清水理史の「イニシャルB」
トライバンドで速いメッシュ! しかもコンセント直結でコンパクト!
知る人ぞ知る名機「J:COMメッシュWi-Fi」を試す
2020年1月27日 06:00
ケーブルテレビ事業者として知られるジュピターテレコム(J:COM)から、同社のインターネット接続サービス向けオプションとして、「J:COMメッシュWi-Fi」というサービスの提供が開始された。
月額料金で使えるWi-Fi機器のレンタルサービスだが、何と言っても提供されるハードウェアが注目だ。トライバンドなのに、コンセント直結でコンパクトな米Plume Design開発の「SuperPods」が提供されるのだ。
トライバンド対応なのにコンパクト、コンセント直挿しタイプの魅力的な製品
メッシュと中継機は絶対にトライバンド。
個人的にはそう決めているが、トライバンド対応のWi-Fiアクセスポイントは「価格が高く」「サイズが大きい」製品が多く、誰にでもオススメできるような製品とは言えなかった。
しかし、そうした傾向も、どうやら変わりつつあるようだ。
ケーブルテレビ事業者として知られるJ:COMから「J:COMメッシュWi-Fi」というサービスが登場しているが、そのユーザー向けに提供されるWi-Fiアクセスポイントが、トライバンド対応ながら「手ごろな価格」と「小さなサイズ」を実現したメッシュ製品なのだ。
もちろん、同社のインターネット接続サービスである「J:COM NET」の契約者向けオプションサービスなので、誰でも使えるわけではない。しかし、月額800円(指定プラン契約時、標準価格は月額1000円、税別)という価格面もさることながら、コンセントに直結できる手のひらサイズのコンパクトさが、非常に魅力的な製品となっている。
そのハードウェアの外観から、海外でWi-Fiのサブスクリプションサービスとして知られている「Plume」の日本版であることは明らかだが、この製品が、手厚いサポートで知られる日本のケーブルテレビ事業者によって国内で展開されるようになったことは、正直、想定外だった。
前述したように、本来はJ:COMのインターネット接続サービス加入者向けだが、今回は特別にアクセスポイントのみをお借りできたので、その実力を評価してみた。
手のひらサイズ
「本当にトライバンドなの?」
J:COMメッシュWi-Fiの機器(ポッド)を実際に手に取ると、そんな疑いすら思い浮かんでくる。サイズは95.5×86.7×39mm(幅×奥行×高さ)と手のひらに収まるほどで、非常にコンパクトだ。
六角形で、正面やや左のLEDに向かって微妙に窪んだデザインも特徴的だが、このサイズ感は絶妙だ。
背面にあるコネクタを使って壁のコンセントに直接挿せるのだが、実際に設置しても見逃してしまうほど控えめで、2口あるコンセントの下側に接続すれば、もう1つのコンセントも問題なく使える。
インターフェースは、前述した通り、前面にある小さなLEDが1つ、底面にLANポートが2つあるだけとシンプルだ。
そのスペックは以下の通りなのだが、個人的には3系統の無線モジュールとアンテナが、一体どうやってこの小さな筐体の内部に収められているのかが気になるところだ。とにかくコンパクトに仕上がっている。
J:COMメッシュWi-Fi | |
料金(税別) | 800円/月※ |
CPU | ARM A7(クアッドコア、717MHz) |
メモリー | 512MB |
対応規格 | IEEE 802.11ac/n/a/g/b |
バンド数 | 3 |
最大速度(2.4GHz) | 400Mbps |
最大速度(5GHz-1) | 867Mbps |
最大速度(5GHz-2) | 1734Mbps |
チャネル(2.4GHz) | 1-13ch |
チャネル(5GH-1) | W52/W53/W56 |
チャネル(5GH-2) | W52/W53/W56 |
ストリーム数 | 2(5GHz-1)、4(5GHz-2) |
アンテナ | 内蔵 |
