清水理史の「イニシャルB」
驚異の高コスパ!「Wi-Fi 6最安」のルーターがさらに強力に、TP-Link「Archer AX20」
クアッドコア化、2.4GHz帯が11ax化、メッシュにも対応し、USB 2.0も新設
2020年11月16日 06:00
まさか、わずかの値上げだけでここまで強化されるとは……。正直、既存モデル「Archer AX10」を自腹で購入してレビューした身としては悔しい思いだ。TP-Linkから発売されたWi-Fi 6ルーター「Archer AX20」は、従来のArcher AX10を改良した新モデル。
見た目はほぼ一緒ながら、CPUも2.4GHz帯もUSBも強化され、ただでさえ驚異的だったコスパの高さに、より磨きがかかった。テレワークにも最適な1台だ。
外見は全く同じだけど、よく見て、選んで!
サイズやデザインは全く同じ。背面をよく見れば、ポート構成の違いや追加されたUSB 2.0端子で区別は付くが、パッと見は区別が付かないかもしれない。
そんな新製品がTP-Linkから登場したArcher AX20だ。
従来モデルのArcher AX10は、価格が8000円から7200円(いずれも税別)に改定されたため、価格差は広がってしまったものの、Archer AX20の実売価格は8800円前後で、Wi-Fi 6ルーターとしてはかなり安価。後述する機能面を考えれば、むしろコストパフォーマンスは高いとも言える。
Wi-FiルーターやNASの世界では、組み込み用SoCの供給の関係で、ほぼ同じ製品でも、若干CPUクロックが上がった新リビジョンのモデルとして登場するケースも少なくない。だが本製品は、「AX10→AX20」と、型番の数字が上がっていることからも分かる通り、単なるリビジョンアップではなく、がっつり改良が加えられた新モデルと言えるものになっている。
従来モデルのArcher AX10も、最安値クラスのWi-Fi 6ルーターながら、高い実効速度を備えた相当にコスパの高いモデルだったが、本製品に関しては、その魅力を引き継ぎながら、さらなるパワーアップが図られているのが特徴だ。
通常、買い物をするとき、同じような製品で価格にバラツキがあると、少しでも安い方を選んでしまいがちだ。
しかし、本製品に関しては、声を大に「よく見て、選んで!」と言いたい。
いや、もちろんArcher AX10もいい製品だが、わずかな差額で高機能な上位モデルが手に入るのだから、カートに入った製品の型番を今一度確認してから決済しないと、後悔することになる。
CPUはクアッドコアに、2.4GHzは300→574Mbpsに、USBポートも追加
それでは実機を見ていこう。
先にも触れた通り、本製品の外観は、従来モデルとなるArcher AX10とほぼ一緒だ。ツヤあり、ツヤなしのブラックを組み合わせたシンプルなデザインでありながら、やや長めの4本の外付けアンテナが性能の高さを主張する存在感のある製品だ。
スペックは以下の表の通りだ。Wi-Fi 6ことIEEE 802.11axに対応し、最大1201Mbpsの通信が可能だ。上位モデルの中には、Wi-Fi 6で最大4804Mbpsを実現できる製品もあるので、それらと比べると控えめな値ではあるが、iPhoneシリーズなどのWi-Fi 6対応のスマートフォンの最大速度も1201Mbpsなので、利用シーンによっては実用的な速度と言える。
Archer AX20 | Archer AX10 | |
実売価格(税込) | 約8800円 | 約7200円 |
CPU | クアッドコア、1.5GHz | トリプルコア、1.5GHz |
メモリ | ― | ← |
Wi-Fiチップ | BCM6755 | BCM6750 |
Wi-Fi対応規格 | IEEE 802.11ax/ac/n/a/g/b | ← |
バンド数 | 2 | ← |
最大速度(2.4GHz) | 574Mbps(11ax) | 300Mbps(11n) |
最大速度(5GHz-1) | 1201Mbps | ← |
最大速度(5GHz-2) | ― | ← |
チャネル(2.4GHz) | 1~13 | ← |
チャネル(5GHz-1) | W52/W53/W56 | ← |
チャネル(5GHz-2) | - | ← |
ストリーム数 | 2 | ← |
アンテナ | 外付け×4 | ← |
WPA3 | ○ | ○ |
DS-Lite | ― | ← |
