清水理史の「イニシャルB」

無料で始める「はんこレス」Vol.2 クラウド型電子署名サービスを比べてみよう

 テレワークの普及とともに注目が高まりつつある「はんこレス」の流れ。行政機関はもちろんのこと、企業でも規模の大小を問わず、従来の物理的な「はんこ」による業務プロセスを見直そうという動きが始まりつつあります。

 前回の『はんこレスの概要+電子印鑑の始め方』に続いて、今回はいよいよ「はんこレス」の本命とも言える電子署名サービスを紹介します。国内で提供されている主なクラウド型電子署名サービス4つをピックアップしました。

 各サービスの具体的な使い方については、「業務委託契約書」などをやり取りする場合を想定し、以下それぞれの方法を『できるはんこレス入門 PDFと電子署名の基本が身に付く本』で解説していますので、参考にしてください。

  1. 自分から契約書を相手に送る方法
  2. 送られてきた契約書にサインする方法
  3. PDFの電子署名を確認する方法
  4. クラウド上で契約状況を確認する方法
  5. PDF契約後にPDF文書をダウンロードする方法

Adobe Sign

 Adobeが提供しているクラウド型電子署名サービスです。ウェブブラウザーからアクセスするサービスとしてだけでなく、Adobe Acrobatからシームレスに利用可能になっているのが最大の特徴です。

Adobe Sign

 Adobe Acrobat Proなどの料金に含まれるため、個人や小規模企業でも月額費用を抑えられるため導入しやすくなっています。ただし、ウェブとAcrobatからで、操作やできることに若干の違いがあるため、サービス内容を理解するのに慣れが必要です。

 機能面では、PDFの入力欄が自動認識されたり、署名用に豊富なフィールドを扱えるのがメリット。署名を依頼された際に、モバイル端末(スマートフォン)を使って手書きサインできるのも本サービスならではの特徴です。

 ただ、無料版では送信時にアドレス帳機能などが使えないのと、印鑑形式の印影にこだわる場合は事前に印影画像を自分で用意しなければならないのが欠点です。

 このほか、契約済みのPDF文書と一緒に監査レポート(同意情報のレポート)も一緒にダウンロードできるのも魅力です。

無料版ながらフィールドの設定が多彩
監査レポートをダウンロードできる

 利用料金は月額単位で、基本的にはユーザー単位課金ですが、個人向けおよび小規模企業向けプランではユーザーあたり年間150トランザクション(150通まで送信依頼可能)の制限があります。

クラウドサイン

 弁護士ドットコムが提供していて、国内で高いシェアを持つクラウド型電子署名サービスです。画面がシンプルかつ操作が簡単で、利用者向けガイドなどもしっかりしているので、初心者でも使いやすいのが特徴です。

クラウドサイン

 弁護士ドットコムの運営ということもあり、法的な対応に信頼性が高く、「サインのリ・デザイン」というオウンドメディアが充実しているのも大きな魅力です。

無料版ながらテンプレートを使える

 機能的には、無料版でもアドレス帳やテンプレート(業務委託契約書などがある)を使えるのが大きなメリットです。また、本人確認のための方法として、アクセスコードに加え、無料版でも2要素認証やIdP認証などの高度な認証を要求することもできます。

 操作性の面では、送信時にわざわざ自分を追加しなくてもよかったり(ほかのサービスは自分も宛先に加える必要がある場合がある)、押印を依頼されたときに氏名から簡易的な印影をその場で作れるのがメリットです(デザインは残念だが……)。

 ただし、送信者の指定が必須となるため自分のみの署名ができなかったり、無料版では設定できるフィールドがシンプル(フリーテキスト、チェックボックス、押印のみ)などの欠点があります。

SEIKOのタイムスタンプが付与される

 このほか、法的な要件を満たすために契約済みのPDFにSEIKOのタイムスタンプが付与されるのも、国内の法事情に精通したサービスならではの特徴です。契約後に合意締結証明書もダウンロードできます。

 固定料金+送信件数課金という形態になっており、ユーザー数や送信件数に制限がないため、大規模な環境ほどコストメリットが生きてきます。

  • 無料プラン
    https://www.cloudsign.jp/#price
     お試しFreeプラン(月5件まで、ユーザー1名)
     基本機能のみ
  • 有料プラン
    https://www.cloudsign.jp/#price
     Standard 10000円/月+送信料200円/件
     Standard plus 20000円/月+送信料200円/件
     (plus:紙の書類のインポート機能)
     Business 100000円/月+送信料200円/件
     (business:アカウント登録制限・IPアドレス制限・承認権限設定・SSO)

DocuSign

 グローバルで高いシェアを持つクラウド型電子署名サービスです。海外との契約書のやり取りが発生する可能性がある場合に適していますが、国内での法的対応も進んでいる上、Microsoftのサービスとの連携なども充実しています。

DocuSign
入力フィールドのカスタマイズが非常に豊富

 文書へのフォームのカスタマイズ性が高く、計算や自動入力、入力文字種の検証、条件選択による項目の自動表示なども可能とかなり多機能です。また、依頼を受けた場合に、シャチハタのデータベースを利用して、凝った印影をその場で作成できます。社判や角判も作れるのは、海外製サービスとは思えない充実度となります。

 このほか、ウェブブラウザーで位置情報を許可すると同意した場所まで記録できたり、自分のみの署名に対応しており、利用枠と関係なく文書に電子署名をすることもできます。また、合意の情報が記録された「Summary.pdf」も元文書と一緒にダウンロードできます。

シャチハタのデータベースから印影を取得できる

 ただし、エンベロープという考え方など、独特な用語に慣れる必要があります。海外向けのサービスらしく自由度が高いのがメリットですが、多機能過ぎて理解に時間がかかるのがデメリットです。

