中島由弘の「いま知っておくべき5つのニュース」

ニュースキュレーション[2019/6/20~6/27]

フェイスブックの仮想通貨「リブラ」とは何者か? そして、どんな影響があるのか? ほか

eHrach/Shutterstock.com

1. フェイスブックの仮想通貨「リブラ」とは何者か? そして、どんな影響があるのか?

 今週、大きなニュースとして、IT系媒体のみならず、国内外の一般紙、経済誌をにぎわせたのは、フェイスブックが発表した仮想通貨リブラについての話題である。

 早速、日本でも業界団体などで勉強会が開催され、このリブラに関する技術的な仕組み、法的な解釈、今後の市場へのインパクトなどがシェアされたことが報告されている。これらの記事に目を通すと、リブラではこれまでにない技術的な工夫が随所に見られるとともに、法的に見たときの通貨としての規制のあり方に課題が生じることが指摘されていて、ここが今後の論点となるだろう。つまり、これまでの「想定されていた仮想通貨」を超えたいくつかの要素が含まれているということだ。金融庁もこのリブラについての見解を保留しているとも伝えられている。理由としては、従来のステーブルコインのような単一の法定通貨で裏付けられたシステムとは異なるという点を指しているようだ。

 さらに、リブラがユーザーによってどのように利用されるのか(そもそも支持されて、利用されるのか)、国際的な金融市場にはどのような影響を与えるのかについては、さまざまな分野の専門家から、さまざまな観点で分析し、論じている。つまり、市場では「リブラとは何者か? そして、どんな影響があるのか?」ということを理解しようとしているフェーズであるようだ。フェイスブックという世界に30億人近い膨大なユーザーを持つ企業が提供をするサービスであるということだけでなく、リブラを運営するコンソーシアムにVisa、Mastercard、PayPal、Spotify、Uber、Lyftといった国際企業が参加しているという背景もある。これらの参加企業を中心とした支払い手段の1つとして利用されるだけなのか、それとも新たな通貨としての価値を持ち始め、既存の金融システムへの影響があるのかということは、いまの段階では誰も明確には言えない。

 そうした影響力を危惧した米国議会では、フェイスブックをけん制する動きも出てきている。ここのところ個人情報漏えいをはじめとした社会問題を起こしてきたフェイスブックがまだみそぎが終わっていない段階で、よりにもよって金融システムに影響を与えるかもしれないようなサービスに参入することに対しての懸念からである。こうした懸念は米国だけでなく、各国でも金融秩序に対する懸念が指摘され始め、G7ではリブラを調査するためのタスクフォースの設立が発表された。

 我々人類としては、このサービスが発表されたことをきっかけとして、「デジタル時代における通貨とは何か」という基本的な問題にあらためて取り組む必要がありそうだ。

ニュースソース

  • Facebookの仮想通貨リブラ、日本法での論点は仮想通貨に該当するか 〜JBA斎藤顧問弁護士がステーブルコインの扱いを法的側面から解説[仮想通貨Watch
  • リブラは既存の仮想通貨のベストプラクティスを練り込んだ高度な設計 〜LayerX福島代表がFacebookの仮想通貨Libraの仕組みを解説[仮想通貨Watch
  • Facebook仮想通貨「Libra」は、そもそも日本で買えるのか?[BUSINESS INSIDER
  • 「仮想通貨に該当するか判然とせず」金融庁、フェイスブックのリブラに言及[COINTELEGRAPH
  • Facebookの暗号通貨「Libra」のプライバシーについての上院公聴会、7月16日に開催[ITmedia
  • Facebookの仮想通貨構想、金融秩序に動揺 各国が警戒感[ITmedia
  • G7、フェイスブック「リブラ」を調査するタスクフォース設立へ[coindesk
  • フェイスブックの仮想通貨「Libra」と、強まる規制当局の懸念[WIRED日本版
  • フェイスブックの仮想通貨リブラ、米上院議員の質問にいまだ回答せず[coindesk
  • 「Libra」は世界を変えられる? Facebookが仮想通貨打ち上げ[クラウドWatch
  • コラム:リブラの衝撃、フェイスブック構想は「仮想」通貨超えるか[ロイター
  • なぜ金融当局はBitcoinよりLibraを警戒するのか[Yahoo!ニュース
  • Facebookの仮想通貨、Libraが世界標準に?27億ユーザーを巻き込み、世界最大流通貨幣となるか[Engadget日本版
  • Facebookの仮想通貨「Libra」の登場で考える、お金とはどうあるべきものか?[TechCrunch日本版
  • Facebookの仮想通貨「Libra」は金融業界に革命を起こせるか[CNET Japan
  • Facebook共同創設者、仮想通貨「Libra」の危険性に警鐘[CNET Japan
  • Facebook主導の仮想通貨「Libra」とは何か--“統一通貨”が実現する未来と課題[CNET Japan
  • コラム:巨大IT企業の金融参入、規制当局に4つの難題[ロイター
  • 仮想通貨「リブラ」に激怒する意外な人たち[BUSINESS INSIDER
  • 業界はFacebookの仮想通貨「Libra」をどう見ているのか[GIZMODO

