中島由弘の「いま知っておくべき5つのニュース」

ニュースキュレーション[2023/10/26~11/8]

各国・各地域でAIに対するルール策定の議論が進む ほか

eHrach/Shutterstock.com

1. すでに現実になっているAI由来の偽動画

 生成AIによる画像や動画の生成の技術進歩は目覚ましいものがある。一方で、それを悪用した事案が相次いでいる。

 まず、日本テレビのニュース番組を加工して偽の投資勧誘をする動画が、SNS上で拡散された(ITmedia)。「実在する女性アナウンサーが投資を呼びかける内容で、ニュース番組を見ているように声なども再現されて」いる。見たことのある画面構成に見たことのあるアナウンサーが音声を発していれば、信じてしまう人もいるだろう。

 それどころか、岸田首相の偽動画もSNSで拡散されている。「首相にそっくりな声で卑わいな発言をさせたもので、日本テレビのニュース番組のロゴなども表示されている」というものだ(読売新聞)。これについて松野官房長官は、「政府の偽情報を発信することは民主主義の基盤を傷つけることになりかねず、行うべきでない」と述べている(NHK)。

 こうした事案は海外でも報告されていたが、ついに日本でも現実のものとなってしまった。何らかの具体的な対策や対抗措置も念頭においておく必要がある。

ニュースソース

  • 女子アナが「もう働く必要ない」と偽投資広告 生成AI悪用か、日テレのニュース番組を加工[ITmedia
  • 生成AIで岸田首相の偽動画、SNSで拡散…生中継のようにニュース番組のロゴも表示[読売新聞
  • 官房長官 岸田総理偽動画めぐり“政府の偽情報発信 行うべきでない”[NHK

2. 各国・各地域でAIに対するルール策定の議論が進む

 AIのルール策定に向け、ルールを策定するための議論が活発だ。

 英政府は現地時間11月1日から2日間、各国政府やIT業界、学術分野のリーダーらを集め、AIがもたらす恩恵とリスクを議論する「AI安全サミット」を開催した(Forbes JAPAN)。

 その締めくくりとして、英政府は「ブレッチリー宣言」という政策文書を発表した(ITmedia)。この宣言には、日本や中国、米国を含む29カ国が署名をしている。その位置付けは「AIが現在および未来にもたらすリスクにどう取り組むかについて、世界的な合意に達することを目的としている」というもので、「AIは人類の福祉や繁栄を向上させる可能性を持ちつつ、安全かつ人間中心で信頼性のある方法で利用されるべきである。日常生活の多くの領域での利用が増加しており、人権の保護や透明性、公正性などの問題が重要である。特に高度な『フロンティア』のAIモデルには特定のリスクが伴い、これらのリスクは国際的な性質を持っているため、国際的な協力が必要とされる」とうたわれている。

 さらに、米OpenAI、米メタ・プラットフォームズ、米マイクロソフト、米グーグル傘下のディープマインド、米アンソロピックの各社は、「新しいAIモデルを公開する前に米国および英国の政府当局がそれらのモデルをテストできるようにする新たな協定」にも署名している(ITmedia)。

 米国ではバイデン大統領が10月30日、「AIの安全性とセキュリティに関する新たな基準の確立を目指す大統領令」に署名し、発令した(ITmedia)。その骨子は「AIの安全性と信頼性の新しい基準を確立し、米国民のプライバシーを保護し、公平性と市民権を推進し、消費者と労働者を支援し、イノベーションと競争を促進し、世界での米国のリーダーシップを推進するもので、以下の8項目を目標とする」というものだ。

 国連でも動きがある。グテーレス事務総長は10月26日、「AIに関する諮問機関」を立ち上げたと発表した(朝日新聞デジタル)。その趣旨は「国際的な取り組みや管理を支援するのが目的で、AIの開発者や研究者、大学教授など、世界でさまざまな分野から専門知識を持った39人がメンバーに選ばれた」ということだ。

 また、EUの欧州データ保護会議(EDPB)は、「ChatGPTによる個人情報侵害を監視するための特別タスクフォース」を立ち上げた(Gizmode)。EUは「GDPR(一般データ保護規則)」を策定したことにも現れているように、個人情報の保護に敏感になっている。

 日本政府も、AI関連の国内事業者向けにガイドラインの策定を進めている。「AI戦略会議」での検討課題とし、全ての事業者が共通して考慮すべき原則として「人間中心」「安全性」「公平性」「プライバシー保護」「セキュリティー確保」「透明性」「説明責任」「教育・リテラシー」「公正競争確保」「イノベーション」の10項目を挙げている(読売新聞)。

 このように、AIをめぐるルール策定に関する会合は多く持たれ、議論が同時に進行している。AIを開発する大手IT企業の責任も重いということはいうまでもないが、協調したルール策定についての国際動向にも注目をしておくべきだ。

ニュースソース

  • 英「AI安全サミット」にイーロン・マスクやOpenAI創業者らが出席へ[Forbes JAPAN
  • 英国主催の世界AI安全サミットで「ブレッチリー宣言」 日本と中国も参加[ITmedia
  • OpenAIやMetaなどAI大手、フロンティアAIモデルのリリース前に政府当局のテストを受ける協定に署名[ITmedia
  • バイデン米大統領、AIの安全性に関する大統領令に署名[ITmedia
  • 国連、AIへの対応を協議する諮問機関を発足、メンバーは39人[朝日新聞デジタル
  • 欧州データ保護会議、ChatGPT専用タスクフォースを結成[Gizmode
  • AIガイドライン、「人間中心」など10原則を年内決定方針…公的機関含め全利用者が対象[読売新聞

