清水理史の「イニシャルB」
実質2台分の帯域が3万円以下ならお買い得 TP-Linkトライバンド無線LANルーター「Archer C5400」
2017年3月13日 06:00
TP-Linkから、5GHz+5GHz+2.4GHzの3つの周波数帯に対応したトライバンド無線LANルーター「Archer C5400」が登場した。TP-Linkらしいコストパフォーマンスに優れた製品で、ゲーム機やSTB向けなど、高速な通信を必要とする機器向けに専用の5GHzを用意できるのが特徴だ。その実力を検証してみた。
毎度恐縮だが
TP-Linkの製品となると、どうしても価格の話から入りたくなってしまうのだが、今回も、まあ、仕方がない。
本稿執筆時点の2017年3月1日時点では、店頭に商品が並んでいないためあくまでも想定価格ベースとなるが、Archer C5400の想定価格は2万9800円。3万円を切る価格設定がなされている。
同様の製品は、ネットギアからすでに発売されている「R8500」が存在するが、こちらの実売価格は2017年3月1日時点で3万7737円(amazon.co.jp)。またしても、ライバルに対して、ちょい安ではなく、ガッツリと価格を削ってきた。
Archer C5400 | R8500 | |
TP-Link | NETGEAR | |
価格 | 2万9800円(想定) | 3万7737円 |
CPU | 1.4GHz デュアルコア | ← |
無線 | 5GHz-1:2167Mbps | ← |
5GHz-2:2167Mbps | ← | |
2.4GHz:1000Mbps | ← | |
アンテナ | 格納式×8 | 外付け×4(アクティブアンテナ) |
LAN | 1000Mbps×4(LAN) | 1000Mbps×6(LAN) |
1000Mbps×1(WAN) | ← | |
USB | USB 3.0×1/USB 2.0×1 | ← |
LAG | ○ | ○ |
QoS | ○ | ○(DynamicQoS) |
IPv6 | ○ | ○ |
VPNサーバー | OpenVPN/PPTP | OpenVPN |
もちろん、機能的な違いもあり、R8500はアクティブアンテナと呼ばれるインテリジェントなアンテナを装備しているほか、LANポートも6ポート搭載しており、うち2ポートをリンクアグリゲーション(LAG専用)として利用できるなど、独自性の高いハードウェアとなっている。しかしながら、無線LANルーターとしての機能やスペックはほぼ同等で、ここまで価格を下げられてしまうと、ライバルとしては、正直、厳しいところだろう。
もちろん、安くなったと言っても、3万円前後。「こんなハイエンド機、わが家にはぜいたく過ぎる……」と思う人も多いかもしれないが、トライバンド機のメリットは、何と言っても、5GHzを2系統独立して持てることだ。
最近では、2.4GHz帯の壊滅的な混雑状況から、5GHz帯の利用が増えているが、空いているからといって自宅のPCやスマートフォンなど、たくさんの機器を5GHz帯に集中させてしまうと、それだけ1台あたりが使える帯域が少なくなり、同時通信時の速度は低下してしまう。
しかし、その5GHz帯が2系統あればスマホなどの機器は1系統目、ゲーム機や映像配信サービス用STBなど速度を確保したい機器は2系統目と、使い分けることができ、このような家庭内の渋滞を緩和することができる。
筆者は、同じような理由で、自宅にアクセスポイントを2台設置してチャネルを使い分け、雑多な機器と速度を必要とする機器をつなぎ分けているが(W53/W56に対応しない機器対策の意味もあるし、トラブル対策の意味もある……)、その環境が1台で済むのだからありがたい。
今までは、正直、1万5000円前後の無線LANルーターを2台使い分けた方が、手間はかかるが、速度的に有利と考えていたが、価格的に考えても1台で済むなら、それに越したことはない。
電波の届く範囲の問題もあるため一概には言えないものの、数十人規模のオフィスなどでは、場合によっては、複数台運用している無線LANアクセスポイントの数を、トライバンド対応の本機などで減らすこともできそうだ。
作りもしっかり
それでは、実際の機器を見ていこう。
今回のArcher C5400は、TP-Linkの無線LANルーターの中では、個人的には好みのデザインだ。
あくまで個人的な感想だが、Archer C7は高級感が足りず、かといってArcher C9やArcher C3150は角丸のやわらかいデザインが男受けしにくい印象があったが、本気はエッジが立っているというか、武骨で力強い印象を受ける。
