中島由弘の「いま知っておくべき5つのニュース」

ニュースキュレーション[2021/3/18~3/25]

リアルな世界の写像をデジタルの世界に作る動きが活発に ほか

eHrach/Shutterstock.com

1. LINE個人情報問題――その後のインパクト

 LINEが日本のユーザーの個人情報に他国からのアクセスを許可していた問題、そして他国のサーバーへ情報の一部を保存していた問題は大きく報じられた。8000万以上のアカウントが存在するということはアクティブにスマートフォンを利用する日本人の規模とも重なるとみられることから、その影響は甚大と考えられるからだ。すでにLINEでは国外からのアクセスは遮断し、データは日本国内に移転をすると発表をしている。国外からのアクセスやストレージを利用することについて、利用者、利用企業、利用自治体などに適切な説明がなされていなかったことは同社も認めるところだ。原因として、同社が国際企業で国外のリソースを使うことが日常になっていて、ある意味で鈍感になっていたところがあるという趣旨の説明がなされた。では、国内にデータが保存されていれば万全なのかといえば、必ずしもそうではないかもしれない。インターネットには国境などなく、どこにいようが同じことなのではないかとも感じるところもある。

 LINEは多くの人にとって利便性の高いアプリであることから、これだけの規模のユーザーベースを築いてきた。新型コロナウイルス対策を含め、その上でさまざまな公的なサービスまでも実装されていたこと、そしてその広がりはさらに拡大していたことからも、今後も引き続き適切な説明と消費者の不安の払拭による信頼回復は今後の大きな課題として残る。

 一方、ユーザーも自分のデータがどこでどう管理されているのかという楽屋裏を初めて意識した人も多いだろう。これはLINEに限らず、GAFAでも同じ問題が内在する。国境のないデジタルネットワークの世界で個人情報をどこでどう管理すべきか、どこでどう管理されることを許諾すべきかについては常に意識すべき課題である。

ニュースソース

  • LINE、データを日本国内へ移転へ、中国での開発業務は終了[ケータイWatch
  • LINE、個人情報取り扱いと今後の方針を説明――出澤氏が不適切な情報管理について謝罪[ケータイWatch
  • LINEの説明会に450自治体が出席 個人情報問題[朝日新聞デジタル
  • LINE株式会社に対する報告徴収[総務省
  • ZHD、LINEのデータ取り扱いで特別委員会を設置、23日初会合へ[ケータイWatch
  • 今のLINEは「止血した状態」--ZHDが特別委員会を開催、データガバナンスを検証へ[CNET Japan
  • 武田総務相、総務省のLINE利用停止を発表[ケータイWatch
  • LINE問題で与野党から懸念続出 国会議員も利用中止[ITmedia
  • 個人情報保護委員会がLINEに事実関係の資料求める、社会的影響を鑑み公表[日経XTECH

2. リアルな世界の写像をデジタルの世界に作る動きが活発に

 リアルな世界の写像をデジタルの世界に作る、いわゆる「デジタルツイン」に向けた動きが活発になりつつあるようだ。

 いくつかのアプローチがあるが、1つはKDDIと三井物産による「位置情報などのビックデータや人工知能(AI)を活用して、人が移動する手段・時間・場所・目的を把握可能とする『次世代型都市シミュレーター』を開発」という取り組みだ(ケータイWatch)。位置情報や国勢調査などのさまざまなビッグデータを使い、AIがひとりひとりの移動を予測したうえで地図に表示して、都市内の人の動きをモデルかするとしている。これはスマートシティのような世界において、需給の最適化などに有効とみられる。もう1つは、東京大学グリーンICTプロジェクトとNTTコミュニケーションズが「ビルなどの建物空間を対象に生成する技術」の実証実験を開始するとしている(Business Network)。これは建築物の設計データ、センサーなどの情報、位置情報などを提供するプラットフォームの上に、アプリケーションを構築するとしている。

 一方、バーチャル空間のビジュアライズに対する取り組みもある。大日本印刷は仮想空間に実在の公園などの公共施設を再現する事業「PARALLEL CITY(パラレルシティ)」を始めると発表をした(ITmedia)。そして、西武ライオンズとNTTコミュニケーションズは「メットライフドーム」をバーチャル空間で再現し、スマートフォンやPCなどで閲覧できる「LIONS VIRTUAL STADIUM」というサービスを開始する(CNET Japan)。

 いまはまだ別の取り組みや研究で距離も感じるが、こうした空間の可視化技術とビッグデータが結び付くことで、より精緻なリアル空間の写像に一気に近づいていきそうに感じる。

