中島由弘の「いま知っておくべき5つのニュース」

ニュースキュレーション[2020/8/6~8/20]

「先進テクノロジーのハイプサイクル」2020年度版を発表~ガートナー ほか

eHrach/Shutterstock.com

1. アプリストア vs. エピック――30%手数料をめぐる戦い

 この2週間で最もホットだった話題はアップルのアプリストアに対するエピックゲームス社の動向である。

 人気ゲームソフトを開発するエピック社はアプリストアでの課金手数料30%が不当に高いということ、その結果として市場を独占し、競争が促進されていないと主張をしている。アプリ内でユーザーに課金をするには、アプリストアが用意している課金システムを利用しなければならないと規約で定められていて、それ以外の方法で課金をするような設計だと、そもそも掲載のための審査を通過できない。エピック社はこれに対抗をするため、アプリストアの外でアイテムを入手できるようにするなど、「反アプリストア」のマーケティングを行ったことから、アップル、グーグルのアプリストアから同社のアプリが削除されるに至った(ITmedia)。こうした一連の対応を踏まえ、エピックはアップルを独占禁止法で提訴をしている。さらに、アップル社から開発者アカウントが停止されたとし、地裁に差し止めの申し立てを行っている(ITmedia)。

 この30%の手数料については問題が指摘されことも多々あったが、アプリストアの運営コスト、公式な場所に掲載されることによる消費者の認知の向上、一貫した購入手続きなど、ユーザーにとっての利便性などを総合的に考えると、ここまでの実力行使に及ぶ開発会社はなかった。むしろ、いいアプリであれば小規模な開発者のものでも、大手ベンダーのものと対等に流通できることからデビューのチャンスと捉える向きもあった。しかし、スマートフォンの普及とともに、あまりにもアプリの市場規模が大きくなったことから、ヒット作を持つ「体力のある開発会社」からはこうした不満も出てくるということだ。

 これまでの「特定のハードウェアベンダーのアプリ配布プラットフォーム」から、「社会的な情報流通プラットフォーム」へと変化すべきかどうかということが争点ということか。

ニュースソース

  • 「フォートナイト」、App Storeに続きGoogle Playストアからも削除[ITmedia
  • 「フォートナイト」開発元のEpic Games、アップルとグーグルを提訴--ストアから削除で[CNET Japan
  • AppleがEpicのiOSとmacOSの開発者アカウント停止を警告したとEpicが地裁に申し立て[ITmedia
  • Epic、「アップルがEpicの事業全体を攻撃している」と主張--Unreal Engine利用にも影響[CNET Japan
  • Facebook、アプリ内購入の手数料30%でアップルを批判[CNET Japan

2. 接触確認アプリ「COCOA」は1300万DL突破(8月13日)

 8月13日の段階で、新型コロナウイルス感染症対策のために開発された接触確認アプリ「COCOA」が1300万ダウンロードされたと発表されている(ケータイWatch)。また、陽性報告数は238件とされている。

 接触確認アプリはBluetoothの技術を使って、どの端末と近接したかを記録している。そのため、現在のところスマートフォンでしか利用できない。そこで、Bluetoothの規格を策定しているBluetooth SIGではウェアラブルデバイスでも利用できるようにするための仕様を策定中であると報じられている(ケータイWatch)。これが実現できればスマートフォンを持たない人や持てない人も含めた接触確認の可能性が広がる。日本では「小学生や高齢者などスマートフォンの利用率が低い年齢層」などが例示されているが、世界に目を転じればその必要性はより高いといえる。

ニュースソース

  • 新型コロナ接触確認アプリ「COCOA」、8月13日で1300万DL突破[ケータイWatch
  • 新型コロナの接触確認システムがウェアラブルデバイスでも利用可能へ、Bluetooth SIGが仕様策定を目指す[ケータイWatch

3. スマートフォンを分散地震計に――グーグルがアンドロイド端末で構築へ

 グーグルがスマートフォンに搭載されている加速度センサーで揺れを検出し、地震発生を捉えて、大きな揺れが到着する前に知らせる警報システム「Android Earthquake Alerts System」の構築を開始したと報じられている(CNET Japan)。地震の初期微動を捉えて警報行うシステムはすでに日本で実用化されているが、こうした大規模な専用観測網の構築せずに、多くの人が持っているスマートフォンからのデータで検知しようというわけだ。

