清水理史の「イニシャルB」
「タフ」なWi-Fi 6ルーターがASUSから登場、テレワークに便利な機能も多数搭載
「TUF GAMING」初のルーター製品、QoSやVPN、ポート開放
2020年7月27日 10:00
ASUS製のマザーボードなどではお馴染みの「ROG」や「TUF」といったゲーミングブランドが、ついにWi-Fiルーターにも本格展開されるようになった。
既発売の「ROG」に続いて登場した今回の「TUF」は、安定性や耐久性が特徴となるシリーズ。ゲーミングシーンに必要な性能や機能を、リーズナブルな価格設定で提供する高コスパモデルでもある。ルーターの知識ゼロでも使えるQoSや、ポート開放などのゲーミング機能を中心に、その魅力に迫ってみた。
⾼耐久・⾼安定の「TUF」シリーズ初のルーター
ASUSのルーターと言えば、レッドのカラーが特徴的な「ROG」シリーズを思い浮かべる人が多いかもしれない。今回登場した「TUF-AX3000」は、ASUS製でもイエローのワンポイントが印象的な「TUF」ブランドが冠された、初のWi-Fiルーターとなる。
とことん性能を追求したROGシリーズに対し、安定性や耐久性を追求したTUFシリーズは、「ゲーミング」の要件を満たすための品質や機能を維持しつつ、スペックと価格を控えめに設定することで、誰でもゲーミングルーターの世界を堪能できるようにした製品となっている。
スペックでは、Wi-Fi 6への対応が最大のトピックだ。5GHz帯で最大2402Mbpsでの通信に対応しており、対応バンド数は2.4GHz帯と5GHz帯が1つずつのデュアルバンドとなる。Wi-Fi 6は、対応するMIMOのストリーム(空間多重化)の数と利用する電波の帯域幅で速度が変わるが、本製品は2ストリームで160MHz幅対応となるので、2402Mbpsとなるわけだ。
Wi-Fi 6対応子機では、スマートフォンでは2ストリーム80MHz幅の1201Mbps対応が主流だが、ノートPCや、デスクトップPC内蔵タイプのWi-Fiアダプターでは、2ストリーム160MHzの2402Mbps対応が主流だ。
このような状況を受け、PCの2402Mbpsという通信速度を最大限に発揮できる環境をリーズナブルに実現できるようにしたのが、本製品ということになる。
最大4804Mbpsとなるトライバンド対応のROGシリーズに比べれば速度は控えめながら、Wi-Fi 6対応子機の最大速度は、現状では前述した通り、PCの2402Mbpsが上限だ。このため、Wi-Fi 6の魅力をフルに堪能できると言っていいだろう。
ゲームのダウンロードや対戦などでの通信環境を改善できるのはもちろん、最近増えてきたテレワークなどで、より広いエリアを高速な通信でカバーしたい、といったニーズにも対応できるようになっている。
TUF-AX3000 | |
実売価格(税込) | 2万1700円 |
CPU | Broadcom 6750(トリプルコア、1.5GHz) |
メモリ | 512MB |
Wi-Fi対応規格 | IEEE 802.11ax/ac/n/a/g/b |
バンド数 | 2 |
最大速度(2.4GHz) | 574Mbps |
最大速度(5GHz) | 2402Mbps |
チャネル(2.4GHz) | 1-13ch |
チャネル(5GHz) | W52/W53/W56 |
ストリーム数 | 2 |
アンテナ | 4本(外付け) |
WAN | 1000Mbps×1 |
LAN | 1000Mbps×4 |
USB | USB 3.1 Gen1×1 |
WPA3 | ○ |
サイズ(幅×奥行×高さ) | 265×177×55mm |
ウリは「ゲーミングルーター」だが、テレワークにも有効な7つの機能
とは言え、「ゲーミング」なルーターと言っても、何がスゴイのかピンと来ないという人も少なくないかもしれない。
本製品を導入することで、ゲームが快適にプレーできるようになる理由は大きく分けて7つある。そして、こうした機能のなかには、昨今広まっている在宅勤務でのテレワークに有用なものも多い。順に確認していこう。
1. 同時通信に強いWi-Fi 6
前述したように、最大2402Mbpsで通信できる点が魅力のTUF-AX3000だが、Wi-Fi 6に対応することの魅力はもう1つある。
それは、複数台の端末での同時通信に強いことだ。OFDMAと呼ばれる技術が採用されているWi-Fi 6では、通信可能な帯域に複数台の端末のデータを相乗りさせるようにして、同時に送受信することができる。
