フリーランスになるなら/なったら必ず読みたい“〇〇の話”

第4回『契約の話』

会社員の「雇用契約」からフリーランスの「業務委託契約」へ

社会保障の不安も多いフリーランス

※この記事は、「Freeconsultant.jp」の2018年9月10日付コラム記事をそのまま転載してお届けするものです。その後の制度改正やサービス内容の変更などにより、現在とは状況が異なる内容が含まれている可能性もあることにご留意ください。

 会社員の方は、就職のとき、勤務先企業と「労働契約(雇用契約)」を結ぶのが一般的です。これは、雇用する側である会社がどういう条件で働く人を雇い、会社で働く人がどのような条件で会社で働くかといったことを取り決めするものです。この契約を締結することで、会社も働く人も契約で取り決めた内容を果たすことに対する義務を負います。

 会社を辞めてフリーランス(個人事業主)になると、自分を雇う会社はなくなり、仕事の発注を受けるクライアント企業や、仕事の仲介を受ける会社と直接やりとりすることになります。会社に雇われていた会社員時代は雇用契約がありましたが、フリーランスとして仕事するクライアント企業や仲介企業とは「業務委託契約」を結ぶことが大半です。

 業務委託とは、ある業務を第三者に委託する場合に締結する契約のことで、クライアントが委託する側(発注者)となりフリーランスに対して業務を委託、フリーランスはその業務を委託される側(受託者、受注者)となり、どういう条件で委託/受託するかを契約で取り決めることになります。

 契約は、締結するとさまざまな義務が生じる重い取り決めですが、実務上は契約の締結がきちんとなされないことも少なくないのが実状です。契約が口頭だけで済まされて、あとで言った言わないの話になってしまったり、契約書の内容をきちんと確認しなかったために思わぬ責任が生じてしまうことも。そのようなことにならないよう、フリーランスとして仕事を引き受けるにあたっては、「契約」についてきちんと理解しておきましょう。

会社員を守る「労働法」、フリーランスを守る「下請法」

 会社などに雇用されて働く労働者は、立場の強い雇用者から不利な雇用条件を押しつけられて労働者が不利益を負うことのないよう、労働者の権利が「労働法」で守られています。ところが、フリーランスは、この労働法で守られる対象になっていません。

 当事者間の自由意志によって取り交わした約束は基本的に有効であるという「契約自由の原則」が認められている日本では、業務委託契約の内容が一見不当な内容であるように見えても、フリーランスとクライアントの間に合意があれば契約は成立し、その契約に従う義務が生じてしまうのです。

 フリーランスを守る法律としては「下請法(下請代金支払遅延等防止法)」があります。これは、下請取引において下請事業者(受託者=フリーランス)の利益を保護し、親事業者(発注者=クライアント)と下請け事業者で公正な取り引きが行なわれるようにするための法律です。

 下請法では、クライアントは「発注内容を具体的に記載した書面の交付義務」「下請代金の支払期日は納品日から60日以内とし、かつ事前に定める義務」「下請取引の記録書類の作成・保存義務」「支払期日までに下請代金を支払わなかった場合の遅延利息の支払い義務」を負います。また、納品物の不当な返品や受け取り拒否、下請代金の不当な減額や物品・役務の購入・利用強制などが禁じられます。

 なお、下請法はすべての委託取引に適用されるわけではなく、「親事業者であるクライアントの資本金額」と「委託業務の内容」の組み合わせが一定の条件に該当する場合に対象となります。しかし、エンジニアなどをはじめとする多くのフリーランスが行なう業務で対象となることも多いです。クライアントと適切な契約を結ぶことと関連して、自分を守るために一通り理解しておきましょう。

トラブル防止のために、契約内容は書面での取り交わしが基本

 クライアントから業務委託を受ける際には、「業務委託契約書」を取り交わすか、クライアントから委託内容を記した「発注書」などの書面を受け、クライアントとフリーランスの間の取り決めについて明文化しておくのが基本です。しかし実際には、口約束で仕事を進めざるを得ないことも多くあります。契約自体は、たとえ口頭であっても合意が形成されれば契約成立となります。そのため、クライアントにしてみればそれでよく、書面の取り交わしを面倒だと感じて対応を渋るケースがあるのです。

