清水理史の「イニシャルB」
メッシュWi-Fiなのに1台3千円! 「あえて11ac」で格安メッシュを組める「TP-Link OneMesh」を使ってみた
2021年1月18日 06:00
メッシュWi-Fiに対応するルーター+中継機が1台あたり3000円を切り、しかも「メッシュ」対応のセットなのだから、おそれ入る。
いずれもWi-Fi 5ことIEEE 802.11acに対応する、Wi-Fiルーターの「Archer C6(V2.0)」が2780円、中継機「RE300」が2780円で、2台セットでは実売価格5560円(いずれも税込)。
「Wi-Fi 5でいい」と割り切れるなら、在宅勤務の電波環境を「極安」で改善できる組み合わせと言えそうだ。
「リビングでつながれば十分」から6千円で「家中どこでも快適に」
5560円は、2021年1月12日時点のAmazon.co.jpでのセール価格なので、通常時はもう少し高くなる可能性があるが、「TP-Linkの価格戦略おそろしや」と言わざるを得ない。
11ac(Wi-Fi 5)対応のエントリーモデルなら、3千円台のWi-Fiルーターを見かけることもあるが、ルーター単体で2千円台と安価で、ルーター+中継機、しかもメッシュWi-Fi対応の組み合わせが6千円以下というのは、頭1つ抜けた存在だろう。
テレワークの普及で、家でオンラインでの会議や授業、飲み会などが一般化するようになり、家庭内の電波環境の弱点が見えてきたという人も、少なくないはずだ。
Wi-Fiはこれまでなら「リビングでつながれば十分」という発想だっただろうが、家族と離れて仕事に集中できる寝室など離れた部屋でもWi-Fiを使う機会が増え、「家中どこでもWi-Fiが快適につながらないと困る」という状況になりつつある。
Wi-Fiの電波環境を改善する方法は大きく2つある。1つは、高性能な最新規格のWi-Fi 6に対応するルーターへ入れ替える方法だ。しかし、Wi-Fi 6対応ルーターは手が届きやすくなったとは言え高価で、特に家中くまなく電波をカバーできるようなハイエンド製品だと、2万円オーバーも珍しくない。
もう1つは、中継機を使って、今使っているWi-Fiのエリアを拡張する方法だ。中継機なら数千円で購入できるので、コストを抑えつつWi-Fiのカバーエリアを広げることができる。
しかし、低価格な中継機は、親機のSSID(接続先)と中継機のSSIDが別々になってしまう製品が多い。スマホやPCなどのWi-Fi子機をつなぎ変える手間や、接続先を切り替える際の瞬断が発生し、使い勝手があまり良くない場合があった。
TP-Link OneMeshに対応したルーターと中継機の組み合わせは、この両者の課題をまとめて解決してしまおうというものだ。
無線の性能を11acの最大867+300Mbpsに留めることでコストを抑えつつ(詳細は後述)、独自技術である「TP-Link OneMesh」に対応することで、ルーターと中継機の間のローミングをシームレスに行うことができる。
つまり、たった6千円の投資で、今までWi-Fiの死角になりやすかった家の端にある部屋や遠い部屋なども、複数台を組み合わせるメッシュWi-Fiでカバーしつつ、移動しながらでもシームレスなつなぎ換えができる環境が手に入ることになる。
現状、Wi-Fiがつながらない部屋があるという場合はもちろんのこと、オンライン会議が切れる、ゲームのダウンロードが遅いなどの悩みを抱えている場合は、試してみる価値のあるソリューションと言えそうだ。
Archer C6 | RE300 | |
実売価格(税込) | 2780円※ | 2780円※ |
CPU | Qualcomm CPU | - |
メモリ | - | - |
対応規格 | IEEE 802.11ac/n/a/g/b | ← |
バンド数 | 2 | ← |
最大速度(5GHz) | 867Mbps | ← |
最大速度(2.4GHz) | 300Mbps | ← |
チャネル(5GH) | W52 | 自動 |
チャネル(2.4GHz) | 1-13ch | 自動 |
MIMOストリーム数 | 2 | ← |
アンテナ | 外付け(4本) | 内蔵 |
WAN | 1000Mbps×1 | - |
LAN | 1000Mbps×4 | - |
IPv6 | ○ | ○ |
MAP-E/DS-Lite | - | - |
本体サイズ(幅×奥行×高さ) | 230×144×35mm | 124×69×52mm |
※2021年1月12日時点
なんでこんなに安いのか?
