中島由弘の「いま知っておくべき5つのニュース」

ニュースキュレーション[2023/2/2~2/8]

ChatGPT対抗サービスが続々リリース――マイクロソフトとグーグルも追従 ほか

eHrach/Shutterstock.com

1. ChatGPT対抗サービスが続々リリース――マイクロソフトとグーグルも追従

 「ChatGPT」に対抗するサービスをITジャイアントもリリースした。短い期間で、大手IT企業がキャッチアップに動き出した。

 グーグルは米国時間2月6日に「Bard」という独自の人工知能(AI)チャットボットを発表した(CNET Japan)。グーグルのCEOであるサンダー・ピチャイ氏は「Bardは、世界の幅広い知識と大規模言語モデルの能力・知性・創造性を組み合わせることを目指している」とツイートした。

 マイクロソフトは米国時間2月7日に、ChatGPTを支える技術を搭載した検索エンジン「Bing」の新しいバージョンを発表した(CNET Japan)。マイクロソフトのCEOであるサティア・ナデラ氏は「コンピューターとのすべてのやり取りを、エージェントが仲介して支援する」「このコパイロットという概念を、すべてのアプリケーションに導入するつもりだ」と述べている。BingやEdgeといったアプリもダウンロード数が急増したとも伝えられている。もし、実装が進むと、Officeスイートでも何らかのAIによる作業が行われるようになるのだろう。

 この両者が参入したことで、インターネット黎明期から続く「検索」の概念、そしてグーグルが優位に立つ市場構造が一変する可能性がある。これからはそれぞれのエンジンから得られる回答の精度の競争ということになろう。

 さらにマイクロソフトは研究部門のチームが「膨大な量の医学文献でトレーニングされ生物医学分野の質問に答えるタスクに特化したAI『BioGPT』を開発」したことを発表している(Gigazine)。より専門特化した情報を学習したエンジンということか。

 また、中国勢も参入を表明している。中国の百度(バイドゥ)は現地時間2月7日、「『ChatGPT』のようなチャットボット『ERNIE Bot(文心一言)』の社内テストを3月までに完了して一般提供する」と今後の計画を発表している(CNET Japan)。「バイドゥは、中国ではGoogle検索に相当する検索エンジンで、圧倒的なシェアを誇る。Googleは2010年、中国の厳しいオンライン検閲に対する懸念を理由に、同社の検索エンジンサービスを中国から撤退させた」という経緯があり、独自に技術を進めていく必要がある。

 このブームに火をつけたOpenAIは、利用者が最大になる時間帯でも常にChatGPTを利用できる有料サブスクリプションサービス『ChatGPT Plus』の提供を開始すると発表した(CNET Japan)。

ニュースソース

  • グーグル、「ChatGPT」に対抗する独自のAIチャットボット「Bard」を公開[CNET Japan
  • マイクロソフト、OpenAIの言語モデルを搭載した「Bing」を発表[CNET Japan
  • Microsoft Researchが生物医学分野に特化したAI「BioGPT」を開発、人間の専門家に匹敵する精度で質問に回答可能[Gigazine
  • バイドゥ、「ChatGPT」のようなAIチャットボットを開発[CNET Japan
  • OpenAI、有料プラン「ChatGPT Plus」を提供開始[CNET Japan

2. ところで「ChatGPTでできそうなこと」とは?

 IT系のメディアやソーシャルメディアでは「ChatGPT」を使ってどこまでできるのかを試す人たちが増えている。質問の仕方にもよるし、今のところの回答の精度は100%ではないにしろ、その特徴がだんだんと理解されるようになってきている。そして、その延長線上には、新たな市場のニーズとのマッチングがあり、新たなサービスが生まれることになるだろう。

 「知らないと損をする! ChatGPTの生産性向上ハック10選」ではChatGPTでできることをまとめている(lifehacker)。文書の要約、コードの見直し、翻訳、コンテンツの作成、勉強のためのサポート、ゲームなどが挙げられている。

 また、「GPT Travel advisor」というツールでは「『世界の任意の都市名』および『滞在日数』の2つを入力し、その後、十数秒待つことで、著名な観光スポットを含む旅行日程を作成してくれる」という(INTERNET Watch)。旅程を作ることが好きな人にとっては楽しみを奪うような機能だが、これまでのキーワード検索よりも効率よく目的が達成できそう。

 グーグル、マイクロソフトらも参入したことで、今後、回答の精度を上げる競争が起こるだろうし、それぞれの得意分野での応用が進み、一般ユーザーが日常的に利用できるようになるのは時間の問題だろう。

