中島由弘の「いま知っておくべき5つのニュース」
ニュースキュレーション[2019/6/7~6/13]
パブリッシャーのコンテンツによる収益はグーグルに流れているのか? ほか
2019年6月14日 17:00
1. G20大阪サミット:デジタル政策も議題に
2019年6月28日~29日まで、G20大阪サミットが開催される。1999年以降、毎年開催されていて、日本の開催はこれが初めてとなる。
それに先立ち、関係閣僚会議が日本各地に分かれて開催されているが、とりわけデジタル経済に関する議案は6月8日~9日までの「貿易・デジタル経済大臣会合」(茨城県つくば市)で、また、暗号資産に関する国際間の諸問題については「財務大臣・中央銀行総裁会議」(福岡県福岡市)で扱われた。
「G20貿易・デジタル経済大臣会合閣僚声明(仮訳)」を示しておく。この議論について、一般報道はもちろん、IT専門メディアでもあまり大きく扱われていないように感じられたが、そのポイントについては押さえておくべきだろう。この声明文の骨子を見ると、大項目として「人間中心の未来社会」ということが示され、そのなかでは「信頼性のある自由なデータ流通」「人間中心の人工知能(AI)」「デジタル経済の機動的で柔軟な政策アプローチ」「デジタル経済におけるセキュリティ」「SDGsと包摂性」という中項目で整理されている。それぞれに話題については、これまでも折に触れて言われてきたことではあるのだが、国際会議という場で明確に示され、声明文としての合意が形成されているという点が重要だ。
「財務大臣・中央銀行総裁会議」では、資金の送受双方の顧客情報の共有を義務付ける「仮想通貨サービス提供業者に対してより厳しい内容の基準を6月中にも採択する方針」が示されたことが注目点といえよう。ただし、アーキテクチャの自律分散化が進むことにより、こうした従来型の規制が困難になることも念頭におくべきだろう。
2. “通貨ではない”ブロックチェーンの動向
インターネット技術の展示会Interop Tokyo 2019が開催され、その基調講演では「ブロックチェーン」が取り上げられていた。この技術は「自律分散システム」という、そもそものインターネットのアーキテクチャとも親和性が高く、さらにさまざまな研究開発が進みそうだ。Interopでの話題はあらためて取り上げる。
そのようななか、「仮想通貨」、改め「暗号資産」の基盤としてのブロックチェーンではない、この技術の最近の動向をまとめておこう。まず、アステリア(旧社名はインフォテリア)は株主総会の議決権投票にブロックチェーンを活用する。これは決して「実証実験」ではなく、「本番」である。上場企業の議決権システム本番環境にブロックチェーンを採用するのは世界で初めての事例だという。
また、共同通信イメージズやソニー・ミュージックは著作物の管理・販売、そして報酬の分配などにブロックチェーンを利用しようという試みを発表している。こちらはいずれも実験段階だとされているが、その実用化は近そうだ。
そして、フェイスブックが独自の仮想通貨(ステーブルコイン)を6月18日に発表するのではないかという観測が報じられている。利用者数も多い環境でもあり、ここでのサービス投入はインパクトも大きいことが予想される。
ニュースソース
3. パブリッシャーのコンテンツによる収益はグーグルに流れているのか?
