中島由弘の「いま知っておくべき5つのニュース」

ニュースキュレーション[2020/4/16~4/23]

テレワークの新しいカルチャー? 「バーチャル背景」や「バーチャルノイズ」が次々登場 ほか

eHrach/Shutterstock.com

1. ここまで来たソーシャルディスタンシング――「オンライン診療」「オンライン帰省」そして「リモート参拝」

 新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、国からの外出自粛が要請されるなか、ビジネス上ではテレワークの推進が求められている。そして、オフタイムにはビデオ会議システムを使った「オンライン飲み会」なども開催されるようになっている。

 そして、病院内での感染を防止する意味からも「オンライン診療」が始まった。通院患者のみならず、初診からオンラインで診察を受け、処方箋を近所の薬局へ送付してもらえる病院も出てきた。朝日新聞デジタルの記事によれば、ある病院では「予約が殺到」しているといい、「3月は1カ月で5人ほどだったのが、今月20日以降は初診も含め1日10人以上になる」としている(朝日新聞デジタル)。感染の危険を避ける意味では全世代にとって有用そうだが、一方で、医師にとっては十分な診察ができない危険もあり、まだまだ手探りの状況もあるようだ。

 さらに、国や東京都では、ゴールデンウィークを控えるなか、「オンライン帰省」を提案している(ITmedia)。首都圏から地方へ帰省することで新型コロナウイルスの感染拡大を広げたり、重症化リスクの高いとされる高齢の家族への感染を防ぐ意味もある。しかし、オンライン帰省を実施するためには何らかの端末が必要になることから、簡単になったとはいえ、スマートフォンですらハードルの高い高齢の両親らに設定をさせることは困難な場合も多いに違いない。各地域でのサポートなどにも期待したいところだ。

 また、奈良の東大寺では、奈良の大仏として知られる「盧舎那仏像」の定点生中継を5月31日まで行うと発表した。現在、東大寺では大仏殿の拝観を停止していて、24時間リモート参拝できるようにする試みだ。「東大寺では、コロナ収束を祈ることをなどを目的に、毎日正午に僧侶が仏像の前で読経しており、生放送ではその音声も流す」としている(ITmedia)。

 緊急事態宣言がいつ解除されるか見通せないなか、今後、さらに「リモート」な体験がさらにいろいろと出てきそうだ。

ニュースソース

  • オンライン診療、利用激増 コロナに対応、現場は手探り[朝日新聞デジタル
  • 首相が「オンライン帰省」提案 8割削減協力も改めて要請[ITmedia
  • “奈良の大仏”をリモート参拝 ニコ生で5月末まで中継[ITmedia

2. 一般社団法人データ流通推進協議会、オンラインコンファレンス「データ活用と連携でコロナと戦う」を開催

 一般社団法人データ流通推進協議会は「データ提供者が安心して、かつスムーズにデータを提供でき、また、データ利用者が欲するデータを容易に判断して収集・活用できる技術的・制度的環境を整備すること等を目的」としてさまざまな活動を行っている(公式ページ)。

 同協議会では4月27日から10回にわたり、「連続特別企画『データ活用と連携でコロナと戦う』」と題するオンラインコンファレンスを開催する(一般社団法人データ流通推進協議会)。このコンファレンスを通して、「新型コロナウィルスの感染拡大対策と収束後にの経済復興に向けて、データ活用の視点から課題や今後の取り組みについて、各分野の専門家を交えた議論を行い、自民党デジタル社会推進特別委員会への提言を取りまとめる」としている。スピーカーには自由民主党デジタル社会推進特別委員会の平井たくや氏、東京都戦略政策情報推進本部戦略事業部デジタルシフト推進担当の平井則輔氏らをはじめとし、大学や研究組織の方々が名前を連ねている。

 感染症対策立案のために、人々の動きを統計的に利用することはすでに行われているところだが、それに加え、アップルとグーグルが提携して開発を進めていると報じられている個人間での接触履歴の記録が行われようとしていることもあり、さらに個人データの公的な利用が焦点となっていくだろう。その意味において、大変に興味深い課題設定である。

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3. IT担当大臣の発言をきっかけに民間主導の「ハンコ廃止」は進むか?

