中島由弘の「いま知っておくべき5つのニュース」

ニュースキュレーション[2020/4/23~4/30]

SpaceXが打ち上げた通信衛星「Starlink」――すでに400基以上 ほか

eHrach/Shutterstock.com

1. 休館が続く美術館・博物館もインターネットを積極利用

 外出自粛要請、そして緊急事態宣言により、ほとんどの美術館や博物館でも休館となっている。この春から予定されていた大型企画展も会期中に終了したり、開催延期となったりするばかりか、誰にも観覧されることなく終了している例も出てきている。

 そのようななか、各館ではインターネットでのコンテンツの配信に取り組み始めている。私たちが美術館や博物館に足を運ぶ理由は、そこに作品などの「現物」が存在していて、展示室のガラス越しとはいえ、それをより近い位置から質感などの細部に至るまで観覧できるということだったのだが、現在のような状況下ではとてもそれはかなわない。しかし、こうしてインターネットを使えば、現物を楽しむというわけにはいかないまでも、別の角度からより理解を深めることにつながる楽しみ方もできそうだ。

 東京の国立科学博物館では3DビューやVR映像を配信(CNET Japan)していて、施設の概要だけでなく、展示物までも見ることができる。また、東京の三菱一号館美術館では、自宅で同美術館の魅力を再発見できる「わたしだけの三菱一号館美術館」を公開(ガジェット通信)し、開館10周年を迎える施設について、さまざまな角度から楽しめる。そして、美術館や博物館の学芸員の方々も、SNSを通じた見どころの紹介なども活発になっているようだ(ITmedia)。「博物館や美術館は『#自宅でミュージアム』として、所蔵品の見どころを写真や動画で紹介。動物園や水族館は、『#休園中の動物園水族館』をつけて発信」していて、再生回数が数万から数十万回に上る投稿もあるという。

 そして、この休館時に作られたコンテンツは将来的にも「レガシー」として残し、これまでのように現地へと行くことでしか得られない価値にとどまらないコンテンツとして維持、成長させてほしい。

ニュースソース

  • 国立科学博物館が3DビューやVR映像を配信へ--自宅から無料で見学[CNET Japan
  • 三菱一号館美術館を自宅で楽しめるWebサイトが展開中[ガジェット通信
  • 「収束後の来館につながれば」 学芸員、Twitterで展示解説や科学実験を投稿[ITmedia

2. YouTube誕生から15年――確立されたネット動画コンテンツ

 CNNによれば「動画投稿サイトのユーチューブに最初の動画がアップロードされてから(4月)23日で15年が経過した」という(CNN)。

 最初の動画は創業者のジョード・カリム氏による18秒の動画だったが、いまや「現在、同サイトを訪れるログインユーザーの数は毎月20億人を超える。動画の視聴時間は1日当たり10億時間に上る」という。

 当初は著作権法的には無法地帯のような時期もあったが、その後、グーグルの傘下に入り、投稿されたコンテンツも管理されるようになると、広告などでの収益化の仕組みとともに、いまや世界的な動画配信のプラットフォームとして確立され、ユーチューバーという動画クリエイターを輩出し、それはビッグビジネスの場へと進化している。

 そして、新型コロナウイルスの感染拡大により世界各地でロックダウンが続くなか、5月29日から6月7日までの10日間にわたりYouTubeはグローバルな映画祭「We Are One」を開催する(CNET Japan)。著名な20以上の映画祭が参加し、コンテンツを用意するとしている。また、このデジタル映画祭は無料で視聴できる。

 これ以外にも、世界のアーティストが動画で配信をしたり、スポーツ選手が室内トレーニング法などを配信したりしていることはよく知られている。こうした時期でなければ企画・制作されなかったコンテンツや触れる機会がなかった作品に出会うチャンスでもある。

ニュースソース

  • YouTube、無料のオンライン映画祭を5月29日から開催へ[CNET Japan
  • ユーチューブ誕生から15年、最初に投稿された動画は?[CNN

3. 接触トレース技術は新型コロナウイルス対策の決め手となるのか

 新型コロナウイルスに感染した人との接触を検知するアプリをアップルとグーグルが共同で開発していることは既報のとおりである。そして、いよいよ一部の開発者向けにベータ版が公開されているようだ(CNET Japan)。また、両社ではプライバシー強化についてのQ&Aを公表している(ITmedia)。

 これと同じ目的のアプリは他にもいくつかあり「接触追跡(コンタクトトレース)」「感染追跡」などと呼ばれている。いずれも基本的にはユーザーが自分のスマートフォンにアプリを入れておくことで、感染した(と診断された)人と近い位置で濃厚接触したかどうかを近接無線通信やGPSによる位置情報で記録することで検知をし、当該のユーザーに通知をしようというものである。

 当然、そこにはプライバシーに関する懸念が生じる。アップルとグーグルでは「接触データのマッチング作業をユーザーのスマートフォン内で行う分散方式を採用し、他にもスマートフォン同士が交換する識別子を暗号化するなどさまざまなプライバシー保護の工夫がなされている」とした一方、オーストラリアで開発されたシステムではマッチングをサーバーでの中央集権方式で行うとしている。また、ドイツでは当初、中央集権方式で行おうとしていたが、批判を受けて、急きょ、分散方式に変更をしたという。さらに、英国では中央集権方式を採用したという(ITmedia)。

