中島由弘の「いま知っておくべき5つのニュース」
ニュースキュレーション[2024/3/28~4/3]
故人の意思に基づく声の遺産が現実に ほか
2024年4月5日 11:15
1. 故人の意思に基づく声の遺産が現実に
OpenAIは、本人そっくりの音声を生成する技術「Voice Engine(ボイスエンジン)」を発表している(Impress Watch)。想定される用途としては、「発話が不自由な人向けにロボット的ではない音声が選べるようになるほか、発声障害になってしまった人が、以前に話していた声を活用して、病気になる前の声に戻すといった取り組み」ということのようだが、なりすましなどのリスクに対する対処なども必要で、すぐには公開されるものではないようだ。それほどまでに高い品質で再生できるということだろう。
ところで、昨年末に亡くなった歌手の八代亜紀さんは、「『自身の声を残したい』という思いから、2020年に『声辞書』を作成。約400の文章を読み上げ、それらを音源データとして保存していた」と報じられている(オリコン)。その「声辞書」を使って生成された「お別れのメッセージ」が「お別れの会」で流れたという。かつて、ヤマハとNHKのプロジェクトで「AI美空ひばり」のプロジェクトがあったが、それは本人の遺志とは関係なく、残された音源から生成したものだった。そのため「故人の再現」には賛否両論があった。
しかし、八代亜紀さんの場合は本人がそういう「遺志」を表明していたというところと、そのための「辞書」、おそらく特徴を抽出するために設計された文章を残していたということだ。
今後、こうした歌手・声優らは増えるのだろうか。もちろん、一般人でも、後世に声を残したいという人もいるに違いない。
ニュースソース
- 八代亜紀さん『お別れの会』“最期”のあいさつにファン感涙「八代亜紀は幸せでしたよ」 生前の肉声をもとにAI生成【コメント全文】[オリコン]
- OpenAI、本人そっくりの音声で話す「Voice Engine」 一般公開には課題も[Impress Watch]
2. 「ピュアモデルAI」のアプローチは、新たな「デジタルアシスタント」になりうるか
エンドルフィンと韓国のSUPERNGINEは、一般社団法人マンガジャパンとデジタルマンガ協会が合同で開催した「早春の会」で、「ピュアモデルAI」によって制作したマンガ作品を公開している(Web担当者フォーラム)。
ピュアモデルAIとは、「契約した漫画家のデータだけを学習」させる生成AI技術で、「著作権者である漫画家の許可がなければ作動せず、また漫画家自身がそのすべての学習成果をコントロールできるよう、オーダーメイド型でサービスを提供」するというもの。
ストーリー構成とネームまでを作家が担当して、以降の工程をAIが担当するというようなデモとなっている。実際に許諾のもとでデモ使用したのは、里中満智子氏と倉田よしみ氏の作品で、ネームと下描きだけで作品を作ることができることを示している。また、負荷の高い作業を軽減することで、アイデアからよりたくさんの作品作りにつなげられることをメリットとしている。
折しも、引退をされる作家や急逝される作家の方が報じられているなか、今後の新たな作品作りの「デジタルアシスタント」となりうる候補の技術だろう。
ニュースソース
- 漫画家本人の絵柄のみ学習した「ピュアモデルAI」によるマンガ制作支援サービス開始[Web担当者フォーラム]
- 漫画家の著作権を守るAI[エンドルフィン]
3. 「LearningToon」は、縦読み学習マンガサービス――生成AIの活用も
学習マンガのサービス「LearningToon」は、株式会社NTTドコモからスピンアウトさせ、株式会社SUPERNOVAへと運営が移る(CNET Japan)。
LearningToonは、縦読み学習マンガサービスで、ビジネススキル、金融、政治などの知識をオリジナルマンガで提供する。アプリ版とウェブ版を2024年夏ごろから順次提供を開始し、まずは法人向けにコンテンツを提供するとしているが、いずれは、個人向けサービスの提供も計画している。
特徴的なのは、SUPERNOVAでは、Stability AIが提供する生成AI「Stable Diffusion」とクリエイターの作業を組み合わせて運用をするところだ。こうすることで、制作時間を短縮できるということだ。クリエイターの負担を減らし、よりコンテンツの質の向上へと能力を振り向けることが期待できる。
生成AIを活用するマンガ制作のアプローチとして興味深い。
ニュースソース
- NTTドコモ、生成AIを活用した学習マンガ事業「LearningToon」をスピンアウト[CNET Japan]
4. マイクロソフトとアマゾンが生成AIへさらなる巨額の投資
マイクロソフトとアマゾンは生成AIに関してさらなる巨額の投資を続ける。
まず、アマゾンは、生成AIを開発するアンソロピックに27億5000万ドル(約4200億円)を追加出資した(CNET Japan)。すでに、12億5000万ドル(約1900億円)を出資していて、計画では最終的に最大40億ドル(約6100億円)を出資すると発表しており、それに相当するものと考えられる。
さらに、アマゾンは、今後15年間に1500億ドル(約22兆5000億円)をデータセンターに投資するともしている。
また、マイクロソフトとOpenAIは1000億ドル(約15兆円)を投資して、2028年までに「Stargate」というAI特化のスーパーパーコンピューターを立ち上げると発表している(Publickey)。
生成AIに対する巨額投資は次の世代のデジタルプラットフォームの覇権をどこが握るかという競争を意味している。こうした動きに日本はどう対応していくべきだろうか。
ニュースソース
- アマゾン、生成AI企業Anthropicに約4200億円を追加出資[CNET Japan]
- マイクロソフトとOpenAIが15兆円をAI用のスーパーコンピュータに投資、Amazonは22兆円をデータセンターに投資へ。米報道[Publickey]
5. 米国政府は「チーフAIオフィサー(最高AI責任者)」制度を導入
米国政府が「公共サービスにおけるAIの使用が安全であることを保証するために、すべての政府機関に対して『使用するあらゆるAIシステムを監督する最高責任者を置くこと』を義務付け」たことを、現地メディアが報じている(Gigazine)。すなわち、「チーフAIオフィサー(最高AI責任者)」とでもいうようなポジションだ。その役割について「最高AI責任者に任命された場合、AIイニシアチブのシニアアドバイザーとしてその機関によるAIの使用を監視します。OMBは『AIの使用が安全保障やセキュリティ、公民権、市民的権利、プライバシー民主的価値、人権、機会均等、労働者の福利厚生、重要なリソースとサービスへのアクセス、政府機関の信頼と信用、市場での競争にどう影響を与えているか、リスク評価を実施する必要があります』」と書いている。
日本でも、多くの企業ではそれぞれの現場でAIを使い始めていたり、組織的な利用をする場合も情報システム部門などが中心的に対応していると思われるが、よりAIに特化した専門的な観点でのAIガバナンスが必要な段階にあるということを示唆している。日本政府も、AIの導入の旗振りや規制の検討だけでなく、こうした組織での運用・制度的な面でもガイダンスを示すべきではないだろうか。
ニュースソース
- 全ての政府機関に最高AI責任者&AIガバナンス委員会を設けAI使用に関するリスクをまとめた年次報告書を作成するとアメリカ政府が発表[Gigazine]