清水理史の「イニシャルB」
Wi-Fiでギガ越え! 11ax対応ルーター3兄弟どれを選ぶ?
2019年7月29日 06:00
Wi-Fiの市場で、“Wi-Fi 6”ことIEEE 802.11axの存在感が一気に高まりそうだ。海外メーカーからWi-Fiルーターが続々と登場しつつある上、スマートフォンやノートPCなどもWi-Fi 6対応製品が発売され始めた。「そろそろWi-Fi 6を……」と検討を始めた人に向けて、用途や予算に合わせたWi-Fi6対応ルーターの選方をお届けしよう。
Wi-Fi 6対応製品が続々登場!
ほんの半年前までは、対応Wi-Fiルーターもごくわずか。対応クライアントに至っては市場に存在しない状態だった、Wi-Fi 6(IEEE 802.11ax)。
しかし、ここ数カ月で、この状況が一変した。
グローバルで市場をリードするネットギアなどの海外メーカーを中心に、Wi-Fi 6対応ルーターが次々にリリースされ、一方の子機側も、Samsung「Galaxy S10/S10」のグローバル版を皮切りに、Lenovoのモバイルワークステーション「ThinkPad P1」、Dell「XPS 15」、Razer「Razer Blade」などのノートPC、さらにゲーミング用途や第3世代Ryzen向けのAMD 570搭載マザーボードなどにも、Wi-Fi 6に対応した製品が登場してきた。
Wi-Fi 6の最大速度は、規格上で9.6Gbps(9608Mbps)となっているが、現時点で市場に存在する製品は最大4808Mbps。従来の11acは、規格上の速度が最大6.9Gbpsの一方で製品では2167Mbpsなので、製品ベースでは2倍以上の速度が実現されたわけだ。
個人的には、Wi-Fi 6の普及よりも、規格として成熟している有線LANの10GBASE-Tの方が早く普及するのではないかと予想していたが、やはり時代はワイヤレスを求めているようで、1Gbps越え通信の本命は、すっかりWi-Fi 6となりそうな雲行きだ。
旧世代のIEEE 802.11ac対応製品が登場したのが2013年前後(こちらも当時はまだドラフト版だった)なので、すでに6年が経過したことになる。PCやスマートフォンの世界で6年と言えば、CPUなら何世代かの差があってかなりの性能差が見られる期間だが、無線LANの世界でもWi-Fi 6の登場により、同様に大きな進歩が見られそうだ。
攻めすぎ!ネットギア幅広いWi-Fiルーターのラインアップをいち早く投入
というわけで、Wi-Fi 6の普及を目指して、各分野から新製品が続々と登場している状況なのだが、中でも「攻めている」のがネットギアだ。
同社は、今回だけでなくこれまでも、さまざまな新規格の製品を、国内初ではなく“世界初”としてリリースしてきたメーカー。そして今回のWi-Fi 6対応製品のラインアップも、実にアグレッシブだ。
まず、まだWi-Fi 6が普及し始めた段階なのに、製品ラインアップが幅広い。
通常こうした製品は、ハイエンド向けの尖った製品からリリースしていき、徐々に普及価格帯の製品へと展開していくものだが、ネットギアのWi-Fi 6対応ルーターは、すでに異なる層に向けて3製品をラインアップしている。
しかも、3つのモデルで、それぞれ採用しているWi-Fiチップのベンダーが異なる。具体的には、「Nighthawk AX12」がBroadcom製、「Nighthawk AX8」がQualcomm製、「Nighthawk AX4」がIntel製となっている。手間とコストを考えれば、シングルベンダーに統一する方がはるかに楽なので、「そこまでしなくても……」という気もするが、それだけ各チップベンダーと密接な関係を築いている上、スピーディに製品化できる技術も体力もある証だろう。
さらに、ハイエンドモデルに関しては、Wi-Fi 6の最大速度は一般的な4804Mbpsながら、8ストリームに対応する上(他社は現状4ストリームが最大)、最大5Gbpsに対応した有線LANポートまで備えている(他社は2.5Gbpsが現状の最大)。
とにかく突き抜けて高性能なのだ。
リーズナブルな入門向けモデルから、現状世界最強の8ストリーム+5Gbps LAN対応モデルまで、とにかく豊富なラインアップが揃っているのは、ネットギアならではの特徴だろう。
こんな使い方ならこのモデルを選べ!