男受けする理由はデザインだけでない。格納式のアンテナもその1つと言えるだろう。本機の周囲には8本のアンテナが配置されており、出荷時に折りたたまれていたアンテナを実際に設置するときは引き上げて使う方式となっている。
正直、アンテナに触れるタイミングは設置時くらいなので、格納式であることに大きな意味はない、いわゆる「ロマン装置」なわけだが、これはこれで所有欲を満たすギミックではある。
ただ、実際に設置してみるとわかるのだが、このアンテナは意外に控えめで、場所を取らないというメリットがある。
ほかの機種は、アンテナの本数こそ少ないものの、長さが倍近くあり、目障りな感じがするのだが、本製品は短いうえ、板状でアンテナをあまり意識させないため、設置後に目障りな印象がない。この点は、少々、意外だった。
インターフェイスは背面に集中しており、WAN×1、LAN×4の1000Mbps対応ネットワークポート、ストレージやプリンター共有などに使うUSBポートが2.0と3.0のそれぞれ1ポートずつ配置されている。
また、ルーター製品では配置されないケースも多い電源スイッチも背面に配置されるほか、前面には無線LANオン/オフ、WPS、LEDオン/オフのボタンも配置される。前面のボタンに関しては、押し込んだときの感触もカチッとしていて良好なうえ、可動式のアンテナも含め全体的な「たてつけ」も良好で、ハイエンド機らしい高級感をしっかりと感じることができる製品となっている。
スペックは、5GHz帯が4ストリームのIEEE 802.11ac準拠で最大2167Mbps。これを2系統搭載している。2.4GHz帯は1000Mbpsとなっている。いずれもBroadcomのNitroQAMと呼ばれる1024QAMの技術を採用し、通信速度の高速化を実現している。
なお、スペック的にはMU-MIMOにも対応しているが、現状はまだクライアント側の対応が進んでいないため、433Mbpsや866Mbpsのクライアントでの同時通信ができるようになるのは、まだ先のことになりそうだ(MU-MIMO用ファームのアップデートも必要)。
ファームウェアもしっかり進化
セットアップに関しても、特に問題ない印象だ。
無線LAN経由、有線LAN経由でもセットアップが可能で、インターネット接続もウィザードで簡単に設定できるようになっている。また、スマートフォン向けのアプリ「Tether」でも、現在の状況確認や設定が可能となっている。
最新版のファームウェアでは、おそらく家庭向けの無線LANルーターでは初と思われるが、クラウドサービスのIDを使って設定画面にアクセスする方式が採用されている。
具体的には、セットアップ時にTP-Link IDを取得することで、そのメールアドレスとパスワードを使って設定画面にアクセスすることになる。最近では、セキュリティ面を考慮して組み込みのadminアカウントではなく、ユーザー名を利用者が指定する方式が増えてきたが、本製品ではさらに一歩進んでクラウドと連携させる仕組みが採用されたことになる。
なお、TP-Link IDは、同社が運営するTP-Link Cloud(https://www.tplinkcloud.com)のアクセスにも利用できるが、本稿執筆時点ではルーターとの連携機能は搭載されていない。今後の対応が待たれるところだ。
無線LANの接続に関しては、オーソドックスな方法となる。国内製品のようなQRコードによるセットアップなどの機能は備えていないが、WPSによるボタン設定が可能になっており、PCやAndroidスマートフォンであれば接続に困ることはないだろう。
前述したように、本製品は5GHz×2、2.4GHz×1のトライバンドに対応しているが、標準では「TP-LINK_XXXX」「TP-LINK_XXXX_5G_1」「TP-LINK_XXXX_5G_2」のように、それぞれに個別のSSIDが設定されている。
このため、接続する際は、どの帯域を使うかを意識する必要があるうえ、2系統ある5GHz帯をどのように使い分けるかを事前にある程度検討しておく必要があるだろう。
もちろん、このような点を面倒に感じるのであれば、すべてのバンドを1つのSSIDとして使える「スマートコネクト」を利用すればいい(詳細設定画面)。この機能を有効化することで、「TP-LINK_XXXX」につなげば、後は機器まかせで最適な帯域に自動的に接続することができる。
ただし、この設定には少々クセがあり、一度、有効にすると、設定を無効にしたとしてもSSIDが個別に設定されない。おそらく接続済みのクライアントで、再設定が不要になるようにとの配慮だと思われる。
標準では「TP-LINK_XXXX」「TP-LINK_XXXX_5G_1」「TP-LINK_XXXX_5G_2」となっていたSSIDが、無効化後はすべて「TP-LINK_XXXX」に設定されてしまう。5GHzを意識して使い分けたい場合は、設定画面から「_5G_1」や「_5G_2」を自分で付け加えておこう。