これにより、例えば、スマートフォンで動画を見ている人、家庭用ゲーム機で対戦している人、PCでビデオ会議をしている人が、同時ルーターに同時につないでいたとしても、それぞれの通信速度が低下しにくい設計になっているのだ。
ゲーム環境での利用を想定した製品ではあるが、家族などでWi-Fiを共有している場合、ゲーム環境が快適になるだけでなく、同時に使っている普段のスマートフォンでの利用やテレワーク環境も快適になるわけだ。
2. ゲーム機用有線LANポート搭載
ゲームはもちろんのこと、ビデオ会議など高い通信速度と低遅延が要求されるようなシーンでは、有線LANでつなぐことの安心感は格別なものがある。
TUF-AX3000では、こうした有線LANをさらに快適に使えるようにするプラスアルファの機能が搭載されている。それが、4つある有線LANポートの右端に用意されている「Gaming Port」だ。
このポートには、いわゆるQoSによる優先制御が設定済みとなっていて、ほかのポートよりも通信が優先的に処理されるようになっている。
このため、ゲーミングPCやコンシューマーゲーム機、テレワーク用のデスクトップPCなどを接続しておくことで、これらの通信を優先させることができる。
「QoSって何?」と言う人でも、「ただつなぐだけ」で、その恩恵を受けられるので、ゲーミングルーターの中でもエントリー向けに設定されている本製品らしいメリットと言えるだろう。
3. 用途や端末を選ぶだけで使える「AdaptiveQoS」
有線ではなく無線を優先したい! というなら、設定画面から手動でQoSを設定すればいい。
と言っても、ここでも難しい設定は不要だ。ASUSのハイエンドルーターにも搭載されているのと同じ「AdaptiveQoS」の機能が本製品にも搭載されているため、アプリを選んだり、端末の順番を変えるだけで、優先的に処理する通信を簡単に選べるようになっている。
このため、無線でつないだゲーム機を優先処理させたり、ゲームやビデオ通話などのアプリを指定したりして、特定のアプリを利用した際の通信を端末を問わずに優先処理させることができる。
さらに「モバイルゲームブースト」による端末の優先設定も用意されている。これは、スマートフォン向けの管理アプリから簡単に制御できるので、ゲームのプレー開始時にサッと設定できるメリットもある。
QoSの効果は、非常にわずかな時間軸の世界で効果が発揮されるものなので、普段の通信速度などが劇的に変わるわけではない。ただし、家族全員が家で何らかの通信をしているような混雑した状況の中で、ゲームやビデオ通話の遅延をわずかでも減らしたいという場合には、効果があるだろう。
4. 3ステップでできるポート開放
ポートの開放は、一部のゲームなどで自宅をサーバーとして公開したい場合に、必要となる機能だ。
伝統的なルーターでは、高度な機能に分類され、設定が分かりにくいことが多かったものだが、本製品ではリストからゲームを選ぶだけの簡単なステップで、特定のポートを開放することが可能だ。
この機能のすばらしい点は、ポートを開けるだけでなく、ポートを閉じるのも簡単という点にある。
ポート開放の設定が分かりにくいようなルーターでは、一度開放されたポートが放置されて開きっぱなしになりがちで、外部から不正アクセスされる危険が大きかった。現在使っているルーターでも、誰が何のために設定したのかが思い出せないポートが開放されっぱなしのままになっている可能性があるので、チェックしてみた方がいい。
これに対して、本製品ではメニューから簡単に設定画面へたどり着ける上、ポート開放をまとめてオン・オフできるので、ゲームをホストとして動作させたいときだけサッとポートを開放し、終わったらすぐに閉じる、といった設定が容易に行える。
子どもがゲームの対戦をしたいがために、よく分からずにポートを開けてしまう場合があるが、こうしたリスクが残ってしまうことを防げるのは、単に手軽というだけでない。セキュリティ対策としても、よく練られた工夫と言えそうだ。
5. コンシューマーゲーム機でもVPN接続OK
本製品には、端末ごとに異なるVPNサービスを使い分けることができる「VPN Fusion」という機能が搭載されている。
通常のVPN接続では、端末のクライアント機能を使って接続するのが一般的だが、この機能を利用すると、VPNクライアントを搭載しないゲーム機やIoT機器などでもVPN接続が可能になる。例えば、コンシューマーゲーム機のタイトルで、海外のサーバーに接続したい場合などには特に有用だろう。
