清水理史の「イニシャルB」
無料で始める「はんこレス」Vol.1 はんこレスの概要+電子印鑑の始め方
2021年2月22日 06:00
テレワークの普及とともに注目が高まりつつある「はんこレス」の流れ。行政機関はもちろんのこと、企業でも規模の大小を問わず、従来の物理的な「はんこ」による業務プロセスを見直そうという動きが始まりつつあります。
ここでは、「はんこレス」をどのように実現すればいいのか、どのようなサービスを活用すればいいのかを『できるはんこレス入門 PDFと電子署名の基本が身に付く本』をベースに解説します。
はんこレス」とは何か?
テレワークの課題として、取り上げられることが多い「はんこ」の問題。
「はんこを押すために出社しなければならない……」と、あたかも「はんこ」そのものに問題があるかのように言われることもありますが、その本質は、業務フローや契約手続きを見直そう、というもっと根本的な部分にあります。
そもそも、「はんこ」には「意思表示」と「本人確認」という2つの意味合いがありますが、これをデジタル的な仕組みで実現することは難しいものではありません。
「はんこ」の役割をデジタル的に実現する方法は、大きく分けて電子印鑑と電子署名の2つの方法があります。
電子印鑑(認め印的な使い方)
電子印鑑は、端的に言えば印影の画像データです。「はんこ」を押したときに紙面に表示される印影を、画像データとしてPC上で扱えるようにすることで、PDFやWord形式の文書などへ貼り付けて使用します。
この方法は、印影さえ入手すれば、無料で、すぐに実現できます。例えば、「くいっくはんこ」などのウェブサービスを使って印影を作成し、「Adobe Acrobat」の署名またはスタンプを使って文書に貼り付ければ、それだけで押印が可能です。
社内の回覧や上司の承認が必要な場合は、これに加えてワークフローなどの仕組みを利用するのが一般的ですが、メールやビジネスチャットツールなどで回覧すれば、とりあえず「はんこレス」を始めることはできます。
あくまでも「はんこ」の見た目を再現するだけのものですが、文書の社内回覧など、閲覧したことを紙面上に示す「認め印」的な使い方であれば、この方法でも十分でしょう。
[メリット] | [デメリット] |
特別なツールが不要 | 本人性が低い |
無料で始められる | 文書の改ざんを防げない |
電子署名(本格的な契約向き)
一方、電子署名は、「はんこ」の見た目だけでなく(むしろ見た目ではなく)、実質的な役割を電子的に再現する仕組みです。
これには、インターネットの暗号化通信などでも使われている公開鍵暗号基盤(PKI)の仕組みを利用します。電子署名によって、本人が同意したこと、さらに文書が改ざんされていないことを証明します。
電子署名方式には、さらに2つの方式があります。
ローカル型(当事者型)
文書に署名する本人の電子証明書を使って電子署名をする方式です。具体例としては、確定申告や特別給付金申請手続きなどのマイナンバーカードを使った電子署名となります。
例えば、マイナンバーカードには、所有者自身の署名用電子証明書が含まれています。これを使って文書に電子署名をします。本人のみが持つ電子証明書で電子署名することで本人性が確認でき、さらに電子署名によって署名後に文書が改ざんされていないかどうかを確認できます。
ちなみに、電子署名を簡単に説明すると、文書のハッシュ値を計算し、そのハッシュ値を秘密鍵で暗号化したものと、電子証明書(公開鍵が本人のものであるという第三者機関による証明書)とともに、文書に付与します(電子署名の仕組みに興味がある場合は書籍を参照)。
[メリット] | [デメリット] |
本人性を確実に証明できる | マイナンバーカードなどの第三者機関に証明された電子証明書が必要 |
改ざんを防止できる | カードリーダーやスマートフォンなどの読み取り装置が必要 |
行政手続きなどでも使われており法的な有効性が高い |
クラウド型(立会人型)
クラウド型の電子署名は、現在の主流とも言える「はんこレス」ソリューションです。「Adobe Sign」、「クラウドサイン」、「DocuSign」、「GMO電子印鑑Agree」など、現在注目されている「はんこレス」サービスの多くがこの方式を採用しています。
クラウド型は、ローカル型と異なり、サービス提供事業者の電子署名を使って文書に電子署名します。
クラウド上にアップロードされた文書に対して、事業者のプラットフォーム上で契約者がサインや押印をします。このやり取り(誰が、いつ、どこに押印したのか)という情報を事業者が記録し、それを文書と一緒に事業者の電子証明書で電子署名します。
