中島由弘の「いま知っておくべき5つのニュース」

ニュースキュレーション[2023/11/16~11/22]

OpenAIのCEOサム・アルトマン氏の解任から復帰まで ほか

eHrach/Shutterstock.com

1. OpenAIのCEOサム・アルトマン氏の解任から復帰まで

 先週、一般紙誌を含めて大きな話題となったのは、ChatGPTの開発会社であるOpneAIのCEOであるサム・アルトマン氏が突如解任されたことである(ケータイWatch)。原因は経営陣間の意見の相違と伝えられている。そのサム・アルトマン氏を受け入れると表明したのがマイクロソフトのCEOであるサティア・ナデラ氏だ(ケータイWatch)。それに呼応するかのように、OpenAIの従業員のおよそ9割は、サム・アルトマン氏をCEOとして復帰させなければ、退職も辞さないという文書に署名するに至った。その後、当事者間の話し合いがなされ、解任から4日後にはサム・アルトマン氏はOpenAIのCEOに復帰を果たし、経営陣も刷新された(ケータイWatch)。

 解任の理由について、さまざまな記事やSNSの投稿がされているが、本当のところは当事者しか知り得ないことだろう。それよりも、IT業界だけでなく、人類にも影響があるとみられているAI技術のリーディングカンパニーのガバナンスがもろかったということに気付くべきだろう。生成AIについては、その影響力の大きさから、それを使う企業はもとより、各国や各地域でのルールづくりも検討されているほどの状況のもと、誰がトップに立ってこの技術をドライブしていくかということは重要な問題だ。

 多くのメディアが誌面を割いて報じてきたのは、一企業の内紛ではない社会への影響も危惧していたからだろう。しかし、ユーザーはこうした騒動を外から見守るしかないのだ。

ニュースソース

  • OpenAIのサム・アルトマンCEOが解任、取締役会は「率いる能力を信頼していない」[ケータイWatch
  • サム・アルトマン氏、マイクロソフトへ[ケータイWatch
  • サム・アルトマン氏、OpenAIのCEOに復帰へ[ケータイWatch

2. 携帯事業者間で高まるNTT法見直しの議論

 政府は防衛費の財源確保などを目的として、国が保有するNTT株の売却を検討している。それにあわせて、NTT法の見直しについての議論が高まっている。

 NTT法の廃止を目指すNTTと、それに反対の立場をとるKDDI、ソフトバンク、楽天モバイルは会見などを通じて意見を表明している。さらに、それに加えて、SNSでも各社の立場を表明している。

 KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルの公式Xアカウントでは、NTT法が廃止される場合の懸念点を3つ挙げている(Impress WatchケータイWatch)。

  • 完全民営化されたNTTが光ファイバー網を独占することによる競争の停滞
  • NTTのサービス撤退
  • 外国がNTT株を保有することによる安全保障上の問題

 NTT側は次のような点を挙げて、「結果としてNTT法は廃止すべき」という考えだ。

  • NTT法の開始から40年が経過し、事業環境が変わってきたこと
  • 研究/開発に技術の開示義務があること
  • 固定電話の縮小

 今後、オープンな場での対面での議論などへ向かう可能性もある。ぜひとも密室ではなく、議論のプロセスを明らかにして結論を導いてほしい。

ニュースソース

  • KDDI/ソフトバンク/楽天モバイルの公式Xアカウント、NTT法廃止時の懸念点を投稿[ケータイWatch
  • NTT法改正、通信3社とNTTがX上で激論 ソフトバンクら公開議論を要求[Impress Watch

3. いよいよ生成AIはOSの標準機能に

 マイクロソフトは「Bing Chat」と「Bing Chat Enterprise」を「Copilot」にリブランドした(ケータイWatch)。

 そして、日本マイクロソフトは、生成AIによるアシスタントツール「Copilot」の個人向け正式版を12月1日にリリースする(ITmedia)。ウェブブラウザーやアプリから利用できるだけではなく、Windows 11の標準機能として組み込まれることで、誰しもが使えるツールになるところに意味がある。

 さらに、マイクロソフトは「Microsoft Copilot Studio」を発表した(ITmedia)。これは、カスタマイズした「Copilot for Microsoft 365」をローコードで作成できるというもの。例えば、自社のデータやシステムと接続することで、固有の質問に答えられるようにする生成AIを作り出せる。カスタマイズできるという点では、OpenAIはすでにGPTsを公開している。与えられた「一般的な(それでもすごいことなのだが)情報」を学習した生成AIを使うだけでなく、より目的に適合する生成AIを作るというところが今後のポイントとなりそうだ。