WAN/LAN | 1000Mbps×2(共用) |
USB | - |
Bluetooth | ○(設定用) |
IPv6 | ○ |
動作モード | ルーター/アクセスポイント/リピーター/ブリッジ |
サイズ(幅×高さ×奥行きmm) | 95.5×86.7×39mm |
※指定プラン契約時
メッシュWi-Fiの製品は、家の中で複数の場所に設置されるため、目立つところに置いても違和感のないデザインが採用されることが多いが、本製品の場合は足下に設置されることが多くなるため、違和感がないどころか、存在感すらない。
シルバーの塗装も、どのような雰囲気の部屋にも違和感なく溶け込むため、これならリビングはもちろん、廊下や寝室などに設置しても全く邪魔にならないだろう。
LANポートは、両方ともギガビット対応だが、どちらがLANでどちらがWANという区別がなく、自動的に識別されるようになっているため、接続ミスなども発生しない親切さだ。接続に加え、後述する通り設置も「意識しなくていい」設計になっているのは、この製品の最大の美点となっている。
かんたんなメッシュがさらにカンタンに
その設置についてだが、初期セットアップはメッシュ製品らしくとてもカンタンだ。スマートフォン用のアプリを使って、初期設定や設置後の管理ができるようになっているが、それすら自分でやる必要がない。
なぜなら、そうした設置や設定は、J:COMの作業担当者が自宅に訪問してやってくれるからだ。その上、導入前には、現状のWi-Fiの悩みを解決するための相談にも乗ってくれる。このため、設定や設置の手間は全く掛からないわけだ。
メッシュの場合、最大の課題は「何台の機器をどこに設置するか?」だ。
筆者の場合、過去に何種類ものメッシュ対応機器を繰り返しテストしてきた経験から、「3台は過剰で2台がベスト、1台目は仕事部屋のラック、2台目は3Fの階段踊り場に設置するのが最適」という自分なりの答えを見つけているが、通常は導入後に試行錯誤して答えを探し出す必要がある。
しかし本製品の場合、豊富なノウハウを持ったJ:COMの作業担当者がこうした相談に乗ってくれるし、後述するようにクラウドと連携して、メッシュにおける通信の最適なパターンを適用してくれる。このため、家の構造や使い方などによって、最適な台数と設置場所で最初から使うことができる仕組みになっているわけだ。
J:COMが提供するこのサービスの隠れたメリットは、この点にあるとすら言えるだろう。
なお、専用のスマートフォンアプリの完成度も高く、「家庭内に設置した機器(ポッド)同士がどのように接続されているか?」「どのポッドに何台のクライアントが接続されているか?」「クライアントごとの通信速度はどれくらいか?」といった情報も、カンタンに確認できるようになっている。
メッシュWi-Fi製品は、その手軽さも特徴ではあるので、こうした情報はあえてユーザーに提供しないメーカーも多い。だが、実際にポッド間が何GHz帯の何chで接続されているかという情報は、Wi-Fi機器とはいっても2.4GHz帯しか対応しないIoT機器やネットワークカメラなどの製品を使う場合や、後々接続トラブルや通信速度の低下が発生したときなどに役立つ。
なお、メッシュWi-Fi機器でもデュアルバンド対応の製品は、機器間を結ぶ基幹に2.4GHz帯を割り当ててしまう場合があり、これが速度低下を発生させる原因になることもある。本製品はトライバンドに対応する製品なので、基幹に最大1734Mbpsの5GHz帯を利用することができる。
実際に筆者宅に設置した場合も、最終的に124ch(5GHz帯のW56のチャネル)が基幹の通信に用いられていた。
本製品では、AIを利用してパフォーマンスを最大化できるという。具体的には、本製品を用いたメッシュWi-Fi構成の各種データをクラウドのデータベースへ蓄積して、ポットの数や位置関係、Wi-Fi子機の接続数など、類似した環境のものを照らし合わせ、周囲のチャネルの空き状況などもきちんと確認した上で、最適なチャネルを選択するようになっているという。
