清水理史の「イニシャルB」
Windows 10+NASのバックアップ環境 ファイル履歴とWindowsバックアップを試す
2016年8月8日 06:00
無償アップグレードの終了やAnniversary Updateのリリースが完了し、一息ついた感のあるWindows 10。ついつい、ブラッシュアップされたUIや各種新機能などに目が奪われがちだが、ここで、ぜひ考えておいてほしいのがバックアップやセキュリティ関連の各種対策だ。今回は、NASを組み合わせたバックアップにフォーカスを当ててみた。
バックアップの重要性
メールはGmailにアクセスすればいいし、データもクラウドにある、ブラウザのお気に入りも同期させれば、すぐに元通り。
PCのクラッシュが絶望的なものではなくなった今、特に個人の環境でバックアップの重要性がさほど叫ばれなくなったのは、以前に本コラムでも紹介した通り。
しかし、上記コラムでも指摘したが、バックアップは最近ではむしろセキュリティ対策の一環としての重要性が増している。
Teslacryptのマスターキー提供で一見下火になったように思えるものの、決して暗号化されたファイルと交換に金銭を要求するランラムウェアが撲滅されたわけではない。バックアップの有無が、最終的に脅迫に屈するか否かの1つの判断基準となることを考えると、決しておろそかにできないことは明らかだろう。
そこで、今回は、Windows 10の標準の機能を使ってバックアップを取得する方法を紹介する。
Windows 10の無償アップグレード終了やAnniversary Updateの登場で、自宅や会社のPCの環境がガラリと変わったという人も多いかと思われるが、ただでさえ忘れられがちだったバックアップの重要性が新OSの目新しさに埋もれてしまうと、仮に圧倒的に凶悪で爆発的な感染力を持つランサムウェアなどが登場したときに、その対処方法が限られてしまう。
せっかく、Windows 10にはファイル履歴やイメージバックアップなどの機能が標準で搭載されているのだから、これらの機能を活用し、大切なデータを確実にバックアップしない手はないだろう。
バックアップ用ストレージの選定
バックアップを実行にするにあたって欠かせないのがストレージの選定だ。PCのファイルや設定、OSのイメージなどを保存するには、それなりの容量を備えたストレージが必要になる。
一昔前なら、外付けのUSBハードディスクがバックアップ用ストレージの最有力候補だったかもしれないが、新たに購入するならNASがおすすめだ。複数台のPCのバックアップ先として活用できるうえ、設置場所も比較的自由に選べる。もちろん、ファイル共有やファイル転送、メディア共有・変換など、さまざまな用途にも活用できる。
2ベイモデルなら、搭載するハードディスクは別途購入する必要があるものの、2~3万円前後から入手できるので、ぜひ検討してみるといいだろう。
TS-231+ | DS216j | AS1002T | |
QNAP | Synology | asustor | |
2万6800円 | 2万1699円 | 2万700円 | |
ベイ | 2 | 2 | 2 |
CPU | ARM dual-core 1.4GHz | ARM dual-core 1GHz | ARM dual-core 1GHz |
RAM | 1GB | 512MB | 512MB |
LAN | 1GbE×2 | 1GbE×1 | 1GbE×1 |
USB | USB 3.0×3 | USB 3.0×2 | USB 3.0×2 |
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バックアップ先の準備
それでは、実際にNASとWindows 10を組み合わせたバックアップ方法を具体的に見ていこう。
まずは、バックアップ先の準備だが、NASを使う場合はバックアップ用の共有フォルダーを作成しておく。NASを一人で使うなら「backup」などの共有フォルダーを作成するのもいいが、もしも家族や社員など複数人がバックアップ先として使うなら、ユーザーを個別に作成して各人のホームフォルダをバックアップ先として使うといいだろう。
ホームフォルダは他のユーザーがアクセスできない自分専用のフォルダーとなるため、パーソナルなデータを含むデータをバックアップするのに適している。NASによっては事前に有効化しておく必要があるが、簡単な設定で済むのでバックアップ用途に限らず、有効化しておくといいだろう。
続いて利用するバックアップ機能を選択する。Windows 10には、「ファイル履歴」「Windowsバックアップ」「システムの復元」という3つのバックアップ機能が搭載されている。メインとなるのはファイル履歴だが、環境によってはWindows 7にも搭載されていたWindowsバックアップを利用したり、用途は少し異なるがシステムの復元を活用することもできる。
個人ユーザーであれば、複数のバックアップを組み合わせることまでする必要はないが、少なくとも1つは有効化しておくと、万が一のときでも安心だ。
ファイル履歴:バックアップできないファイルに注意
それでは、実際の設定方法を見ていこう。まずはファイル履歴だ。
