中島由弘の「いま知っておくべき5つのニュース」
ニュースキュレーション[2020/4/30~5/12]
これで大丈夫か? ニッポンの行政手続きの電子化 ほか
2020年5月15日 12:00
1. オンラインカンファレンスは“新しい日常”
新型コロナウイルスの影響により、今春予定されていた国内外のカンファレンスや展示会は軒並み中止となったが、各国で収束の方向が見えてきたことから、いよいよこの分野での“新しい日常”も始まったようだ。
すでにいくつもの小規模カンファレンスはオンラインで開催されているが、大型カンファレンスもオンラインでの開催が検討されたり、決定されたりし始めている。
国内では「東京ゲームショウ2020」(ケータイWatch)がオンラインでの開催を検討しているとし、海外でも「GDC(ゲーム・デベロッパー・カンファレンス)」(CNET Japan)、「GitHub Satellite」(クラウドWatch)、アップル社の「WWDC」(ケータイWatch)、グーグルのアンドロイド11のオンラインでの発表イベント(CNET Japan)、セキュリティカンファレンスの「Black Hat」と「DEF CON」(ZDnet Japan)、マイクロソフトの「Build 2020」(ZDnet Japan)などがオンラインでの開催を計画している。
当面、無料としているものも多いが、将来的には有料のビジネスへと転換する可能性も否定はできないものの、少なくとも遠く海外へと赴く必要性は減少することになるだろう。つまり、企業にとっては「出張」という予算そのものも減少する可能性があるということだ。しかし、時差を乗り越えて、居ながらにして最新情報へとダイレクトにアクセスできる方法が増えたということは喜ばしい。だんだんとオンラインが定着してくると、動画を流すだけではないさまざまな工夫も行われるようになって、いままで以上にコミュニティの形成も進むかもしれない。とりわけ、「テレワークネイティブ世代」にとって、当たり前のことになるに違いない。
ニュースソース
- 「東京ゲームショウ2020」通常開催中止、オンライン開催を検討[ケータイWatch]
- 5GやARで「未来の社会」はどう変わるのか --最前線プレイヤーたちが議論[CNET Japan]
- 8月に延期のゲーム開発者会議「GDC」、オンラインで開催へ[CNET Japan]
- GitHubが年次イベント「GitHub Satellite」をオンライン開催、4領域で新発表[クラウドWatch]
- アップル、「バーチャルWWDC」6月22日開催[ケータイWatch]
- グーグル、「Android 11」初のベータ版を6月3日リリース--オンラインイベントで披露[CNET Japan]
- セキュリティカンファレンス「Black Hat」と「DEF CON」、オンラインで開催へ[ZDnet Japan]
- マイクロソフト、オンライン開催の「Build 2020」の登録受付開始[ZDnet Japan]
2. これで大丈夫か? ニッポンの行政手続きの電子化
10万円の特別定額給付金申請が行政手続きの電子化の問題点を浮き彫りにしている。
国と自治体は速やかな給付を行うことを旨として、これまでのような書類での申請とともに、マイナンバーカードを利用したオンライン申請を開始した。しかし、サーバーへのアクセスが集中したことから、顕著なパフォーマンス低下が見られたり(ITmedia)、電子証明書の処理が滞ったり(CNET Japan)、一部では電子書証明書の有効期限は失効していないにもかかわらず、処理ができなかったという事象も報告されている。
申請者側でも、マイナンバーカードを作成したときに設定したパスワードを失念し、リトライをしているうちにロックされてしまい、その解除や再設定のために役所の窓口へ行かなければならなくなったという事態も生じている。さらに、この際、マイナンバーカードを作ろうとした人も多かったようで、発行手続きのための行列ができた自治体もあったようだ。
こうしたニュースに触れるたび、日本の情報化の遅れを悲観したくもなるが、一方で、テレワーク推進、印鑑の廃止、遠隔医療、遠隔教育などと同様、平時の際には行動を変容させることは困難でも、有事の際に否応なく取り組むことから行動が変容し、一気に導入が進むという側面があることを強く感じる。
なお、札幌・横浜・名古屋などの複数の市において、給付金申請の「偽サイト」が登場(読売新聞)したと報じられていることから、十分に留意が必要である。
ニュースソース
- 「マイナポータル」アクセス集中で開きづらい状態に 10万円給付金申請スタートで[ITmedia]
- J-LIS、マイナンバーカードの電子証明書における処理遅延で謝罪--「改善に取り組む」[CNET Japan]
- 札幌・横浜・名古屋など複数の市に偽サイト…「10万円」給付金ページも[読売新聞]
- マイナンバーカードの「パスワード残機」を読み取る機能、カード残高表示アプリに追加[INTERNET Watch]
3. 英国ではオンライン議会開始――ビデオ会議ツールの安全性
日本の国会中継を見ていると、これだけ注意が促されている「三密」が解消されていないことに驚く。国会議員のなかで感染者が出ないのを見て、多少の三密は問題ないのではないかという誤解すら与えかねない。“新しい生活”における議論の規範をまずは国会から示してもらいたいとも思う。
そのようななか、7世紀もの歴史がある英国議会ではオンラインで開催される(ZDnet Japan)ようだ。いまのところはテスト段階で「下院議員は『Zoom』を利用するのに対して、上院では(少なくとも当面は)『Microsoft Teams』を使って議事日程に関する議論や政府への質疑を行うことになっている」とし、うまくいけば両院に同じ技術を導入するとしている。
