清水理史の「イニシャルB」

IPv6が速いルーター、遅いルーター。環境によってその差は数倍! 「IPv6 High Speed」の実力は?

Wi-Fiルーター「Aterm WG2600HP3」の最新ファームで試す

 10月15日、NECプラットフォームズから、IPv6通信を高速化する「IPv6 High Speed」対応の新ファームウェアがリリースされた。これによって見えてきたのは、「v6プラス」や「transix」といったIPoE IPv6を利用したインターネット接続の通信速度が、ルーターの性能によって大きく変わるという事実だ。

 元々速かった製品、ファームウェアのアップデートで速くなる製品、未対応の製品があることを知らないと、せっかくの高速なインターネット接続環境を生かせないことになる。

最新ファーム2.0でIPv6 High Speedに対応したAterm WG2600HP3

Aterm WG2600HP3では5倍近く高速化も

 NECプラットフォームズの「IPv6 High Speed」は、現状は正体がよく分からない技術だ。

 「通常のIPv6通信と比較して大幅なスピードアップが期待できる」とされているが、同社が詳細を公表していないため、具体的に何がどう改善されたのかは不明となっている。

対応ファームウェアが公開されたNEC独自技術「IPv6 High Speed」。こちらのページで解説はされているが、具体的な改善内容は不明だ

 いろいろな情報を探してみると、どうも、ヤマハがこのあたりのドキュメントで紹介している「ファストパス」が関係しているのではないかと想像できるのだが、NECプラットフォームズは独自技術と謳っているので、依然、その正体は不明だ。

 しかしながら、当該ファームウェアを適用した利用者からは、高速化されたとの声がちらほらと上がっており、実際、筆者宅でテストした限りでも、次の画面のように、かなりの効果が見られた。

AtermWG2600HP3での速度テスト結果。右が出荷時ファーム(1.00)で左がIPv6 High Speed対応ファーム(2.00)。回線はフレッツ光ネクスト、プロバイダーはIIJmioの「FiberAccess/NF」。DS-Liteを採用したtransix環境下でのテストとなる

 もちろん、回線の状況にも依存するので、夜間などの混雑時間帯には、速度が数百Mbps前後するのだが、筆者宅では、従来は150Mbpsが限界だった速度が、新ファームでは500~800Mbpsほどに高速化されるようになった。

 インターネット上の報告などを見る限り、新ファームウェアを適用後も速度が200~300Mbps前後に留まっているケースも見られるが、環境によっては筆者宅のように数倍の高速化も可能なようだ。

 現状、IPoE IPv6およびIPv4 over IPv6のv6プラス(MAP-E)やtransix(DS-Lite)を利用しているユーザーは、もともとPPPoE接続での速度の不満から、これらのサービスに移行した人が多いと思われる。今回の新ファームウェアによって、さらに高い速度を手に入れることができるわけだ。

他社製品はどうなのか?

 しかしながら、ここでひとつ疑問が沸いてくる。

 「もともとが遅かっただけなのでは?」

 混雑したPPPoEの低速環境を体験してきた人々にとって、旧ファームの150Mbpsでも十分な速度で、それが800Mbpsにもなれば驚異的に思える。しかし、よくよく考えれば、1Gbpsのインターネット接続サービスの帯域をフルに使えるようになっただけとも言える。となると、「むしろ旧ファームの150Mbpsが遅すぎたのではないのか?」という疑問が生まれるのも自然だ。

 そこでポイントとなるのが、ウェブページでは「通常のIPv6通信と比較して大幅なスピードアップが期待できる」と記載されている部分のうち、IPv6 High Speedの“通常”という表現だ。

 仮に、この“通常”が世間一般に存在するWi-FiルーターのIPv6の実力(通信速度)を指しているのなら、既存ルーターのIPv6の速度も、ある程度で頭打ちになるはずだ。

 そこで、今回、とりあえず筆者宅にあった製品、各方面から借り受けた製品、急遽、近所の家電量販点で買ってきた製品、押し入れの奥にしまい込んであった製品(Edge Router ER-8)と、IPoE IPv6対応の製品をいくつか用意し、その速度をチェックしてみることにした。

自宅にあったIPv6対応ルーターなどをかき集め、とりあえずテストしてみた

 その結果は次の通りだ。今回のテストはすべてDS-Liteとなるが、結論としては、300Mbps以下のルーターと700Mbps越えのルーターという、2種類のグループに分かれる結果となった。

