第4回:最新ファームウェアでリアルタイムレプリケーション機能を試す
QNAPは、「ホーム&SOHO」向けのシングルドライブモデルからハイエンドのHDD8基搭載モデルまで幅広いラインナップを揃えているが、今回は企業ユーザーのデータセンターでの利用を想定したラックマウントモデルを使って、最新ファームウェアで強化されたリアルタイムレプリケーション機能をご紹介していきたい。
●使用モデル「TS-809U-RP Turbo NAS」のおもな機能
用意したのは「TS-809U-RP Turbo NAS」で、2Uラックマウント筐体にドライブベイ8基を備える企業向けハイパフォーマンスモデルだ。内蔵されるプロセッサはIntel Core 2 Duo 2.8GHzでメモリは2GB、この処理能力を活かして「オンラインRAID容量拡張、そしてオンラインRAIDレベル更新を含む先進のRAID構成は全てサポート」と謳う強力なモデルである。
「TS-809U-RP Turbo NAS」。2Uラックマウント筐体にドライブベイ8基を装備した企業向けハイパフォーマンスモデル |
企業ユーザー向けのストレージでは、何より信頼性の高さが求められる。そこで本機では、ハードウェア面では重要コンポーネントの二重化が行なわれている。電源ユニットは、単体でシステム全体に電力供給が可能な電源を2基装備しており、故障時のホットスワップにも対応する。
ネットワークポートもGbE×2ポートを備え、一方が故障した際に他方を使ってサービスの継続が可能な「Fail-Over機能」や、802.3ad対応のスイッチと接続した際には2ポートを同時に併用することで帯域を拡張する「Load-Balancing機能」、それぞれに異なるIPアドレスを与えて異なるサブネットに同時に接続する「マルチIP設定」などもサポートしている。
正面 |
背面 |
また、システムソフトウェアはDOM(Disk on Module)と呼ばれるフラッシュメモリ領域に記録されており、HDDへのアクセスなしで起動できるようになっているのだが、基本となるOSはFail-Safe機能として2重に書き込まれており、起動するごとに交互に立ち上がる。一方が起動に失敗した場合にはもう一方に切り替えて起動した上で、起動に失敗したOSをリカバリーする、といった機能まで備わっている。
データ保護に関しては、前述の通りRAID関連機能の広範なサポートによって実現されているわけだが、それだけに留まらず、さらに高度なデータ保護機能も実装されている。1つは、前回簡単に紹介されていたレプリケーション機能だ。そして、最新のファームウェアではさらに「リアルタイムレプリケーション」(以下RTRR)という機能も追加され、データ・レプリケーション機能がさらに強化された。
●最新ファームウェア3.4に更新してみる
現行の製品版ファームウェアはVersion 3.3系列で、本機の場合は3.3.6 Build1110という2010年11月リリースのものが最新となるが、まもなく新バージョンとなるVersion 3.4のファームウェアがリリースされる予定だ。今回は評価用としてβ版ファームウェアをお借りすることができたので、これに基づいて最新機能を紹介していきたい。ただし、今回使用したファームウェアは正式リリース前のβ版であり、正式リリース版とは異なる可能性がある点にはご注意いただきたい。
ではまず、ファームウェアの更新作業から行なってみよう。ファームウェアの更新手順はWebサイトの「ダウンロードセンター」でも簡単に紹介されているが、Webサイトからダウンロードしたファームウェア(ZIP圧縮は解凍しておく)を適当な場所に保存しておき、Web管理画面の「システム管理」内の「ファームウェアの更新」をクリックする。
「ファームウェアの更新」タブに更新の手順や確認事項が表示され、最下部に更新用のファイルの指定欄が表示されているので、「参照」ボタンをクリックしてファイルブラウザーを開き、ダウンロードした更新ファイルを選択する。
最後に「システムのアップデート」ボタンをクリックすると、「システムを更新しますか?」という確認パネルが開くので、ここで「OK」をクリックする。数分程度でファームウェアの更新が完了し、システムの再起動確認パネルが表示されるので、「OK」をクリックするとシステムが再起動され、ファームウェアの更新が完了する。Web管理画面に必要な情報が表示されるので、特に難しい部分はない。