それにしても、どうして、このセットはこんなに安いのだろうか?
もちろん、これには理由がある。
対応規格が「あえてWi-Fi 5」
Archer C6およびRE300が低価格な最大の理由は、先にも触れた通り、対応する無線規格が、5GHz帯がIEEE 802.11ac、2.4GHz帯がIEEE 802.11nまでで、どちらの製品も5GHz帯が最大867Mbps(2ストリーム80MHz幅)、2.4GHz帯が最大300Mbps(2ストリーム40MHz)に抑えられているからだ。
最新のIEEE 802.11ax(Wi-Fi 6)は2ストリーム80MHz幅で最大1200Mbpsで通信できるので、これには劣るが、いずれにせよ多くの家庭ではWi-Fiルーターが1Gbpsの有線LANで回線に接続されているため、867Mbpsでも十分な速度と言える。
スマートフォンやパソコン、ゲーム機なども、最新機種はWi-Fi 6対応となるものの、現状、身の回りにある製品の多くが、まだIEEE 802.11ac(Wi-Fi 5)対応であることを考えると、「これでも十分」と考えられる。
メッシュWi-Fiの組み合わせを限定
同社独自のメッシュWi-Fi技術である「TP-Link OneMesh」は、ルーターを複数台組み合わせたメッシュWi-Fi構成には対応しておらず、ルーター+中継機という組み合わせで利用する必要がある。
例えば、今回のArcher C6(ルーター)とRE300(中継機)の組み合わせは問題ないが、Archer C6+Archer C6という組み合わせでは、メッシュWi-Fiを構成できないことになる。
このように、接続できる組み合わせを限定することで、相互接続性の手間や通信を最適化するためのチューニングの労力を省き、コストを削減しているわけだ。
わざわざ中継機があるのに、ルーター同士で組み合わせる理由もないので、デメリットではあるものの実害は事実上ないものと言えるだろう。
中継機の台数は3台まで
TP-Link OneMeshでは、ルーター1台に対して中継機を3台以上接続することは推奨されない。また、2台以上の中継機を利用する場合、全ての中継機をルーターへ接続すること(並列接続)が推奨されている。
接続方法が限定されるのはメッシュWi-Fiらしくないが、日本の家屋であれば実質的にルーター+中継機×1の構成で十分カバーできるので、これもデメリットとは言え、実質的には気にしなくていいだろう。
中継機は中継専用に特化
RE300はWi-Fiの中継専用で、本体に有線LANポートを搭載しない。無線の範囲を広げたいとの用途へ特化することで、コストを抑えている。
このように、なぜ安いのかを理解した上で使えば、デメリットもデメリットではなくなり、「安さ」というメリットを最大限に享受できるようになるわけだ。
3階の電波状況が劇的に向上
では、実際にどれくらいの効果が出るのかをテストしてみよう。以下は、木造3階建ての筆者宅で、1階にArcher C6を、3階の階段踊り場にRE300を設置し、iPerf3により速度を計測した結果だ。
1F | 2F | 3F入口 | 3F窓際 | ||
Archer C6単体(1F) | 上り | 537 | 237 | 69 | 16 |
下り | 593 | 371 | 152 | 23 | |
Archer C6(1F)+RE300(3F) | 上り | 528 | 137 | 169 | 162 |
下り | 585 | 175 | 198 | 195 |
※Wi-Fi子機はiPhone 11で測定
結果を見ると、Archer C6のみの場合は、3階端で23Mbpsほどだった速度が、RE300との組み合わせで195Mbpsと、大幅に改善されている。