ファームウェアバージョンDownUp
Aterm WG2600HP31.00150.07169.96
2.00807.5722.39
WRC-1167GST21.00121.06123.22
1.03771.89679.27
WXR-2533DHP1.35792.07749.99
WN-AX1167GR21.11139.96261.5
RT2600ac1.292.6145.44
EdgeRouter ER-81.10.7263.2331.78

 この数字を、もう少し詳しく見ていこう。

 まず、バッファローの「WXR-2533DHP」(DHP2ではない旧製品)だが、これは元々速かったと考えられる製品だ。筆者は、2018年9月12日に公開された最新ファームウェア「1.35」で試したが、700Mbps以上の速度で通信できた。

 公表されずに高速化の対応がなされていた可能性もなくはないが、過去のファームウェアの変更履歴を見ても、IPoEに関する速度の改善という項目は見つけられなかったため、IPoE IPv6に関するパフォーマンスは、おそらくここ数カ月で大きく変化していないと推測できる。個人的に周囲のユーザーの反応を見ても、元々速かったと考えるのが妥当だ。

 続いて、エレコムの製品を見てみよう。こちらは、NECプラットフォームズと同様、ファームウェアのバージョンによって速度に差が見られた。

 今回テストに利用した「WRC-1167GST2」には、出荷時のファームウェア「1.00」が搭載されていた。この状態でテストすると、DS-Liteの通信速度は上下ともに120Mbps前後に留まった。しかし、最新ファームウェアの「1.03」に更新することで、一気に700Mbps近くまで速度が上昇した。

 ファームウェアの更新履歴をチェックすると、2018年9月14日公開の「1.02」で「IPoE通信時のスループット向上」が含まれているので、これが関係していると考えられる。

 なお、今回、テストに使ったWRC-1167GST2は1.02で対応しているが、同社製のIPv6に対応したほかのモデルに関しては、WRC-2533GST2以降はすべて標準で同じ機能が搭載されているとのことだ。

 と、ここまでが700Mbps越えグループとなる。残りは、アイ・オー・データ機器の「WN-AX1167GR2」、Synology「RT2600ac」、Ubiquiti Networks「Edge Router ER-8」で、これらはバラツキはあるものの、おおむね300Mbps以下の速度が限界となった。これらの製品は、IPv6 High Speedに相当する高速化機能が、現時点では実装されていないと考えられる。

高速化機能が未実装メーカーの対応が待たれる

 このように、各メーカーの製品をチェックしてみると、IPoEの高速通信に対応した製品と、そうでない製品があることが判明した。

 これを考えると、今回のIPv6 High Speedに対する評価が、人によって違うのも納得できるところだ。

 NECプラットフォームズがIPv6 High Speedを発表した2018年4月時点では、市場の多くの製品のIPoE IPv6あるいはIPv4 over IPv6の速度が低かった。このため同社が「通常のIPv6通信と比較して大幅なスピードアップが期待できる」としていたのは、その通りだった。

 しかし、現状、いくつかの製品が、似たような技術によってIPoEの高速通信に対応している状況を考えると、人によっては“通常”が、すでに高速な状態となっている場合があり得た。これにより、「もともとが遅かったのでは?」という反応になったわけだ。

 技術の発表から実際のファームウェアの提供まで期間が長かったことも影響しているが、どうもこの“通常”の解釈が、人によって異なることが大きく影響したと言えそうだ。

 それはさておき、これによって、IPv6 IPoEおよびIPv4 over IPv6環境で使うWi-Fiルーターを慎重に選ぶ必要があることが判明した。

 今回のテスト結果を見る限り、バッファロー、NECプラットフォームズ、エレコムのいずれかの製品を候補と考えるのが妥当と言えそうだが、もちろん他社の今後の対応も期待できる。

 現状、IPv6 High Speed相当の機能に対応していないWi-Fiルーターを使っている場合であっても、将来的なファームウェアのアップデートによって、同様の高速化機能が実装される可能性はある。現状、遅いと言っても、実効で150~300Mbpsの通信速度が実現できていれば実用上はさほど問題はないので、今使っている製品のまま、しばらく対応を待つのも1つの選択肢だろう。

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清水 理史

製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できる Windows 10 活用編」ほか多数の著書がある。