中島由弘の「いま知っておくべき5つのニュース」

ニュースキュレーション[2021/3/25~4/1]

ルーブル美術館が全所蔵品をデジタル公開――オンライン化する文化施設 ほか

eHrach/Shutterstock.com

1. 漫画の海賊版による被害が再び拡大

 産経新聞の記事によると、漫画の海賊版被害が再び拡大しているという。記事によれば「(漫画村閉鎖以後)新たな海賊版サイトが次々と誕生。コロナ禍の2020年12月の推定被害額は349億円で、1年足らずの間に9倍に急増した」という(ITmedia)。海賊版サイトの閉鎖以後、漫画コンテンツを持つ出版各社は好業績を発表してきていたが、ここにきて再び難問に直面している。

 また、漫画の画像ではなく、セリフだけを丸写しして、無断でアップロードするいわゆる「ネタバレサイト」について、「東京地方裁判所が著作権の侵害にあたると判断し、サーバーの管理会社に発信者の情報の開示を命じる判決を言い渡した」と報じられている(NHK)。

 この2つに象徴されるよう違法な行為を完全に抑止することが困難なのは想像に難くないのだが、こうして地道に1つずつ見逃さずに取り締まるということや閲覧する人のモラルに訴えることしか方法はないのか。何らかの技術的な方法でけん制を行う手段はないものなのか……。

ニュースソース

  • 漫画の海賊版が再び拡大 サイト相次ぎ被害急増、「漫画村」超す[ITmedia
  • “ネタバレサイト” セリフ無断掲載は著作権侵害 東京地裁[NHK

2. ルーブル美術館が全所蔵品をデジタル公開――オンライン化する文化施設

 新型コロナウイルス感染症の拡大から1年がたち、いまや飛沫感染を防ぐ目的での「密」を避けるという行動様式は定着してきたようだ。結果としてその影響は飲食業や観光業だけでなく、文化施設にも及んでいる。温度・湿度が管理されている施設では密になりやすい環境にあることから、日時枠で人数制限をする方式でチケットを販売する方法をとっている施設もある。一方で、施設に来なくても収蔵品を閲覧できるようにする工夫も盛んになっている。日本では国立科学博物館がVRを使った展示を行ったり(国立科学博物館)、ジャパンサーチという全国の博物館、美術館、図書館と連携したデジタルアーカイブの閲覧サービス(ジャパンサーチ)が充実してきていることはすでに報じられていて、これらは利用者にとっても新たな鑑賞の機会を得たということもできる。

 そのようななか、世界的にも有名な美術館であるルーブル美術館は「所蔵する48万点超の芸術作品すべてを掲載するインターネット上のプラットフォームを公開」したと報じられている(CNN)。しかも、無料で、かつ画像のダンロードもできるようになっている。

 人々が訪れにくい時代にあたって、こうした課題の解決を目指して、高精細なデジタル化技術を使ってアーカイブしたり、VRのような新しい表現方法を採用したりすることが実用化されていることに今後の期待が膨らむ。こうした成果は将来のアフターコロナ時代にも残せるデジタルアセットになるだろう。

ニュースソース

  • 美術館が恋しい? ルーブルが全所蔵品をネットで公開[CNN
  • おうちで体験!かはくVR[国立科学博物館
  • ジャパンサーチ―日本のデジタルアーカイブを探そう[ジャパンサーチ

3. 新型コロナのワクチン接種や検査履歴を証明する「パスポート」が提供開始

 日本ではようやく新型コロナウイルスのワクチン接種が始まりつつある。そして、感染の有無を確認する検査も従来よりも広く行われるようになっている。ワクチン接種の事実や感染の有無を信頼できる方式で記録し、必要に応じて証明書として提示できるようにする技術がここでいう「パスポート」という仕組みだ。

 米国ニューヨーク州では「新型コロナワクチン接種済みあるいは検査で陰性だったことを州内で証明するモバイルアプリ『Excelsior Pass』を無料で公開した」と報じられている(ITmedia)。「米IBMが開発したブロックチェーンシステムを採用することで、ユーザーのプライバシーを保護し、偽造を防げる」とされている。「アプリの画面のQRコードをスタジアムやアリーナなどの入り口で読み取らせることで証明する」という運用が想定されているようだ。