メッシュWi-Fiの場合、中継機を設置する場所によって速度が変わるため、今回のテストは一例に過ぎないが、TP-Link OneMesh構成の方が明らかに速度が高いと言えるだろう。
気になるのは、TP-Link OneMesh構成では2階の結果が単体より落ち込んでいる点だが、メッシュWi-Fiや中継機を使った場合には、割とよく見られる現象だ。
Archer C6が設置されている1階と、RE300が設置されている3階の間に位置する2階では、1階のArcher C6に直接つなげば単体と同じ速度が出るが、この測定時には、おそらく3階のRE300に接続されてしまい、2階→3階→1階というルートをたどっていた可能性がある。
とは言え、2階で下りで175Mbpsを実現できているので、実用上は全く問題ない印象だ。
このようにルーター単体利用時に比べて劇的にWi-Fi環境を改善できるArcher C6+RE300の組み合わせだが、欲を言えば家中どこでも200Mbps以上を実現できるのが理想と言えるので、もう少し速度が欲しいところだ。
例えば、セットでの実売価格は1万円強とはなるが、後述するArcher AX20+RE505Xの構成などを利用すれば、より高い速度を実現可能になる。予算に余裕がある場合は、こうした上位モデルの利用を検討してもいいだろう。
しかしながら、家中でWi-Fiがつながる上、接続の切り替えもスムーズになるメリットはやはり大きい。例えば、動画などを再生しながら1階から3階へと移動しても、動画の再生が途切れることなく接続先を切り替えることができた。これなら、テレワークでオンライン会議の最中に部屋を移動する必要があっても、会議を中断せずに利用できるだろう。
TP-Link OneMesh対応ルーターを使っていればRE300のプラスだけでOK
もちろん、TP-Link OneMeshは、今回のArcher C6とRE300だけでなく、TP-Link OneMesh対応製品同士なら、ほかの製品同士の組み合わせでも利用可能だ。
製品によっては、TP-Link OneMesh対応ファームウェアへ更新する必要があるが、TP-Link OneMesh対応機器のウェブページに掲載されている機器であれば、ルーター+中継機の組み合わせでTP-Link OneMeshが利用可能だ。
例えば、IEEE 802.11acなら「Archer C7 V5」(1300/450Mbps)と中継機のRE300を組み合わせてもいいし、コスパ最強のWi-Fi 6ルーター「Archer AX20」(実売価格7200円前後)にWi-Fi 6中継機「RE505X」(同6200円前後)を組み合わせてもいい。
現在、TP-Link OneMeshに対応したルーターを使っているなら、対応中継機をプラスするだけで大幅に通信エリアを拡大できるので、導入を検討してみるといいだろう。ハイエンドのゲーミングルーター「Archer AX11000」や、ベストセラーモデルとなった「Archer AX10」なども、今後のファームウェアアップデートで対応予定となっているので、組み合わせの幅はさらに広がりそうだ。
なお、中継機の追加は、Android/iOS向けのの「Tether」アプリで簡単にできる。アプリから簡単な操作で中継機を追加するだけなので、初めてでも迷うことはないだろう。
ちなみに、中継機の最適な設置場所は環境によって異なるが、個人的には中継の品質を考慮して配置することをおすすめしたい。具体的には、ルーターと中継機の間になるべく遮へい物がない場所を選ぶようにしよう。
例えば、筆者宅は3階建てなのだが、階段にある空間を中継に活用している。1階のルーターを階段の近くへ、3階の中継機を階段の踊り場に設置することで、この間を中継する電波が遮へいされず、高い品質を保つことができる。一例だが、参考になれば幸いだ。