清水理史の「イニシャルB」

上位モデルよりちょっと安いIPv6対応Wi-Fiルーター「Aterm WG1200HS3」 必要な機能をひと通り備えた売れ筋モデル

 NECプラットフォームズから、Wi-Fiルーター「Aterm」シリーズの新モデル「WG1200HS3」「WG1800HP4」が発売された。いずれもIPv6 IPoE、およびIPv4 over IPv6(MAP-E/DS-Lite)に対応したのが最大の特徴だ。今回は、この2製品のうち、Atermシリーズの中で最も安価にこれらを利用できるAterm WG1200HS3を実際に使ってみた。

NECプラットフォームズの「Aterm WG1200HS3」。低価格な2ストリーム(867Mbps)対応ながらIPoE IPv6・IPv4 over IPv6に対応するなど、最新モデルらしい機能強化を実現した製品

複雑なAtermシリーズのラインナップを整理

 Atermシリーズに限らず、現状のWi-Fiルーターのラインナップは、なかなか複雑だ。型番を言われただけでは、その違いを把握することが難しくなってしまった。

 今回、登場したAterm WG1200HS3もそうで、似たような型番の製品として、旧モデルの「Aterm WG1200HS2」、そして上位モデルの「Aterm WG1200HP3」が存在する。2ストリーム(867Mbps対応)で6000円前後という売れ筋の価格帯となるだけに、複数モデルが混在するのも仕方がないところだが、パッと見では分かりにくいので、まずはこの3製品の違いを整理してみよう。

Aterm WG1200HS3Aterm WG1200HP3 (上位モデル)Aterm WG1200HS2 (旧モデル)
実売価格※5821円6221円4819円
対応規格IEEE 802.11ac Wave 2/n/a/g/b
2.4GHz 1-13ch
W52(36/40/44/48)
W53(52/56/60/64)
W56(100/104/108/112/116/ 120/124/128/132/136/140)
対応バンド数2
通信速度(2.4GHz帯)300Mbps
通信速度(5GHz-1)867Mbps
通信速度(5GHz-2)×
ストリーム数2
ハイパワーシステム×
変調方式(最大速度時)256QAM
WAN1000Mbps×1
LAN1000Mbps×3
USB×
サイズ33×97×146mm
重量0.2kg

※yodobashi.comの2018年10月26日時点の実売価格

 ハードウェアのスペックは、3製品ともほぼ共通となっている。唯一の違いはアンテナの部分で、より広い範囲での快適な通信を実現するハイパワーシステムが、旧モデルのAterm WG1200HS2には搭載されていない。

 アンテナ系の技術は、各メーカーがしのぎを削って競い合っている分野だが、アンテナ内蔵にこだわりつつ、回路設計の見直しによるノイズの低減や独自のチューニングによって、より広範囲の通信ができるのが、今回の新モデルの特徴というわけだ。

 実際にどれくらいの違いがあるのかは、実測をベースにした値が同社の製品ページに公開されている。快適に通信できるエリアがAterm WG1200HS2比で約15%拡大され、スループットも最大約10%改善するとされ、より快適な通信ができる。

 基本的に後継機となるものの、現時点ではまだ旧製品も市場に流通しているため、場合によっては価格が安い旧モデルの方が魅力的に見えるかもしれない。だが、電波の届く範囲を気にするなら、基本設計が一新された新製品のAterm WG1200HS3を選択すべきだろう。

 では、上位モデルのAterm WG1200HP3との違いはどこにあるのだろうか? 前述したハードウェア面はまったく同じで、価格だけが数百円安くなっているが、この差は機能面に現れている。

Aterm WG1200HS3Aterm WG1200HP3(上位モデル)Aterm WG1200HS2(旧モデル)
MU-MIMO
ビームフォーミング
バンドステアリング××
オートチャネルセレクト○(起動時のみ)○(2.4/5GHz動作中対応)○(起動時のみ)
IPv6 IPoE・IPv4 over IPv6×
IPv6 RA RDNSSオプション×
IPv6ブリッジ
Wi-Fi設定引越し
こども安心ネットタイマー
見えて安心ネット
ファイル共有/メディア共有×××
らくらく「かざして」スタート×

