清水理史の「イニシャルB」
どれを買う? ネットギア「Orbi WiFi 6」大中小モデルの適材適所を考える
2021年2月15日 06:00
2020年末、ネットギアのメッシュWi-Fiシステム「Orbi」にWi-Fi 6対応の新モデル「Orbi WiFi 6 Micro(RBK352)」が追加された。これで、Wi-Fi 6対応のOrbiシリーズは、「Orbi WiFi 6(RBK852)」と「Orbi WiFi 6 Mini(RBK752)」、そして「Orbi WiFi 6 Micro(RBK352)」の大中小3モデルが揃ったことになる。どの用途で、どのモデルが最適なのかを考察してみよう。
メッシュのパイオニア「Orbi」シリーズ
Orbiシリーズは、コンシューマー向けWi-Fi製品市場の中でも、特に「メッシュ」という分野を常にリードしてきた製品だ。
2016年、まだ「メッシュ」という言葉が珍しかった段階で初代Orbi(RBK50)が発売され、そこから小型モデルやスマートスピーカー搭載モデル、Wi-Fi 6対応モデルと年々進化を遂げ、2020年12月に新モデルとなる「Orbi WiFi 6 Micro(RBK352)」が追加された。
メッシュは、複数台のアクセスポイントを組み合わせるWi-Fiシステムで、次のような特徴を持っている。
- 広い通信エリアをカバーできる
- エリア全体で速度の底上げが可能
- 多数のWi-Fi子機の同時利用に適する
- セットアップが容易
- 移動しながらでも切断されにくい
これまでのWi-Fiは、家の中のどこかに親機となるアクセスポイントを1台設置して利用するのが一般的だったが、テレワークの普及などで家中のどこでもZoomなどを快適にできるWi-Fi環境が求められるようになりつつあることで、複数台でエリアや端末を分散的にカバーできるメッシュへの注目が高まってきたわけだ。
中でもOrbiシリーズは、その性能の高さから世界中で高く評価されている。だが、市場が熟成していないどころか、まだ存在すらしなかった段階で投入された製品だったため、いかんせん価格が高く、導入のハードルも高い存在だった。
しかしながら、ここに来て、先に触れたOrbi WiFi 6 Microがラインアップに追加された。同じWi-Fi 6対応Orbiでも、性能や価格の違いによる選択肢が増え、次第に誰もが手に取りやすい状況になってきた。
一方で依然としてテレワークなどの需要は高く、自宅やオフィスの通信環境を改善したいと考えている人は多い。そこで、どのような環境で、どのOrbiを選べばいいのかを考察してみよう。
Orbi WiFi 6の3兄弟
それでは、現在注目すべきOrbiシリーズ3製品を見ていこう。Orbiシリーズは、従来のWi-Fi 5(IEEE 802.11ac)対応製品も存在するが、今回は最新のWi-Fi 6(IEEE 802.11ax)対応の3モデルのみをピックアップした。
メッシュ界の絶対王者「Orbi WiFi 6(RBK852)」
5GHz帯+5GHz帯+2.4GHz帯の同時通信が可能なトライバンドに対応したメッシュWi-Fi 6システム。
2つある5GHz帯は、それぞれ最大2402Mbpsの通信に対応しており(2.4GHzは最大1147Mbps)、この一方をOrbi同士の中継に利用する。つまり、1階と2階、リビングと寝室など、2台のOrbi WiFi 6(RBK852)を設置したそれぞれの場所を、最大2402Mbpsという超高速のバックホールで中継できる。
最大2.5Gbpsに対応した有線LANポート(WANポート)も1基搭載しており、10Gbpsクラスの高速インターネット接続サービスを利用した場合のパフォーマンス向上も実現できる。
実用性で選ぶならコレ!「Orbi WiFi 6 Mini(RBK752)」
上位モデルのOrbi WiFi 6同様、5GHz帯+5GHz帯+2.4GHz帯の同時通信が可能なトライバンド対応のメッシュWi-Fi 6システム。