「システム情報」によるファームバージョンの確認 |
システムの再起動が完了したら、再度Web管理画面を開いて状態を確認してみよう。「システムステータス」内の「システム情報」を開くと、「ファームウェアバージョン」も確認でき、現在稼働中のファームウェアのバージョン番号を見ることができる。
●レプリケーションの機能強化
ファームウェアの更新に成功したら、本題であるレプリケーション機能の強化について見てみよう。繰り返しになるが、今回試用したファームウェアはβ版のため、正式公開版とはメニュー構成や表記が異なっている可能性もあることには留意して頂きたい。
レプリケーション機能の設定は、「バックアップ」にまとめられている。「バックアップ」内の「リモートレプリケーション」を開くと、「RSYNC」タブと「RTRR」タブの2つが用意されていることが分かる。RSYNCは、従来からあるレプリケーション機能で、RTRRが新たに追加された「リアルタイムリモートレプリケーション」だ。
まず、QNAPにおけるレプリケーションは、2台のQNAP間でデータをコピーする機能だと考えてよい。コピー先となるNASデバイスでRsyncサーバを稼働させておき、指定されたスケジュールに従って遠隔コピーを行なうわけだ。バックアップとして位置づけられているが、機能的にはデータの遠隔コピーだ。
ここでは、もう1台QNAPのNASを用意し、まずは従来通りのレプリケーションを設定してみよう。リモートレプリケーションのRSYNCタブで「新規レプリケーションジョブの作成」を選択すると、「リモートレプリケーションウィザード」が起動するので、以後は画面の指示に従って設定すればよい。
最初に設定するのは「サーバタイプ」と「リモートレプリケーションジョブの名前」だ。続いて、「リモート宛先」の設定画面になる。ここで、「リモートサーバの名前またはIPアドレス」「ポート番号」「ユーザ名」「パスワード」をそれぞれ設定する。
次いで、次の画面で「宛先パス」を、さらに次の画面で「ローカル送信元」のパスを指定する。「レプリケーションスケジュール」では、スケジュールとして「今すぐ」「毎日」「毎週」(曜日指定)、「毎月」(日付け指定)が選択でき、さらに「時刻」も任意に設定できる。必要であれば、次の画面では「レプリケーションオプション」の指定ができ、暗号化やファイル圧縮などの有効/無効を設定できる。
つまり、RYNCタブによる従来通りのリモートレプリケーションは、「今すぐ」もしくは「毎日/毎週/毎月」一回のスケジュール指定で指定した送信元パスのファイルを宛先パスにコピーする、という動作を指定することになる。
設定開始 | 設定ウィザードの開始画面 |
スケジュールの指定 | オプションの指定 |
設定完了/新規ジョブが登録された |
一方RTRRでは、リアルタイムでのレプリケーションが可能になる。考え方は従来型のリモートレプリケーションとほぼ同一だが、コピーを実行するスケジュールが変わり、事実上常に同期を保ち続けると考えればよい。では、実際にRTRRを設定してみよう。
実は従来型のレプリケーションでも同様なのだが、設定の前にあらかじめコピー先となるQNAP上でサーバプロセスを起動しておく必要がある。それには、「アプリケーション」内の「バックアップサーバー」で設定を行なう。今回は、「RTRRサーバー」タブで「リアルタイムリモートレプリケーションサーバーを有効にする」にチェックを入れ、パスワードを設定しておけばよい。
準備ができたら、コピー元となるQNAP側でRTRRのジョブ設定を行なう。従来のリモートレプリケーションと同様に、RTRRでも「新規レプリケーションジョブの作成」をクリックしてウィザード形式で設定していく。
同期の方法は、「ローカルフォルダをリモートフォルダへ」「リモートフォルダをローカルフォルダへ」「ローカルフォルダを別のローカルフォルダまたは外部ドライブへ」の3通りの設定が可能だが、今回はもっとも一般的と考えられる「ローカルフォルダからリモートフォルダへ」という方向を選択しておく。
