清水理史の「イニシャルB」
2.5GBASE-T×2でNAS向けSSD「WD Red」×4搭載、コンパクトで高速なオールSSD NAS「AXELBOX Thin」を試す
2022年2月28日 06:00
テックウインドから全てのストレージをSSDで構成した新型NASシリーズの新製品「AXELBOX Thin」が発売された。
スリムでコンパクトな筐体を採用することで、部門単位や小規模なオフィスでも扱いやすいサイズと価格を実現した注目の製品だ。その実力を検証してみた。
現代のオフィス環境にマッチ、B5サイズで薄型の高速NAS
リモートワークの普及によって、オフィスには大型の機材を設置するスペースがなくなりつつある。NASが部門やチーム単位での情報共有やデータ保管に欠かせない状況であっても、オフィスレイアウトの見直しなどが実施される中で、それを設置するスペースが確保しにくい状況と言える。
その一方で、PCの世界では、ネットワークの高速化が進みつつあり、もはやPCのWi-Fiは最大2402MbpsのWi-Fi 6搭載が当たり前、有線LANに関しても高性能なノートPCでは2.5Gbps対応が進みつつあり、スイッチの低価格化も進み、エッジ単位(オフィスの島単位)での2.5Gbps化も無理なく実現可能な状況にある。
テックウインドから発売されたAXELBOX Thinは、そんな現代のオフィス環境を想定し、ニーズにマッチしたSMB向けの高速NASだ。
NASというと、ストレージを装着するためのベイが前面に用意されているのが普通だが、本製品にベイはなく、ストレージは全て内蔵となっている。
コンパクトな筐体はB5サイズでわずか30×230×165mm。オフィスの棚、デスクの片隅など、ちょっとした空きスペースさえあれば、どこにでも設置が可能だ。
また、B5サイズで軽量な上、ストレージがSSDなので、HDDのように持ち運びで故障する可能性が低いため、オフィス以外の場所での活用も可能だ。例えば、イベントの運営チームが仮設の事務所に設置して共同作業に活用したり、建設現場の事務所に設置して業者間で情報共有したり、出張時に宿泊先のホテルに持ち込んで同僚との共同作業用に活用したりすることもできる。従来の完全据え置き型のNASとは違った活用方法も見えてきそうだ。
もちろん、AXELBOXの特徴でもあるオールSSDであるのは当然で、内部にある4つのM.2スロット(PCI Express Gen3 x2接続)にNVMe SSDが装着されている。搭載されているSSDは、NAS向けとして開発され、その信頼性の高さが市場でも評価されているWestern Digitalの「WD Red SN700 NVMe SSD」だ。これにより、NASには欠かせない高い耐久性を確保している。
容量はモデルごとに異なるが、1TBのNVMe SSDを4本搭載した4TBモデルで19万9800円(税別)となっている。20万円を切るリーズナブルな価格設定がなされているため、部門単位などでも決済がしやすく、導入の敷居が低いと言えそうだ。
オールSSDのNASは、これまでデザインや動画編集など、高速なアクセスが要求される現場での作業向けと考えられてきたが、SSDの大容量化と信頼性向上によって、最近では用途を問わず使われるようになりつつある。
さらに、物理的な可動部分がなく想定外の故障が発生しにくいことから、SSDはSSD寿命の想定がしやすく、設置時のオーバープロビジョニングを適切に実行し、監視と定期的なメンテナンスさえ怠らなければデータを消失しにくいメリットもある。
シンプルなファイル共有はもちろんのこと、バックアップなどのベーシックな用途であってもSSD NASのスピードと静音性のメリットは高く、HDD搭載NASからの置き換えも検討したいところだ。
2.5Gbpsと1Gbpsでは2.5倍の差高速なデータ転送で読み書きを短縮
このように、コンパクトで設置しやすく、SSDによるパフォーマンスや静音性、信頼性の高さが特徴となるAXELBOX Thinだが、NASでは重要となるネットワーク面の性能も十分だ。
本体には2.5Gbps対応の有線LANポートが2つ搭載されており、一般的なNASが搭載する1Gbps対応のLANより、高い速度でのデータ転送が可能になっている。