2018年の1年間に、グーグルはニュースパブリッシャーのコンテンツによって、47億ドル(約5100億円)の売り上げを得たと推定する調査報告書を米国ニュースメディア連合が公表したことが報じられている。それによると、「47億ドルのうち7億ドル(約760億円)はGoogleニュースから、40億ドル(約4340億円)はGoogle検索の検索結果に表示されるニュースコンテンツから得られた」(CNET JAPAN)としている。それに対して、グーグルはもちろん反論をしている。グーグルとのパートナーシップによって、パブリッシャー側でも媒体価値が上がり、クリック数も増加している、すなわち、それによる広告売り上げやサブスクリプション売り上げを得ているはずだというものだ。いずれにしても、こうした推計や論点はこれまではあまり明確に提示されてきていないことから、その点で、この報告書はなかなか興味深いといえよう。
一方、ロイターのメディア研究機関では、「オンラインニュースにお金を払いたい人の割合は、過去6年間でわずかな増加にとどまった」という報告書を発表している。ニューヨーク・タイムズなど、一部のニュースメディアではサブスクリプションで成功を収めていることが知られているが、それは決してインターネットメディア全体に一般化できるものではなく、インターネット時代のジャーナリズムの経済的基盤に関わる問題点としての指摘もしている。
ニュースソース
- グーグル、ニュース記事利用で年約5100億円の売り上げと業界団体が推計[CNET Japan]
- 報道に難問、オンラインニュース有料購読広がらず[ロイター]
4. 今年も発表! 「Internet Trends 2019」――人類の過半数がインターネットにつながる
例年、この時期になると発表されているインターネットに関する国際的な観点での統計レポート「Internet Trends 2019」が今年も発表された。これを作成しているのは、長年、ウォールストリートやシリコンバレーの投資機関でベンチャーキャピタリストとして活躍をしてきた有名な人物メアリー・ミーカー氏である。このように世界的なマクロトレンドを定量的に捉え、広く公開されている資料はそれほど多くはなく、業界関係者のなかには心待ちにしている人も少なくはない。
ただし、これまでどおりそのページ数が多いことから、全体を読み解くのはちょっとだけ時間が必要だ。しかし、下記のニュースソースは注目点が抜粋して記載された記事なので、斜め読みをするには大変に適していると思う。これから、海外や国内のウェブメディアでもこのデータを考察する記事が増えてくるものと予想される。
今年の注目点は、人類におけるインターネット利用率が過半数を占めたとされる点だろう。また、成長率は鈍化してはいるものの、その上での経済活動、例えば、電子商取引や広告のビジネス規模は成長を続けている。消費者もインターネットへの依存がさらに強まり、モバイルに割く時間がテレビに割く時間を上回ったともしている。
もちろん、国ごとに異なる傾向もあり、それのためには国ごとの統計調査が有効だが、インターネットは国際企業が国際的にビジネスをする場という性格をさらに強くしていることから、こうした観点のレポートは今後の課題を見いだすためには有効な資料となるだろう。
ニュースソース
- 333枚のスライドで「インターネットはこれからどうなるのか」を示した貴重なレポート「Internet Trends 2019」[Gigazine]
5. 今週のファーウェイ問題:風向きは変わりつつある?
先週まで、政府や大手企業のみならず、一時はIEEEという学会までもがファーウェイ関係者の締め出しをしようと動いたことが報じられたことには驚かされた。今週は、 「フェイスブックがファーウェイの端末へ自社アプリプリインストールを禁止」するのではないかという観測や、大手IT企業が従業員に対して、「ファーウェイとの技術や技術基準に関する非公式な情報交換を制限」|Bnしたとされることが報じられた。
一方、今週は風向きが変わりつつある気配もある。ファーウェイに対するAndroid OSのライセンスを中止するとしていたグーグルは、米国政府に対して「トランプ政権によるファーウェイへの攻撃包囲網を解除するように求めた」ともいわれている。仮にファーウェイが独自OSを作りオープンソースで頒布することになると、その方が米国政府の安全保障上の脅威となるということが理由とされている。
しかし、この問題の落とし所はいまだ見えないということには変わりはなく、拳を振り上げた米国のみならず、日本における対応にも注視を続けて行く必要がある問題である。
ニュースソース
- Facebook、ファーウェイ端末へのプリインストールを禁止か[CNET Japan]
- ファーウェイ、一夜にして独自OS:グーグルは米政府に包囲網解除を要求か[NEWSWEEK]
- 複数のIT大手、従業員によるファーウェイとの情報交換を制限[ロイター]