中島由弘の「いま知っておくべき5つのニュース」

ニュースキュレーション[2019/9/5~9/12]

ヤフーがZOZOを買収へ――アマゾン、楽天にどう対抗していくか? ほか

eHrach/Shutterstock.com

1. アップル新製品発表イベントのまとめ:「半額サポート」でユーザーの選択は?

 アップル社はiPhone、Apple Watch、iPadなどの新製品を発表した。製品仕様については、それぞれのニュースソースに詳しい。

 ほぼ年に一度の恒例イベントになっているが、年を追うごとに、誰が見ても分かりやすい技術のジャンプや新しいライフスタイルの提案が見られなくなりつつあり、市場の盛り上がりもいまひとつといったところか。一方で、ディスプレイに代表される製品で使用されている部品の質的向上などにより、価格が上昇していることも消費者心理を冷やす要因か。ただし、過去のモデルを安価にして販売が継続されることで、新規顧客の獲得を狙っている。

 今回の注目点は、日本の消費者がどのような選択をするかということだろう。日本では電気通信事業法の改正により、10月1日より、通信サービスの長期継続を条件とする端末割引をしない分かりやすい料金体系とすることを狙った規制が始まる。端末の割引サービスだけでなく、通信サービス解約に伴う違約金を安価にすることや、端末の販売価格の割引範囲についても規制がかかるようになっている。これがスマートフォンの買い替え需要が高まるiPhoneの発売時期に合わせて施行されることから、市場にどう影響をするのかが注目されている。

 ところが、ここにきて、ソフトバンク(Engadget日本版)とKDDI(ITmedia)は他キャリアのユーザーであっても、端末を48回(4年)割賦払い(別途、毎月390円のオプション料)にすることで、24回(2年)の支払い後は、その端末の回収を条件として、新しい機種に交換できるという端末購入プランを発表した。通信サービスの契約期間とは直接的には関係しない一種の「残価設定型ローン」というアイデアだ。ただし、端末にはSIMロックがかかっているため、100日を経過しないとSIMロックを解除して、他のキャリアのサービスを使えないというところがミソともいえる。

 いってみれば、両社では法律の隙間を突いたような料金体系を編み出したともいえるが、そもそもの規制の趣旨に照らして行政がどう対応するのか、そして、消費者の購買行動にはどのような影響があるのかがこれからの注目ポイントだ。

ニュースソース

  • 「Apple Watch Series 5」発表--スリープなしに時計表示、18時間のバッテリ持続[CNET Japan
  • 「AppleCare+」、2年経過後も継続できる月額プランを導入[CNET Japan
  • 「iOS 13」「watchOS 6」は9月20日登場、「iPadOS」は10月に[ケータイWatch
  • 「iPhone 11 Pro/Pro Max」登場、トリプルカメラとSuper Retina XDRディスプレイ[ケータイWatch
  • 「iPhone XR」「iPhone 8/8 Plus」Apple Storeで値下げ、iPhone XSシリーズは販売終了[ケータイWatch
  • 「macOS Catalina」製品版は10月リリース[ITmedia
  • 10.2インチになった新型iPad登場--Apple Pencilやキーボードに対応、3万4800円から[CNET Japan
  • 月額600円の映像配信サービス「Apple TV+」11月1日開始 端末購入で1年間無料[ITmedia
  • 「iPhone」は5G未対応で苦戦続く--IDC予測[CNET Japan
  • 新iPhone発表会にドコモ吉澤社長・au高橋社長・ソフトバンク榛葉副社長現る[Engadget日本版
  • 新iPhone目前に発表、法の抜け穴をつくソフトバンク「半額サポート+」の狙い[Engadget日本版
  • auの「アップグレードプログラムDX」登場 端末代金を最大半額免除、他キャリアでもOK[ITmedia

2. 楽天モバイルの本格サービス開始はいつ?