 HS3にはなくHP3に搭載されているのがバンドステアリングだ。これは、2.4GHz帯と5GHz帯の2つの周波数帯の接続状況(つながっている端末の数など)をチェックし、混雑していない方を自動的に選択して接続したり、接続先の周波数帯を移動できる機能だ。

 一方、オートチャネルセレクトは、親機が利用する電波のチャネル(周波数)を自動的に切り替える機能だ。チャネルをサーチすることで利用状況を確認し、通信状況がいいチャネルを自動的に選択できる。

 この機能自体はHS3にも搭載されているが、機能するのは起動時のみで、起動時以降にチャネルの利用状況が変わった場合などには対応できない。

 これに対して上位モデルのHP3は、動作中のチャネル切り替えにも対応しているため、同じチャネルを使うアクセスポイントが近所で動作し始めた場合などにも、空いているチャネルへと自動的に変更することができる。要するにバンドステアリングとオートチャネルセレクトで、無線接続の安定性が向上するわけだ。

 WG1200HS3の機能についてまとめると、旧モデルとの比較では電波の届く範囲や快適性の面で有利となっており、一方、上位モデルと比べると電波の安定性を向上させる機能が削られていることになる。

 オートチャネルセレクトに関しては、混雑などの原因が分かった段階で本体を再起動すれば済む話なので、必ずしも稼働中に変更されなくてもいい。数百円の差なら上位モデルを選びたくなるが、再起動で済むなら数百円を節約する、というのもひとつの考え方だろう。

オートチャネルセレクトは起動時のみの対応となっている

シンプルで扱いやすい

正面

 それでは実機を見ていこう。本体は、コンパクトで、デザインもシンプルで好感が持てる。最上位モデルのAterm WG2600HP3は、直線的な新デザインに刷新されたが、本製品は、曲線を組み合わせた従来のままだ。

 インターフェースは、側面に「らくらくスタートボタン」、モード切替スイッチ、LAN×3、WAN×1、ACアダプター用のコネクターが搭載されている。

 本体サイズが小さいのでLANポートが3になるが、最近は有線LANで接続する機器も限られてきたので、一般的な家庭での利用なら、これで十分と言えるだろう。

側面
背面

 設定は、WPSもしくは付属のQRコードを使ってWi-Fiに接続し、ブラウザーで設定を行う仕様だ。スマートフォンでも見やすい設定用ページになっており、初めてでも迷わず使える印象だ。

 ただし、既存のWi-Fiルーターから設定を移行しようとすると、少し苦労する。

 本製品には「Wi-Fi設定引越し」機能が搭載されており、設定を引き継ぐことができるのだが、これが若干分かりにくい。

 まず、付属の「つなぎかたガイド」には具体的な方法が記載されておらず、ユーザーズマニュアルを参照する旨のみが記載されている。

 で、サポートページからユーザーズマニュアルのページを開くも、「Wi-Fi設定引越し」の記載場所が分かりにくい。

 「親機として使う」の項目の「6-5.便利な機能を使おう」の最後に記載されているのだが、これを見つけるまでに、しばらく時間がかかってしまった。

 ベストは、つなぎかたガイドに設定方法を掲載することだが、できない場合でも、つなぎかたガイドに参照先(6-5と記載するだけでも分かりやすい)を掲載したり、ユーザーガイドのトップページへリンクを掲載するなど、もう少し工夫があってもよさそうだ。

 また、機能の使い方もなかなか複雑だ。本体スイッチをCNVに変更してボタンを長押しする必要があり、ガイドを見ながらでないと操作ができない。

 Wi-Fiルーターを交換したときに手間が掛かるのは、今までつながっていた複数台の端末の接続設定を変更することや、変更を忘れてつながらなくなった機器の対応が後からこまごまと発生することだ。例えばWi-Fi接続のプリンターなどは、いざ印刷しようとしたときに気付くことが多い。

 個人的には、これだけWi-Fiの利用が広がっている状況を考えると、新規設置よりも交換の方が利用シーンとして多いように思える。もう少し、「Wi-Fi設定引越し」機能のプライオリティを高くしてもよさそうだ。

「Wi-Fi設定引越し」機能の使い方はユーザーズマニュアルを参照する必要があるが、階層が深くて、探しにくい

 なお、同機能を使って、試しにSynologyのRT2600acから設定を引き継いでみたが、引き継がれたのは5GHz帯のSSIDのみで、これがAterm WG1200HS3のプライマリSSIDと置きかえられるかたちとなった。ただ、2.4GHz帯が引き継がれないのは、WPSの仕組みの問題で、基本的には他社製品でも同様だ。

