中島由弘の「いま知っておくべき5つのニュース」

ニュースキュレーション[2024/3/21~3/27]

外国語版の海賊版漫画サイトの被害が深刻化 ほか

eHrach/Shutterstock.com

1. 国産の生成AIの動向

 日本大手IT企業による生成AI技術の開発とそのサービス提供の発表が続いている。

 NTTコミュニケーションズは、日本電信電話(NTT)が開発した大規模言語モデル「tsuzumi」を活用した生成AIソリューションの提供を開始した(INTERNET Watch)。tsuzumiはNTTが独自に開発し、すでに2023年11月に発表済みである。特徴は、軽量で低コストでの運用が可能であることと、日本語処理性能の高さであるとしている。この技術を用い、NTTコミュニケーションズは、CX(Customer Experience:コンタクトセンターなどの顧客応対)、EX(Employee Experience:業務に沿った生産性向上など従業員体験の向上)、CRX(Cyber Resilience Transformation:事業継続性。サイバー脅威に対する被害を抑え、復旧を迅速にすることによる事業継続性強化)の分野に特化したものとしてサービスを提供する。

 また、楽天グループは日本語に最適化した高性能の大規模言語モデルの基盤モデル「Rakuten AI 7B」、そしてこのモデルを基にしたインストラクションチューニング済みモデル「Rakuten AI 7B Instruct」などを公開した(Impress Watch)。楽天LLMの特徴は、「日本語に最適化された形態素解析器による高い効率性」を挙げている。「従来の形態素解析器と比較して、事前学習や推論のテキスト処理をより効率的に行なえる」としている。

ニュースソース

  • NTTが開発したLLM「tsuzumi」、NTT Comより商用生成AIサービスとして提供開始[INTERNET Watch
  • 楽天、日本語に最適化したLLM「Rakuten AI 7B」[Impress Watch

2. 日本レコード協会、11人の音楽違法アップローダーと賠償金の支払いで合意

 日本レコード協会は、ファイル共有ソフト「BitTorrent(ビット・トレント)」を利用して、インターネットで大量に音楽ファイルをアップロードしていた利用者の情報開示を受け、「14のIPアドレスの発信者情報に基づき、代理人弁護士を通じて違法アップローダーとの間で『今後著作権侵害をしない旨の誓約』および『損害賠償金の支払い』に関する協議を随時進めており、本日までに11名のアップローダーと合意しています」と発表した(日本レコード協会)。この発表によれば、「損害賠償金の平均金額は約40万円」だという。また、今後、訴訟によって情報が開示されたアップローダーに対し、同様の協議を進めるとしている(ITmedia)。

ニュースソース

  • 発信者情報開示請求訴訟において違法アップローダーの氏名等の開示を命じる判決下る[日本レコード協会
  • 日本レコード協会、音楽違法アップローダー11人と賠償金の支払いなどで合意 金額は平均40万円[ITmedia

3. 総務省が携帯電話事業者の契約数を発表

 総務省が「令和5年度第3四半期(12月末)の電気通信サービス契約数及びシェアに関する四半期データ」を公表した(ケータイWatch)。

 それによると、携帯電話の契約数は2億1873万(前年同期比5.4%増)となっている。大手4社の事業者別シェアは、NTTドコモが34.9%(前年同期比1.2ポイント減)、KDDIグループが26.8%(前年同期比0.2ポイント減)、ソフトバンクが20.4%(前年同期比0.4ポイント減)、楽天モバイルが2.6%(前年同期比0.5ポイント増)となっている。契約数の増加率は引き続き堅調である。

 他方、MVNOサービスの契約数は3322万で、前年同期比15.5%増となった。大手4社も「安価な料金プラン」を提示したが、よりお得感のあるMVNOへの移行も進んでいる。

 総じて、消費者はコスパを考え、携帯電話の料金プランにはシビアであるということだ。

ニュースソース

  • 楽天モバイルのシェアは0.5ポイント増の2.6%、総務省調査[ケータイWatch

4. 外国語版の海賊版漫画サイトの被害が深刻化

 日本向けに海外サイトで運用される漫画の海賊版サイトは大きな問題として取り上げられ、現在も随時、対処が行われ、一定の成果をあげている。しかし、事態はそれだけではないようだ。NHKの記事によれば、外国語に翻訳された漫画作品を無断で掲載した海賊版サイトの被害が深刻化しているという(NHK)。一般社団法人ABJの調査によれば、「漫画などの出版物を無断で掲載する海賊版サイトは1207サイトに上り、このうち7割以上を占める913サイトが英語やベトナム語などに翻訳された作品を集めた外国語のサイト」で、「アクセス数は日本語版の少なくとも5倍以上、著作権侵害の被害額も大幅に上回る」と見込まれるという。

 日本のコミックやアニメが国際的に人気なのは喜ばしいことではあるが、こうした海賊版サイトによって支えられているというなら悲しいことだ。しかし、これらの国を跨いだ匿名の相手を潰していくのは一朝一夕にはいかない。海賊版を阻止する決定的な技術的解決策もないとするなら、1つずつ対処するということにならざるを得ないのだろうか。

ニュースソース

  • 日本の漫画「タダ読み」被害深刻化 外国語の海賊版対策 急務に[NHK

5. 独占禁止法違反の疑いでアップル提訴。そして開発者イベント「WWDC」は6月10日から

 米国司法省は反トラスト法(日本における独占禁止法)に違反したとして、アップルを提訴したと報じられている(CNN)。主な理由は、iPhoneの支配的な地位を濫用して、市場競争を阻害したということだ。大手IT企業はビジネスが拡大すると独占禁止法で提訴されるケースは多い。古くはマイクロソフトのオペレーティングシステムやオフィススイート、ウェブブラウザーが対象となった。また、最近では、グーグル、アマゾン、メタも同様だ。罰金が課されるのか、製品やサービスの変更が迫られるのか。今後の動向には引き続き注目すべきだろう。

 そのようなアップルだが、今年の開発者会議「WWDC」が6月10日からオンラインで開催される(ケータイWatch)。これまでの経緯からすると、最新のオペレーティングシステムが発表されるものとみられる。

ニュースソース

  • アップルの開発者向けイベント「WWDC」、6月10日に開幕[ケータイWatch
  • 米司法省、独禁法違反の疑いでアップルを提訴[CNN
中島 由弘

フリーランスエディター/元インターネットマガジン編集長。情報通信分野、およびデジタルメディア分野における技術とビジネスに関する調査研究や企画プロデュースなどに従事。