中島由弘の「いま知っておくべき5つのニュース」
ニュースキュレーション[2023/11/9~11/15]
行政で進む生成AIへの取り組み ほか
2023年11月20日 07:00
1. 行政で進む生成AIへの取り組み
政府のAI戦略会議では、「政府や公的機関が保有するデータを国内のAI開発企業に提供する枠組み」を決めたことが報じられている(日経XTECH)。これは「行政文書や法令などのほか、国立国会図書館が保有する蔵書データや国立研究所が蓄積した研究データなども開発企業の要望に応じて可能なものを提供する」というものだ。
より具体的には「政府機関が公開している行政文書や法令」「土地地図データ」「特許情報」「国会図書館がデジタル化した書籍など収蔵データのうち、権利上の問題がないもの」が挙げられている。
地方自治体でも、生成AIの利用を進める動きが活発だ(日本経済新聞)。東京都では「約5万人の職員が議事録の要約などに『Chat(チャット)GPT』を使い始め」るという。また、神戸市は、「生成AIに関する条例を制定」した。効率化と、生成AIに内在するリスクをどう折り合いをつけるかは大きな課題だ。とりわけ、情報漏えいや、AIの誤った出力がそのまま真正な情報として記録されることなどだ。決してAIは全知全能とは思わないことが重要か。
2. 進む国産サービスへの生成AIの実装
この1週間で発表されている国内のサービスでの生成AIの実装に関するニュースを紹介する。
LINEヤフーは、LINEの「オープンチャット」で、OpenAIの生成AIによる自動要約機能の提供を開始した(ケータイWatch)。「ユーザー増により、1つのオープンチャットへ参加する人数が増え、その分、投稿数も増加。やり取りについていけない、あるいはメッセージを見逃す人」に向けた機能である。しばしば、悪意なく、すでに解決済みの質問をする人がいて、トラブルになりがちな問題が解消されるかもしれない。順次、トークルームの右下に「メッセージの要約」ボタンが表示されるようだ。
また、さくらインターネットは、ユーザーローカルとともに、「ユーザーローカルAIライター」機能を提供する(INTERNET Watch)。紹介している記事によれば「任意のキーワードを入力し、さらに関連のキーワードを選んだり、適切なタイトルを選択したりすることで、AIに記事の執筆を依頼できるもの。ChatGPTを利用するよりもバリエーションが豊富で、利用者の意図通りの文を作成できる」という。これまで妄想していたように、このコーナーのようなメディアの原稿を書いてくれる機能が現実になるのか。
ニュースソース
- LINEに生成AI、オープンチャットで要約する新機能[ケータイWatch]
- さくらインターネット、GPT-4を利用して記事を自動生成できる「ユーザーローカルAIライター」提供開始[INTERNET Watch]
3. 偽情報やフェイクを防ぐ施策はあるか
岸田総理大臣が不適切な言葉を話すフェイク動画、民放のニュース番組と誤解させる投資勧誘動画など、生成AIによる不適切な情報拡散が問題になっている。これはまだまだ入り口で、今後さらに深刻な問題に発展する可能性も危惧される。
そのようななか、大手IT企業は対策に動き出している。YouTubeは、「AIが生成したコンテンツの明確な表示の義務付けと、個人の声や顔を無断使用したコンテンツの削除依頼に関するものなどが含まれる」AIに関する取り組みを発表した(CNET Japan)。それによれば、今後、数カ月のうちに、次のような2つの機能が導入されるとしてる。
- アップロードされた動画コンテンツが、現実を模して改変または合成されたものかどうかを示すためのオプションの提供
- AIで生成したり、改変または合成されたりしたコンテンツに実在する人物が登場する場合、その人物が動画の削除を要請するためのオプションの提供
また、米国では大統領選挙を控えていて、こうしたフェイク情報を使った相手候補の誹謗中傷が激化することが懸念されている。マイクロソフトはそうした事態を想定し、「電子透かしを使って写真や動画を認証できる」ようにするという。また、「ディープフェイクや新たな技術の悪用から選挙運動を保護するための法改正や立法を支援するために、その発言力を行使する」という方針も表明している(CNET Japan)。