ローカル型と違って本人性が低い点が課題とされていましたが、令和2年9月4日に総務省、法務省、経済産業省の連名で公表された「電子署名法第3条Q&A」で「クラウド型の電子署名サービスでも2要素認証によって署名当事者の指示によって電子署名を行なうなどの仕組みがあれば、固有性が認められる(要約)」という趣旨の見解が公表され、クラウド型の電子署名サービスも法的に有効であることが明らかになりました(法的な課題の詳細に興味がある場合は書籍を参照)。
[メリット] | [デメリット] |
手軽に利用できる | 利用に料金がかかる |
法的に有効な契約に利用できる | |
文書の回覧や保管機能も提供される |
Adobe Acrobatによる電子印鑑
それでは、実際にどのように「はんこレス」を実現すればいいのかを紹介していきましょう。まずは、最も手軽かつ無料で始められる「電子印鑑」について紹介します。
電子印鑑による「はんこレス」を始めるために必要なのは次の2つです。
- Adobe AcrobatまたはWord
- はんこの印影画像
Adobe Acrobatは無料の「Adobe Acrobat Reader DC」で構いませんので、PCにインストールしておきましょう。
印影は、実は必須ではありません。Adobe Acrobatがあれば、所有者の氏名から自動生成した印影(スタンプ)を貼り付けることが簡単にできます。しかし、自動生成されたスタンプは簡易的なものなので、できれば印影画像を自前で用意しておくことをお勧めします。
「くいっくはんこ」による印影作成
印影は、さまざまな方法で用意することができますが、「くいっくはんこ」というウェブサービスを使うのが簡単です。
なお、オンラインの印鑑販売サイトなどでプレビュー画像が表示される場合がありますが、こうした画像を営利目的で使用することは禁止されている場合があるので注意してください。また、フォントメーカーの白舟書体が公開していた「ウェブ認印」というサービスもありましたが、現在はサービスを一時停止しています。利用目的をよく確認して印影を使うことが重要です。
もちろん、自分が所有する印鑑を紙に押印し、それをスキャナで取り込むことで印影として使うこともできます。
Adobe Acrobatの「署名」による押印
実際に押印する方法は簡単です。Adobe Readerの場合であれば、[ツール]メニューから[入力と署名]を選び、入力と署名を必要とするユーザーで[自分自身]の[入力と署名]をクリックします。
ツールバーから[署名]をクリックすると、[タイプ(テキスト)][手書き(描画)][画像]を選択できるので、[画像]を選んで、「くいっくはんこ」などから入手した印影画像を選択し、文書上の任意の場所に貼り付ければ完了です。
もっと手軽に済ませたい場合は、[スタンプ]を利用することもできます。この場合、あらかじめ印影画像をPDF形式で保存しておく必要があります。このあたりは、少し手順が複雑なので、詳しくは書籍を参照ください。
ちなみに、[署名]と[スタンプ]のどちらを使うべきかは、迷うところですが、[署名]を利用すると、Adobeのクラウド型電子署名サービス「Adobe Sign」を使って、署名後の文書に電子署名ができます。自分のみの電子署名(契約相手が不要で自分の押印のみ)なら、無料プランでも電子署名が可能です。
無料版Adobe Signで自分の署名のみ電子署名
では、Adobe Signで電子署名をしてみましょう。
押印後、ツールバーの[次へ]をクリックし、[リンクを取得]を選択して[リンクを作成]をクリックし、Adobe Signへ文書をアップロードします。操作としては、これだけです。
この機能は、署名した文書を送信(共有)するための機能です。文書にアクセスするためのリンクが作成され、Adobe Sign上で文書を確認できるようになります。
しかしながら、OneDriveやGoogle Driveでの共有と異なり、文書が電子署名によって保護されるのが特徴です。
作成されたリンクにアクセスすると、Adobe Sign上にアップロードされた文書を閲覧できますが、その右側に署名した日付が記録されます。これは、自分が署名した日付を証明するものとして使えます。
次に、文書をダウンロードして、Adobe Acrobatで開いてみましょう。
Adobe Acrobatで署名に関する通知が表示されるはずです。通知パネルを開くと、そこにAdobe Signの電子証明書によって電子署名されていることが表示されます。
Adobe Signのサービス内容は少々複雑なので、別途詳しく解説しますが、契約者双方のサインを記録するにはAdobe Signの有料版が必要です(無料版でも月2通まで署名依頼可能)。
しかし、自分の署名だけ(相手への依頼が不要)なら無料版でも2通の制限なく、文書に電子署名をすることができます。
例えば、取引先から機密保持誓約書などに署名して欲しいと依頼されたときは、この機能を使って自分の署名をし、電子署名で保護した文書を返送できます。
次回は、4つのクラウド型電子署名サービスを比較してみましょう。