中島由弘の「いま知っておくべき5つのニュース」
ニュースキュレーション[2019/7/17~7/25]
「ウェブのための協定」草案――ウェブの発明者ティム・バーナーズ=リー氏が発表 ほか
2019年7月26日 16:00
1. フェイスブックの独自仮想通貨「リブラ」に対する慎重な意見が相次ぐ
フェイスブックの独自仮想通貨「リブラ」に対しては各国とも厳しい姿勢を見せている。
米国議会ではリブラに関する公聴会が開催された。報道によれば、議会のスタンスとしては、これまでもたびたびスキャンダルを起こしてきたフェイスブックと同社が行うサービスは信用ならないということである。一方、フェイスブックのブロックチェーン事業トップであるデービッド・マーカス氏は、フェイスブック単独の事業ではないので、同社だけの信頼によるわけではないということと、米国が主導しなかったとしても他国で同じようなことが実施されると主張したようだ(仮想通貨Watch)。すでに一国の規制だけではコントロールが不能になっている事象はこれが初めてではないが、金融という世界経済に影響が大きな分野にも波及をしようとしていることから、議会としてのテクノロジーへの理解や戸惑い、最終的な落とし所の模索に苦慮している印象を受ける。
また、G7(先進7カ国蔵相・中央銀行総裁会議)でもこの問題が議論された。そこでは「最高水準の規制が必要」との議長総括を公表するとともに、参加各国からは「リブラは国家の通貨主権や金融政策に影響を与え、マネーロンダリング(資金洗浄)やデータ保護にも懸念がある」との指摘が相次いだと報じられている(仮想通貨Watch)。
さらに、日本でも日銀の黒田総裁がリブラについて「国際的な支払いの手段として使われることを狙っており、各国が協調して規制を考えていく必要がある」と発言したことが報じられている(NHK)。
そのようななか、リブラプロジェクトへの参加を表明しているクレジットカード大手ビザのCEO兼取締役会長、アルフレッド・F・ケリー氏は「リブラに参加するために法的拘束力のない意向表明書(LOI)に署名しました。関心を示したのは27社だと思いますが、弊社はそのうちの1つです。つまり、どの企業もまだ正式には加盟していないのです」(coindesk)と発言したことが報じられている。まだまだ解決しなければならない課題、すなわち1つの通貨・決済のサービスとしてローンチするためにはさらなる国際的な合意形成などが必要ということを冷静な視点から示唆していると思われる。
ニュースソース
- 暗号資産 “リブラ” 「各国協調し規制議論を」日銀総裁[NHK]
- G7、Facebookの仮想通貨リブラは「最高水準の規制が必要」 ~公共・金融政策への影響やマネロン・データ保護への懸念の指摘相次ぐ[仮想通貨Watch]
- 規制当局、「リブラ」巡るリスクに対応を=IMFエコノミスト[ロイター]
- 米消費者保護団体ら、Facebookの仮想通貨リブラ創設27社に「待った」 ~フェイスブックによる恐怖政治・市場支配と批判。4団体連名で文書を送付[仮想通貨Watch]
- 「リブラに全財産預けられますか?」Facebook責任者の答えは ~米国上院の公聴会一問一答。フェイスブックの体制への批判が相次ぐ[仮想通貨Watch]
- フェイスブック仮想通貨計画、スイス当局が詳細情報請求[ロイター]
- 英下院委員会、 Facebookリブラの徹底調査に乗り出すか[coindesk]
- 仮想通貨「Libra」の提供をうたう偽Facebookアカウント、早くも登場か[CNET Japan]
- VISAのCEO:Facebookのリブラ支援企業はまだ正式パートナーではない[coindesk]
- 米JPモルガン・ダイモンCEO:Facebookのリブラは短期的な懸念ではない[coindesk]
- 米リップルCEO、仮想通貨リブラを有益だが「シリコンバレーの傲慢」と評価 ~マネロン対策など法規制の準拠には慎重に当たるべきと主張[仮想通貨Watch]
- フェイスブックの仮想通貨「Libra」を取り巻く疑問と懸念──米公聴会から見えてきたこと[WIRED日本版]
- フェイスブックの仮装通貨「リブラ」潰しへ、国際社会が連携を始めた[現代ビジネス]
2. 「通貨でない」ブロックチェーンの実装例
ブロックチェーンを利用したアプリケーションとして、まず仮想通貨が挙げられるが、それだけではないさまざまな応用を目指した取り組みも報じられている。
国内ではエイベックス、メディアドゥがそれぞれコンテンツ流通における真正性や所有権の管理に利用しようという取り組みを発表している。また、イタンジ、そして住友商事とbitFlyer Blockchainがそれぞれ不動産の電子契約を目指した応用例となっている。海外でも中国のテンセントや米国のニューヨークタイムズなどでも応用を模索しているとしている。
いうまでもなく、ブロックチェーンは「分散台帳」といわれる汎用技術であり、これ以外にもさまざまな応用が期待されている。しかし、この技術の特性や応用場面は分かりにくいという側面もあり、いまだブロックチェーンという技術を使うことが最適なのかどうかが理解しにくいところもある。今後もより多くのケーススタディを通じて、スクラップ・アンド・ビルドをするとともに、それをユーザーも含めて体験してみることこそがさらなる応用のアイデアへとつなげる近道といえそう。
ニュースソース
- エイベックス、ブロックチェーン活用でデジタルコンテンツに証明書 ~決済とブロックチェーン上のデータは分離[仮想通貨Watch]