通信速度は最大2402Mbps(5GHz帯)+最大1201Mbps(5GHz帯)+最大574Mbps(2.4GHz帯)で、5GHz帯の片方と2.4GHz帯の速度は控えめになっている。
有線LANも全て1Gbps対応なので、Orbi WiFi 6と比べてパフォーマンスは劣るが、Orbiならではの超高速バックホールは健在だ。最大2402Mbpsのバックホールで、2台のOrbi間を中継できる。
親しみやすさダントツの「Orbi WiFi 6 Micro(RBK352)」
Orbi WiFi 6シリーズの最新モデルであり、しかも最も親しみやすい製品。個人的な見解だが、デザインは全Wi-Fiルーターの中でもトップ3に確実に入るほど流麗な製品となる。
最大1201Mbpsの5GHz帯+最大574Mbpsの2.4GHz帯のデュアルバンド対応で、速度も控えめなので、前2製品に比べるとパフォーマンスは劣るが、あのOrbiシリーズがこの価格で手に入るのは魅力だ。
Orbi WiFi 6 | Orbi WiFi 6 Mini | Orbi WiFi 6 Micro | |
実売価格 | 7万500円 | 5万2960円 | 2万7091円 |
CPU | 2.2GHz、クアッドコア | 1.4GHz、クアッドコア | 1.8GHz、クアッドコア |
メモリ | 512MB | ← | ← |
Wi-Fi対応規格 | IEEE 802.11ax/ac/n/a/g/b | ← | ← |
バンド数 | 3 | 3 | 2 |
160MHz対応 | × | ← | ← |
最大速度(2.4GHz) | 1147Mbps | 574Mbps | 574Mbps |
最大速度(5GHz-1) | 2402Mbps | 1201Mbps | 1201Mbps |
最大速度(5GHz-2) | 2402Mbps | 2402Mbps | - |
チャンネル(2.4GHz) | 1~13 | ← | ← |
チャンネル(5GHz-1) | W52/W53/W56 | ← | ← |
チャンネル(5GHz-2) | - | - | - |
MIMOストリーム数 | 4 | 2/4(バックホール) | 2 |
アンテナ | 内蔵 | ← | ← |
IPoE IPv6 | ○ | ← | ← |
MAP-E/DS-Lite | × | ← | ← |
セキュリティ | ネットギアArmor | ← | ← |
WAN | 2.5Gbps×1 | 1Gbps×1 | ← |
LAN | 1Gbps×4 | 1Gbps×3 | ← |
USB | - | - | - |
動作モード | RT/AP | RT/AP | RT/AP |
サイズ(幅×奥行×高さ) | 254×191×71mm | 231×183×71mm | 178×145×61mm |
Orbi WiFi 6(RBK852)に迫るポテンシャルのOrbi WiFi 6 Mini(RBK752)
まずは、判断基準として速度を測定しておこう。木造3階建ての筆者宅にて1階と3階に機器を設置し、PCからiPerf3を利用して測定した結果が次の通りだ。
1F | 2F | 3F入口 | 3F窓際 | ||
Orbi WiFi 6 | 下り | 897 | 532 | 557 | 519 |
上り | 889 | 445 | 532 | 543 | |
Orbi WiFi 6 Mini | 下り | 875 | 455 | 550 | 542 |
上り | 818 | 366 | 484 | 480 | |
Orbi WiFi 6 Micro | 下り | 772 | 518 | 265 | 230 |
上り | 532 | 241 | 217 | 229 |
※検証環境 サーバー、CPU:Ryzen 9 3900X(3.8GHz、12コア24スレッド)、メモリ:32GB、SSD:SSD 1TB(NVMe接続)、OS:Windows 10 Wi-Fi子機:Intel AX200搭載ノートPC
