清水理史の「イニシャルB」

1万円ちょいの1ベイNAS、Synology「DS119j」、高機能アプリは使えるがHDD故障への備えが悩ましい……

外付けHDDやクラウドストレージ、2ベイNASとの違いも

 Synologyから、コンシューマー向けNASの新モデル「DS119j」が発売された。「1」で始まる型番からも分かる通り、搭載可能なHDDが1台のみとなる1ベイモデル。それなりに機能が制限されるものの、とにかく安く手に入るのが特徴だ。その実力を検証してみた。

1万円ちょいのリーズナブルさで、ベストセラーになり得るか?

 2TB HDDとの組み合わせなら、耐久性の高いNAS用HDDを選んだとしても、トータルの出費は2万1000~2万2000円ほど。

 これくらいの出費で、PCのバックアップやデータ同期、スマートフォンの写真の保存、動画の保管とDLNA対応テレビでの視聴、外出先からのリモートアクセスなど、多彩な機能が手に入るのであれば、家庭でも無理なくNASを導入することができそうだ。

 Synologyから新たに登場したDS119jは、手頃な価格から同社製のラインナップの中でも屈指の人気モデルで、実売2万円前後の「DS218j」よりも、さらに安い価格設定がなされた「1万円ちょいで買える」非常にリーズナブルなNASだ。

Synologyの1ベイNAS「DS119j」

 下に示す表の通り、DS218jと比べると、CPUの動作クロックやメモリ容量などの基本性能が抑えられていたり、利用できる内部ボリューム数や同時接続数が少なかったりはするものの、一般的な家庭で利用する限りは、全く気にする必要がない差だろう。前述したデータ保管やバックアップなどの用途には、十分対応できる。

 最大の問題は、ドライブベイが1で、当然ながら搭載HDDが1台に限られてしまう点だ。最近では10TBクラスのHDDも手に入るようになってきたため、単純な容量を考えると1ベイでも問題はない。

 しかし、RAID 1によってHDDの冗長化を図れる2ベイモデルと異なり、装着したHDDが故障すると、そのままデータが失われることにもなりかねないのが1ベイモデルの問題点。文書や写真、動画など、さまざまなデータを保管し、PCのバックアップ先としても使うNASで、HDDの冗長化が図れないのは、なかなかに悩ましい。

 価格に対しての性能や機能を考えると、製品としてのコストパフォーマンスは抜群に高いため、圧倒的な売れ筋モデルになっても不思議ではない製品ではあるが、やはりデータの安全性を確保するために、追加のコストがどれほどかかってくるのかが課題となりそうだ。

DS119jDS218j
実売価格※1万2981円2万293円
CPUArmada 3700Armada 385
アーキテクチャ64bit デュアルコア32bit デュアルコア
周波数800MHz1.3GHz
メモリ256MB512MB
ドライブベイ12
LAN1000Mbps×1
USB2.0×23.0×2
サイズ(幅×奥行×高さ)166×71×224mm165×100×225.5mm
重量0.7kg0.88kg
消費電力10.04W17.48W
ファン60mm角92mm角
最大内部ボリューム数1256
最大アカウント数5121024
CIFS最大同時接続数50100

 ※Amazon.co.jpでの2018年11月6日時点のもの

ファン径は小さくても静か、1ベイなのでHDDの共振対策は不要

 それでは、実機を見ていこう。筐体は、同社Jシリーズでは共通のホワイトをベースにした清潔感のあるデザイン。樹脂製ではあるもののチープな印象は全くない。1ベイモデルということで本体はとてもスリムで、置き場所に困らない印象だ。

 個人的には、筐体がスリムなことで、背面に搭載されるファンの径が小さくなり、動作音が多少なりとも気になるのではないかと懸念していたが、実際に動作させてみても、ファンの回転音が気になることは全くなかった。これなら、本製品を常に動作させた環境で就寝することになっても、気になることはないだろう。

正面
背面
側面

 HDDは、ケースを開けて取り付けるタイプだ。本体カバーを前後にスライドさせるようにして取り外してから、内部にネジで固定する。

 2ベイモデルのDS218jでは、HDDを固定する金具の部分に防振用のゴムが装着されているが、本製品ではゴムは見当たらない。HDDを1台しか装着しないため、HDD同士の共振による振動への対策は、そこまでしなくてもいいという判断だろう。

