中島由弘の「いま知っておくべき5つのニュース」
ニュースキュレーション[2020/3/12~3/18]
新型コロナウイルス:テレワークによる日本のネットインフラへの影響は? ほか
2020年3月19日 17:00
1. 3月12日はWWWの誕生日:「ウェブは女性に対して正しく機能していない」
3月12日はWWW(ワールドワイドウェブ)の31歳の誕生日である。毎年、この日にはWWWの発明者であるティム・バーナーズ=リー氏がコメントを発表している。
今年のメッセージは「ウェブは女性に対して正しく機能していない」ということだ(CNET Japan)。より具体的にいうと、「オンラインにおいて複数の点で女性が男性と平等になっていない」「ウェブにアクセスできる状態にある男性は女性よりも21%多く、一部の地域、特に南半球ではその差が52%まで開く」という。さらに、「調査した若い女性の半数以上が、性的嫌がらせを受けたり、脅迫メッセージを送られたり、プライベートな写真を同意なく共有されたりといった、オンライン暴力の経験があることが明らかになった」とも指摘をしている。
これまでもあらゆる人はインターネットへアクセスできるべきだという理想として掲げ、「ウェブのための協定」というWWWの理想を達成するためのアクションプランを示してきた。これには地球上の誰もが平等にWWWへアクセスでき、誰からもそのアクセスを制限したり遮断したりしないこと、さらには人々のプライバシーが保護されるべきであるということも含んでいる。今年はその一貫した理想像のなかで、さらに踏み込んだ具体的なメッセージとして、ジェンダーの問題を指摘した。
ニュースソース
- ウェブの父バーナーズ=リー氏:「ウェブは女性に対して正しく機能していない」[CNET Japan]
2. 新型コロナウイルス:アップルの「WWDC」、マイクロソフトの「Build」もオンラインに
国内外で予定されていた春のイベントはことごとく中止となったが、ついにアップル社の開発者会議「WWDC」(ケータイWatch)、マイクロソフトの開発者会議「Build」(CNET Japan)もリアルイベントの中止が発表され、オンラインで代替することが発表された。一連の動きからすると驚くべきことではないが、オンラインでどのように開催されるのかということが興味深いところだ。
市場や技術の国際化が進んでいるなか、米国外からは参加をしたくても、旅費や参加費などの経済的な問題、出張が伴う場合の時間の問題であきらめていた人も多かっただろう。これを契機として、参加可能枠が増えることから参加できる人が増えることも期待でき、先端的な技術情報がより広く伝搬できる可能性もあると考えるならネガティブなことばかりではない。
ニュースソース
- アップル、「WWDC 2020」はオンライン開催に[ケータイWatch]
- マイクロソフト、開発者会議「Build 2020」もオンライン開催へ--新型コロナで[CNET Japan]
3. 新型コロナウイルス:欧米での感染拡大と情報通信基盤の健全性維持
この1週間から2週間で、新型コロナウイルスはアジアから米国やヨーロッパへと感染拡大をしている。それに伴って米国政府やIT企業での対応も発表されている。各社とも、従業員の健康を守るためと事業の継続性を維持するためにテレワークが推奨されていることは既報の通りだが、それ以外で目に留まった記事を紹介する。
1つは、米国政府が新型コロナウイルス対策で全国民のネット接続を保証するよう通信事業者やISPに要請したことだ(ITmedia)。ライフラインとしてのインターネットや電話などの通信サービスが失われないよう関連事業者に誓約を求める「Keep Americans Connected Pledge」である。具体的には、利用料を支払えない顧客へのサービス停止をしない、延滞料徴収の放棄、Wi-Fiホットスポットの無料公開と、誓約には含まないものの、利用可能なデータ上限の緩和も呼び掛けたという。
また、グーグルの親会社アルファベット傘下にあるライフサイエンス部門であるVerily社は新型コロナウイルスのオンラインスクリーニングツールの提供をカリフォルニア州で開始した(CNET Japan)。記事によれば「新型コロナウイルスのリスクを懸念している人々をトリアージし、公衆衛生当局者の指導と検査を受けられる可能性に基づいて検査拠点に誘導する」ものだとしている。
そして、動画配信サービスのユーチューブは少人数でも対応できるよう自動削除システムを強化したり(Engadget日本版)、コロナウイルス関連の動画での収益化を認めたりする(Engadget日本版)方針を出した。
