清水理史の「イニシャルB」

10Gbps×2の高コスパWi-Fi 6ルーター、アイ・オー「WN-DAX3600XR」、割り切り感で高スペック低価格を実現

 「WN-DAX3600XR」は、アイ・オー・データ機器のラインアップではフラッグシップに位置付けられるWi-Fi 6ルーターだ。

 最大の魅力は、WAN×1、LAN×1と2ポートが用意された10Gbps対応ポートだ。無線も有線も高速なネットワークをリーズナブルに実現したい人には注目すべき製品と言える。

アイ・オー・データ機器の「WN-DAX3600XR」。低価格ながら10Gbps×2を搭載したWi-Fi 6ルーター

選択と集中でWi-Fi 6かつ10GbE×2を低価格で提供可能に

 この製品は、限られた予算の中で、ライバルにどの部分で勝つか? を非常に強く意識して開発されたWi-Fiルーターではないだろうか。

 各社がラインアップするハイエンドWi-Fi 6ルーターというカテゴリーの中では、ワンランク安い2万3515円(2021年1月29日時点、Amazon.co.jp調べ)の実売価格を実現しながら、その範囲内で実現できる機能を取捨選択した結果が、かなり「ドライ」に実装されている。

 まず注目すべきなのは、2ポート搭載された10Gbps対応の有線ポートだ。

 WAN×1、LAN×1と個別に2ポート搭載された有線LANポートは、いずれも10G/5G/2.5G/1G/100Mbps対応のもの。高速な10Gbps対応のインターネット接続と、高性能NASやPCなどの10Gbps接続の両方を実現できるものとなっている。

 現状、10Gbps×2に対応した国産Wi-Fiルーターは、バッファローの「WXR-5950AX12」(3月から後継機の「WXR-6000AX12S」へ切り替え)があるが、こちらは実売3万円オーバーと、高価な製品だ。

 一方、NECプラットフォームズの「Aterm AX6000HP」は、実売価格2万円台半ばと価格面ではWN-DAX3600XRをわずかに上回る程度でほぼ同等だ。しかしながら10Gbpsの有線ポートは、WAN/LAN切り替え可能とはいえ1基のみとなっている。

 要するにWN-DAX3600XRは、10Gbpsを2基搭載しながら、10Gbps×1搭載のモデルより、さらに安い価格を実現していることになる。

 さらに、10Gbps×2の高速な通信を処理するためにクアッドコアCPUも搭載されており、「速度」という点に集中した投資が行われているのは明確だ。

 インターネットからPCまでのエンドツーエンドで、フル10Gbps環境をリーズナブルに実現したい人にとって、非常に魅力的な製品だ。

 もちろん、こうした集中の背景には、選択による「割り切り」が存在する。詳しくは後述するが、冒頭で「ドライ」と表現したように「あー、それもないのか」と、かなりバッサリ切られている機能もある(もちろん開発陣は苦渋の決断だっと思われるが……)。

 とは言え、環境によっては、そもそも不要という機能も多いため、こうした点が納得できれば、Wi-Fi 6+10Gbps×2環境をリーズナブルに手に入れることができる本製品はお買い得と言えそうだ。

WN-DAX3600XRAterm AX6000HPWXR-5700AX7
実売価格2万3515円2万6725円2万7280円
CPUクアッドコアクアッドコア、2.2GHzデュアルコア、1.5GHz
メモリ---
Wi-Fiチップ(5GHz)---
対応規格IEEE 802.11ax/ac/n/a/g/b
バンド数22
160MHz対応
最大速度(2.4GHz)1150Mbps1147Mbps860Mbps
最大速度(5GHz)2402Mbps4804Mbps4803Mbps
チャネル(2.4GHz)1~13
チャネル(5GHz)W52/W53/W56
新電波法(144ch)
ストリーム数4
アンテナ内蔵外付け4本
WPA3
DS-Lite
MAP-E
セキュリティ-見えて安心ネットネット脅威ブロッカー
WAN10Gbps×1
LAN10Gbps×1、1Gbps×41Gbps×41Gbps×4
USB--3.1×1
動作モードRT/APRT/APRT/AP/WB
ファーム自動更新
サイズ(幅×奥行×高さ)238×84(台座含む)×248mm215×51.5×200mm230×60×163mm(アンテナ含まず)