 とはいえ、製品にもともと設定されているSSIDを残したまま、セカンダリSSIDとして引っ越し元のSSIDを引き継げるようになっている他社の製品もあり、このあたりはメーカーの考え方の違いが現れる部分と言えそうだ。

 セカンダリSSIDとして引き継ぐ場合は、もともとつながっていた機器をそのまま接続しつつ、パッケージに同梱のQRコードを使った接続も可能になるのがメリットだが、次にWi-Fiルーターを入れ替えるときはどうするのか? という課題が残る上、SSIDを2つ運用しなければならなくなってしまう。

 一方、本製品のようなプライマリを置き換える方式の場合、パッケージに同梱のQRコードが使えなくなるのがデメリットだ。ただ、本製品の場合、変更後の「設定用QRコード」を生成できるようになっているため、画面を表示したり、印刷するだけで、引越後の環境を整えることもできる。

 どちらがいいかという判断は難しいところだが、本製品であれば、こうした流れ(引っ越し→QRコード作成)といった流れについてのガイドなどがあると、より親切と言えそうだ。

自分でQRコードを作成すれば、引越し後もQRコードを使ってスマートフォンなどを簡単に接続できる

DS-Lite環境なら自動的にインターネットに接続可能

 次に、IPv6への対応について見ていこう。今回、筆者宅で利用しているtransix(DS-Lite)環境で試してみたが、接続に関しては特別な設定は不要だ。

transix(DS-Lite)でテストしてみたが、ケーブルをつないで電源を入れるだけで、自動的にインターネット接続設定が完了した
speedtest.netの結果。念のため複数日に分けて何度か計測してみたが、ほぼ同じ結果となった

 WANポートを使ってホームゲートウェイと接続した状態で電源を入れれば、自動的に回線種別が判断され、インターネット接続が完了する。残念ながらMAP-E環境が手元にないためテストはできなかったが、インターネット接続で困ることはないだろう。

 念のため速度も計測してみたが、こちらも問題なさそうだ。speedtest.netでの計測では上下とも500Mbpsを超えており、実用性も問題なさそうだ。

 一方、無線通信のパフォーマンスについては、このクラスとしては十分という印象だ。木造3階建ての筆者宅にて、1階に本機を設置し、各階でiPerf3による速度を計測した結果が次の通りだ。

 1階で400Mbps強、2階で200Mbps前後、3階で100Mbps前後と、実用上問題ない速度で通信できている。ただ、最も遠い3階の端では下りで17.3Mbps、上りで9.7Mbpsと、速度があまり出ていない。より高いパフォーマンスが必要なら、上位モデルの購入を検討したいところだ。

DownUp
1F491491
2F266186
3F入口167117
3F窓際17.39.7

※検証環境 サーバー:Intel NUC DC3217IYE(Core i3-3217U:1.3GHz、SSD 128GB、メモリ 4GB、Windows Server 2012 R2) クライアント:Macbook Air MD711J/A(Core i5 4250U:1.3GHz、IEEE 802.11ac<最大866Mbps>)
※Aterm WG2600HP3はアクセスポイントモードで検証(WAN回線は接続していない状態)

IPoE IPv6およびIPv4 over IPv6環境をリーズナブルに構築

 以上、NECプラットフォームズのAterm WG1200HS3を実際に試してみたが、普及価格帯の製品としては、よくできている印象だ。

 個人的には「Wi-Fi引越し」機能の分かりにくさの改善を求めたいところだが、IPoE IPv6に関しては、使いやすさも速度も問題なく、快適に利用できた。

 より高い無線性能を求めるなら上位モデルの選択をオススメするが、一人暮らしの環境であれば、本製品でも十分と言える。価格も安いので、誰にでもお勧めできる製品と言えそうだ。

【記事追記 10月30日 11:51】

 記事初出時、スペック比較表の一部に誤りがありました。お詫びして訂正いたします。

 誤:LAN 1000Mbps×4

 正:LAN 1000Mbps×3

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清水 理史

製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できる Windows 10 活用編」ほか多数の著書がある。