もちろん、接続先は端末ごとに制御できるため、例えば、テレワーク用のPCは会社のVPNに、ゲーム機は海外のゲームサーバーにつなぐためのVPNに接続し、スマートフォンはVPNなしでインターネットに接続するというように、端末ごとに通信経路を変えられる。
こうした機能は他社のルーターには見られないもので、なかなか斬新だ。
6. セキュリティ対策も「AiProtection」で万全
ASUSのルーターでは、もはやお馴染みのトレンドマイクロの技術を使ったセキュリティ機能「AiProtection」も搭載されている。
スマートフォンやPCは、セキュリティ対策ソフトをインストールすることでマルウェアの脅威から保護できるが、ゲーム機やIoT家電などはこうした対策が難しい。AiProtectionでは、危険なサイトへのアクセスを遮断したり、家庭内の端末がマルウェアに感染して外部と不正な通信をしようとするのを遮断できるため、安全性を確保できることになる。
子どもの利用時間を制限したり、接続できるコンテンツを制限する機能も搭載されている。ゲーミングルーターと言っても、ゲームばかりに子どもが時間を浪費することも防げるわけだ。
7. 後からエリアを広げられる「AiMesh」
最後のメリットは通信エリアの拡大だ。TUF-3000AXはWi-Fi 6対応のため、単体でも高速な通信が可能な上、通信エリアも比較的広い。それでも、1台のアクセスポイントでカバーできるエリアは限られている。
特にマンションなどの鉄筋造りで5GHz帯の電波が通りにくく、遠くの部屋や間に遮へい物(壁)が多い環境では、満足な通信速度が得られないこともある。
本製品は、ASUSのWi-Fiルーターの多くのモデルがサポートしている「AiMesh」という独自のメッシュWi-Fi機能に対応しており、複数台のAiMesh対応ルーターで電波を中継し合うメッシュWi-Fiを手軽に構成できる。
要するに、本製品をもう1台、もしくはAiMesh対応のWi-Fiルーターを追加することで、通信エリアを拡大できるわけだ。
Wi-Fiの電波がどこまで届くかは環境によって大きく異なるため、実際に設置してみないと何とも言えない。もしかしたら、1台でも十分にカバーできるかもしれないし、そうではないかもしれない。本製品であれば、後から簡単にAiMeshで台数を増やせるため、無駄なく確実に通信エリアを拡大できるのが特徴だ。
最も遠い3F奥でも下り300Mbpsと優秀
それでは、実際の性能をチェックしてみよう。木造3階建ての筆者宅の1階に本製品を設置し、各階でiPerf3による速度を計測したのが以下のグラフだ。
1F | 2F | 3F入口 | 3F窓際 | ||
iPhone 11 | 下り | 632 | 338 | 262 | 131 |
上り | 464 | 334 | 278 | 106 | |
PC | 下り | 658 | 506 | 354 | 299 |
上り | 519 | 504 | 377 | 254 |
※サーバー:Synology DS1517+、PC:Intel AX200搭載ノート
結果を見ると、なかなか優秀だ。同一フロア内の1階は、最大で658Mbpsと飛び抜けて速いという印象ではないが、安定した速さを実現できている。
特に優秀なのは長距離だ。3階の入口付近で300Mbps超えと、かなり高い速度が計測できている上、最も遠い3階窓際でも299Mbpsと、300Mbps近い速度が出ている。これはかなり優秀だ。
さすがに80MHz幅で最大1201MbpsまでとなるiPhoneでは、100Mbps前後へ落ち込んでしまうものの、160MHz幅の通信が可能で、2402Mbpsで接続できる対応PCであれば、長距離でもかなり快適に利用できるはずだ。
もちろん、こうした高い速度で通信するには、端末側もWi-Fi 6に対応している必要がある。冒頭でも触れた通り、PCの世界は2402MbpsのWi-Fi 6対応子機が珍しくない上、スマートフォンも最新モデルなら多くが対応済みで、今後登場が予定されている次世代ゲーム機も対応が予想されている。
テレワークの普及もあり、家庭の回線環境やWi-Fi環境の見直しが進んでいることを考えると、リーズナブルな価格で、最新のWi-Fi 6とゲームはもちろん、あらゆる用途で快適な通信環境が得やすいTUF-AX3000は、買い換えの候補として優先的に考えたい製品と言ってよさそうだ。
(協力:ASUS JAPAN株式会社)