具体的にどれくらい高速なのかを実際に計測したのが以下の画面だ。
テスト環境では、2TB SSD×4で8TB構成となる「AXELBOX Thin AXEL-TBS-464/8TB」と、QNAP製の10Gbps×2+2.5Gbps×4のスイッチ「QSW-2104-2T」を利用した。CrystalDiskMarkを利用して、2.5Gbps接続時と1Gbps接続時で速度を比較している。
シーケンシャルで比較すると、1Gbps接続時が118MB/sで、2.5Gbps接続時が296MB/sなので、その差はちょうど2.5倍だ。
この速度差は、シンプルに待ち時間に影響してくる。
以下は、WindowsのTerminalからRobocopyのコマンドを利用し、2種類のファイルを転送したグラフだ。3GBの単一のファイルを転送した場合と、848ファイルで合計3GBのファイルを複数転送した場合にかかった時間が以下のようになる。
1Gbps 有線LAN | 2.5Gbps 有線LAN | 2402Mbps Wi-Fi | ||
単一ファイル(3GB) | 書き込み(PC→NAS) | 27 | 10 | 19 |
読み込み(NAS→PC) | 27 | 10 | 40 | |
複数ファイル(848ファイル、合計3GB) | 書き込み(PC→NAS) | 33 | 17 | 39 |
読み込み(NAS→PC) | 30 | 13 | 50 |
※PC構成 CPU:Ryzen 3900X、メモリ:32GB、SSD:NVMe SSD 1TB、OS:Windows 10
1Gbpsの際は、単一ファイルで27秒前後、複数ファイルで30秒前後の待ち時間が発生するが、2.5Gbps接続であれば単一ファイルで10秒前後、複数ファイルでも13~17秒で済む。単純にファイルを読み書きしたときの待ち時間が半分以下に短縮されると考えると、この恩恵の大きさが実感しやすいだろう。
Wi-Fi経由でも読み書きは高速、シーケンシャルなら「無線」を意識しないレベル、ランダムはバラつきあり
最近では、クライアントがWi-Fiで接続される場合もあるため、同様のテストをWi-Fi経由でも実施してみた。
テストに利用したのは、最大4804Mbpsに対応したASUSのメッシュWi-Fiルーター「ZenWiFi XT8」。トライバンドに対応するほか、2.5GbpsのLANポートも装備する。本来はメッシュ構成で利用する製品だが、今回は単体で構成し、2.5GbpsポートもWANではなくLAN側で利用するよう、標準とは若干異なる構成で利用している。
CrystalDiskMarkの結果は、右の通りだ。160MHz幅で最大2402Mbpsでの通信に対応するIntel AX200搭載ノートPCを利用することで、Wi-Fiでも2.5Gbpsと同等の速度を実現できる。
シーケンシャルは、2.5Gbpsの有線LANと同等の値で、無線であることを全く意識しなくて済む。
ただし、ランダムの値は有線に比べると若干遅くなるようだ。先の表に掲載したRobocopyによるファイルコピーの速度も、値にばらつきが見られる。単一ファイルの書き込みは19秒とそこそこ速いが、読み込みは40秒と時間がかかってしまった。複数ファイルの場合は39秒から50秒とさらに時間がかかり、1Gbpsの有線よりも若干時間を要した。
Wi-Fiの場合、電波状況に左右される上にアクセスポイントの処理性能なども影響するため、2402Mbpsと言っても有線LANのようなフルスピードが安定して実現できるわけではない。このあたりは、環境に依存する部分が大きいと言えるだろう。
これぞSSDの恩恵! 2.5Gbps×2のどちらもフルスピードで転送可能
ここまでの結果は、どちらかというとネットワークの性能で、SSDの恩恵とは言い難い。このため、SSDの性能がもう少し発揮できそうな状況でもテストしてみた。
具体的には、AXELBOX Thinが備える2系統のLAN両方で同時に通信しながら速度を計測した。これであれば、2.5Gbps×2、つまり合計で5Gbps分の帯域がSSDに要求されるため、SSD搭載による恩恵が分かりやすいはずだ。