 組織としては、これまでに増して、それほどのデジタル化された利用可能な(利用する意味のある)情報を保持しているかが問われることになる。

 そして、MIT Technology Revewには、マイクロソフトのCEOであるサティア・ナデラ氏の独占インタビューが掲載されている(MIT Technology Review)。「ソフトウェア開発の参入障壁を下げ、既存の開発者の生産性を高め、究極的には創造性の新時代へと導くものもある」という。

ニュースソース

  • マイクロソフトが「Bing Chat」を「Copilot」にブランド変更、Webブラウザからも利用可能に[ケータイWatch
  • 個人向け「Windows Copilot」が12月1日にやってくる 生成AIはPCの使い方をどう変えるのか?[ITmedia
  • “オリジナルCopilot”が作れる「Copilot Studio」登場 スタンドアロン型にも対応 GPTとも連携[ITmedia
  • マイクロソフト サティア・ナデラCEO: 生成AIで開発はこう変わる[MIT Technology Review

4. 2024年はAR/MRグラスが盛り上がるか?

 AR/MRグラスが相次いで発表されている。

 米ビチュアー(VITURE)のXRグラス「VITURE One(ビチュアーワン)」(公式販売サイト価格:7万4880円)で、別売アダプターを使うことで、iPhone 15シリーズやXperia 1 Vと接続できる(ケータイWatch)。また、Nintendo Switchなどの携帯ゲーム機を遊べる「VITURE One モバイルドック」(2万1800円)、PlayStation 5やパソコンゲームのリモートプレーを可能にする「VITURE One ネックバンド」(2万7400円)も用意される。

 NTTドコモは、ARグラス「Rokid Max」(5万9800円)と、Android TVデバイス「Rokid Station」(2万9800円)を発売する。Rokid Maxは、装着すると、6m先に215インチ級の画面でシアターのようなエンターテインメントを体験できる(Impress Watch)。

 ちなみに、すでに発表されているメタ・プラットフォームズの「Meta Quest 3」は7万4800円、アップルの「Vision Pro」は約49万円となっている。性能や用途は異なるので、単純な比較をするつもりもないが、価格差のバリエーションもある。2024年はこうしたデバイスの競争が激しくなるのか。

 そして、「歩きスマホ」どころか、こうしたデバイスを装着して歩く人が出てくるのだろう。

ニュースソース

  • XRグラス「VITURE One」発売、Nintendo Switch用アクセサリーなども同時展開[ケータイWatch
  • ドコモ、ARグラス「Rokid Max」を発売 動画やゲームをXR体験[Impress Watch

5. ついに完成! 生成AIを活用した名作漫画「ブラックジャック」の新作

 今年6月に報じられた、漫画家・手塚治虫氏の代表作「ブラック・ジャック」の新作を生成AIを活用して制作するプロジェクト「TEZUKA2023」の成果が公表された(NHK)。11月22日発売の「週刊少年チャンピオン」(秋田書店)に掲載された。

 この新作は、「大まかなストーリーや新キャラクターのデザインについて生成AIとやり取りして、そこで出てきたアイデアを基に、クリエーターたちが手を加えて制作」するという手法を採用している。いうまでもないことだが、あくまでもクリエーターの思考ツールとして利用したということで、何もせずに作品が生成されたわけではない。

 スタッフの一人である映画監督の林海象氏は「AIはタイトルなどのアイデアを出してくれました。会話をしている感じで作業は進み、こちらの聞き方が変だと違う答えを出したりして楽しかったです」という。

 記事を読むと、こうした制作過程を経験したクリエーターは、AIを脅威と感じるのではなく、AIと人間の役割分担についての感覚もつかむことができたのだろう。一方、作品を読者がどう捉えるかが明らかになってくるのはこれからだ。

ニュースソース

  • “ブラック・ジャック”の新作 生成AIで制作 報道関係者に公開[NHK
中島 由弘

フリーランスエディター/元インターネットマガジン編集長。情報通信分野、およびデジタルメディア分野における技術とビジネスに関する調査研究や企画プロデュースなどに従事。