ニュースソース

  • DNP、実在の公共施設をVR空間に再現する事業「PARALLEL CITY」をスタート[ITmedia
  • 西武ライオンズとNTT Com、メットライフドームをバーチャル空間に再現[CNET Japan
  • KDDIと三井物産、位置情報とAIで都市計画を支援する「次世代型都市シミュレーター」を開発[ケータイWatch
  • 東大とNTTコム、スマートシティ実現へ建物空間のデジタルツイン実証を開始[Business Network

3. フェイスブックの開発者会議「F8」が6月2日オンライン開催

 新型コロナウイルスの感染拡大を受け、昨年2020年は開催を中止したフェイスブックの開発者会議「F8」だが、本年2021年は「F8 Refresh」という名称で、オンラインのみの開催になると発表された(CNET Japan)。開催は6月2日の1日限りで、すでに参加登録の受付が始まっている。他の国際的な展示会やコンファレンスは旅行のための経済的、時間的なコストがかかったり、会場の物理的なキャパシティから人数が制限されたりして、望んだ人が必ずしも参加できるわけではなかった。フェイスブックのような国際的な企業の年次イベントクラスがオンラインで開催されれば、そうした問題も軽減され、情報を必要とする当事者が一次情報に触れることができるチャンスになる。とりわけ、最近では翻訳機能も選択可能になりつつあり、言語の障壁も下がってきた。ただ、参加者同士のコミュニケーションは希薄になるという側面は残るが、総じて言うと、こうした方法が一般的になるということは喜ばしいことといってもいいのでないだろうか。

ニュースソース

  • Facebookの開発者会議、「F8 Refresh」として6月2日にオンライン開催へ[CNET Japan

4. 電子カルテシステムの診療データを分析するプラットフォーム構築へ

 富士通と国立がん研究センターは電子カルテシステムの診療データを活用する新サービスの創出を目指す包括的な共同研究契約を締結したと発表した(日経XTECH)。この記事ある「電子カルテには患者の症状や医師の所見などが文章で記載されているため、データの活用が容易ではなかった」ということは、自然文で書かれている情報をコンピューターでは扱いにくかったということのようだ。今回はそれを「適した形でデータを抽出する技術を新たに開発」したという。また、患者のプライバシーを守るうえで匿名化を施し、今後の治療や装薬などへ応用できるプラットフォーム化をすることが狙いとしている。

 医療データの分析はこれだけではなく、ハードウェアやデータ形式の標準化問題はもとより、個人情報の厳重な扱いなどが求められることから慎重になるあまり、データ分析の観点からは「扱いにくい」データともされているようだが、今後のさらなる医療水準向上のためにも各所、各専門分野においても積極的な取り組みは期待をしたい。

ニュースソース

  • 富士通と国立がん研究センターがタッグ、診療データを活用した新サービス創出へ[日経XTECH

5. オンライン試験だからといってもカンニングはダメ!

 富士通は慶應義塾大学医学部医学教育統轄センターと協力して、オンライン試験での本人確認や不正検知などの課題解決を目指す実証研究を実施したという記事が興味をひいた(Impress Watch)。これは研究として「欧米などで導入実績のあるオンライン自動試験監督システム」を導入して、受験者と試験提供者の双方にとって効果的なオンライン試験を目指すとしている。記事によれば「顔の有無や向きの検出などが可能なAIにより本人確認や試験中の不審行動を検知するProctorioのオンライン自動試験監督システム『Automated Proctoring Solution』と、オンライン試験問題の作成や配信が可能なQuestionmark Computingの『Questionmark OnDemand』によるオンライン仮試験を実施。自宅などから受験する学生の様子をシステムで記録・解析することで両システムの有効性を確認した」としている。

 新型コロナウイルスとの戦いはまだしばらくは続きそうななか、試験を実施する側は感染拡大対策をとるためにコストはかさみ、かつ完全ということはありえない状況だ。こういうソリューションの導入が検討されつつあるということから、次は受験者側も遠隔からの受験という環境、つまり日常の環境でも実力を発揮するためのモチベーションの保ち方、システムに特有の怪しまれない振る舞い方を身に付ける必要が出てくる段階か。

ニュースソース

  • オンライン試験のカンニングを自動検知。富士通と慶大[Impress Watch
中島 由弘

フリーランスエディター/元インターネットマガジン編集長。情報通信分野、およびデジタルメディア分野における技術とビジネスに関する調査研究や企画プロデュースなどに従事。