 日本ではANAがスイスの非営利組織コモンズ・プロジェクトとともに、「新型コロナウイルス感染症の検査履歴をスマートフォンで表示するデジタル証明書アプリ『コモンパス』の実証実験を開始した」と発表している(日経XTECH)。

 これ以外にもさまざまな「パスポート」の取り組みが行われているようだが、その相互運用性については今後の大きな課題になる。また、EUでは「ワクチンパスポート構想について、ワクチンを接種していない・接種できない人々に対する差別が広がる恐れがあるとして、慎重な姿勢を示している」ということも指摘がされているようだ(ITmedia)。

ニュースソース

  • コロナワクチン接種証明アプリ、ニューヨーク州が提供開始 IBMによるブロックチェーンシステム採用[ITmedia
  • ANAなど、新型コロナ検査履歴のデジタル証明アプリ「コモンパス」の実証実験を開始[日経XTECH
  • 新型コロナで実用化が進む“パスポート”技術 「感染リスクが無いこと」の証明に活用、しかし問題も[ITmedia

4. アマゾンとUber Eats――オンラインコマースの新展開

 コロナ禍において、自粛ムードが続くなか、新たな切り口でのオンラインコマースサービスが開始されている。

 まず、アマゾンと大手スーパーマーケットチェーンのライフコーポレーションは「生鮮食品や惣菜を注文から最短2時間で届けるサービス」の対象エリアを拡大すると発表した(Impress Watch)これにより、東京23区・4市、神奈川県2市、埼玉県1市、大阪府大阪市21区・3市、兵庫県1市で利用可能となったという。

 また、家電量販店チェーンのエディオンとフードデリバリーサービスのUber Eatsは家電や日用品などを販売・配送する実証実験を開始した(Engadget日本版)。当面の対象店舗はエディオン AKIBA(東京都千代田区)、エディオン道頓堀店(大阪市中央区)、エディオン心斎橋店(大阪市中央区)の3店舗で、サービスエリア内のオフィスや個人宅に商品を届けるという。取扱商品はドライヤー、シェーバー、小型調理家電、パソコン周辺機器のほか、電池、電球、衛生用品、体温計などを含む200品目以上としている。

 生鮮食品や小型家電など、日常的に必要になるものが宅配されることも、こうして当たり前になっていくようだ。

ニュースソース

  • Amazonとライフの生鮮食品配送、埼玉・兵庫でスタート[Impress Watch
  • Uber Eats、家電製品を宅配 エディオンと実証実験[Engadget日本版

5. イベントカレンダー:アップルの「WWDC2021」がオンライン開催決定

 新型コロナウイルス感染症は国際的にも収束の方向は見通せていない。そのようななか、春のイベントに関する計画が公表されている。

 まず、アップル社の開発者コンファレンス「WWDC2021」は6月7日~11日にオンライン開催されることが発表された(ケータイWatch)。OSのメジャーバージョンアップ、新型アップル独自プロセッサなどの話題に加え、これまで何度となくうわさになってい「新型デバイス」についての発表はもとより、同社の事業として成長をしているコンテンツサービスの新たな展開についても期待したいところだ。

 また、6月1日~4日に開催が予定されていたPC関連の総合展示会「COMPUTEX TAIPEI 2021」はオンサイト(現地)での展示ブースは中止されると発表された(PC Watch)。オンラインに関しては予定通り5月31日~6月30日に開催されるものとみられる。

 さらに、ドイツの「ハノーバーメッセ」も4月12日~16日にオンライン開催される予定となっている(公式ページ)。

 国際的な大型イベントの開催が難しいのは昨年同様で、残念なところもある一方で、居ながらにして参加できるチャンスもあるということはインターネット時代にふさわしく、実は喜ばしいことだともいえる。

ニュースソース

  • COMPUTEX TAIPEI 2021のオンサイト展示が中止[PC Watch
  • アップル、「WWDC21」6月7日~11日にオンライン開催へ[ケータイWatch
  • HM 2021 Digital Edition[公式ページ
中島 由弘

フリーランスエディター/元インターネットマガジン編集長。情報通信分野、およびデジタルメディア分野における技術とビジネスに関する調査研究や企画プロデュースなどに従事。