 試しに7200rpmのHDDを装着し、稼働させた状態でDS119j本体に手を触れてみたところ、小刻みな振動が手に伝わってきたが、その振動が床や壁、家具などに伝わることはなかった。本体底面に装着されている大きめのゴム足で、十分に振動を吸収し切れている印象だ。

HDDはケースを開けて取り付ける。HDDのマウンタに防振用のゴムはないが、本体底面のゴム足だけで十分に振動を吸収できている

USB 2.0の転送速度とLED輝度調整がない点が問題か?

 インターフェースは、1000Mbps対応のLAN×1、USB 2.0×2が背面に用意されている。LANは1Gpbsで通信できれば十分で、上位モデルのようにLAGで負荷分散する必要もないため、1ポートでも問題ないだろう。

 ただし、USBに関しては、2.0対応というのが正直、残念な点だ。2ベイモデルなら2.0対応でも個人的には気にならないのだが、本製品のように1ベイモデルでは、後述するようにNAS自体のバックアップをいかに実現するかが大きな課題となる。

 仮に、USB接続の外付けHDDにデータをバックアップしたり、既存のUSB接続HDDからNASにデータを移行することなどを考えると、高速にデータを転送できるUSB 3.0対応であることが望ましかった。

 また、もう一点、個人的に気になったのが、LEDの輝度コントロール機能が省かれている点だ。DS218jなどの他のモデルでは、前面のLEDの輝度を設定画面から調整できるようになっているため、就寝時などでも暗い部屋でLEDが気になることはないのだが、本製品は、稼働中は常に点灯や点滅をしている。

 電源管理機能によって、スケジュールを設定してNASの電源をオン/オフすることはできるので、就寝時間帯などは電源をオフにする運用をするのがよさそうだ。

ファンの速度は変更できるが、他モデルと違ってLEDの輝度はなぜか調整できない

 パフォーマンスについては十分な印象だ。最近のNASは処理性能が十分で、どちらかというとネットワーク(1Gbps)がボトルネックになってしまう傾向にある。本製品のようなエントリーモデルでも、もはや性能面で不満を感じることはない。

CrystalDiskMark 6.0.1の結果

基本機能は共通ながら、使えないパッケージもある

 SynologyのNASは、「DSM」と呼ばれる専用OSを採用することで、どのモデルでも基本的に使える機能が変わらないのが魅力となっている。ただし、本製品の場合は若干の制限がある。

 まず、冗長性などに特徴があり、ビジネス向けの上位モデルで利用可能なファイルシステム「Btrfs」は利用できない。同様にビジネス向けモデルが対応する「Active Backup」などの高度なバックアップ機能にも対応しない上、「Docker」や「Virtual Machine Manager」などの仮想環境なども使えない。

 ここまでは、2ベイのDS218jも含め、x86のCPUを搭載しない同社のコンシューマー向けNASSに共通の制限だが、ほかのコンシューマー向けNASでは使える機能についても一部制限がある。

 例えば、DS218jでは利用可能な「Chat」、旧モデルのDS115jでは使える「Office(スプレッドシートなどをブラウザーで使える機能)」が現状は非対応となる上、写真管理アプリの「Moments」は、アプリは動作するものの顔認識機能が使えない。

ChatやOfficeなどの一部のパッケージは、現状はDS119jでは非対応

 これらは、CPUのアーキテクチャが64bitに変更されている点や、メモリ容量が256MBと少ない点など、複雑な要素が関係していそうだ。いくつかの機能は、今後対応が進む可能性はあるが、メモリ容量が少ないことから、機能的な制限を完全に払拭することはできないだろう。

 また、DS218jでは、DTCP-IP対応のメディアサーバー「DiXiM Media Server」を利用できたが、このパッケージも今回のDS119jには対応していない。

 購入を検討する際は、ハードウェアだけでなく、パッケージ一覧のウェブページから、対応状況を事前にチェックしておくといいだろう。

バックアップは「Synology C2」などのクラウドストレージに頼るべきか?