2. LINEの次の事業戦略が明らかに――「LINE CONFERENCE 2019」まとめ

 6月27日、LINEの事業戦略を説明する「LINE CONFERENCE 2019」が開催された。下の示したニュースソースのように、ここで発表された戦略は多岐にわたるが、その中でも注目されるものをいくつか挙げておく。

 まず触れておきたいのはLINE Scoreである。これは、LINE Financial、みずほ銀行、オリエントコーポレーションの3社による合弁会社であるLINE Creditが行うサービスで、「LINEプラットフォーム上での行動傾向や、LINE Scoreの利用開始時の質問への回答などをもとに、AIによるスコアの算出を行う。オンラインの金融サービスでの利用を想定したスコアリングサービスとなっており、パートナー企業とともにスコアに基づいたさまざまなサービスを提供する」というものである(トークや通話の内容についてはスコアリングの対象にはならない)。つまり、このサービスでは、ユーザーの単純な趣味や嗜好傾向だけでなく、金融サービスでの利用という意味では、そこから導かれるある意味での信用度やそのサービスへの忠誠心などが指標化されるようだ。

 言うまでもなく、ユーザーにとっては、個人情報の提供と、それとの引き換えに得られる便益をどのようにバランスして考えるのかというのはいまのまさに大きな課題だ。さらには将来的には、ある便益を得るためには、そのスコアを算出する事業者の価値基準に自分を合わせていくような本末転倒ともいえる極端な方向へと向かってしまう可能性もなくはない。これから増加が予測されるこうしたスコアサービス分野において、先鞭をつけるこのLINE Scoreには壮大な社会実験的な要素もありそう。

 そして、検索事業への再参入も興味深い。もはや「検索」はグーグルによって制覇されてしまった分野かと思い込んでいたが、「“人”と“場所”の検索に特化したサービスであることが最大の特徴。インフルエンサーサーチ機能や、法律・医療などの専門家をデータベースから探してチャットや通話で直接情報を得られる“LINE ASK me”、飲食店のレビューなどのユーザー生成コンテンツ(UGC)検索などの機能を備える」(ケータイWatch)というのは、日本人の多くが利用する生活プラットフォーム化しているLINEというサービスにとってはよい着眼点かもしれない。

 そのほか、カーナビアプリやAIによる電話予約受付機能「DUET」(Impress Watch)などでは、日本の実情なども考慮しながら、米国大手IT企業とも正面から競っていけるサービスになることを期待したい。

ニュースソース

  • LINEが検索事業に再参入、「人」と「場所」に特化[ケータイWatch]
  • LINE MUSIC、約5400万曲を無料で聴ける「ONE PLAY」を年内に開始[ケータイWatch]
  • テイクアウトサービス「LINEポケオ」が本格スタート、100円で牛めしを買えるキャンペーンも[ケータイWatch]
  • 「LINE Pay Visaクレジットカード」はオリコが発行、枚数限定のオリンピック仕様も[ケータイWatch]
  • 「LINE Pay」「メルペイ」「d払い」、加盟店開拓で連携へ[ケータイWatch]
  • LINE、スコアリングサービス「LINE Score」を開始[ケータイWatch]
  • AI企業LINE、無料カーナビやレストラン予約AIを披露。検索に再参入[Impress Watch]
  • LINEは“朝から寝るまで”のプラットフォームへ。ミニアプリ・AI・スコア[Impress Watch]
  • LINEスタンプ300万セット使い放題の定額プラン。月額240円[Impress Watch]

3. 有識者からも異論――「携帯電話の2年縛りの違約金1000円、端末割引最大2万円」問題

 ここのところIT系のメディアで報じられているのが携帯電話の販売競争に関する総務省の研究会(「モバイル市場の競争環境に関する研究会」や「消費者保護ルールの検証に関するWG」)での議論の推移である。すでに、いわゆる「分離プラン」といわれている端末価格と通信サービス料金の明確な分離をした“わかりやすい”料金体系への移行は進んでいるが、さらに、「携帯電話の2年縛りの違約金1000円、端末割引最大2万円」の議論が進みつつあると報じられている。しかし、有識者からは「具体的な根拠・裏付けを欠く金額設定で、総務省側のなかば強引な案」ともする批判が相次ぎ、さらにメディアでもその点が大きく報じられている。