 EUでも科学者や技術専門家が開発を進めていて、アップルとグーグルに対して両社のAPI変更を要求しているとも報じられている(TechCrunch日本版)。

 国際的な感染症の拡大を抑止するための情報通信技術の応用には大いに期待したいところだが、こうした仕組みが有用であるとした場合、これらの技術と各国における個人情報保護関連法での取り扱いや解釈、そのうえでの有事の際の運用方法、そして、そもそもこうしたことが国民の間で合意形成はできるのかということについてなど、実際に広く利用されるまでには検討したり、解決したりすべき課題は大きい。この問題に限らずとも、平時には現状が優先されることから、議論や検討が後回しになりそうな課題こそ、深い議論を行って、将来への資産とすべきなのだろう。

ニュースソース

  • 欧州が新型コロナ対策の接触トレース技術におけるプライバシー保護でAppleとGoogleにAPI変更要求[TechCrunch日本版
  • 感染追跡アプリ、オーストラリアも導入 他の使い方に罰[朝日新聞デジタル
  • 新型コロナの「接触追跡」アプリ、独はApple&Google方式、英豪は中央集権方式[ITmedia
  • アップルとグーグルの新型コロナ追跡技術、一部の開発者がベータ版を利用可能に[CNET Japan
  • AppleとGoogle、新型コロナ「濃厚接触通知」のプライバシー強化をQ&Aで説明[ITmedia

4. 新型コロナウイルスの感染拡大はロボット技術も高めつつある

 感染症を封じ込めるために「人との接触を8割削減する」ということが私たちの命題である。しかし、3週間を経て、積極的に取り組んでも、なかなか難しい場面もあることも実感しつつある。

 そのようななか、ロボット技術の応用が進みつつあるようだ。ロボットの研究や開発はこれまでも進められてきたが、産業用ロボット以外では何か違和感があった。そして、あまりすぐには役に立ちそうにないデモも多かったのではないだろうか。しかし、ここにきてにわかにロボットに可能性を感じる。

 スマートロボティクスのテレワークロボットは「遠隔操作で作業や会話ができるロボット。新型コロナウイルスの感染拡大によりテレワークが進むなか、対面での対応や物理的作業が必要で、テレワーク環境に移行できない労働者に変わって作業を行える」(ケータイWatch)としている。医療機関や宿泊施設での療養をしている方への配膳などに利用できそうだとしている。

 また、ソフトバンク傘下の米ボストンダイナミクス社の地元の病院では、新型コロナウイルス感染症のトリアージに同社の四足歩行ロボット「Spot」が使われているとしている(ITmedia)。これまでもいくつかの四足歩行ロボットのデモ動画が公開されてきたが、何か奇妙な動きをしていてどこか不気味な感じもあったが、いよいよ実用になってきたということか。さらに同社ではロボットに「サーマルカメラなどの機器を搭載することで、体温や脈拍数、酸素飽和度などをリモートで測定する方法を開発していく」としていて、医療従事者の感染リスクを下げたり、効率を上げたりすることも期待できそうだ。

 日本でもANAホールディングスの傘下で立ち上がったアバターイン社のアバターロボットは引き合いも増加しているようだ。記事によれば「新型コロナの感染拡大で、『両親の見守りで使いたい』『結婚式に出られないので貸してほしい』など、具体的な利用方法の問い合わせが国内のほか欧米や中国などからも来ている」「問い合わせ件数は1~3月までの3カ月間は月平均で40件ほどだったが、4月は24日時点ですでに約70件に達した」ということだ(ITmedia)。

ニュースソース

  • 食事の配膳や受付業務までをテレワーク可能にする「テレワークロボット」[ケータイWatch
  • Boston Dynamics、新型コロナのトリアージでのロボット「SPOT」採用事例を紹介[ITmedia
  • 遠隔診療や結婚式代理出席……遠隔操作ロボットが引っ張りだこ[ITmedia

5. SpaceXが打ち上げた通信衛星「Starlink」――すでに400基以上

 地球上空の低周回軌道上に多数の通信衛星を周回させ、ブロードバンド通信サービスを行おうという計画はいくつかの計画がある。その1つであったソフトバンクグループも出資する英国のOneWeb社は3月に破産申請をしたことは既報のとおりである(ITmedia)。

 一方、イーロン・マスク氏が率いるSpaceX社はすでに400基以上を上空に周回させていて、4月22日にはさらに60基を投入したという(CNET Japan)。記事によれば「2020年内に1000基以上の人工衛星の軌道投入完了を目標としており、米連邦通信委員会(FCC)からは全部で1万2000基以上の衛星の打ち上げを許可されている」ということで、地上からは見えないところでインフラ構築は急速に進んでいることにあらためて驚かされる。

ニュースソース

  • SpaceX、新たに60基の通信衛星「Starlink」を軌道に投入[CNET Japan

中島 由弘

フリーランスエディター/元インターネットマガジン編集長。情報通信分野、およびデジタルメディア分野における技術とビジネスに関する調査研究や企画プロデュースなどに従事。