中島由弘の「いま知っておくべき5つのニュース」
ニュースキュレーション[2019/9/12~9/19]
Mozillaが「新しいウェブ収益化モデル」を創出する助成金を投入 ほか
2019年9月20日 16:00
1. アマゾン、グーグル、アップル――アルゴリズムを変更したそれぞれの背景
CNETは、ウォール・ストリート・ジャーナルの記事を引用しながら「Amazonは2018年に検索アルゴリズムをひそかに変更し、最も関連性の高い製品や最も売れている製品ではなく、自社にとって収益性の高い製品を優先している」という記事を掲載した(CNET Japan)。つまり、検索結果の1ページ目に表示された商品がクリックされる可能性が高いということから、「Amazon独自の商品を検索結果の上位に表示するように」してきたという疑念を指摘した。これに対して、アマゾンは「われわれは顧客が望むであろう商品を優先表示している。それが自社ブランドか、販売パートナーの商品かは関係ない。どの店舗でもするように、われわれはサイトで販売し優先表示する商品の収益性を考慮しているが、それは1つの基準にすぎず、顧客に提示するものを決定する主要因ではまったくない」と反論をしている。
一方、グーグルは検索品質評価者向けのガイドラインをアップデートし、「その記事が開示されていなければ知られていなかったであろう情報を提供する」オリジナル記事が目立つ場所に掲載されるようにしという(CNET Japan)。
そういえば、先週はアップル社が「反トラスト捜査を受けてApp Storeのアルゴリズムを修正」したことが報じられている(TechCrunch日本版)。
こうした疑念が指摘されたり、更改が講じられたりしている背景には、巨大IT企業の社会的な影響力がますます高まっていることによる、より厳格な透明性、中立性を求める声が高まっていることがあると思われる。情報そのものはもちろんのこと、アルゴリズムについてもどのようなポリシーで行われているのか、そして、本当にその通りに実装されているのかということを明確にすることは、今後の議論としても高まりそうだ。
ニュースソース
- アマゾン、自社製品を優位にするため検索アルゴリズムを変更か[CNET Japan]
- グーグル、ニュース検索でオリジナル記事を優先するアルゴリズム変更[CNET Japan]
- Appleが反トラスト捜査を受けてApp Storeのアルゴリズムを修正[TechCrunch日本版]
2. ギグエコノミーは曲がり角に――従来の雇用関係へと戻るか?
Uberに代表されるタクシーサービスのドライバーのようなサービスを提供するビジネスを「ギグエコノミー」と呼んでいる。「ギグ」とは「単発、または短期の仕事」という意味で、そもそもはライブハウスでの短いセッションだったり、その場だけの演奏のことだったりを指す用語のようだ。
ところが、Uberのようなタクシーサービスのドライバーは独立した業務請負事業者ではなく、正規雇用の従業員であるとする法案がカリフォルニア州議会上院を通過したと報じられている(CNET Japan)。この法律が成立をすると、事業会社と労働者との関係は、雇用主と従業員としての関係が成り立つことになり、事業会社側では社会保険などの人件費が増加し、経営が厳しくなっていくとみられる。
こうしたサービスは、情報通信技術を背景として「ニッチタイム」と「仕事」をマッチングすることで、既存サービスを補うような経済活動に参加する機会を作り出すことがそもそもの趣旨だったはずの新しい経済モデルだが、こうして規模が拡大するとともに、従来の雇用の仕組みへと収斂していくことになるのかもしれない。
確かに、労働者側の観点からすれば「アルゴリズム」というディスパッチャーから与えられる「指示命令系統」に組み込まれ、かつ、一日のうちの多くの時間をこの業務に使うことで、そこからの主な収入を得るようになってきたことで、それは事業者側がコストを最小化して、都合よく労働力を使っているということになるともいえることから、労働者側の権利を保護しなければならないという方向へ向かっているということなのだろうが。
ニュースソース
- ギグエコノミーに大打撃--米加州でUberのドライバーなどを従業員とする法案が通過[CNET Japan]