続いて、リモートホストを設定する。ここでは、ホスト名としてコピー先となるQNAPの名前(nasc85c11)を指定し、「サーバタイプ」と「ポート」は「RTRRサービス」「8899」のままにしておき、パスワードを入力する。ここで「テスト」ボタンをクリックするとシステム側で接続テストを行なってくれ、成功した場合にはブラウザ上にデータ転送速度も表示されるので、入力間違い等がないことがこの時点で確認できる。
コピー先となるデバイスでRTRRサーバを起動する。「リアルタイムリモートレプリケーションサーバーを有効にする」にチェックを入れ、パスワードを設定しておく | コピー元デバイスでRTRRの設定ウィザードを起動する |
同期コピーの方向などを指定する | フォルダペアを指定する。要はコピー元/コピー先という意味だと理解してよい |
オプション指定は、レプリケーションのタイミングに関するもの。リアルタイムを選ぶとRTRRに、スケジュールを選ぶと従来型リモートレプリケーションになると考えればよい | 設定の確認 |
テストが成功すれば、その時点でコピー先のフォルダ構造もチェックされているので、次の「フォルダペアを選択する」ではローカル/リモート双方のフォルダ名があらかじめ列挙されている。ここでコピー元/コピー先を指定しておけば、そのペアが同期されることになる。今回は双方のPublicフォルダ同士を同期させる指定を行なった。
続いて、「レプリケーションオプション」では、レプリケーションの方法として「リアルタイム」または「スケジュール」を選択できる。リアルタイムでは、コピー元のフォルダに変更があった場合、その変更がコピー先にも随時反映される。一方、スケジュールではあらかじめ設定されたスケジュールに従って同期が行なわれる。これはつまり、従来型のリモートレプリケーションの動作と違いがないといってよいだろう。
今回はもちろん、リアルタイムを選択しておく。最後に同期化ジョブに名前を付けるのだが、デフォルトで名前の候補が作られているので、問題なければそれをそのまま使えばよい。最後に、「設定の確認」が表示されるので、問題がなければ「次へ」をクリックし、さらに「完了」をクリックすることで設定が終了する。
●リアルタイムレプリケーション(RTRR)の動作
設定が完了したところで、クライアントのWindowsマシンからコピー元のフォルダに新規にファイルを置いてみたところ、すぐにこのファイルのコピーが始まり、やがてコピー先のフォルダにも同じファイルが現われた。実は、コピー先フォルダには事前にファイルが置かれていたのだが、リアルタイムレプリケーションの設定によってこのファイルが影響を受けることはなく、コピー元フォルダに存在しないファイルだからといって削除されることはなかった。この場合の同期はあくまでも一方向だけで行なわれている。
設定からわかるとおり、コピー元からコピー先のデバイスがネットワーク的にアクセス可能になっていれば地理的な設置場所は無関係だと考えてよいので、この機能を遠隔サイト間のデータ同期に利用することも可能だろう。異なるデバイスにデータのコピーを保持できるため、耐障害性という観点では格段に強化されるし、異なる場所に設置することで同時に被災するリスクも大幅に下げられる。データ保護の手法としてもかなり強力であるのは間違いない。
さらにRTRRが好ましいのは、最初に設定してしまえば、後は放っておいても最新のデータが常にリモートデバイスにコピーされ続けるという点だ。スケジュールされたリモートレプリケーションでもよいが、スケジュールの隙間でデータが失われるリスクがある。
RTRRでは、ファイルが置かれたのを検知してコピーが始まるため、数秒程度のラグは発生しているし、大サイズのファイルの場合はコピー完了までに相応の時間を要するのは確かだが、それでもデータがコピーされる前に失われてしまうリスクは相当に下げられるはずだ。過信は禁物だろうが、事業継続を意識した遠隔地での予備サイトを安価に実現するための手段としても利用できる可能性がある。
今回試用したファームウェアはβ版ということだったが、一部メッセージで校正が行き届いていない点が見受けられたものの、動作自体は特に問題もなく、レプリケーションも正常に実行できた。この機能が早く正式公開されることを期待したい。
関連情報
(渡邉 利和)
2011/2/14 00:00
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