結果は、やはりOrbi WiFi 6(RBK852)が優秀だ。1階は897Mbpsと有線LAN並み。3階でも最大543Mbpsと脅威の速度で通信できる。ハイエンドのWi-Fi 6ルーターでも単体(メッシュではない製品)の場合、3階で200Mbps出れば優秀なので、それをはるかに上回る速度となっている。
健闘しているのはOrbi WiFi 6 Mini(RBK752)だ。正直、今回のテストではOrbi WiFi 6(RBK852)と実力は互角と言っていい。
これは、PC側の接続速度が最大1201Mbpsとなるため、Wi-Fi子機を1台接続しただけのテストでは、Orbi WiFi 6(RBK852)の最大2402Mbpsという速度が生かせていないためだ。複数台のWi-Fi子機を同時接続したテストを実施すれば、Orbi WiFi 6(RBK852)の真の実力が明らかになるはずだ。
Orbi WiFi 6 Micro(RBK352)は、実力的には上記2台に比べるとワンランク落ちるが、それでも1階の近距離で最大772Mbps、2階で最大518Mbps、3階で最大230Mbpsと結果は十分に優秀だ。
前述したように、メッシュではない1台のみの構成の場合は、高価なハイエンド製品でも3階では200Mbpsも出れば優秀なので、低価格なOrbi WiFi 6 Micro(RBK352)でこれを超える結果をマークしているのは高く評価できる。家中で200Mbpsなら、実質的にはオンライン会議も映画ストリーミングも、問題なく利用可能だ。
用途別Orbiの選び方
さて、この結果も踏まえ、3製品から用途別に最適な製品はどれなのかを考察していこう。
テレワーク+テレワーク+遠隔授業の「家庭内混雑」必至環境ならOrbi WiFi 6(RBK852)一択
まずは、ヘビーユースな環境を想定していこう。現在の状況下では、家族3~4人が同時にオンライン会議を利用することもあり得なくはない。
例えば、夫婦のオンライン会議の時間が重なるだけでなく、同じ時間に子どもの学校や塾の遠隔授業も重なるとなれば、ビデオ+音声のストリーミングが3~4系統同時に、しかも家の中でそれぞれの音声が漏れることなく十分に離れ、それぞれが隔離された環境で発生することになる。
要するに、「広いエリアでの通信」「高い通信速度」「複数台の同時接続」という3つの条件を同時に満たさなければならないわけだ。
このようなヘビーな使い方が発生する可能性があるのなら、多少費用は掛かるものの、超高性能なOrbi WiFi 6(RBK852)一択だ。
前述したように、ベンチマークの結果はOrbi WiFi 6 Mini(RBK752)をわずかに上回る程度だが、Orbi WiFi 6(RBK852)は中継用だけでなく、Wi-Fi子機を接続するための5GHz帯も最大2402Mbpsとなっており、複数のWi-Fi子機を同時に接続した際でも十分な帯域を確保できる。
例えば、PC1からもPC2からも、1201Mbpsで同時に通信しても、最大2402Mbpsなら十分にまかなえるというわけだ。
Wi-Fi 6は、「OFDMA」や「MU-MIMO」といった技術によって、もともと同時接続のパフォーマンスが高いというメリットがあるが、アクセスポイントに十分な帯域が用意されていないと、そのメリットも生きてこない。
その点、Orbi WiFi 6(RBK852)なら、Wi-Fi子機とは最大2402Mbpsで接続できるため、こうした同時接続時のパフォーマンスを維持しやすい。
しかも、WANポートが2.5Gbpsに対応しているため、5Gbpsや10Gbps対応のインターネット接続サービスを利用して、高速なインターネット接続が可能となる。Wi-Fi子機用に2402Mbps、中継用に2402Mbps、インターネット接続用に2.5Gbpsと、端末からインターネットまでフルに2Gbps以上の帯域を確保できるので、たいていの環境で帯域不足を感じることはないだろう。
「テレワークだから……」と家族に映画やゲームを止めてもらっていたならOrbi WiFi 6 Mini(RBK752)がお勧め