リンクアグリゲーションやゲスト用ポータルも利用可能
機能的な特徴としては、まずリンクアグリゲーション(LAG)が挙げられるだろう。背面にある4つのポートのうち2ポート(標準では3と4)を束ねることで、2Gbps分の帯域を確保する機能だ。
NASなど、複数ユーザーのアクセスが集中する機器を接続する場合、事前にLAGを構成し、2本のLANケーブルを使ってつないでおくことで、ネットワーク障害時のシームレスなアクセスとアクセス集中時の負荷分散が可能となる。
PCのバックアップなどNASに高い負荷がかかる通信が頻繁に発生する場合は、ぜひ利用したい機能だ。
もちろん、本製品を簡易的なNASとして利用することも可能だ。USB 3.0などの外付けHDDを接続することで、ネットワーク上のPCから共有フォルダーにアクセスすることができる。
標準では、Guest共有で設定されるうえ、ユーザーも管理画面にアクセスするためのアカウントか管理アカウントとは別に作成したアカウントのいずれか1つしか設定できないため、あくまでも家庭向けの機能となるが、写真の共有など簡単なデータ共有には十分利用できる。
USB 3.0で接続したSSDのアクセス速度もシーケンシャルのリードで90MB/sとかなり早い。書き込みは若干劣るが、低価格のNASと互角以上のパフォーマンスで、実際に使っていてもストレスを感じない印象だ。
これらの機能に加えて、なかなか面白いのはゲストネットワークの機能の認証でポータルを使える点だ。公衆無線LANサービスなどでは、無線接続後にポータルに転送され、認証が要求されるが、それと同様にゲスト向けのSSIDへの接続後に、ブラウザからパスワードを入力することで、一定時間(1/2/4/8/常時)接続を許可する方式だ。
ログインページのデザインを変更したり、特定のWebページにリダイレクトすることも可能になっているため、店舗などでフリーのWi-Fiサービスを運営したい場合でも対応できるだろう。3バンド使える本機なら、店舗の業務用と顧客用で帯域を分けることも可能なので、うってつけだ。
このほか、OpenVPNとPPTPを利用したVPNサーバーや保護者による制限なども利用可能となっている。
保護者による制限は、MACアドレスで指定した端末のアクセス可能時間を設定できる機能だ。マウスのドラッグ操作で時間を設定できるなど、UIも工夫されており、使いやすい。ただし、ドラッグで反転させた部分がアクセス可能な時間なのか、アクセスできない時間なのか、どちらなのかを判断しにくい。設定ミスのせいもあり、筆者の環境ではアクセス制限を設定しても端末がアクセスできてしまう場合があって、若干、とまどうこともあった。
パフォーマンスも良好
気になるパフォーマンスだが、テストした限りでは良好だ。木造3階建ての筆者宅の1階に本気を設置し、各階でiPerfによる速度を計測したのが以下の結果だ。
機材の関係で最大1300Mbpsのクライアント(ASUS USB-AC68)でのテストのみとなったが、1階で792Mbps。3階で184Mbpsを実現できており、速度的な満足度も高い。アンテナが小ぶりなので、若干心配したが、3階でも100Mbps越えを実現できているので、まったく問題ない印象だ。
1F | 2F | 3F | 3F端 | ||
Archer C5400 | MacBook Air11(866Mbps) | 531 | 263 | 175 | 35.5 |
USB-AC68(1300Mbps) | 792 | 388 | 184 | 61 |
以上、TP-LinkのArcher C5400を実際に試してみたが、あこがれのトライバンド機が手の届く価格で登場してきたメリットは非常に大きい。家庭内に無線LAN接続する機器、それも5GHzを使う機器が増えてきたが、これで帯域を使い分けることが手軽にできるようになる。
機能面の充実も著しく、特に今回のTP-Link IDの利用やゲスト用のポータルなど、独自性を生かした方向での機能拡張も目覚ましい。とにかく快適な無線LAN環境を構築したいというユーザーにはうってつけの製品だが、トライバンドとポータルを考えるとオフィスや店舗などでの利用もおすすめしたいところだ。
ただ、家庭向けの無線LANルーターは、Archer C3150のようにセキュリティ機能を搭載した製品(ファームアップデートで対応予定)が今後の注目となってくるはずだ。本機では、残念ながら、いまのところは搭載されていないが、将来的に高度なWebフィルタリングやIPS機能なども搭載してくれるとありがたいところだ。そうなれば、よりお買い得感が増すことだろう。