中島由弘の「いま知っておくべき5つのニュース」

ニュースキュレーション[2019/7/11~7/17]

フェイスブックの独自仮想通貨「リブラ」に対する世界の反応 ほか

eHrach/Shutterstock.com

1. フェイスブックの独自仮想通貨「リブラ」に対する世界の反応

 先週の本連載に引き続き、フェイスブックの独自仮想通貨「リブラ」に対する世界の反応をまとめておく。

 英国の中央銀行総裁は「発行が認められる前に『磐石』であることを示す必要がある」と述べた(ロイター)。

 また、米国の中央銀行総裁は「下院議員に対して、Libraについて“深刻な懸念”を抱いている」と話したと報じられている(CNET Japan)。その上で、今後、フランスで開催されるG7サミット(主要7カ国首脳会議)でもこの件を討議するということだ(ロイター)。さらに、米国のトランプ大統領も「Libraという仮想通貨は安定性や信頼性はほとんどない。フェイスブックや他の企業が銀行になりたいのであれば、彼らは銀行設立免許を求めなければならず、他の銀行と同様に全ての銀行業務のルールに従う必要がある」とツイートをした(仮想通貨Watch)。そして、米国財務長官も「資金洗浄の予防策が必要」という指摘をしている(ロイター)。

 加えて、国際通貨基金(IMF)は報告書の中でも「米Facebookが2020年に立ち上げを計画している仮想通貨『Libra』について、国際的な規制が必要になる」という見解を発表した(ITmedia)。

 このように、先週紹介した各国の対応に加え、これら先進国の論調はリブラに対しては厳しいものである。そして、一国の規制だけでは意味がないことからも、今後は国際での協調も必要になってくるだろう。こうした動きを受け、フェイスブックのブロックチェーン関連業務を総括するデビッド・マーカス氏が「規制当局の懸念に対処し承認されるまでは仮想通貨(暗号資産)『リブラ』を発行することはない」(ロイター)と述べたということも報じられている。

 一連の流れを見ると、インターネットの歴史上、これまでの中で最も国際協調によって解決を図る必要がある事案といえるかもしれない。

ニュースソース

  • Facebookの仮想通貨「Libra」についての公聴会証言原稿公開[ITmedia
  • FB仮想通貨リブラ、最初から磐石であるべき=英中銀総裁[ロイター
  • FRB議長、Facebookの仮想通貨「Libra」に「深刻な懸念」--トランプ大統領も批判[CNET Japan
  • FRB議長、月末の利下げ改めて示唆 G7でFB仮想通貨討議へ[ロイター
  • G7 Facebookno仮想通貨「Libra」規制を議論へ[ITmedia
  • アメリカ、大手テック企業による"デジタル資産"発行禁止の可能性が浮上[coindesk
  • グーグルらIT大手4社、米議会で証言へ--独占禁止法や「Libra」の問題で[CNET Japan
  • トランプ大統領「Facebook仮想通貨リブラは信頼できない」。公聴会前に初言及 ~「米国には実質的な通貨は一つしかなく世界中で圧倒的=米国ドルと呼ばれている!」[仮想通貨Watch
  • フェイスブック、仮想通貨リブラ発行前に当局の懸念に対処=幹部[ロイター
  • フェイスブックの仮想通貨、資金洗浄の予防措置必要=米財務長官[ロイター
  • 加、ファーウェイの5G関与巡る決定は10月総選挙以降=関係筋[ロイター
  • 国際通貨基金(IMF)、Facebookの仮想通貨「Libra」には「国際的な規制が必要」[ITmedia
  • Facebookの仮想通貨リブラで分かっていること、まだよく分かっていないこと ~日本ではいつから使える? 法的な扱いは各国で議論の真っ最中[仮想通貨Watch
  • フェイスブック発トークン「リブラ」は新たな経済圏を生み出すか?[ハーバー・ビジネス・オンライン

2. ビットポイント社仮想通貨流出事件――ここまでのまとめ

 これで何度目の流出事件になるのだろうか。ビットポイントジャパン社から仮想通貨が不正に流出した。原因の詳細は調査中としているが、流出総額は30億2000万円相当で、そのうち顧客からの預かり資産は20億6000万円相当、これは顧客から預かる仮想通貨資産のおよそ13%にあたるとしている。そして、影響のあったユーザーは約5万人としている。なお、被害については、仮想通貨での補填を行うということも発表されていることから、これまでと比べるとユーザーも冷静な受け止めがされているようだ(仮想通貨Watch)。

 報道によれば、今回の流出事件でもオンライン上のホットウォレットが狙われた可能性があるとしていて、仮想通貨交換業の業界団体では仮想通貨をコールドウォレットに移すなどの安全対策を講じるようにあらためて要請をした(ロイター)。

 これまでの類似の流出事件を踏まえ、規制の強化はもとより、業界団体を中心とした対策、そしてなによりも各社とも運用面でのノウハウを蓄積してきたのではないかと思われるが、同じような事件が何度も繰り返されていると、いかにすばらしい技術であったとしても、規制が強化されて使いにくくなることはもとより、その信頼性さえもが一気にゆらぎかねない。