テストでは、LAN1へPC1を直結して100GBのファイルをAXELBOX Thinに書き込みながら、LAN2に接続したPC2からCrystalDiskMarkを実行している。これと同様、100GBのファイルをAXELBOX ThinからLAN1のPC1に読み込みながら、LAN2のPC2でCrystalDiskMarkを実行するテストも行った。
先の通常時の結果と比べると分かるが、100GBのファイルを書き込み中であってもシーケンシャルの値はほぼ変化がない。2.5Gbps LANのほぼ上限である296MB/sで張り付いたまま、高速な転送が実現できている。
さすがに書き込みではわずかに――とは言っても293MB/sで3MB/sほどだが――低下が見られた。また、ランダムの値も読み書きともに低下が見られるが、それでも1Gbps接続時と同等、もしくはそれ以上の値となっている。
なお、この際、100GBのファイルをNASに書き込んだPC1側の転送速度は293MB/s(Robocopyによる計測)で、2.5Gbpsのフルスピードを実現できていた。
一方、100GBのファイル読み込み中も結果は同様で、シーケンシャルに関してはほぼ値の低下が見られなかった。
ランダムの値については処理が複数発生するだけに、読み書きとも若干の低下が見られるが、全体的には2.5Gbps×2の同時接続でも高速だ。100GBのファイルを読み込んだPC1の転送速度も、ほぼ2.5Gbpsのフルスピードとなる286MB/sだった。
SSDの性能のポテンシャルの高さによって、複数系統の同時アクセスでも高い速度を維持できるのは、本製品の大きな魅力と言えるだろう。今回は2.5Gbps×2の環境でテストしたが、1Gbps接続であれば、より多くのPCが1Gbpsの上限でデータを転送できると考えられる。
オフィスでは、誰かが大容量のファイルをコピーしている最中に、別のユーザーがファイルを操作するシーンの方が多い。SSD搭載のメリットは、こうしたシーンで生きてくると言えそうだ。
オールSSDが内部処理の高速化にも貢献、多機能NASの魅力がさらに高まる
オールSSDのAXELBOX Thinの魅力は、LAN経由でのアクセスだけでなく、内部処理が高速である点にもある。
AXELBOX ThinはQNAPのNASがベースになっているが、QNAPのNASにはさまざまな機能が利用可能となっており、アプリを追加することで、アプリケーションサーバーやデータベースサーバー、開発環境、監視などの各種用途に利用できる。
内部ストレージがSSD化されることで、こうした処理においても高速なランダムアクセスが可能になり、さまざまな処理を同時に、かつ非常に高速に実行できるようになる。
例えば、NASのファイルを検索するためのツール「Qsirch」では、NASへファイルを追加するたびに、ファイルのインデックスが作成される。ファイルの追加や更新が頻繁に発生すれば、インデックス作成の処理が遅れて、検索結果が不十分になる可能性がある。
同様に、画像を保存した際には、サムネイルが自動的に作成されたり、AI機能を利用して画像の分類などが行われたりもするが、これにも内部的なディスクアクセスは欠かせない。
SSD化の恩恵は、こうしたNASの付加機能を活用する際にも大きいため、より多くの役割をNASに持たせたとしても、ファイル共有などの実用シーンでの転送速度を低下させることがない。シンプルに設定画面の表示や操作、アプリの追加などだけでも高速でストレスを感じないので、デバイスとしての実力がワンランク上になったような感覚がある。
エッジストレージとしての有力候補
以上、テックウインドのAXELBOX Thinを実際に検証してみたが、小型かつリーズナブルな価格設定のNASとしては、かなり魅力的な製品と言える。
動作音もほぼ無音だし、ローカルストレージのように即座にデータを読み書きできるため、設置していることさえ忘れてしまうほど自然に利用できる。
リモート環境などでクラウドストレージの利用シーンも増えているが、やはり高速なデータ処理と大容量のデータ転送には、ローカル、それもなるべく近い場所に高速に接続されているエッジストレージが必要不可欠だ。
既存のNASのリプレイスにも適しているが、新たなストレージ環境として導入を検討してみてはどうだろうか。
(協力:テックウインド株式会社)