それでは、具体的にネットギアのWi-Fi 6対応製品をチェックしていこう。
Nighthawk AX12(RAX120) | Nighthawk AX8(RAX80) | Nighthawk AX4(RAX40) | |
実売価格 | 6万398円 | 4万7795円 | 2万5800円 |
CPU | クアッドコア2.2GHz | クアッドコア1.8GHz | デュアルコア800MHz |
メモリ | 1GB | 1GB | 512MB |
Wi-Fiチップ | Qualcomm QCN5054 | Broadcom BCM43684 | Intel WAV654A0 |
対応規格 | IEEE 802.11ax/ac/n/a/g/b | ← | ← |
バンド数 | 2 | 2 | 2 |
最大速度(2.4GHz帯) | 1.2Gbps | ← | 600Mbps |
最大速度(5GHz帯) | 4.8Gbps | ← | 2.4Gbps |
2.4GHz帯チャネル | 1~13 | ← | ← |
5GH帯チャネル | W52/W53/W56 | ← | ← |
ストリーム数(5GHz帯) | 8 | 4 | 2 |
ストリーム数(2.4GHz帯) | 4 | 4 | 2 |
アンテナ | 外付け(8本) | 外付け(4本) | 外付け2本 |
DS-Lite | × | ← | ← |
MAP-E | × | ← | ← |
WAN/LAN | 5000Mbps×1、1000Mbps×1(WAN)、1000Mbps×4(LAN) | 1000Mbps×1(WAN)、1000Mbps×5(LAN) | 1000Mbps×1(WAN)、1000Mbps×4(LAN) |
USB | 3.0×2 | ← | 3.0×1 |
動作モード | RT/AP/ブリッジ | ← | RT/AP |
最速を目指すなら「Nighthawk AX12」
まずは、最強のモデルとなるハイエンドの「Nighthawk AX12(RAX120)」だが、これは接続台数が多い環境にお勧めだ。
先にも少し触れた通り、このモデルは8ストリームMIMOに対応していて、8本のアンテナを使って8系統の通信を同時に実現できる。
Wi-Fi 6は、「OFDMA」や「MU-MIMO」(上り)といった技術の採用で、最大速度だけでなく複数端末による同時通信時の通信効率が高くなっていることも特徴だ。本製品は、この同時接続に利用できるストリーム数が8と多い。
現状、一般的なWi-Fi 6対応製品はストリーム数4なので、単純に倍のキャパシティがあると考えていい。道路に例えれば8車線の大幹線だ。
これにより、各端末がシングルストリームの場合で8台、2ストリームの場合で4台の同時接続が可能になる。より多くの端末を高速に接続できることは、Nighthawk AX12ならではのメリットだろう。
また、本製品は5/2.5/1Gbpsに対応したLANポートを1つ備えている。最近では、ゲーミングPCを中心に2.5GbpsのLANポートを備えていたり、2.5/5/10Gbpsに対応したNASも一般的になってきたため、こうした機器を有線LANで接続する場合にも対応できる。
8本のアンテナが2つのウイングにうまく収められたおかげで、個性的なデザインではあるもののスッキリとした印象の見た目も特徴だ。
最大速度は、8ストリームHE80(80MHz幅)の4804Mbpsか、4ストリームHE160(80+80MHz)を設定画面で選択する仕様となっている。最高速度だけで見れば4804Mbpsで次のNighthawk AX8と同じだが、同時接続数や有線LAN接続にアドバンテージがある“大容量”モデルと考えるといいだろう。ゲーミングなどの高速な通信環境が必須の用途、デザインや動画制作のオフィスなど、高速な無線と有線のネットワーク両方が必要な環境に最適だ。