 竹本直一IT担当大臣は就任時から「日本の印章制度・文化を守る議員連盟」(はんこ議連)の会長であることが知られていて、IT推進の観点から、いつどのような判断をされるのか注目をされていた。そして、この新型コロナウイルスの感染拡大とともに、テレワークが強く推進されるなかで、その普及阻害要因ともされる「押印」について、4月14日の記者会見で「(はんこがテレワークで問題になるのは)民間同士の話」とし、国としてはんこの問題に介入する考えはない」(ITmedia)という考えを示した。

 それにすぐさま反応したのがGMOインターネットグループの熊谷正寿会長だ。自身のTwitterアカウントで「決めました。GMOは印鑑を廃止します」と述べ(ITmedia)、同社グループ会社が提供するサービスにおけるユーザーの各種手続きで、はんこを不要にしたと発表した。GMOインターネットグループはテレワークにもいち早く取り組んだり、オンラインで株主総会を実施したりするなど、大きな社会的課題による個人や企業の行動変容が求められるなかで積極的な取り組みを見せている。こうした前例ができたことで、それに追従していく企業が増加することを期待したい。

ニュースソース

  • はんこ出社、「しょせんは民・民の話」──物議を醸したIT担当相の発言全文[ITmedia
  • GMOが“はんこ”廃止 竹本IT担当大臣の発言に即対応[ITmedia
  • GMO熊谷会長に聞く「印鑑廃止宣言」の覚悟[日経ビジネス

4. テレワークの新しいカルチャー? 「バーチャル背景」や「バーチャルノイズ」が次々登場

 テレワークが増加しているなか、新しいカルチャーが生まれている。それが「バーチャル背景」である。オンライン会議のとき、生活感のある自室が背景として映り込むことに抵抗のある人もいるだろう。それを仮想的な画像で隠してしまおうというわけである。当初はZoomで多く利用されていたようだが、その後、Google Meetにも同様な機能が追加(Gigazine)されたり、Microsoft Teams(CNET)やSkype(窓の杜)でも背景の変更ができる機能が付加されたりするなど、一段とにぎわいを見せている。

 また、アドビシステムズがAdobe Stockで会議用背景を無償提供を開始した(Impress Watch)ほか、他のブランドや映画、アニメなどをテーマとした背景も多数が提供され始めている(VOGUE)(ASCII.jp)(Car Watch)。まさに、デスクトップをカスタマイズする壁紙のような楽しみ方と共通する。

 さらに、Calm Officeというバックグラウンドノイズジェネレーターでは、コピー機、プリンター、エアコン、人の話し声などの典型的なオフィスの音を再現する(CNET Japan)。静かな自室では安心できない人向けの環境音だが、会議の背景音として流すという使い方もあるかもしれない。

 社会的に自粛疲れとも言われるなか、ちょっとした遊び心は大切かも。

ニュースソース

  • ジブリ、スター・ウォーズetc、オンライン会議に使えるバーチャル背景が続々登場![VOGUE
  • ホンダ、テレワーク用バーチャル背景公開。HondaJet機内からビデオ会議も[Car Watch
  • 在宅勤務でも職場のようなノイズが聞けるノイズジェネレーター「Calm Office」[CNET Japan
  • Googleがオンラインビデオ会議ツール「Google Meet」にZoom風のギャラリービューを追加、Gmailからも通話可能[Gigazine
  • Adobe Stock、「Zoom」などビデオ会議用背景を無償提供[Impress Watch
  • 仕事で使える「バーチャル背景」を集めてみた[ASCII.jp

5. テレワークは今後も企業にとって必須な時代に

 人材系シンクタンクのパーソル総合研究所は7都府県で緊急事態宣言が出た直後に実施した全国2万5000人規模のテレワーク実施状況調査を発表した(ITmedia)。それによると、正社員に絞ったテレワークの全国平均実施率は約28%となり、3月前半に実施した同じ調査よりも倍の比率になったとしている。しかし、「7都府県での『出社率』が10日時点でまだ58.5%あることも判明」したとし、「新型コロナウイルスの感染拡大を受け緊急事態宣言が全国に拡大した今、政府の要請する『出社7割減』にはまだ程遠い状況」と指摘している。

 一方、20代専門転職サイト「Re就活」を運営する学情による意識調査の結果によると、テレワークへの対応が進んでいるIT業界への転職希望者が急増しているという(ITmedia)。同社では「新型コロナウイルスの感染拡大によって、転職希望者の意識にも変化が現れている」と指摘をしている。

 もちろん、世の中を支える全ての仕事がオンラインに置き換えることは不可能であることは言うまでもないが、少なくとも主にパソコンを使用したり、会議をしたりすることで構成されている種類の仕事に対する価値観は今後も大きく変化し続けていくだろうか。そして、この新型コロナウイルスの感染拡大が終息したのちも、首都圏へと企業や人が集中する理由も薄れるとともに、私たちの行動変容は続くのではないだろうか。

ニュースソース

  • IT業界への転職希望者が急増 新型コロナで「テレワークできる」仕事を意識[ITmedia
  • 全国テレワーク実施率、7都府県の緊急事態宣言後も28%止まり――「出社7割減」には程遠く[ITmedia

中島 由弘

フリーランスエディター/元インターネットマガジン編集長。情報通信分野、およびデジタルメディア分野における技術とビジネスに関する調査研究や企画プロデュースなどに従事。