メッシュや中継機の利用では、基幹(中継用)のチャネル選択が、安定した通信や高いパフォーマンスの実現に欠かせない要素の1つとなる。
本来メッシュでは、こうしたチャネル選択が自動的に行われるが、機器によっては賢いとは思えない選択をしてくる場合がある。本製品ではきちんと空いている周波数帯が選択されるので、「カシコサ」という点からも心配はないと言える。
このほか、機能的にはゲスト向けのSSIDが容易に設定・共有できるようになっていたり、ウェブフィルタリングなどのセキュリティ機能も搭載している。
パフォーマンスはかなり良好
最後に、パフォーマンスをチェックしておこう。
以下は、木造3階建ての筆者宅の各階でiPerf3による速度を計測した結果だ。前述したように、筆者宅でメッシュを使う場合、1Fに1台、3Fに1台を設置する2台構成が最適なのだが、今回は3台構成での値も計測してみた。
1F | 2F | 3F入口 | 3F窓際 | ||
ThinkPad P1 | 上り | 646 | 439 | 498 | 416 |
下り | 547 | 473 | 477 | 463 | |
iPhone 11 | 上り | 577 | 424 | 518 | 373 |
下り | 637 | 478 | 519 | 422 |
1F | 2F | 3F入口 | 3F窓際 | ||
ThinkPad P1 | 上り | 654 | 263 | 328 | 501 |
下り | 574 | 252 | 455 | 460 | |
iPhone 11 | 上り | 550 | 214 | 475 | 271 |
下り | 634 | 258 | 537 | 424 |
※サーバー:Synology DS1517+
結果は、非常にいい。過去テストした製品の中でもトップクラスだ。
上のグラフ2台設置時の結果だが、1Fで最大646Mbpsの結果は、867Mbps接続のWi-Fi子機としては普通だが、2F、3F入口、3Fの端にある窓際のどこで計測しても、ほぼ400Mbpsオーバーをマークしている。ちょっと速すぎる印象さえある。
一方、3台設置した場合には、やはり2Fの速度がやや落ちるようだ。3台設置した場合、ポッド同士の接続は、3Fがハブになる接続形態となり、1Fと3Fが124ch、3Fと2Fが44chで接続されていた。
つまり、2FのWi-Fi子機は、2Fのポッド→3Fのポッド→1Fのポッドという経路で接続されることになり、ここがボトルネックとなっている。これがメッシュの怖いところで、間取りや電波状況によっては、こうした経路の無駄が発生することがあるため、単純に多く設置すればいいという話にならない点は、注意したいポイントだ。
とは言え、3台設置でも最低で214Mbpsで接続できており、まあ困ることはない。
家中どこでも200Mbpsオーバーでもかなり快適だが、400Mbpsオーバークラスになるのだから、不満を感じることはまずないだろう。
今回は、テストのためWi-Fi子機は1台のみで計測しているが、これくらいのキャパシティがあれば、複数台のクライアントが接続されている場合にも、1台あたりの速度を高く確保できるため、快適な環境が得られることは間違いない。
正直、サイズが小さいことから、アンテナの性能に限界があるのではないかと思っていたが、全く心配ないレベルだ。非常に優秀な製品と言っていいだろう。
一般向けにも提供してほしい
以上、「J:COMメッシュWi-Fi」を実際にテストしてみたが、欠点らしい欠点がない。
小さくて目立たないし、価格も手ごろだし、設置に訪問してくれるし、パフォーマンスもかなりいい。
唯一の課題は、J:COMのユーザーしか契約できない点だろう。今後、一般向けというか、この製品だけの単独契約も可能になると、面白い存在になるのではないだろうか。
いずれにせよ、製品としては文句のない仕上がりで、条件さえ合えば、誰にでもお勧めできるものと言える。