さらに、フェイスブック、グーグル、リンクトイン、マイクロソフト、ラディット、ツイッター、ユーチューブという7社は「多数の人々の間のつながりを維持する一方で、新型コロナウイルスに関連する詐欺や偽情報の撲滅に共同で取り組み、当局の情報を各社プラットフォームに掲載し、世界中の政府保健当局と協調して重要な最新情報を共有している」との声明を発表した(CNET Japan)。
フェイクニュースなどにより起きる社会的なパニックを抑止し、外出することなく正しい情報を入手できるようにするという情報通信基盤の健全性維持を目指すこうした施策の重要性を改めて認識させる業界動向である。
ニュースソース
- 米連邦政府、新型コロナ対策で全国民のネット接続を保証するよう事業者に要請[ITmedia]
- グーグル兄弟会社Verily、新型コロナのオンラインスクリーニング開始へ--まずカリフォルニア州で[CNET Japan]
- YouTube、新型コロナ関連動画でも収益化を認める方針に[Engadget日本版]
- Youtubeが自動動画削除システムを強化。コロナ対策の一環で[Engadget日本版]
- シリコンバレー大手7社、新型コロナウイルス関連の偽情報抑止などで協力へ[CNET Japan]
4. 新型コロナウイルス:テレワークによる日本のインターネットインフラへの影響は?
インターネットサービスプロバイダーであるIIJは「IIJ Engineers Blog」において「新型コロナウイルスのフレッツトラフィックへの影響」とするレポートを発表した(IIJ)。「リモートワークのビデオ会議や臨時休校の子供たちの動画視聴が急増し、インターネットのトラフィックが激増しているという噂がある」(同レポート)ことから行われた調査だが、現状を客観的に観測したレポートとして大変に興味深い。
これによれば「マクロにみると、3月2日を境に明らかに平日昼間のトラフィックが増えています。平日の1日のトラフィック量でみるとアップロードで6%、ダウンロードで15%程増えています。1日のダウンロードで15%増というのは、平日と休日の違いぐらいとも言えますが、通常半年から1年ぐらいかかる増加が1日で起こったと捉える事もできます。ただし、ピーク値はあまり増えていないので、ISP視点では前者の感覚」としていて、いま爆発的なトラフィック増加が確認されているわけではないということだ。増加の要因としては、テレワークによるビデオ会議の活発化のようだ。
いまのところインフラとしての余裕はあるものの、この社会状況が長期化すれば、テレワークや大型のオンラインイベントなどの増加、さらにはインターネットでのエンターテインメントコンテンツの増加なども予測されることから、社会基盤としてのインターネットの状況について、ユーザーとしても変化に注意を払っておくべきだろう。
ニュースソース
- 新型コロナウイルスのフレッツトラフィックへの影響[IIJ]
5. トヨタがブロックチェーンの有効性を確認
トヨタグループのトヨタファイナンシャルサービス社はブロックチェーンの実証実験を行っている。そのいくつかの成果が発表されている。
1つは、分散型台帳技術「Scalar DLT」を開発するScalar社と実施した実証実験で、B2C取引のデータを分散台帳上で管理し、データのコントローラビリティ・トレーサビリティ・真正性等の検証が確認されたとしている(仮想通貨Watch])。
もう1つは、BUIDLと実施した実証実験(仮想通貨Watch)で、自動車と人にIDを割り当てるもので、人にIDを割り当てる「Personal ID」は、消費者自身で情報を管理できる自己主権型IDで、将来的にトヨタグループのみならず、あらゆる場所で利用できる共通IDを目指すとしている。また、車にIDを割り当てる「Vehicle ID」は、車両情報の登録、整備情報の記録、情報閲覧権限の管理、所有権の移転などが可能な基盤を構築するとしている。そして、「Vehicle IDにひも付く車両情報は、Personal IDにひも付けた所有権や閲覧権限を元に制御されるよう、相互の基盤は連携し動作するよう設計されている」としている。結果としては、こちらも「検証観点に基づいたシナリオを用いて実証実験を行った結果、両社はブロックチェーン技術の有用性を確認することができた」としている。
これまでも各社による実証実験はいくつも行われてきているが、だんだんとブロックチェーンという技術の知見を積み上げていくことで、社会全体としてより具体性のある計画に向かいつつあると感じる。