- イタンジ、国交省主導の社会実験に向け不動産の電子契約サービスを提供開始 ~企業間のデータ共有基盤としてIBMクラウド上のHyperledger Fabricを採用[仮想通貨Watch]
- スマホだけで賃貸内見から契約まで。住友商事とbitFlyer Blockchainが提携[Impress Watch]
- メディアドゥ、ブロックチェーン活用の電子書籍流通基盤の実証実験を完了 ~PoCではHyperledger Fabricを採用。開発推進のためエンジニアの採用強化[仮想通貨Watch]
- テンセントが雲南省観光業にブロックチェーン導入。手続き透明化で税金支払いを徹底 ~入園チケットの購入から領収書発行までスマートコントラクトで自動化[仮想通貨Watch]
- ニューヨーク・タイムズ、フェイクニュース対策でブロックチェーン利用を認める[coindesk]
- ブロックチェーン技術を用いた電力取引で、消費者が電力融通しあう地産地消の未来 ~P2P電力取引プラットフォームを開発するデジタルグリッド阿部力也氏に聞く[仮想通貨Watch]
3. 「ウェブのための協定」草案――ウェブの発明者ティム・バーナーズ=リー氏が発表
今年の3月、ウェブが発明されて30周年に寄せて、発明者であるティム・バーナーズ=リー氏はいまのウェブが置かれている状況に対して自身の厳しい見解を述べた。当時、CNETが報じた記事では次のように記されている。
「ウェブは、偽情報が伝染病のように蔓延し、憎しみが助長され、そして個人情報が、手っ取り早く金儲けをしようと、その情報に大金を支払う人々に渡されてしまうプラットフォームへと変貌してしまった。」(CNET)
その解決策として、同氏は「Contract for the Web」(ウェブのための協定)を提示することと、すでに開発を進めている「Solid」という新しいプラットフォームにより、ユーザー自身が自分のデータを管理コントロールできる仕組みを提示した(ITmedia)。
そして、前者の「Contract for the Web」の草案が発表された。政府がなすべきこと、企業がなすべきこと、利用者であるところの市民がなすべきことと分けて、合計9つの原則を述べている。骨子としては、そもそも管理者の存在しない分散環境であるところのインターネット、ウェブを今後もグローバルで公的な資源として開かれた状態であることを理想としている。
そして、いますぐにこの協定の草案に賛成なのか、反対なのかを表明することが重要なのではなく、この草案に基づいた議論を通じ、課題を共有するととも、さらなるフィードバックをすることが求められている。
原文は英文であるが、いまどきは機械翻訳で読むこともできるので、ぜひとも一読することをお薦めする。
ニュースソース
- “ウェブの父”バーナーズ・リー氏、「ウェブのための協定」最初の草案を公開[CNET Japan]
- A Contract for the Web[A CONTRACT FOR WEB]
4. 2018年度の電子書籍市場規模は2826億円、海賊版サイト閉鎖を受けて前年比126.1%の大幅増――インプレス総合研究所
インプレス総合研究所は最新の電子書籍市場規模の推計値を発表した(インプレス)。それによると、2018年度(2017年4月~2018年3月)の電子書籍市場規模は2826億円とされ、2017年度の2241億円から585億円(26.1%)増加したとしている。市場成長の背景として、海賊版サイトが2018年4月に閉鎖されて以降、それをきっかけとした電子書籍の認知度向上、各社の積極的なマーケティング施策などが奏功し、売り上げが拡大したとしている。一方で電子雑誌市場規模は296億円(対前年比6.0%減)とされ、初めてマイナスに転じたとしている。
また、公益社団法人全国出版協会・出版科学研究所も直近6カ月分のプリント版と電子版の出版市場規模について発表をした(出版科学研究所)。前者の調査とは集計区分や調査方法が異なるが、電子書籍の市場拡大傾向については同様の方向にあるようだ。また、プリント版とを合わせた出版市場全体の速報値を知る上ではこちらが参考となる。
すでに小学館が5月に増収増益の通期決算を発表(新文化)をしていて、その内容とも符合する。久々に出版業界にとって明るい話題と捉えることができるが、一方で、出版不況の流れが止まったことが確認されたわけではなく、まだまだ課題は多い。
5. 2019年アマゾンプライムデーで最も売れた商品は?
毎年恒例となっているアマゾンのセール、アマゾンプライムデーの結果が発表されている。それによると、全世界で売れた商品の数は48時間に1億7500万点を超えたという。また、5年前の約2倍の買い物がなされたという。
そのなかで、日本で最も売れたものはなんだったのだろうか。それは「Happy Belly天然水」(ペットボトル水)、「Anker PowerCore 10000」(モバイルバッテリー)、「パンパース」(紙おむつ)となっている。世界的に売れた消費としてはスマートスピーカー「Echo Show」などが挙げられている。
ニュースソース
- 2019年のアマゾン「プライムデー」、売れた商品は1億7500万点[CNET Japan]
- 今回のAmazonのセール「プライムデー」は大成功、48時間で1億7500万アイテムを販売[livedoor NEWS]
- プライムデーの月曜日はアマゾン以外の大手小売業者の売上も64%アップ[TechCrunch日本版]
- Amazon プライムデー、 勝利を収めたブランドの条件は?:限定製品とファーストパーティ[DIGIDAY日本版]
- Amazonプライムデーに便乗する競合店が昨年よりさらに増加して300店超に[TechCrunch日本版]