MAP-E | ― | ← |
WAN | 1000Mbps×1 | ← |
LAN | 1000Mbps×4 | ← |
USB | USB 2.0×1 | × |
動作モード | RT/AP | ← |
ファームウェア自動更新 | ― | ← |
TP-Link OneMesh | ○ | × |
TP-Link HomeCare | ― | ← |
VPNサーバー | OpenVPN/PPTP | ← |
サイズ(幅×奥行×高さ) | 260.2×135.0×38.6mm | ← |
なお、まだ実機が入手不可能なため対応速度などの詳細は不明だが、次世代ゲーム機として話題になっているPlayStation 5も、Wi-Fi 6に対応することが明らかにされている。PCに関しても、ゲーミング対応モデルでなくともWi-Fi 6対応が当たり前になってきたことを考えると、もはやこれから購入するWi-Fiアクセスポイントの選択肢として、Wi-Fi 6以外は考えられないというのが実情だ。
スペックに話を戻そう。注目したいのは、表を併記した通り、従来モデルであるArcher AX10との違いだ。「こんなに強化されたのか!」という驚きが見えてくる。
CPUのクアッドコア化で同時通信時の遅延が減る
まず注目はCPUだ。従来のトリプルコアからクアッドコアへと進化した。通信機器のCPU性能は、実は意外に重要なものだ。
本記事のように、単体のWi-Fi子機で速度を計測するようなケースでは、あまり効果が前面に現れないが、PC、スマホ×家族の人数分、ゲーム機、家電などと、たくさんの機器を接続するケースでは、多くの通信を処理する必要があるため、CPU性能が重要になってくる。
わずか1コアのプラスではあるが、同時処理性能の向上が期待できることから、実際に家庭に設置後の利用シーンで、このクアッドコア化が効いてくるシーンは多いはずだ。
例えば、もはや当たり前になりつつあるテレワークにおいて、家族の複数人が同時にビデオ会議をしたり、ビデオ会議と子どものオンライン授業が重なるなどというシーンも今は珍しくない。高性能なCPUを搭載した本製品であれば、こうした際の通信の遅延を少なくできるだろう。
2.4GHz帯が300Mbpsから574Mbpsに「フルWi-Fi 6化」
続いての注目は、2.4GHz帯の強化だ。本製品は、5GHz帯と2.4GHz帯がそれぞれ1系統ずつのデュアルバンド対応製品だが、このうち2.4GHz帯が従来の300Mbpsから574Mbpsへと高速化された。
もちろん、単なる高速化ではなく、対応規格がIEEE 802.11n(300Mbps)からIEEE 802.11ax(574Mbps)へと進化しているのがポイントだ。
要するに「フルWi-Fi 6化」である。
通信速度も倍近くまで上がっているが、Wi-Fi 6は、複数端末同時接続の通信効率が高かったり、端末の消費電力を抑えることができるようになっているため、2.4GHzの帯域も有効に活用できるようになっている。
もちろん、このメリットを享受するにはクライアント側の対応も必要だが、単なるスピードアップではなく、2.4GHz帯につなぐ機器の効率アップが期待できるのが魅力だ。この点も、多くの端末が同時通信する可能性があるテレワーク環境に有利だ。
独自メッシュ「TP-Link OneMesh」対応、フルWi-Fi 6メッシュ構築も安価に
10月28日、Archer AX20向けに提供開始された新ファームウェアにより、同社独自のメッシュWi-Fi機能である「TP-Link OneMesh」へ新たに対応したことにも注目したい。
TP-Link OneMeshに対応するコンセント直挿しタイプのWi-Fi 6中継機「RE605X」も発表されているが、この実売価格は税別8600円ほどなので、わずか1万7000円ほどでWi-Fi 6メッシュ環境が構築できてしまうことになる。
また、「TP-Link OneMesh対応機器」のウェブページに掲載されている製品であれば、さらに安価にメッシュWi-Fiを構築することも可能。接続する子機によっては、中継器側はWi-Fi 5対応製品でも十分な場合もあるだろう。
なお、新ファームでは、Alexaスマートホームスキルへの対応や、ファームウェアの自動アップデート機能の追加なども行われている。
USB 2.0ポート追加でファイル共有やバックアップが可能に