ニュースソース

  • 知らないと損をする! ChatGPTの生産性向上ハック10選[lifehacker
  • 都市名と滞在日数を入力するとOpenAIが旅行日程を作成してくれるツールが海外で話題に[INTERNET Watch

3. 日本独自にAIサービスの応用事例も登場

 日本の企業でも、「ChatGPT」にも搭載されるOpenAIのAIモデル「GPT-3」を採用したサービスが登場する。noteが「創作支援ツール『note AIアシスタント(β)』」を近日公開する(Impress Watch)。「noteで記事を執筆するクリエイターが、書きたい記事のテーマを入力すると、その構成案を提示してくれる」ということのようだ。ここまで来ると、テーマを入れると、同じテーマで書こうとしている人と差別化する構成、内容のファクトチェック、期待できる閲覧数、より閲覧数を上げるための見出しの提案などもしてくれる時代が近づいてきたように感じる。

ニュースソース

  • note、AIが記事構成を提案する「note AIアシスタント」 GPT-3採用[Impress Watch

4. Twitterの代替となるSNSになりうるか

 イーロン・マスク氏がTwitterを買収し、CEOに就任して以来、リストラやルール変更が行なわれて、混乱もきたしていることから、先行きに不安を感じたユーザーもいる。そんな人たちの引っ越し先として注目されているのが「マストドン」だったが、さらに「Nostr」というプロトコルを使うSNSにも注目が集まってきた(ネタフル)。

 NostrはSNSの名称そのものではなく、「『Nostr』というプロトコルがあり、そこでやり取りされるメッセージを読んだり書いたりするためのiOS版アプリとして『Dmaus』がリリースされ」た。つまり、さまざまなプラットフォーム用にクライアントのアプリやウェブUIがある、非中央集権的(分散的)でオープンなプラットフォームと言える。注目されるきっかけとなったのはTwitterの創業者のジャック・ドーシー氏がツイートしたことだとされている。まさに、ある日、買収されたことで運営の方向性が変わるクローズドなサービスとは対極にある。

 それをある意味で象徴するかのように、中国のApp StoreでDamusが凍結されたと報じられている(INTERNET Watch)。つまり、「かつて暗号化メッセージアプリ『Signal』が中国国内で利用が禁止になった時と同様、エンドツーエンド暗号化による検閲の困難さを脅威に感じた当局が、いち早く手を打った可能性もある」とされている。

ニュースソース

  • Macで「Nostr」を使うのにiOS版「Damus」が良さそう[ネタフル
  • むしろ当局のお墨付き? Twitter似のSNSアプリ「Damus」、中国App Storeで凍結され話題に[INTERNET Watch

5. NTTドコモの最新技術――「docomo Open House'23」オンラインで開催中

 NTTドコモは2月2日から28日まで、先進技術を中心とした取り組みを紹介する「docomo Open House'23」をオンラインで開催中だ。人の感覚や手の届く範囲を拡張する技術が具体化してきていることを感じる。

 注力しているのはメタバースの技術開発で、新しいメタコミュニケーションを体験する「MetaMe」というサービスを開発し、β版の先行提供をするとしている(ケータイWatch)。

 もう1つの注力分野は6G時代に向け、人間の感覚をネットワークで拡張する「人間拡張基盤」だ(ITmedia)。これは、「人がモノに触れたときの触覚を、相手の感覚に合わせて共有する」というもので、「半球型のものを2つ組み合わせた形状で、それらを両手に持つと目の前の映像に合わせてデバイスが振動し、触覚を再現」する。

 さらに、NTTドコモと神戸大学などが共同で取り組んでいる遠隔手術も興味深い。「商用5Gネットワークと、低遅延に貢献するMEC(Multi-access Edge Computing)基盤の『docomo MEC』を用い、東京と神戸にいる2人の医師が、ネットワークを通じて手術ロボットを活用した遠隔での手術支援をする」(ITmedia)という試み。

ニュースソース

  • 「docomo Open House'23」で披露された最新技術 6G時代のコミュニケーションから、触覚共有、羽根のないドローンまで[ITmedia
  • ドコモが目指すメタバース「MetaMe」、ユーザーの心を分析するAIや1万人同時滞在を実現する[ケータイWatch
中島 由弘

フリーランスエディター/元インターネットマガジン編集長。情報通信分野、およびデジタルメディア分野における技術とビジネスに関する調査研究や企画プロデュースなどに従事。