 ですが、下請法の適用を受ける委託取り引きでは口頭での発注は違法ですし、下請法適用外であっても書面を交わさない契約はトラブルのもとになります。多いトラブルとしては「報酬の金額が、事前に話していたものと異なる」「報酬が支払われない」といった支払いに関するものをはじめとして、「聞いていなかった業務まで引き受けたことになっていた」「著作権がクライアントの帰属となるとは聞いていなかった」など、さまざまですが、いずれも解決のために大なり小なり対応コストが必要となり、場合によっては大きなマイナスの影響が生じてしまいます。

 特にエンジニアの場合、「偽装請負」や「二重派遣」などの問題が起こることは少なくありませんが、契約にあたって書面の取り交わしがないことで、そうした問題がさらに起こりやすくなってしまいます。そのようなトラブルを未然に防ぎ、万一トラブルが起こってしまったときに早期解決を図るためにも、基本的には契約書を取り交わすようにしたいもの。

 どうしても難しい場合は、重要事項について箇条書きしたものを「この条件にて承りました」「ご依頼の条件についてお間違いないかどうかご確認ください」などとしてメールで送信し、メール上で合意を得ておくという方法も有効です。

契約内容で特に確認しておくべきポイント

 業務委託契約書を取り交わしたり、クライアントから発注書を受け取る場合、あるいは書面の交付を受けられない場合に重要事項を箇条書きしたもので合意を得る場合などには、どのような内容に注意すればいいのでしょうか。特に注意すべき主要なポイントを見ていきましょう。

<契約形態が「委任契約」か「請負契約」か>

 委任契約は「業務を行なうこと」を約束するものであり、業務の完了義務はありません。この場合、業務の遂行期間などによって報酬が決まります。他方、請負契約は「業務を完了させること」を約束し、完成した業務の対価として報酬が支払われます。請負契約の場合、完成すべき内容が明確にされているかどうかも合わせて確認しましょう。

<引き受ける業務の内容>

 契約形態とも関連しますが、どのような内容まで遂行する必要があるのか、細かく決めておきましょう。あとで「この仕事もお願いしていたはずなのに」「こちらはここまでしか引き受けた覚えはない」といったトラブルにつながる懸念があります。納品が伴う業務の場合は、納品・検収方法なども報酬の支払いに関連しますので、明記が必要です。

<報酬の金額、支払期限>

 非常に重要な部分でありながら、クライアントから明確に提示されないことも少なくない部分です。金額自体または金額の算定方法、消費税や源泉徴収を含むかどうか、業務遂行にかかる必要経費を別途請求できるのかどうか、どの時点で請求可能となるのか、いつまでに支払われるのかといった点を明確にしましょう。

<関連する権利・義務の確認>

 契約に際して秘密保持義務を負う場合は、「秘密」の定義やどの範囲まで義務を負うのかといったことを確認できるようにします。業務に付随して著作権や知的財産権が発声する場合は、その権利をクライアントに譲渡するのかどうかといったことも決めておく必要があります。

<契約の有効期限と契約の解除条件>

 不必要に縛られたり、不当に契約解除されることのないよう、契約がどこまで続き、どのようなケースで解除されるのか、明らかにしておきましょう。

 契約時に取り交わす書面については、契約書も含めて、決まった形式はありません。フリーランスとクライアントの双方に誤解のないよう、わかりやすく重要な項目が明示されるようにしましょう。

 フリーランスとしての仕事をはじめたばかりの時期は、取引先を少しでも増やしたいものですし、仕事はできる限り受けたいと思うものです。そのため、クライアントに要望を伝えたり、ましてや疑問点を確認することすら不安に感じることもあるでしょう。

しかし、契約は義務が発生する重要な行為です。口頭での取り決めでは心許ないですし、足もとを見られて不当な条件を押しつけられてはうまくいくものもいかなくなってしまいます。仕事を引き受ける前に契約内容を明らかにすること、承服できない点があれば条件交渉すること、最終的にきちんと書面を取り交わすことを意識して、仕事を受けられるようにしましょう。

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