Wi-Fi 6の定番となりそうな「Nighthawk AX8」
続いての「Nighthawk AX8(RAX80)」は、Wi-Fi 6の魅力を実用的な環境で堪能できる定番的なモデルだ。
ウイング型のアンテナは上位モデルと共通だが、こちらは片側に2本ずつ合計4本のアンテナを内蔵していて4ストリームMIMOに対応しており、160MHz幅有効時には、最大4808Mbpsでの通信が可能だ。
MU-MIMOの同時接続数は1ストリームで最大4台、もしくは2ストリームで最大2台となるが、OFDMAを組み合わせることで、同時通信時のパフォーマンスを向上できるため、家庭など、2~4人程度の人が1人あたり2~3台の端末を使うような環境なら、十分にWi-Fi 6のメリットを堪能できるだろう。
Nighthawk AX12に比べて、若干価格が安いので、予算を考えるとこちらを選ぶのが現実的だろう。もちろん安いと言っても、後述するNighthawk X4よりは高い。だが、今後の数年間、定番であり続けるWi-Fi 6ルーターということを考えると、長期間の利用で元が取れるはずだ。PCやスマートフォンだけでなく、スマートテレビ、スマートスピーカー、家電、各種センサーなど、急増するWi-Fi子機の接続効率を考えれば、投資としては悪くない。
外付けアンテナの高い性能と、調整不要の内蔵アンテナの利便性、すっきりとした見た目と、イイトコ取りをしたウイング状の新デザインも特徴だ。決して見た目だけでなく、性能を犠牲にしない点も高く評価できる。
11acからの移行に最適な入門機「Nighthawk AX4」
最後のNighthawk AX4は、リーズナブルな価格で次世代のWi-Fi 6を堪能できるエントリーモデルだ。
実売で2万円台半ばと、誰の手にも届く価格設定が特徴で、現在利用しているIEEE 802.11ac以前のWi-Fiルーターから、無理なく買い換えられるモデルだろう。
最大速度は2.4Gbpsで、ストリーム数は2へと変更されている。AX12の8ストリーム、AX8の4ストリームと比べると見劣りするが、実は、この構成は非常に合理的だ。
というのは、スマートフォンやPCなどの子機側の多くと同じスペックだからだ。アンテナの搭載スペースが限られるスマートフォンやPCでは、Wi-Fi 5の時代から2ストリームが最大となる場合が多く、現状のWi-Fi 6対応端末のほとんどで、最大速度は2.4Gbpsまでとなっている。
つまり、端末側でフルスピードを出せる環境となっているため、日常的な利用で不満を感じることはないわけだ。
もちろん、ストリーム数が少ないため、同時接続数に関しては上位モデルにかなわない。それでもOFDMAの効果で、従来のWi-Fi 5(IEEE 802.11ac)と比べれば、同時接続時のパフォーマンス向上は期待できる。
上位モデルから削られているDynamic QoSなどの機能もあるが、スマートフォン向けのアプリを使って簡単に設定や管理することができるため、初心者でも安心して利用できる。まさに入門に最適な製品だ。
なお、3製品とも2.4GHz帯、5GHz帯ともに1系統のデュアルバンドに対応する。
最大64GBメモリ搭載可能もスゴイが1GHz超えのWi-Fi 6対応もスゴイ「ThinkPad P1(Gen2)」
一方、Lenovoから登場した「ThinkPad P1(Gen2)」は、15.6型液晶を搭載したワークステーション。最大64GBまでメモリを搭載できることでも注目を集めたが、最大2400Mbpsを実現可能なWi-Fi 6(IEEE 802.11ax)にも対応した製品だ。
現状、ノートPC向けとなるM.2フォームファクターのWi-Fi 6モジュールとして入手可能なのは、Intelの「Wi-Fi 6 AX200」と、そのOEM製品となるRivet Networksの「Killer AX1650」が存在する。ThinkPad P1に搭載されるのは、このうちの前者。