圧倒的な「塊感」ながら邪魔ではないデザイン

 それでは、製品をチェックしていこう。

 本製品は、最大2402Mbps(4ストリーム)の通信に対応したWi-Fi 6対応のWi-Fiルーターとなる。他社製のハイエンドルーターは、80MHz幅×8ストリーム、または160MHz幅×4ストリームで最大4804Mbpsとされるケースが多いが、本製品は80MHz幅×4ストリームで最大2402Mbpsとなる。

 160MHz幅での通信も対応しており、160MHz×2ストリームで2402Mbpsでリンクすることも確認できたが、最大速度が2402Mbpsとされているということは、160MHz幅×4ストリームがサポートされていないと考えられる。

 デザインはシンプルでスッキリしているが、本体サイズは幅238×奥行き84(台座含む)×高さ248mmとそこそこ大きい。

正面
背面
側面

 実際の設置時に占有する空間は、外付けアンテナを採用している他社製品の方が大きくなるが、本製品はアンテナ内蔵となるものの、本体だけでもこのサイズなので、実物を見ると、かなりの「塊感」を感じる。

 とは言え、最近はゴテゴテ化、キラキラ化が進むWi-Fiルーターの中で、極めてシンプルで落ち着いたデザインとなっており、そこそこ大きいが、決して邪魔に感じない印象だ。細かな点だが、LEDも完全にオフにできるので、寝室などに設置しても全く気にならない点も、個人的には好感が持てる。

有線LANもIPoE IPv6も、速度は優秀

WAN用とLAN用に1つずつ10Gbpsを搭載。1Gbpsも4ポートある

 インターフェースは背面にあり、LAN用の10Gbps×1、LAN用の1Gbps×4、WAN用の10Gbps×1となる。10Gbps×2が目立つが、これとは別にLANが4ポートあり、合計5台接続できることも地味にありがたいポイントだ。

 なお、有線LANのスピードは優秀だ。10Gbpsの「auひかり ホーム10ギガ」を利用した場合で下り2.3Gbps、上り1.9Gbps。1Gbpsの「フレッツ 光ネクスト」(transix接続)の場合で下り680Mbps、上り470Mbpsとなった。

10Gbpsの「auひかり ホーム10ギガ」の速度
1Gbpsの「フレッツ 光ネクスト」(transix)の速度

 10Gbpsの回線で1Gbps以上の速度を実現できている点も問題ないが、IPoE IPv6環境でも680Mbpsで通信できていることから、IPoE IPv6のアクセラレーションがきちんと実装されていることが分かる。本製品の最大の特徴である10Gbpsの有線LANの実力は、全く問題ないと言えそうだ。

Wi-Fiは近距離で有線並み、遠くても300Mbps弱

 続いて、無線のパフォーマンスもチェックしてみよう。

 以下は、木造3階建ての筆者宅の1階にWN-DAX3600XRを設置し、各階でiPerf3による速度を計測した結果だ。サーバーを10GbpsのLANで接続し、Wi-Fi子機は160MHz幅で2402Mbps接続の環境で計測している。

 1階で1Gbps有線LAN越えの1.1Gbpsが実現できており、有線LANの10Gbpsと、最大2402MbpsのWi-Fi(160MHz幅2ストリーム)のパフォーマンスが生きている。

iPerfテスト
1F2F3F入口3F窓際
PC(Intel AX200)上り1100464203147
下り1080452303291

※サーバー:CPU:Ryzen 3900X、メモリ:32GB、SSD:1TB NVMe、OS:Windows10、5GHz帯ch100固定で計測

 長距離での転送速度も優秀だ。2階で400Mbps越えと十分な速度が出ているだけでなく、3階は入口付近でも、最も離れた窓際でも下りで300Mbps近い速度が出ている。