3. OpenAIが初のデベロッパーコンファレンスを開催

 現地時間11月6日、ChatGPTの開発元であるOpenAIは初めてのデベロッパーコンファレンスを米国カリフォルニア州サンフランシスコで開催した。

 このコンファレンスでは、ChatGPTやそれを取り巻くAIの新サービスや新技術が発表されている(Gizmode)。

  1. 新モデルChatGPT-4 Turbo(例えるなら300ページの本を丸ごとChatGPTに投げて要約できるほどの能力を持つ)
  2. GPTs(特定の目的に合わせて作られたChatGPT)
  3. GPT Store(GPTsが並ぶ「アプリストア」)
  4. 知識拡大(2023年4月までのことを把握)
  5. カスタムモデル(選ばれた団体に向けて目的に特化したChatGPT-4モデルを作る)
  6. ChatGPTの新インターフェース(インターフェースがよりクリーンな作りに)
  7. 値下げ(入力トークンの価格は3分の1に、出力トークンの価格は半額に)
  8. クラウドサービスとの連携
  9. Assistants API(デベロッパーが作るアプリ内でGPTを開発する支援機能)
  10. Copyright Shield(AIを使って作ったものが著作権に抵触しても保護する)
  11. マイクロソフトとの良好な関係

 また、CEOのサム・アルトマン氏はメディアからの質問にも答えている。気になる、GPTのメジャーバージョンアップについては、「OpenAIの大規模言語モデル(LLM)プログラムの次期バージョン、通称『GPT-5』は、非常に困難な科学的課題に直面しているため、リリース時期について明確なスケジュールを設定するのは難しい」と答えている(CNET)。

 いずれにしても、OpenAIは、プラットフォーマーとして重責を担う存在になっている。

 また、それに先立ち、イーロン・マスク氏率いるxAIも、新AIモデル「Grok」をリリースしている(Impress Watch)。同氏のOpenAIに対抗する意図も見える。

ニュースソース

  • OpenAI初デベロッパーイベントで発表された11のこと[Gizmode
  • 「GPT-4 Turbo」発表 より安価で長文対応、23年4月まで学習[Impress Watch
  • Microsoft、GPT-4 Turboに「Azure OpenAI Service」で対応[Impress Watch
  • OpenAI、ノーコードでカスタムアプリを作れる「GPTs」 アプリ販売も[Impress Watch
  • OpenAIのCEO、「GPT-5」の開発には「困難な課題」--ハードウェアの可能性にも言及[CNET
  • イーロンマスクのxAI、新AIモデル「Grok」開始 「リアルタイムな知識」を持つ[Impress Watch

4. YouTubeが新機能を追加

 ここのところ、特筆するような変更がなかったYouTubeだが、ここのところ新機能を追加している。

 その1つが「ニュースを深掘りできる新機能」だ(Impress Watch)。「『ニュース動画再生ページ』は、信頼できる複数の提供元からの長尺動画、ライブ配信、ポッドキャスト、ショート動画などのコンテンツがひとつの動画再生ページに集められ、視聴者は様々な提供元や視点を掘り下げて調べられるようになる」というもの。日本を含む約40カ国のモバイルユーザー向けに順次展開される予定としている。「深掘り」という機能も重要なのだが、その前に「信頼できる複数の提供元」というところにも価値がある。

 また、テスト中の新機能もある。「コメント要約機能」は動画に付けられた大量のコメントをトピックごとに要約し整理する機能だ。「対話型AIツール」は、「動画を再生しながら使える機能で、内容に関する質問や関連コンテンツのおすすめなどを対話形式でAIに聞くことができる」という機能だ(PC Watch)。

 加えて、ティーンエイジャーを保護する機能も追加される(Impress Watch)。「繰り返し見ると一部のユーザーには問題になるコンテンツ」を「おすすめ」で繰り返し紹介するのを制限する。2024年中には米国外にも展開する計画だ。「繰り返し見ると一部のユーザーには問題になるコンテンツ」とは、「身体的特徴を比較して特定のタイプを理想化するコンテンツ」「特定のフィットネスレベルや体重を理想化するコンテンツ」「非接触の喧嘩・威嚇による社会的攻撃性を示すコンテンツ」などが該当するという。

ニュースソース

  • YouTube、ニュースを深掘りできる新機能 テレビも対応予定[Impress Watch
  • YouTubeが生成AI機能をテスト中。コメント要約や対話型ツール[PC Watch
  • YouTube、10代保護を強化 コンプレックス助長動画を制限[Impress Watch

5. LINEが来年度に大幅リニューアル予定

 9500万人(2023年6月時点)ともいわれるユーザーを持つLINEがリニューアルする(ケータイWatch)。LINEヤフーは、コミュニケーションアプリ「LINE」を2024年度中をめどに実施すると発表した。

 変更点として「『ホームタブ』にニュースなどを集約し、検索や情報収集を手軽にする。また『ショッピングタブ』を新設。Eコマース機能でLINEを起点とした購買機会を提供する。さらに『プレイスタブ』として地元の情報や地図でガイドマップのような機能を実現する」としている。

 こうしたサービスはヤフーとLINEとの密接な関係から生まれることになると思われる。

ニュースソース

  • 「LINE」、24年度中にも大幅刷新へ――EC機能やガイドマップなど追加[ケータイWatch
中島 由弘

フリーランスエディター/元インターネットマガジン編集長。情報通信分野、およびデジタルメディア分野における技術とビジネスに関する調査研究や企画プロデュースなどに従事。