 このように、若干の機能的な制限はあるものの、家庭で使うには満足度の高いDS119jだが、唯一の課題は、冒頭でも触れたようにNAS自体のデータをどう安全に保つかだ。

 シンプルな解決策としては、USB接続の外付けHDDを装着し、そこにデータをバックアップすることだが、先に触れたようにUSB 2.0接続となるのが残念だ。実際に運用を始めてしまえば、追加されたデータの差分だけをバックアップできるので容量が小さいことも多く、さほどバックアップ時間を気にする必要はない。ただ、初回バックアップだけは時間がかかる。

 そもそも、外付けHDDを用意するくらいなら、はじめから2ベイモデルのDS218jを選ぶ手もあるわけで、バックアップ先にHDDを使うのは、DS119jの存在そのものを何やら否定するような気分もする。

 どうすべきか? 答えのひとつになりそうなのが、クラウドバックアップだ。

 SynologyのNASに搭載されているバックアップ機能「Hyper Backup」はクラウドバックアップに対応しており、Amazon Drive、Dropbox、Googleドライブ、Microsoft Azureなどのクラウドストレージへ、NASのデータをバックアップすることができる。

標準搭載のアプリパッケージ「Hyper Backup」では、NASのデータをクラウドストレージにバックアップ可能

 すでにこれらのクラウドサービスで十分な容量を契約しているなら、それをそのまま利用するのが適しているが、これから契約するとなると、そのコストが余計にかかることになる。

 そこで活用したいのが、Synologyが提供するSynology C2だ。NASからのバックアップ用に提供されるクラウドストレージサービスであり、同社製のNASに特化したサービスであることから、料金もかなり安い。各サービスでプランの違いはあるが、例えば、100GBなら値額で9.99ユーロ(約1289円)、1TBで59.99ユーロ(約7739円)と、他社サービスの半額ほどの出費で済む。

クラウドストレージの年額料金
100GB300GB1TB1TB(PlanII)
Synology C29.99ユーロ(約1289円)24.99ユーロ(約3224円)59.99ユーロ(約7739円)69.99ユーロ(約9029円)
Amazon Drive2490円13800円
Google Drive2500円13000円
Dropbox Pro12000円

 ※カッコ内の日本円は1ユーロ129円で換算

Synology C2サービス。100GBプランなら年額9.99ユーロとリーズナブルだが、サーバーはヨーロッパとなる

 実際に試してみたが、WAN経由となる上、現状は日本からの利用でもデータがヨーロッパ(フランクフルト)に保存されるため、初回はかなりの時間がかかった。15.5GBほどの写真をバックアップしただけでも、完了するまでに5時間もかかってしまった。HDDなどの装置を追加する必要なく、本体のみでバックアップが完結するのは便利だが、初回のバックアップ時間をあらかじめ想定してタスクを設定しておく必要があるだろう。

Hyper BackupでSynology C2にデータをバックアップしているところ。初回バックアップには時間がかかる

 容量とコストも問題だ。リーズナブルな100GBで利用するなら、バックアップするデータを厳選する必要がある。写真なら何とかなりそうだが、動画が大量にあると、容量的に厳しいだろう。

 かといって、1TBを契約するとなると、コスト面がかなり気になる。はじめから2ベイのNASを選んだ方がリーズナブルなケースもありそうだし、そもそもデータをNASではなくクラウドに保管した方が効率的、という考え方もできる。このあたりは、とても悩ましい問題だ。

運用面も考慮して購入しよう

 以上、Synologyの新モデルDS119jを実際に試してみたが、値段の安さからNASの入門機として、なかなかいい選択肢と言えそうだ。機能的に省かれているものもあるが、NASとしての基本的な使い方であれば、大きな影響はないだろう。

 とは言え、課題はNASそのもののバックアップだ。結果的に、外付けHDDやクラウドストレージに追加コストを支払うことになると、導入時のコストパフォーマンスの高さが、次第に失われていく可能性もある。

 個人的にはお勧めできる製品ではあるが、導入後の運用面も考慮して、慎重に選ぶ必要がありそうだ。

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清水 理史

製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できる Windows 10 活用編」ほか多数の著書がある。