3. Mozillaが「新しいウェブ収益化モデル」を創出する助成金を投入
いまのインターネットのコンテンツビジネスは広告の収入と、収集した個人データのマイニングよるサービスの提供によって成り立っている。
これが健全な状態ではないとうことから、かねて、ウェブの発明者であるティム・バーナーズ=リーも現在のウェブのあり方に対して懸念を表明し、あらたな技術的枠組みなどの開発を進めているところだ。
そして、「Firefoxを開発するMozillaは、ウェブ企業のCoilや非営利団体のクリエイティブ・コモンズと共同で『広告中心の収益構造に代わる新しいビジネスモデル』を考えるプロジェクト「Grant for the Web(ウェブのための助成金)」を推進し、1億ドル(約108億円)もの助成金を投入する」と発表したことが報じられている(Gigazine)。なお、この助成金は「プライバシーの保護を中心としたオープンでアクセス可能なウェブ収益化エコシステム」に貢献する個人・プロジェクト・グローバルコミュニティに贈られるとされている。
こうした成果はすぐに結実するようなものではないが、ウェブでのビジネスモデルの多様化をさせるうえでの重要な試みともいえるだろう。今後の動向や成果に注目しておきたい話題である。
ニュースソース
- Mozillaが100億円以上を「新しいウェブ収益化モデル」を目指すための助成金として投入[Gigazine]
4. 台風15号の通信インフラ被害は収束へ
台風15号は千葉県をはじめとする関東東部に甚大な被害を及ぼした。
さまざまな被害が報じられるなかでも、大規模停電や設備損傷などを理由とするモバイル通信インフラの被害はさまざまな場面において、復旧活動の足かせとなった。
なによりも先に通信インフラを稼働させないことには、被害者が救助の要請をすることはもちろんのこと、救援物資の供給や避難施設の情報の周知が大幅に滞ったり、ライフラインの状況把握や消防や医療などとの連携が困難になったりする。
最近の大規模災害でも、これほどまでに停電時間が長くはなかったからか、現場ではSNSでの情報収集が有効だったという報告もあるが、残念ながら今回はそういうわけにもいかなかったようだ。将来のためにも、大規模停電のもとでも通信インフラをいかに維持するか、復旧するかという観点で再考する必要もありそうだ。
5. 「若者のソーシャルメディア離れ」か、「デトックス」か
総務省が「平成30年度情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書」を公表した(総務省)。
それについて報じているメディアでは「『若年層のソーシャルメディア離れ』が進行?」という観点で分析をしている(Web担当者フォーラム)。記事によれば、ソーシャルメディアの平均利用時間が「10代は大幅に増加した一方で、20代は減少した(10代平日54.0分→71.6分、10代休日75.8分→98.7分、20代平日61.4分→51.9分、20代休日77.8分→64.6分)」と変化しているとしている。こちらも手垢のついた言い方だが「SNS疲れ」とでもいうことか、または「メディア消費時間」の奪い合いにおいて、他のコンテンツやサービスとの競合をしているかということだろう。
一方、米国医師会雑誌(JAMA)では、ソーシャルメディア中毒の若者はメンタルヘルス上のリスクが最大で78%も高くなるという研究が発表されている(Gigazine)。具体的なメンタルヘルスの問題として、「葛藤とそれに基づく感情・不安・気分の落ち込みや強迫症状など自己の内的な体験とされる障害群で、うつ病・不安・孤独など」を挙げている。
こうした若年層の行動の変化が「ソーシャルメディア離れ」というよりも、自発的な「デトックス」と考えるなら、メンタルヘルスの観点からはプラスとなる話題か。
ニュースソース
- 「平成30年度情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書」の公表[総務省]
- 「若年層のソーシャルメディア離れ」が進行? 利用率が平日休日ともに減少【総務省調べ】[Web担当者フォーラム]
- 20%以上の若者が1日3時間以上SNSを使用、SNS中毒者はメンタルヘルスのリスクが最大78%も高くなるという研究結果[Gigazine]