 中継機いらずというか、メッシュ何者ぞというか、単体でこれだけの速度が出れば、ほとんどの用途で困ることはないだろう。

 測定前には、アンテナが内蔵タイプなので長距離で不利かと思ったが、そんなことは全くなかった。本体サイズに余裕があるので、アンテナの配置も工夫できているのではないかと想像できる。

割り切りポイントをチェック

 このように、本製品は10Gbpsの有線と最大2402MbpsのWi-Fi 6の実力をリーズナブルに堪能できる製品だが、冒頭で触れたように、その代償となっている割り切りポイントがいくつか存在する。

アクセスポイントモードがない

 冒頭でも触れたように、本製品はルーターモードのみでアクセスポイントモードを搭載しない。DHCPサーバー機能を停止することはできるが、WANはオンのままなので、10GbpsのWANポートをLAN用に転用して10Gbps×2をLANとして使うことなどはできない。

【お詫びと訂正 14:33】
 1月25日付最新ファームウェア「Ver.2.00」において、アクセスポイントモードが追加されておりました。お詫びして訂正いたします。

付加機能がほとんどない

 本製品には、VPNサーバーやUSB共有、セキュリティ対策機能など、付加的な機能が全く搭載されていない。できるのは、インターネット接続とWi-Fi接続のみという、非常に割り切った仕様となる。

機能は極めてシンプル。付加的な機能はほとんどない

静的ルーティングが設定できない

 ルーターとしての機能は一通り備えており、ポートフォワードなどの設定も可能(DS-LiteやMAP-E接続時は設定が非表示)だが、静的ルーティングなど、一部の機能は搭載されていない。

 筆者は、LAN内に設置したRaspberry PiをWireguardサーバーにして拠点間接続に利用しているので、静的ルーティングの設定が必要になのだが、一般的にはあまり使わない機能なので、通常は気にならないだろう。

設定方法が簡易

 スマートフォン用のカメラを使って同梱のQRコードでWi-Fiへ接続することはできるが、スマホ用のアプリなどは用意されない。また、スマホから設定画面を表示したときにPC用の画面が表示されるので、文字が小さくて見にくく、設定しにくい。

 このほか、他社製品のように、既存のアクセスポイントから設定情報を引き継いで引っ越しする機能なども提供されない。

iPhoneからはカメラで付属のQRコードを読み取って接続可能
ただし、接続後の設定画面はPC用のみなので見にくい

 さらに、これは筆者宅だけの問題かもしれないが、5GHzのWi-Fi設定で160MHz幅をオンした場合、チャネル設定で「自動」を選択すると、PS5を無線で接続することができなかった。

 160MHz幅オフのときや、160MHz幅オンでもチャネル設定を固定(W52/W53/W56どこでもいい)にしておけばPS5がつながるのだが、160MHzオン+チャネル自動の組み合わせの場合のみ、接続ができなかった。

160MHz幅利用時は、チャネルを固定することをお勧めする

 この現状は、過去に本コラムでレビューを掲載した他社製のWi-Fiルーターでも体験したことがあるので(その時はPS5だけでなく別の端末だけ接続できない現象)、おそらく同じような原因があるのではないかと考えられる。現状は、160MHz幅を利用する場合は、どこでもいいのでチャネルを固定して使うことをお勧めする。

 というわけで、これらの点が気にならなければ、本製品はお勧めできる製品だ。10GbpsとWi-Fi 6の高速なネットワーク環境を手に入れたい人は、少ない予算で高速なネットワーク環境を構築できるので、購入を検討する価値がある製品と言えそうだ。

清水 理史

製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できる Windows 10 活用編」ほか多数の著書がある。