こうした対応は、YouTubeやマイクロソフトに限らず、SNSなどの拡散機能を持つプラットフォームごとで対策を進める必要もある。悪質な情報拡散と防止策の実装の競争になるのかもしれない。
ニュースソース
- YouTube、AI生成コンテンツのラベル表示を義務付けへ[CNET Japan]
- マイクロソフト、偽情報やディープフェイクから選挙を守るための対策を発表[CNET Japan]
4. ガートナーが「生成AI(人工知能)のハイプ・サイクル:2023年」を発表
ガートナーが生成AIに関連する技術の成熟度と採用状況を表す「生成AI(人工知能)のハイプ・サイクル:2023年」を発表している(デジタルクロス)。
このコーナーでもしばしば紹介しているガートナーの「ハイプ・サイクル」は、そのテーマにおける技術の成熟度を「黎明期」「『過度な期待』のピーク期」「幻滅期」「啓蒙期」「資産性の安定期」の5つのフェーズのなかのどこに位置するかを示すことで、技術トレンドを評価しようという趣旨である。
生成AIという分野については、「企業向けアプリケーションへの組み込みが増えている主要技術を特定。10年以内に大きなインパクトを及ぼすであろうイノベーションとして、(1)生成AI対応アプリケーション、(2)ファウンデーション・モデル、(3)AI TRiSM(AIのトラスト/リスク/セキュリティ・マネジメント)」の3つを挙げている。
そのうえで、「2026年までに、AIの透明性・信頼性・セキュリティを継続的に実現する組織は、採用やビジネス目標、利用者の受け入れに関して、AIモデルが導き出す結果の50%を改善できる」と予測している。
アプリケーションとしては日々進化し、社会的にも影響が出始めている技術だが、こうして構成する技術的な要素を整理してみることで、今後のトレンドの参考にできるだろう。
ニュースソース
- 2026年までに企業の8割超が生成AIアプリを本番利用へ、米ガートナーの「生成AIのハイプ・サイクル」[デジタルクロス]
5. 巧妙化するフィッシングの動向
このコーナーではしばしばフィッシング詐欺の話題を取り上げている。それは、あまりにも巧妙になり、それなりのITリテラシーがある人でさえ、心の隙間を突かれる可能性があるからだ。
11月9日にフィッシング対策協議会から発表された10月のフィッシング報告件数は、前月より3万9771件増加し、15万6804件になったという(フィッシング対策協議会)。夏期に減少傾向が見られたが、残念ながら大幅な増加の傾向に戻っている。
加えて、フィッシング対策協議会は、「メール中のURLに特殊なIPアドレス表記を用いたフィッシング」の手法について注意喚起をしている(INTERNET Watch)。これはメールの文書中に「URLに8/10/16進数などのIPアドレス表記を用いた」ものだ。メールの件名は、「Amazon.co.jp」「ETC利用照会サービス」「国税電子申告・納税システム」など、多くの人が心当たりのあるサービスや組織をかたった手法である。くれぐれも注意が必要だ。
さらに、QRコードを使う事例も報じられている(ITmedia)。これまでも、スーパーマーケットチェーン「いなげや」「オートバックスセブン」「学習院大学」などでも、QRコードから不正サイトに誘導される事例が報告されている。印刷物のQRコードを読み込んで、対象のウェブページを開くと、そこが不正なページということだ。どうしてこうしたことが起きるかということは、これを紹介している記事中に詳しいが、QRコードに埋め込まれた「短縮URL」の指す先が書き換えられているという事案のようだ。QRコードを読んで、短縮URLが埋め込まれていたら注意するにこしたことはない。
ニュースソース
- 2023/10 フィッシング報告状況[フィッシング対策協議会]
- メール中のURLに特殊なIPアドレス表記を用いたフィッシングに、フィッシング対策協議会が注意喚起 Amazon、ETC利用照会サービス、国税電子申告・納税システムなどをかたる[INTERNET Watch]
- 原因は「短縮URL」か QRコードから不正サイトへ誘導される事例が相次ぐ オートバックスセブン、学習院大学も[ITmedia]