一方、米国国家安全保障局(NSA)はリモートワークでよく使われている主なビデオ会議ツールやメッセージングツールの安全性を評価するレポートを発表した(Gigazine)。8つの要求仕様を明示し、それぞれのツールがこの要求仕様を満たしているかどうかを一覧表として掲載している。ツールの選択時や利用時の参考になる。
ニュースソース
- ZoomとMicrosoft Teams、英議会のオンライン議事はまず両院異なるシステムで[ZDnet Japan]
- ZoomやMicrosoft Teamsなどビデオ会議ツールの安全性をまとめたレポートをNSAが発表[Gigazine]
4. NTTグループが米国でスマートシティ計画を推進――グーグル兄弟会社のサイドウォークラボ社はスマートシティ計画を断念
NTTグループが米国でスマートシティのプロジェクトを加速している。
米国カリフォルニア大学バークレー校(NTT)、米国テキサス州オースティン市(NTT)と新たにプロジェクトを開始したと発表している。また、2019年夏よりすでに始まっている米国ネバダ州ラスベガス市(NTT)とのプロジェクトもさらに範囲の拡大を進めるとしている。
スマートシティ分野においてNTTグループとの協業を発表しているトヨタ自動車は、新型コロナウイルスの感染拡大による緊急事態宣言などの影響から自動車の販売が低下し、大幅に業績が悪化していることから、「次世代技術を駆使した『モビリティーカンパニー』を標榜。単に車をつくって売る従来型のビジネスモデルを変革する理念」(ITmedia)をさらに押し進め、早急に“新しい日常”を創出する必然性も高まっているといえるだろう。
一方、米国グーグル社の兄弟会社であるサイドウォークラボ社はカナダのトロントでのスマートシティ計画を断念すると報じられている。記事によれば「2015年に創設されたSidewalk Labsは、同プロジェクトが一歩前進する度に批判を浴びていた。プライバシー保護団体から、データ収集や大衆監視につながる可能性を懸念する声が上がっていたためだ」(CNET Japan)とされている。いうまでもなく、都市活動全体から得られるビッグデータは今後のキーであることはいうまでもないが、「データの囲い込みに伴うプライバシーの問題は、アキレスけんになりつつある。スマートフォンからモビリティー、都市の再構築へと事業の軸を移すのに合わせて、公共性が格段に高まるためである。公共事業に近づくほど、人々の生活に密着する。プライバシー問題は、人権問題に直結する」(日経XTECH)という論評のとおり、いかに相互の信頼関係における合意形成ができるかという点が前提条件としてクローズアップされる。NTTグループとトヨタ自動車は技術的な優位性のみならず、こうした課題にどう答えを出していくのかが今後の注目点だ。
5. 新型コロナ濃厚接触者追跡アプリの動向
5月14日、緊急事態宣言が多くの地域で解除された。今後は感染拡大の第2波を防止する意味からら、新たな施策も求められることになる。
その1つが「新型コロナウイルス濃厚接触者追跡アプリ」(いわゆる、コンタクトトレーシングアプリ)の議論である。既報のとおり、米国ではアップル社とグーグル社が共同で開発を進めていて、すでにデベロッパー向けのリリースやサンプルコードの公開が行われている(CNET Japan)。
日本でも政府は5月9日に「第1回 接触確認アプリに関する有識者検討会合」を開催した(政府CIOポータル)。各国の動向ついての配布資料が公開されている。また、第3回ではコード・フォー・ジャパンが新型コロナウイルスの陽性者と接触した可能性を通知する接触確認アプリ「まもりあいJapan」の開発状況を公表している(ケータイWatch)。ただし、現在のところ、政府としてこれを採用するとは決定していない。また、コード・フォー・ジャパンでは、「接触確認アプリ勉強会」も開催して技術課題などを共有している(コード・フォー・ジャパン)。
こうしたシステムについては当然のことながらプライバシーに対する配慮が必要である。アップル社とグーグル社では「『新型コロナウイルス追跡システム』においてもユーザーのプライバシーを守ることを重視しており、政府機関がシステムを用いてユーザーのデータを収集することがないようにすることが重要」だとし、「『新型コロナウイルス追跡システム』自体はBluetoothを用いてスマートフォン同士の接近情報を検出するため、GPSの位置情報は一切使用したり保存したりしない」(Gigazine)としている。
刻々と進むこの分野について、MITテクノロジーレビューが「世界各国の取り組みを比較―『接触者追跡アプリ』追跡プロジェクト始めます」と題する記事を公開した(MIT Technology Review)。「国によってアプリの仕組みやポリシーに違いがあることから、MITテクノロジーレビューはこのほど、「『コビッド・トレーシング・トラッカー』プロジェクトを開始した」と宣言している。この記事は日本語に翻訳されていることや各国の動向などについても一覧になっていることから、多くの人に参考になるだろう。
ニュースソース
- 政府の新型コロナ陽性者との接触を通知するアプリ、開発状況を公表[ケータイWatch]
- 接触確認アプリの狙いは行動変容、「テックチーム」の平将明内閣府副大臣を直撃[日経XTECH]
- 第1回 接触確認アプリに関する有識者検討会合 開催[政府CIOポータル]
- フランス人研究者ら、接触追跡に関してプライバシー保護を求める書簡に署名[TechCrunch日本版]
- AppleとGoogleの「新型コロナウイルス追跡システム」を実装したアプリでは位置情報の追跡を禁止[Gigazine]
- アップルとグーグル、新型コロナ濃厚接触者追跡アプリのサンプルコードなど公開[CNET Japan]
- 世界各国の取り組みを比較 「接触者追跡アプリ」 追跡プロジェクト始めます[MIT Technology Review]
- コード・フォー・ジャパン、新型コロナ対策のアイデア募集サイトを開設[日経XTECH]
- 5月13日(水)20:00~「接触確認アプリ勉強会」開催のお知らせ[コード・フォー・ジャパン]