 楽天モバイルが10月1日から「無料サポータープログラム」を開始すると発表した。これは有料の通常契約ではなく、同プログラムに参加するユーザーを募るもの。無料サポータープログラムの提供期間は2020年3月31日までとされている(ケータイWatch)。

 基地局の設置状況が計画よりも遅れていることにより、総務省から行政指導を受けたことが報じられたり、一部のメディアでは正式サービス開始が来春になると報じられたりしているが、三木谷浩史氏は「(サービス開始が)半年遅れるという報道が出ているが、そういうことではない」と述べている(ケータイWatch)。楽天としては、機種乗り換えタイミングでのサービス開始を狙いたいところだろうが、全く新規のインフラを設置し、運用するということからいっても、ここは慎重に対応していくということは決して悪い判断ではないだろう。むしろ、拙速な対応によって、サービス開始とともに大規模な通信障害でも起こしてしまうほうが長期的なイメージダウンにつながる。

 さらに、eSIM対応の独自スマホ「Rakuten Mini」(ケータイWatch)をはじめ、「Galaxy A7」、「Galaxy S10」(ケータイWatch)、「Reno A 128G」(ケータイWatch)などの端末も発表している。

ニュースソース

  • 三木谷社長「楽天モバイルの基地局展開、予定通り」[ケータイWatch
  • 楽天モバイル、10月1日から「無料サポータープログラム」[ケータイWatch
  • 楽天モバイル、iPhoneの取り扱いは「ノーコメント」[ITmedia
  • 楽天モバイル、eSIM対応の独自スマホ「Rakuten Mini」[ケータイWatch
  • 楽天モバイルから初のGalaxyシリーズ、「Galaxy A7」「Galaxy S10」順次発売[ケータイWatch
  • 楽天モバイルから防水・FeliCa対応のOPPO製「Reno A 128GB」、10月上旬発売[ケータイWatch

3. 行政・金融機関・研究者のマルチステークホルダーの参加が重要――「FIN/SUM2019」まとめ

 金融庁と日本経済新聞社が共催したフィンテックと仮想通貨に関するコンファレンス「FIN/SUM2019」が開催された。

 この分野のデジタルイノベーションを実現するには、それぞれが高い専門性や知見を持ち寄ることで、まさに事業者と技術と規制が三位一体でなければ健全に進展しない典型的な分野である。そうした意味において「マルチステークホルダー」、すなわち行政・金融機関・研究者というそれぞれの専門家による相互の理解と議論がなければ進んでいかないということは多くのセッションでも異口同音に表現されていた(仮想通貨Watch)。

 また、これまでは国の単位により行われる規制が中心だった分野において、もとより国境が意味を持たないデジタル世界ではどのように協調していくべきかという大きな課題も生じている(仮想通貨Watch)。インターネットという情報通信インフラそのものが、中心となる運営組織を持たない国際的な協調による自律的な仕組みを実現しているが、その上での金融技術も今後は同じような自律的な仕組みが求められることになるのではないだろうか。このような大きな変革は歴史的に見ても重要な節目ともいえ、今後はさらに多くの分野からも議論に参加し、より開かれた議論も必要になっていくだろう。

ニュースソース

  • ブロックチェーン、スマートコントラクトが金融ビジネスにもたらす影響は?──STOとICOの違い【日経FIN/SUM】最終日[coindesk
  • ブロックチェーン基盤の「分散型金融」6つの特徴──金融庁 高梨氏が解説[coindesk
  • リブラは「鳴り響く目覚まし時計」【FSB氷見野氏(金融庁)スピーチ・全文】[coindesk
  • 金融・規制・プライバシーのベストバランスとは?=FIN/SUM 2019 ~「巨大テック企業は金融に革命を起こすのか」Amazon・AWS担当者ら識者が議論[仮想通貨Watch
  • 金融庁、LINEを仮想通貨交換業者として登録--国内で取引サービス提供へ[CNET Japan
  • 金融庁長官「暗号資産はルールや税制などグローバルに対応を進める」=FIN/SUM 2019 ~ブロックチェーンはマルチステークホルダーの参加による議論を推進[仮想通貨Watch
  • 慶應大・村井教授とファーバー氏が未来の金融に向け対談=FIN/SUM 2019 ~「既存の金融と後払い式決済は目的が異なる」「経営者は先端技術の勉強を」など[仮想通貨Watch
  • 日本の仮想通貨交換所のセキュリティを考える人たち=FIN/SUM 2019 ~松尾氏「交換所の中に日銀ネットの一部があるも同然。金融機関レベルの安全性は必須」[仮想通貨Watch
  • 麻生財務相「Facebookのデジタル通貨リブラは国際的な関心事」=FIN/SUM 2019 ~仮想通貨など旧来ルールで想定していない技術革新に適切に対応していく[仮想通貨Watch
  • FinTech Innovation Hub活動報告「多様なフィンテックステークホルダーとの対話から見えた10の主要な発見(Key Findings)」の公表について[金融庁