従来モデルのArcher AX10はUSBポートが省略されていたが、本製品では背面にUSB 2.0×1が搭載されており、これを利用してファイル共有(SMB、FTP)やメディア共有、さらにはmacOS向けのTime Machineバックアップも利用可能となっている。
本格的なファイル共有用途では、NASを導入した方が効率的ではあるが、ネットワーク経由でPC間でファイルを共有したり、受け渡ししたりする場合は、ルーターの簡易ファイル共有機能が意外に便利な場合もある。
「admin(読み書き可能)」と「visit(読み込みのみ)」の2つのアカウントによって簡易的なアクセス制御もできるので、家族や小規模なオフィスなら、USBストレージを用意するだけで、ファイル共有環境を実現できるだろう。
KRACKsなどの脆弱性に対抗できる「WPA3」
WPA3は、Wi-Fi接続のセキュリティを確保するための最新規格だ。本製品では、個人向けの「WPA3-Personal」に対応しており、従来のWPA2で課題となっていたKRACKsなどの脆弱性(中間攻撃による盗聴や改ざん)にも対抗可能な強固なセキュリティが実現されている。
WPA3を利用するには、アクセスポイントだけでなく、Wi-Fi子機側の対応も必要なため、これまであまり普及してこなかったが、Windows 10、Android、iOSなど、多くのOSが最新版でサポート済みとなっており、身近に利用できる環境が整ってきた。
Archer AX20では、WPA3/WPA2の混在モードで利用可能なため、最新のWPA3対応機でも従来のWPA2対応機でも、問題なく接続することも可能だ。
スマホアプリの初期設定やVPNサーバー機能など、使いやすさも健在
このように、機能面でさらに磨きがかかったArcher AX20だが、使いやすさに関しても心配はない。
初期設定には、スマートフォン向けの「Tether」アプリを利用でき、インターネット接続も自動的に判別可能となっている。
MAP-EおよびDS-Lite接続には非対応だが、IPv6には対応しているため、動作モードをアクセスポイントモードに切り替えることで、v6プラスやtransix環境で、既存のホームゲートウェイを生かしたままWi-Fiアクセスポイントとしても利用可能だ。
このほか、低価格モデルながら、VPNサーバー機能をサポートしているのも特徴で、OpenVPNおよびPPTPサーバーとして構成することもできる。
テレワークでVPN環境が必要とされるケースも増えてきたが、小規模なオフィスであれば、本製品をVPNサーバーとして構成することで、社員が自宅などからオフィスのネットワークへ安全にアクセスできる環境も整えられる。
前述したUSB共有と合わせて、家庭での利用はもちろんのこと、オフィスでのVPNやファイル共有環境を9000円以下の投資で実現できるのは、本製品ならではのメリットとなる。
スペックだけ見てもコスパは高いが、コストに対して使える用途が多いという意味でのコスパが高い点にも注目だ。
同一階で800Mbps、通信面の実力も文句なし
気になる実力だが、こちらも優秀だ。
以下は、木造3階建ての筆者宅の1階に本製品を設置し、各階でiPerf3による速度を測定した結果だ。同一フロアとなる1階の結果も800Mbps前後と、1201Mbps対応のWi-Fi 6ルーターとしては十分な結果が出ている。
また、長距離通信となる3階端でも200Mbps前後を実現できており、通信エリアも広い印象だ。Wi-Fiの速度は、建物の構造や周囲の電波状況によって変わるため一概には言えないが、実用上十分な性能を備えた製品と言っていいだろう。この速度を8000円台で実現できるのであれば、十分に投資する価値があると言える。
1F | 2F | 3F入口 | 3F窓際 | ||
Archer AX20 | 上り | 822 | 477 | 337 | 197 |
下り | 785 | 455 | 415 | 263 |
家族に邪魔されにくい離れた部屋でビデオ会議をしたいなどというニーズも増えてきたが、本製品なら、離れた場所でも快適に利用できるはずだ。
以上、TP-Linkの新型Wi-Fi 6ルーター「Archer AX20」を実際に使ってみたが、前モデルを確実に上回る魅力を備えた製品と言え、こちらを選ばないのは、正直、もったいない。
買うなら「AX20」。型番をよく見て購入することをオススメする。
(協力:ティーピーリンクジャパン株式会社)