続いて、一般的な用途を見てみよう。今や家庭でも複数の人が同時にWi-Fiを使うのは当たり前の状況だが、古いアクセスポイントであれば、こうした同時通信が発生したときに、いろいろと不都合がある。
例えば、家族がリビングで動画配信サービスを使って映画を見ていたとしよう。そうした状況で、大事なオンライン会議に参加しなければならないとしたら、家族に「テレワークだから……」と謝って、一時的に映画やゲームを止めてもらわなければならなかった。
なぜなら、別の部屋でオンライン会議に参加しようにも、電波が十分に届かない可能性もあるし、会議中に映画配信サービスやゲームなどで同時にWi-Fiを使われると、映像や音声が途切れてしまう可能性もあった。
しかし、Orbi WiFi 6 Mini(RBK752)を利用すれば、こうした問題を解決できるはずだ。メッシュ構成によって家中の広いエリアでWi-Fiが利用可能となり、書斎や寝室、子ども部屋など、テレワークで1人になれる場所の選択肢が増える。
さらに、最大速度は1201Mbpsとはなるものの、Wi-Fi子機を接続するために専用の帯域を確保できる。このため、家の中に設置した2台のOrbi WiFi 6 Mini(RBK752)のうち、ルーター用の1台で映画配信サービスの帯域をまかない、サテライト用のもう1台でオンライン会議の帯域をまかなうといったように、複数のアクセスポイントを使ってうまく帯域を分散できる。
同時利用の台数がさほど多くないのであれば、上位のOrbi WiFi 6(RBK852)でなくても同時通信は十分な速度を発揮できるので、通常の家庭での利用ならOrbi WiFi 6 Mini(RBK752)で全く問題ないだろう。
仕事用に1人になれる場所を探していた家庭内ノマドワーカーならOrbi WiFi 6 Micro(RBK352)でOK!
スピードや同時通信台数にはあまりこだわらず、シンプルにWi-Fiの利用エリアを広げたいというのであれば、Orbi WiFi 6 Micro(RBK352)がお勧めだ。
コンパクトでどこにでも設置しやすい上、デザイン性に優れているため目に付く場所に置いても気にならないため、Wi-Fiエリアを拡張したい場所へ気軽に設置できる。
デュアルバンド対応で利用できる帯域が少ないため、同時接続の台数が多い環境では上記2製品ほどのパフォーマンスは発揮できないが、先のベンチマークテストのようにPC単体での利用であれば、遠距離でも200Mbps以上の通信ができる。オンライン会議、動画ストリーミング、オンラインゲームなど、あらゆる用途で速度不足を感じることはない。
設置方法にもよるが、効果的に配置すれば、家中どの部屋でも、普段の利用に十分な速度を確保できるので、テレワークができる場所を求めて家の中をさまよったり、スマートフォンを片手に移動しながら動画を楽しんだりと、場所にとらわれず動きながら通信できるようになる。
現在、電波が届きにくい部屋がある悩みを抱えているなら、その状況をリーズナブルな価格で改善できる可能性が高いだろう。
Orbi WiFi 6シリーズで、Wi-Fi環境の悩みを解消しよう
以上、Wi-Fi 6に対応したメッシュWi-Fiシステム「Orbi」シリーズ3製品を比較しつつ、それぞれに適した用途を考察してみた。
理想は、超高性能で万能なOrbi WiFi 6(RBK852)だが、そこまで予算がないというならOrbi WiFi 6 Mini(RBK752)か、Orbi WiFi 6 Micro(RBK352)を選ぶといいだろう。
個人的には、多少費用がかさんでも、より高性能なOrbi WiFi 6 Mini(RBK752)をお勧めしたい。トライバンドならではの超高速バックホールという、Orbiシリーズならではの特徴によって、抜群に安定した通信環境を手に入れることができる。
メッシュWi-Fiを導入したいが、どれくらいの予算で、どのモデルを選べばいいのか悩んでいた人の参考になれば幸いだ。