4. Apple Watchでメディカルテックの研究に貢献できる

 アップルがApple Watchユーザー向けに健康調査研究により簡単に貢献できるスキームを用意するようだ。これまでもミシガン大学、WHO(世界保健機関)、ハーバード公衆衛生大学院、NIH(米国立衛生研究所)、米国心臓協会、ブリガム・アンド・ウィメンズ病院と連携した研究をしてきた成果を発表するとともに、今後は参加できる研究がポータルにまとめられ、「どのデータを共有するかはユーザー自身が決める」ことができるようになり、「個人を直接特定する情報にアップルは一切アクセスできないとして、ユーザーのデータのプライバシーを尊重することを約束している」としている(TechCrunch日本版)。

 メディカルテック分野では(プライバシーに関わるような種類の)データをいかに多く収集できるかということが課題の1つだが、こうした取り組みが健全に行われることで大きく進む可能性がある。とりわけ、アップルは他の大手IT企業とは違い、個人情報を収集し、それをビジネスにしないというスタンスを示していることから、将来に向け、期待される取り組みといってもよいだろう。

 そして、Apple Payの幹部が「仮想通貨に関心を持っている」ということに言及したとも報じられている(仮想通貨Watch)。メディアの取材に対し、こうした考えを明示したことは大変に興味深い。

ニュースソース

  • アップルが健康調査のためのResearchアプリを米国で年内にリリース[TechCrunch日本版
  • アップルのApple Pay幹部「仮想通貨に興味を持っている」 ~中小企業の決済ツールの可能性に言及[仮想通貨Watch

5. ヤフーがZOZOを買収へ――アマゾン、楽天にどう対抗していくか?

 突如、ヤフーがZOZOを株式公開買い付け(TOB)による子会社化を目指すことが発表された。また、ZOZOの前澤友作社長は即日退任を発表した(Impress Watch)。

 いうまでもなく、前澤氏はユニークは発想でメディアでも大きな話題を振りまいてきているが、とりわけ宇宙旅行などの壮大な夢に向かった具体的な活動も視野にあるのだろう。一方、ヤフーとしてはECなどの分野において、国内で競合するアマゾン、楽天、さらにはメルカリなどとそれぞれの分野で競うための戦略的な判断ともいえるだろう。

 そして、偶然にも日経xTECHが独自の「3大ECサイト利用実態調査」の結界を公表している(日本経済新聞日本経済新聞)。これをみても明らかなように、市場シェアという観点ではヤフーは劣勢であり、両社を追う立場である。一方で、消費者はアマゾンなどのECサイトに対して満足しているわけではなく、より高いユーザーエクスペリエンス、信頼できる製品評価情報を求めていることもうかがえる。今後の勝負のポイントは技術開発力により、こうした消費者の不満点の改良によるユーザーの支持を獲得できるかというところにありそうだ。

ニュースソース

  • ヤフー、ZOZOを買収。集客と決済、PayPayモールで協力。前澤社長退任[Impress Watch
  • 技術者はアマゾンを断トツ支持 3大通販サイト調査[日本経済新聞
  • アマゾン利用者の4割が不満 独自調査で露呈した弱点 3大通販サイト調査[日本経済新聞

中島 由弘

フリーランスエディター/元インターネットマガジン編集長。情報通信分野、およびデジタルメディア分野における技術とビジネスに関する調査研究や企画プロデュースなどに従事。