 携帯電話業界の過去には、通信事業者が回線契約純増数を競うばかりに、ある意味で行き過ぎともいえる派手な販売施策が行われたという経緯があり、行政としてはそれをより健全化したいという意図がある。しかし、今回のように有識者からも異論が出るほどの議論をどう収めていくのかはこれから難しいかじ取りが求められそうだ。強引な決定は電気通信産業、つまり通信事業者の料金体系や経営へインパクトを与え、さらには料金プランのさらなる変更とそれによる消費者の混乱なども危惧される。消費者側にとってみれば、安価になることに越したことはないが、事業者としてはインフラの維持管理はもとより、今後は国際競争力を維持していくことも重要であり、その落とし所はどこかという議論でもある。

ニュースソース

  • 「2年縛り」違約金が1000円に。行政が携帯キャリアへの介入を強める理由[Engadget日本版
  • 総務省が打ち出した「違約金1000円」案に潜む矛盾と問題点[CNET Japan
  • 総務省の「端末割引2万円まで」が業界に与える影響は? 残債免除プログラムとの整合性を考える[ITmedia
  • 総務省がアンケートをもとに「解除料1000円」を密室で議論――果たして、6月18日開催の「最終回」でどんな結論に落ち着くのか[ITmedia

4. IT×自動車の連携がさらに進む

 今年2月、ソフトバンクとトヨタ自動車は移動サービス会社「モネ・テクノロジーズ」の事業を開始している(ニュースリリース)が、新たに、マツダ、スズキ、SUBARU、いすゞ自動車、ダイハツ工業の各社がここへ出資をしたことが報じられている(ロイター)。

 また、自動運転技術を開発しているWaymoはルノー・日産自動車と自動運転車サービスの実現に向け、独占契約を締結したと発表と伝えられている(GIZMODO)。

 自動運転技術の開発は自動車業界内だけでなく、IT企業でも各社が取り組んでいる将来における重要な話題だが、それが連携によって規模を拡大し、さらに加速をしていると言えそうだ。

 それぞれの企業の得意領域における要素技術の進歩は実証実験の結果発表などを通じて報じられるとおりに目覚ましい発展を遂げているが、「車」というパッケージとしてはいまだ突出した実力を示す陣営はないように感じる。今回のような企業連携の強化はいよいよパッケージとしての完成度へと向かっていくということか。さらに、その先にある(ハードウェアではなく)サービスとしてのイメージを具体化していくという段階とも言えそう。

ニュースソース

  • マツダなど5社出資へ、トヨタとSBの移動サービス会社=関係筋[ロイター
  • Waymo、ルノー・日産と提携し日仏で自動運転車を検討へ[GIZMODO

5. 7月初旬のイベントとコンファレンス予告

 春から続く大規模な展示会やコンファレンスシーズンは終えたが、夏に向けてさまざまなセミナーやプライベートイベントが予定されている。下のニュースソースには、これから予定されているものを挙げておく。

 とりわけ注目しておきたいのは楽天の「Rakuten Optimism」で、秋に予定されている携帯電話サービスのサービスインを前に、5Gなどの先進サービスのイメージを一般向けにプレゼンテーションする場と思われる。これまでの情報通信技術の展示会への参加はハードルが高いと感じている人にも訴求できる場となるだろう。

 また、国立国会図書館では日本における各分野のデジタルアーカイブを連携させた「ジャパンサーチ(試験版)」をリリースしているが、現状のデジタルアーカイブに関するサービスや技術の動向について、それぞれの専門家が登壇して報告が行われる。

ニュースソース

  • 5G時代のサービスやキャッシュレスを体験、「Rakuten Optimism」7月31日から開催[ケータイWatch
  • セミナー「技術系同人誌即売会"技術書典"はどう"設計"されたのか」7月6日東京で開催(高橋征義/NPO法人HON.jp)[hon.jp
  • セミナー「米国電子出版動向 2019」7月10日東京で開催(日本電子出版協会)[hon.jp
  • 説明会「ジャパンサーチ発進!~連携拡大に向けて」7月17日東京で開催(内閣府知的財産戦略推進事務局/国立国会図書館)[hon.jp