AX200は、2ストリームMIMO(つまりアンテナ2本)で、160MHz幅に対応したWi-Fiモジュールだ。対応する通信速度は最大2400Mbpsで、従来のIEEE 802.11ac(2ストリームMIMO、80MHz)の最大867Mbpsはもちろんのこと、一般的な有線LANの1Gbpsをも凌ぐ速度を実現可能なものだ。
モバイルワークステーションとして位置付けられるThinkPad P1は、薄型ながら、4K IPS液晶や高性能なCPU/GPUを搭載した、かなり豪華な構成となっている。こうした基本性能だけでなく、Wi-Fiまでしっかりと最高スペックで揃えられている。今回はこちらを11ax対応Wi-Fi子機として、以下の検証を行っている。
ThinkPad P1(Gen2) | |
製品番号 | 20QU0009JP |
直販価格(税込) | 44万4000円 |
CPU | Intel Core i7-9850H(6コア、2.6GHz) |
メモリ | 16GB(PC4-21300 8GB×2) |
SSD | 512GB(M.2 NVMe接続) |
Display | 15.6型(3840×2160ピクセル) |
ビデオ | NVIDIA Quadro T2000(4GBメモリ) |
USB | USB Type-C×2、USB 3.0(Type-A)×2 |
HDMI | 1 |
有線LAN | 1000BASE-T |
Wi-Fiチップ | Intel Wi-Fi 6 AX200 |
Bluetooth | 5.1 |
バッテリ | 4セル固定式(使用時間10.1時間) |
サイズ | 約361.8×245.7×18.4mm |
重量 | 約1.7kg |
Nighthawk AX4の実力を試す11acより確実に高速、遠距離でも速度を維持
それでは、エントリーモデルである「Nighthawk AX4」の実力をチェックしてみよう。
次のグラフは、筆者宅(木造3階建て)の1階にアクセスポイントを設置し、各フロアでiPerf3の速度を計測したものだ。
比較対象として、IEEE 802.11ac(867Mbps)接続のMacbook Airでも値を計測しているので、その違いに注目してみよう。
1F | 2F | 3F入口 | 3F窓際 | ||
ThinkPad P1 | 上り | 721 | 438 | 302 | 77.4 |
下り | 763 | 422 | 308 | 93 | |
MacBook Air | 上り | 551 | 247 | 138 | 21.4 |
下り | 668 | 500 | 324 | 51.5 |
結果を見ると、Wi-FiルーターとしてのNighthawk AX4が全体的に優秀であることが分かる。LANポートが1Gbps対応で、Wi-Fiが2.4Gbpsでリンクしても有線LANがボトルネックになってしまい、実力をフルに活かせていないものの、近距離ではIEEE 802.11acより確実に速い結果が得られている。
2階以上では、環境や周囲からの干渉などの影響もあって、その差は縮まるが、ルーターから最も遠い3階端でも、IEEE 802.11acより良好な結果が得られている。これなら、現在のWi-Fiルーターから乗り換えることを検討したいところだ。
このように、ネットギアのNighthawkシリーズは、エントリーモデルから超ハイエンドまでラインアップする豊富な構成によって、Wi-Fi 6(IEEE 802.11ac)をより身近な存在にしたと言える。
個人的には、最上級モデルのNighthawk AX12がやはり気になるが、身の回りでお勧めを問われたら、やはりエントリーモデルのNighthawk AX4を勧めるだろう。この価格でWi-Fi 6に乗り換えられるのは、何よりも大きな魅力だ。
(協力:ネットギアジャパン合同会社)