 もちろん、スマートフォンを持ち歩いていたり、操作したりする際の端末機器の「揺れ」ではなく、地震特有の「揺れ」を検知するというところにソフトウェア的な工夫があると思われる。もし実現すると、日本のような方式よりも、はるかに大量の観測点を展開することになることから、これまででは分からなかった予知なども可能になるのではないか。また、他の環境情報の観測などにも適用できそうだ。

ニュースソース

  • グーグル、Androidスマホで緊急地震速報システム構築へ--加速度センサーを地震計に[CNET Japan

4.「先進テクノロジーのハイプサイクル」2020年度版を発表~ガートナー

 ガートナー社は2020年版の「先進テクノロジーのハイプサイクル」を発表した(IT Leaders)。テクノロジーハイプサイクルは、技術の普及度合いやトレンドの推移を示すガートナー社が開発した独自の表記方法である。それぞれの技術を黎明期、過度な期待のピーク期、幻滅期、啓蒙活動期、生産性の安定期という5つのフェーズにマッピングすることで、安定期に至るまでにそれぞれが相対的にどの段階にあるかを示すものとしている。企業の経営者、技術責任者、コンサルタントらによって参照されることが多く、毎年、注目されているものの1つである。

 これによると、今年は新型コロナウイルス感染症に関連する技術の名称が目に付く。「ソーシャルディスタンシングテクノロジー」が過度な期待のピーク期にマップされ、さらに「ヘルスパスポート」が黎明期に登場している。それ以外では、AI、デジタルツイン、データファブリックなどの要素も見える。

 新型コロナウイルス感染症の問題は全世界的な問題で、これによってさまざまな技術に対する要求や優先度も変わった、あるいは本質的な課題が明らかになったともいえるのかもしれない。短期的には解決する糸口が見えないなか、技術によってどう克服していくかということが問われる段階にありそうだ。

ニュースソース

  • ガートナー、先進テクノロジーハイプサイクル2020年版を発表、COVID-19関連が注目を集める[IT Leaders

5. 日本の電子書籍市場規模は3473億円、20%超の成長を維持~インプレス総合研究所が推計

 インプレス総合研究所は2019年度の電子書籍と電子雑誌の市場規模推計を発表した(インプレス総合研究所)。それによると日本の電子書籍市場規模は3473億円と推計され、対前年同期比で22.9%の増加としている。その理由として、社会問題化していた海賊版サイトの閉鎖以降、電子書籍の認知度向上と正規サイトの利用促進が進んだことが背景にあると分析している。また、日本の電子雑誌市場規模は277億円と推計され、対前年同期比で6.4%の減少をしたとしている。結果、電子書籍と電子雑誌を合わせた電子出版市場は3750億円になり、さらに2020年度以降の日本の電子出版市場も拡大基調にあるとしている。

 なお、電子書籍のうち、コミックが前年度から602億円増加の2989億円(市場シェア86.1%)、文字もの等(文芸・実用書・写真集等)が同45億円増加の484億円(同13.9%)となっていて、これまでと同様、そのほとんどはコミックによって構成されている。こうした画像による電子書籍市場が拡大しているのは他国には見られない大きな特徴ということができよう。

 さらに、利用している電子書籍サービスやアプリの比率を見ると、Kindleストアか、LINEマンガが他を圧倒しているが、それ以外でも多くのコミックサイトが拮抗をしている状態である。

 この調査は2019年4月から2020年3月まででの集計となっていることから、2020年4月以降の新型コロナウイルスの感染拡大防止のための自粛期間におけるコンテンツ消費は含まれていない。次年度はより高い成長率も期待される。

ニュースソース

  • 2019年度の市場規模は3473億円、2年連続の20%超の成長 ~電子書籍に関する調査結果2020~[インプレス総合研究所

中島 由弘

フリーランスエディター/元インターネットマガジン編集長。情報通信分野、およびデジタルメディア分野における技術とビジネスに関する調査研究や企画プロデュースなどに従事。