ファイル履歴は、ライブラリ(ドキュメント、ピクチャ、ビデオ、ミュージック)、OneDrive、デスクトップ、連絡先、お気に入りなどのデータをバックアップできる機能だ。標準では1時間おきにバックアップを実行し、ストレージ容量が許す限り履歴を保持し続ける設定になっている。
1時間おきという短いサイクルでバックアップが実行されるため、ファイルを復元しなければならない状況になったとしても、直近の状態に戻せるのがメリットだ。
通常、ファイル履歴を利用するには、PC内蔵の別ドライブ、もしくはUSB接続のハードディスクなどの外部ストレージが必要になるが、ネットワーク上の共有フォルダーも指定可能となっているため、前述したNASのホームフォルダーなどをバックアップ先として指定することができる。
バックアップ設定
設定は、「設定」の「更新とセキュリティ」にある「バックアップ」から可能だ。NASの共有フォルダーをZ:などのネットワークドライブに割り当てている場合は、「ドライブの追加」をクリックすることで候補が表示されるが、そうでない場合は「ネットワーク上の場所をすべて表示」をクリックして一覧から共有フォルダーを選択する。
どうしても候補に表示されない場合は、「コントロールパネル」の「ファイル履歴」の設定から「\192.168.1.100home」などと共有フォルダーを手動で指定することも可能だ。ホスト名で指定してもいいが、NASのIPアドレスを固定して手動で設定したほうが確実だろう。
また、環境によってはドライブ指定時に共有フォルダーにアクセスするためのアカウントが要求される場合がある。このとき、単純にユーザー名とパスワードだけだと認証に失敗する場合がある。「192.168.1.100username」などのように「NASのホスト名(IPアドレス)ユーザー名」の形式で指定するといいだろう。
これで設定がオンになり、しばらくするとバックアップが実行される。
カスタマイズ/トラブルシューティング
もしも、バックアップが開始されない場合は、バックアップ対象のフォルダーにエラーを発生させる原因となるファイルが含まれている可能性がある。よく知られたエラーとして、全角と半角で同じファイルが存在したり、長い名前のお気に入りが含まれる場合がある。
筆者の環境では、お気に入りに登録されている項目が原因となっているケースがあり、バックアップ対象となるフォルダーで、お気に入りを外すことにより正常に動作させることができた。
ファイル名が原因の場合、そのファイルを特定するのが結構大変だが、同様に対象となるバックアップフォルダーを外しながら、少しずつ原因を特定していくと、うまく動作させることができるだろう。
なお、設定を変更したい場合は「その他のオプション」をクリックすることでバックアップのタイミング(最短10分ごと)を変更したり、保持する履歴の数を設定したり、バックアップ対処のフォルダーを選択することができる。
Windowsバックアップ
続いてはWindowsバックアップだが、これは少々注意が必要だ。
Windowsバックアップは、Windows 7のWindowsバックアップと互換性を持つバックアップ機能だ。ライブラリ、デスクトップ、規定のWindowsフォルダーに保存されたデータ、およびシステムイメージをバックアップできるようになっており、標準では週1回(日曜19:00)にバックアップが実行される設定になっている。
システムイメージをバックアップできることから、OSが起動しなくなった場合などでもシステム全体(データ含む)を以前の状態に戻すことができるのが特徴で、いわゆるフルバックアップに相当する。
もちろん、ファイル履歴と併用することも可能で、1時間おきにファイル履歴でデータを保護しつつ、週に1回、Windowsバックアップでフルバックアップを実行するといった組み合わせが可能になる。
ただし、「バックアップと復元(Windows 7)」という機能名にわざわざWindows 7と記載されているうえ、機能的にコントロールパネルから利用する機能となっていることからもわかる通り、Windows 10ではメインストリームの機能として扱われていない。
Windows 7時代にバックアップされたデータを読み込むための機能として残っていると考えるのが妥当で、特にNASとの組み合わせでは常用に適しているとは言い難い。
バックアップ設定
設定は、ファイル履歴と同じく「設定」の「バックアップ」から、「[バックアップと復元]に移動(Windows 7)」をクリックするか、コントロールパネルから直接「[バックアップと復元]に移動(Windows 7)」を開く。
標準では無効になっているので、「バックアップの設定」をクリックし、Windowsバックアップサービスを開始。ウィザード形式の設定画面が表示されたら、「ネットワークに保存」をクリックし、ネットワークの場所で「参照」をクリックして一覧から選択するか、「\192.168.1.100home」のように手動で保存先を指定し、アクセス許可のあるユーザーアカウントを指定する。こちらも「ホスト名(IPアドレス)ユーザー名」の形式で指定しておくといい。
ウィザードを進め、バックアップ対象で対象となるフォルダーを選択し(自動選択でかまわない)、最終的な設定確認をして「設定を保存してバックアップを実行」をクリックすればバックアップが実行される。
カスタマイズ/トラブルシューティング