 料金は基本的にユーザー単位の課金で(法人向けは別方式もあり)、個人向けプランでは月5通までの制限があります。社内で契約書を送付する担当者が限られているものの、送付する通数が比較的多いケースではコストメリットが生きてきます。

 StandardとBusinessには機能の違いによる差があり、上位のBusinessでは一括送信、PowerForm、コラボレーションフィールド、高度な認証などを利用できます。

GMO電子印鑑Agree

 国内で古くから電子証明書ソリューションを提供してきたGMOが手がけるサービスです。高度な機能が使えることの裏返しで、若干ユーザーインターフェースが複雑な印象がありますが、無料プランの自由度が高く(月10通まで無料で多機能)、他社の有料プラン並みの機能を無料で利用できます。

GMO電子印鑑Agree

 有料プランでは、クラウド型(立会人型)だけでなく、当事者型の電子署名(実印タイプ)も利用可能になっているのが最大の特徴です。

 このサービスは、送信機能と文書管理機能が優れています。ファイルはPDFだけでなくWordにも対応していて、送信相手の順番や一斉送信などを細かく指定したり、社内ワークフローや受領者まで設定することもできます(無料版ではアドレス帳が使えないのが残念)。

自社ワークフローや受領者を設定可能

 文書管理では、保管だけでなく検索なども可能です。契約書に対して、契約金額や保管場所などの情報を後から設定することもできます。印影もその場で作れるので、事前知識なしに電子署名を依頼された場合でも困りません(デザインはシンプル)。

フォルダーで文書を管理したり、検索したりできる。また契約金額などの情報を付加できる

 個人的には、署名を依頼されたときに表示される文書のプレビューウィンドウが狭すぎて、毎回、縦横両方のスクロールバーを操作させられるのが難点と感じました。また、契約後の文書にはSEIKOのタイムスタンプが付与されますが、ほかのサービスのように合意情報を示すレポートは提供されません(ウェブ上で確認する仕様)。

 とはいえ、個人、小規模、大企業、どの環境でも、非常に高いコストパフォーマンスを実現できるサービスです。料金は、月額固定費用+送信費用の形態となっており、ユーザー数や送信件数に制限はありません。

  • 無料プラン
    https://www.gmo-agree.com/price/
     月10通まで無料(契約印タイプのみ)
  • 有料プラン
    https://www.gmo-agree.com/price/
     契約印&実印プラン 8800円/月+送信料100円/文書
     ユーザー無制限、通数無制限
     自社の電子証明書を使える(実印タイプ、送信料300円/文書)

無料で幅広く使える「GMO電子印鑑Agree」個人で通数が少ないなら手軽な「Adobe Sign」も

 では、これらのサービスを実際に利用した場合に、具体的にどれくらいの費用がかかるのかについて、以下3つの具体的なケースを念頭に、考えてみましょう。

ケース1 個人

例:1人が外部宛てに業務委託契約書などを月3通送る

Adobe Sign:月1107円

クラウドサイン:無料プランでOK

DocuSign:Personal 月10ドル

GMO電子印鑑Agree:無料プランでOk

ケース2 小規模企業

例:営業担当が業務委託契約書、広報担当が機密保持契約書を外部に合計月10通送る

Adobe Sign:月3882円×2=7764円/月(年150トランザクション内)

クラウドサイン:Standard 10000円/月+200円×10通=12000円/月

DocuSign:standard 25ドル×2=50ドル/月(3ユーザーまでOK、通数無制限)

GMO電子印鑑Agree:無料プランでOK

ケース3 中規模企業

例:5ユーザー(社内の複数部門の担当者が合計で月50通送る場合

Adobe Sign:ビジネス/エンタープライズ(50×12カ月で150トランザクション超えるため要問い合わせ)

クラウドサイン:Business 100000円/月+200円×50通=110000円/月(ユーザー管理や権限設定が必要になるかどうかが境目)

DocuSign:問い合わせ(Businessでも3ユーザーまでなので)

GMO電子印鑑Agree:8800円/月+50通×100円=13800円(実印タイプも使える)

 GMO電子印鑑Agreeは、かなりの範囲まで無料で対応できる上、基本料金+通数で1通あたりも安いため規模が大きくてもコスパがいいと言えます。また、3ユーザー以内ならDocuSignの月25ドルのコスパもいい。通数無制限なので大量に送る場合に有利でしょう。

 クラウドサインは、権限管理が必要になるかどうかが境目となります。小規模で管理不要ならそこそこの金額で済みますが、大規模環境ではコストが上がります。ただし、ユーザー数は無制限なので、利用者数が多くなるほど固定+通数課金のメリットが生きてきます。

 Adobe Signは純粋にユーザー数でコストを計算できるのでシンプルですが、個人向けと小規模向けプランは年間150トランザクション制限があるので、これを超えるかどうかが選択のポイントとなります。

有料プランの場合

 利用者少なく、送信件数少ない→Adobe Sign

 利用者多く、送信件数そこそこ→クラウドサイン

 利用者少なく、送信件数多い→DocuSign

 利用者多く、送信件数多い→GMO電子印鑑Agree

無料プランの場合

 個人で通数が少ないなら手軽なAdobe Sign

 実用性が高いのは10件まで遅れるGMO電子印鑑Agree

 検証目的ならAdobe SignやDocuSignのデベロッパープランも活用

 これをまとめたのが上です。ただし、あくまでも本稿の前提条件での計算となるため、環境によっては結果が異なる場合もあります。一例に過ぎない点に注意してください。

清水 理史

製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できる Windows 10 活用編」ほか多数の著書がある。