ニュースソース

  • BITPoint、30億円相当の仮想通貨の不正流出について記者会見を開催 ~ホットウォレットの秘密鍵が流出か、原因と流出経路は調査中。流出額は預かり資産の13%に相当[仮想通貨Watch
  • BITPointの仮想通貨不正流出に続報。システム提供先の海外交換所でも流出被害発生 ~ビットポイントジャパンが30億2千万円相当、海外交換所は2億5千万円相当の被害[仮想通貨Watch
  • ビットポイント:行政処分の解除から2週間で襲った不正流出──小田社長、声を震わせた90分会見[coindesk
  • 仮想通貨交換所BITPoint、全サービスを停止 ~サービス再開日時は未定[仮想通貨Watch
  • 協会、仮想通貨は「可能な限りコールドウォレットに」=関係筋[ロイター
  • 金融庁、ビットポイントにきょうにも報告命令へ=関係筋[ロイター

3. 経産省がブロックチェーン活用コンテンツを支援する補助金採択事業を発表

 経産省のJ-LOD事業とは、海外における日本のコンテンツ関連産業の拡大、および訪日外国人等の増加促進につなげながら、コンテンツ産業が持続的に発展するエコシステムを構築することが目的だ。今回発表された採択事業は、その中でもデジタル技術を活用した高い先進性があるコンテンツ等の開発等を行う事業の中から「ブロックチェーン技術を活用したコンテンツの流通に関するシステムの開発・実証」というテーマにおいて、補助金による支援をするという趣旨である。

 記事本文にもあるように、今回は11の事業が採択されているが、これをざっと見る限りにおいても、将来、実用化されればコンテンツ産業にとって価値がありそうなテーマが含まれている。仮にすぐに実用に結び付かなくても、これによって得られた技術ノウハウの蓄積や仮説の検証という意味においても意味がありそうだ。ぜひとも経過や結果を広く公表していただき、それを広く社会でシェアされることが期待したい。

ニュースソース

  • 経産省、ブロックチェーン活用コンテンツを支援するJ-LOD補助金採択事業11件を発表 ~平成30年度補正予算「コンテンツグローバル需要創出等促進事業費補助金」事業者一覧公開[仮想通貨Watch

4. いま参議院選挙の時期だからこその“選挙テック”

 この記事の執筆時は参議院議員選挙の選挙活動期間中である。そこで選挙と関連して報じられたウェブサービスを2つ紹介しておく。

 ヤフーが視覚障がい者向けの参議院選挙情報サイトとして「Yahoo! JAPAN 聞こえる選挙」を公開した(ITmedia)。このアプリの公開は2017年の衆議院選挙に続いて3回目ということだ。当初より、読み上げを前提として設計したアプリや情報の持ち方、付け焼き刃で付加されたような読み上げ機能とは異なり、必要としている人にとっては大変に重要な情報アクセス手段になると思われる。

 また、政策シンクタンクである一般社団法人構想日本は、国の事業や税金の使われ方などについて誰もが簡単に調べられるウェブページ「JUDGIT!」を公開した(ニュースリリース)。これは、構想日本に加え、日本大学尾上洋介研究室、Visualizing.JP、特定非営利活動法人ワセダクロニクルと共同で開発したシステムである。このウェブページでは企業や団体の名称やキーワードを入力することで、それに関連する政府の予算や事業、支出先を検索することができる。有権者としては、国政選挙の時期だからこそ、選挙公報や政権放送以外での観点でも、こうしたさまざまな情報に触れるいい機会といえる。

ニュースソース

  • 全国の立候補者の政策を“読み上げ” ヤフーの視覚障がい者向けサイト「聞こえる選挙」[ITmedia
  • 国が何をしているのかを誰でもキーワードで検索できるサイト「JUDGIT!」。税金の使い道が分かる!ビジネスや研究にも使える![ニュースリリース

5. 日本企業の知的財産の確保は大きな課題

 激しい国際競争の中において、知的財産をいかに確保しておくかは重要なポイントといえる。日経XTECHでは「知財が見せる5年先のミライ」と題する連載記事でフィンテックにおける知的財産権の取得動向についてまとめている。掲載されているグラフは興味深いものであり、原文の一読をおすすめしたい。ここでは簡単に概要を紹介すると、日本のフィンテックに関する知的財産の出願状況は右肩上がりではあるものの、海外のそれと比べると緩やかであり、とりわけ中国企業の勢いがあるとしている(日経XTECH)。

 これまでは盤石であることが重要視され、大きな技術革新に直面してこなかったこれまでの金融分野だが、これからはまさに国際的な主戦場となる可能性も高い。記事でも指摘しているように、そうした時代背景のもとでは、大手金融機関よりもフットワークが軽く、過去のしがらみにとらわれない、さらに新しいアイデアを持っているスタートアップ企業が一気に活躍できる可能性は高そうだ。むしろ、そうした活性化が起きないと、この分野でも海外勢に抑え込まれてしまう可能性すら感じる。

ニュースソース

  • 世界の特許で探るフィンテックの可能性、新興企業に勝機が残る[日経XTECH

中島 由弘

フリーランスエディター/元インターネットマガジン編集長。情報通信分野、およびデジタルメディア分野における技術とビジネスに関する調査研究や企画プロデュースなどに従事。