設定の変更は、コントロールパネルから対象となるフォルダーやスケジュールを変更可能となっている。標準では週に1回のバックアップになるが、ファイル履歴をすでに利用している場合は、そちらでひんぱんにバックアップが実行されるので、あえて頻度を多くする必要もないだろう。
トラブルに関しては、環境によっては結構深刻だ。特にNASとの組み合わせでは、バックアップに失敗するケースもあり、常用に適さない場合もある。
PC3台とNAS3台(TS-231+、DS1512+、TS-453A)を用意し、実際にテストしてみたが、ファイル履歴と同様に特定のファイルがバックアップできないエラーが発生したり、NAS側の設定によって失敗しするケースが見られた。
マイクロソフトのQAサイトやQNAPのFAQなどを見ると、SMBのバージョンが関連しているとの情報があったが、筆者が試した限りではSMB 3.0でも成功する場合もあれば、失敗する場合もあり、切り分けができない状況だった。
また、テストとして何度かバックアップを実行したが、過去にバックアップしたデータがNAS上に残っているとバックアップに失敗するケースも見られた(ファイルを削除すると正常にバックアップできる)。こういったケースでは、定期的なバックアップの運用が難しい可能性もありそうだ。
このように、筆者が試してみた限りでもいくつかの問題が見られたが、残念ながら原因をきちんと突き止めることは難しかった。WindowsバックアップでNASにバックアップできるかどうかは、正直なところ、やってみないとわからないという状況だ。基本的にファイル履歴で運用するつもりで導入し、テストした結果うまく動けば常用するという程度に考えておくのが無難だろう。
復元
ファイルの復元は、コントロールパネルの「バックアップと復元(Windows 7)」から「ファイルの復元」を選択して、ファイルを検索したり、「ファイルの参照」から復元したいファイルを選択することになる。
また、システム自体を復元したいときは、回復ドライブやシステム修復ディスク、もしくはWindows 10のインストールメディアを利用して起動後、回復オプションの画面から「トラブルシューティング」-「詳細オプション」-「イメージでシステムを回復」を選択。イメージの選択画面で「詳細設定」ボタンをクリックし、「ネットワーク上のシステムイメージを検索する」を選択。「192.168.1.100home」などとバックアップ先を指定し、アカウントを入力すればバックアップイメージが表示されるので、選択してリストアを実行するといいだろう。
ただし、ネットワーク上のバックアップデータを参照するには、起動に利用したシステム修復ディスクやWindows 10インストールメディアで、ネットワークデバイスを認識できることが前提となる。
非常に多くのネットワーク機器を認識可能だが、中にはドライバーを読み込まないと認識しない場合もある。
バックアップを済ませたものの、いざというときにリストアできないと意味がないので、バックアップが完了したら必ずシステム修復ディスクで起動し、ネットワーク上のバックアップイメージを読み込めるかどうかをテストしておくことをお勧めする。
システムの復元
最後のシステムの復元だが、これはちょっと上記2つとは目的が異なる機能だ。
システムの復元は、復元ポイントを作成することで、システムに加えられた変更を元に戻すことができる機能だ。バックアップ/復元の対象は、あくまでもシステムのみとなっており、データは対象とならない。万が一、システムに不具合が発生したときに、以前の状態に戻す機能となっている。
一部のランサムウェアなどは、あらかじめこの領域を破壊する場合あるので過信は禁物だが、設定しておいて損はない機能と言えるだろう。
設定
システムの復元は、外部ストレージを必要とせず、内蔵ストレージのみで設定可能なため、この機能に関してはNASは関係ない。
設定は、スタートボタンを右クリックして「システム」を開き、「システムの詳細設定」をクリック。「システムの保護」タブから有効化できる。
有効にするドライブを選択後、「構成」をクリックすると有効化可能で、ディスクのどれくらいの容量をシステムの保護に割り当てるかも設定できる。
ファイル履歴がおすすめ
以上、Windows 10に搭載されているバックアップ機能をNASで運用する場合について検証してみたが、基本的にはファイル履歴で運用することをおすすめする。
ファイル履歴で保護できるのはデータのみだが、その代わり、標準で1時間、最短で10分単位で履歴を保存できるので、万が一、データが壊れたり、マルウェアの被害にあったとしても、その被害を最小限にとどめることができる。
複数台のPCがある場合、各PCにファイル履歴用のストレージを追加するのは無駄なので、NASを活用してネットワーク経由でバックアップを保管するといいだろう。
Windowsバックアップのイメージバックアップも取得しておきたいところだが、正常にバックアップが完了するかどうか、そしてネットワーク経由でのイメージからリストアできるかどうかは、環境次第と言えるため、「使えればラッキー」くらいに考えておくのが無難だ。
基本的には、ファイル履歴とシステムの復元で乗り切り、どうしてもイメージバックアップが欲しければサードパーティ製品の利用を検討するといいだろう。