ウォッチ」からの派生シリーズとして、暮らしやビジネスあるいは災害対策をはじめとした公共サービスなどにおけるGISや位置情報技術の利活用事例、それらを支えるGPS/GNSSやビーコン、Wi-Fi、音波や地磁気による測位技術の最新動向など、“地図と位置情報”をテーマにした記事を不定期掲載でお届けします。


 スイスu-bloxの日本法人であるユーブロックスジャパン株式会社は、車載用の新たなGNSS(衛星測位)レシーバーのモジュール「NEO-M8U」を2月に、「EVA-M8E」を6月に発表した。これに伴い今回、u-blox本社のプロダクトマーケティング部門に所属するフロリアン・ブスケ氏が来日し、記者説明会を行ったので、その模様をレポートする。

u-bloxの車載用GNSSレシーバーモジュール「EVA-M8E」

【お詫びと訂正 2016年7月25日 11:55】
 記事初出時、「EVA-M8E」にジャイロセンサーと加速度センサーが搭載されていると記載しましたが、これは誤りで、「EVA-M8E」にはジャイロセンサーと加速度センサーは搭載されておりません。お詫びして訂正いたします。

スピードパルス不要で高精度な推測航法を実現

 NEO-M8Uの特徴は、GNSSの電波が受信しにくい場所やトンネルなど電波が届かない場所においても、内蔵された六軸ジャイロセンサーや加速度センサーによって自己位置を推測することができること。この推測航法技術のことをu-bloxでは「UDR(Untethered Dead Reckoning:アンテザードデッドレコニング)」と呼んでいる。

 この場合の“アンテザード”とは、「車両との電気的接続を必要としない」ということ。つまり、自動車に有線接続してスピードパルスなどを取得しなくても、高精度な自律航法が可能になることを意味している。これにより、NEO-M8Uを搭載したGNSS機器は、配線作業などを行うことなく、簡単に自動車に取り付けることが可能となる。

 用途としては、ドライブレコーダーや後付けのカーナビゲーションシステム、ETC車載器、レーダー探知機、車両警報システム、運行管理システムなど、さまざまなものが考えられる。GNSSレシーバーと推測航法機能が集約されているこのような製品は他社でも例がないという。なお、GNSSについては、GPSおよびQZSS(準天頂衛星)、GLONASS、Galileo、BeiDouに対応している。

 なお、6月に発表されたEVA-M8Eは、NEO-M8UのGNSSレシーバー部をチップ化したもので、外部にジャイロセンサーや加速度センサーを接続することにより、NEO-M8Uと同様に推測航法が可能となる。

 ブスケ氏は、GNSSレシーバーがどのような状況下でも最高の測位精度を発揮することは難しく、デバイスが座席下に隠れた場所に設置される場合や、製品やアンテナが超小型の場合、密集したビルの間を走行するような場合は高精度な測位が難しくなると語った。

 「NEO-M8UおよびEVA-M8Eは、信号が弱い場所でも優れたパフォーマンスを誇り、信号が途絶えた場合も継続してナビゲーションを行います。スピードパルスなど車両への電気的接続は不要で、最高20Hz(1秒間に20回)のリアルタイム測位が可能です。低コストのため、大量生産が見込まれるプロジェクトにも最適です。」

 ブスケ氏は、GNSSのみの測位に比べて、UDRを搭載したNEO-M8UやEVA-M8Eのほうがナビゲーションの精度が高いことを、軌跡ログを比較しながら説明した。シンガポールの例では、パーキングガレージ周辺の軌跡がGNSSのみで測位した場合は軌跡のログがかなり荒れてしまっているが、EVA-M8Eで測位した場合は整然としたログとなっていた。

u-bloxのフロリアン・ブスケ氏

 また、日本法人のユーブロックスジャパンでも、EVA-M8Eと、GNSSのみの「EVK-M8L」にスピードパルスを組み合わせたものとで測位精度比較を実施。その結果をユーブロックスジャパンの町田洋氏(フィールドアプリケーションエンジニア チームリーダー)が発表した。

 この比較実験では、マルチパス(建物や地形の影響によって電波が乱反射して、端末が複数の経路から同じ電波を受信してしまうこと)が起きやすい新宿の高層ビルの谷間と、GNSS電波を取得できない大橋ジャンクションの2カ所で比較を行った。

 新宿のログを見比べると、GNSSのみの場合は、ある程度の速度で走行しているときはきれいな軌跡になるものの、低速時や停止時などで精度が落ちてログが荒れてしまう現象が見られた。

 一方、大橋ジャンクションのログについても、「EVK-M8U」(「EVA-M8E」の評価キット)のほうが整ったログが得られた。特に、EVK-M8Uは高さ方向の精度が高く、ジャンクション内を走行するにつれて標高が変わっていく様子が正確に出た。スピードパルスを取っていないにもかかわらず、スピードパルスと組み合わせたEVK-M8Lよりも良い結果となっている。

環境によって変わるGNSSの測位精度
機器の設置位置によっても精度が変わる
シンガポールでの測位精度比較。地図の右下の部分がパーキングガレージ
トンネルで信号が途絶えても継続してナビゲーション可能
新宿でのログ。左が「EVK-M8U」のログで、右が「EVK-M8N」のログ
大橋ジャンクションのログ。左が「EVK-M8L」のログで、右が「EVK-M8U」のログ

「EVA-M8E」のターゲットは、アフターマーケット製品

 NEO-M8UとEVA-M8Eのサイズを比較すると、NEO-M8Uが12×16×2.4mmであるのに対して、EVA-M8Eは7×7×1.1mmとかなり小さい。NEO-M8Uが純正ナビなどの高度なテレマティクス製品を想定しているのに対して、EVA-M8Eはアフターマーケット製品をターゲットにしており、小型でカスタム設計にも適用可能だ。また、同社は以前からGNSSのみの「EVA-M8M」という製品を提供しているが、EVA-M8Eは、EVA-M8Mとピン互換の仕様となっており、そのまま差し替えることができる。NEO-M8Uについても、従来の「NEO」シリーズのモジュールとの置換が可能だ。

 また、同社は短期間での市場投入をサポートするため、UDR評価・ベンチマーク用の評価キット「EVK-M8U」および内蔵アンテナを組み合わせた例としてアプリケーションボード「C93-M8E」も提供する。

 NEO-M8UおよびEVA-M8Eのサンプル出荷とEVK-M8UおよびC93-M8Eの出荷は、すでに開始している。NEO-M8Uの量産開始は2016年8月中、EVA-M8Eの量産開始は2016年第4四半期を予定している。EVA-M8Eを搭載した製品が市場に出回るのは、第4四半期以降となるわけだが、同モジュールの使用により、従来よりも設置が簡単で低価格、かつ高精度なGNSS機器が登場することを期待したい。

「EVA-M8E」(左)と「NEO-M8U」(右)
「C93-M8E」

片岡 義明

IT・家電・街歩きなどの分野で活動中のライター。特に地図や位置情報に関す ることを中心テーマとして取り組んでおり、インターネットの地図サイトから法 人向け地図ソリューション、紙地図、測位システム、ナビゲーションデバイス、 オープンデータなど幅広い地図関連トピックを追っている。測量士。インプレスR&Dから書籍「位置情報ビッグデータ」(共著)が発売中。