清水理史の「イニシャルB」

無線で1Gbps超!? AMD向けWi-Fi 6Eモジュール「RZ616」をThinkBook 13s Gen4で試す

 Wi-Fi 6Eの登場に向けて、PCのWi-Fi 6E対応が進んでいる。中でも注目は、AMDとMediaTekが共同開発し、AMDプラットフォーム向けに登場してきた「RZ616」だ。

 Ryzen 6800Uを搭載するLenovoのノートPC「ThinkBook 13s Gen4(AMD)」を利用して、Intel AX210/211に対抗する実力を備えているのかを検証してみた。

AMDのWi-Fi 6Eモジュール「RZ616」を搭載するLenovo「ThinkBook 13s Gen4(AMD)」

Ryzen 6000シリーズ向けのRZ608/RZ616

 RZ600シリーズは、M.2スロット採用でPCに内蔵可能なWi-Fi 6E対応の無線LANモジュールだ。

 AMDとMediaTekの共同開発として2021年11月に発表されたが、製品としてはAMDのモバイル向けCPUであるRyzen 6000シリーズとの組み合わせで、この夏から見かける機会が増えてきた。

 代表的な製品には、Lenovoのフラッグシップノート「ThinkPad Z」があるが、今回取り上げるのは、ビジネス向けのノートPC「ThinkBook 13s Gen4(AMD)」だ。直販モデルで10万円台前半から購入できるが、RZ600シリーズを利用したWi-Fi 6Eにしっかりと対応している。

 これまで、ノートPC向けのWi-Fiモジュールは、Intel製が一般的で、Wi-Fi 6対応のIntel「AX200」「AX201」(CPUとのセットは末尾が1になるが、スペックは同じ)や、Wi-Fi 6E対応のIntel「AX210」「AX211」が多く採用されてきたのだが、RZ600シリーズの登場により、今後のWi-Fiモジュールのシェアにも多少の変動が起こることになりそうだ。

お勧めは2402Mbps対応の「RZ616」

 RZ600シリーズは、いずれも2ストリームMIMOに対応したWi-Fi 6E製品だが、対応する速度の違いによって、現状は2つの製品で構成されている。

AMD RZ608 Wi-Fi 6EAMD RZ616 Wi-Fi 6E
対応規格Wi-Fi 6EWi-Fi 6E
対応ストリーム数2x22x2
対応帯域幅80MHz160MHz
PHYレート1201Mbps2402Mbps
インターフェースM.2 2230M.2 2230/1216

 違いは、通信時に利用する周波数幅の違いだ。RZ608は80MHz幅対応で最大速度が1201Mbpsとなるが、RZ616は160MHz幅での通信に対応しており、最大速度が2402Mbpsとなる。

デバイスマネージャーの画面。ネットワークアダプタがRZ616になっている
デバイスのプロパティ。Wi-Fi 6E対応なので6GHz帯の設定項目がある

 Wi-Fi 6/6E対応のアクセスポイントも、エントリーモデルは1201Mbpsまでの対応という場合もあるため、コストを抑えるならRZ608でも構わないが、ミドルレンジ以上のWi-Fiルーターは160MHz幅の2402Mbpsに対応する。また、ライバルであるIntelのAX210/211シリーズも160MHz幅対応となっている。

 最終的には、ノートPC全体のスペックや価格で選ぶことになるが、カスタマイズなどが可能な場合はWi-Fiの項目に注目し、どちらが搭載されているかを確認しておくことをお勧めする。

 個人的には後々後悔しないためにも、RZ608ではなくRZ616搭載PCを購入することをお勧めしたいところだ。

Wi-Fi 6での性能を試す

 RZ600シリーズはWi-Fi 6E対応なので、できれば6GHz帯での実力を検証したいところだが、残念ながら本稿掲載の8月22日時点では、Wi-Fi 6E製品が存在しないだけでなく、まだ認可もされていない状態だ。このため、Wi-Fi 6の5GHz帯での実力を検証してみた。

 いつも通り、木造3階建ての筆者宅の1階にアクセスポイントを設置し、各階でiPerf3の速度を計測したのが以下のグラフだ。アクセスポイントには、少し古い機種ではあるが、普段、筆者宅で利用しているバッファローの「WXR-5950AX12」を利用し、10Gbpsの有線LANでiPerfサーバーとなるPCを接続して検証している。

 なお、今回は比較対象として、Intel AX210搭載PCも用意した。こちらは、富士通の「LIFEBOOK U939/B」にIntel AX210を装着したもの[*1]だ。

[*1]……本記事で掲載している無線設備は「技適未取得機器を用いた実験等の特例制度」を利用して申請した上で実験している。換装に利用したIntel AX210モジュールとPC内蔵のアンテナとの組み合わせは、電波法第三章に定める技術基準への適合が確認されておらず、法に定める特別な条件の下でのみ使用が認められている。当該条件に違反して当該無線設備を使用することは、法に定める罰則その他の措置の対象となるので注意して欲しい

 結果は、なかなか優秀だ。近距離では、きっちりと1Gbpsオーバーを達成している。また、2階で900Mbpsオーバーと、3階でも階段付近の見通しのいい入口で870Mbps前後と900Mbpsに近い速度を広い範囲で実現できており、もっとも遠い3階窓際でも400Mbpsオーバーを実現している。

iPerf3テスト
1F2F3F入口3F窓際
ThinkBook 13s(RZ616)上り1540904870434
下り1610932876446
LIFEBOOK U939/B(Intel AX210換装)上り14301070748552
下り16201040824615

 ただ、前述したIntel AX210搭載PCと比べると、2階で1Gbpsの壁を超えられなかった上、3階窓際で100Mbps以上の差が出てしまった。PC本体の設計(アンテナの配置や筐体の材質)、計測時間の違いがあるため厳密な比較はできないが、今回の結果だけを考えると、長距離が若干苦手な印象だ。

 試しに、3階で「netsh wlan show interface」を実行し、電波状態とリンクを出力したのが以下の画面だ。シグナルの値はIntel AX210が65%で、AMD RZ616の方が66%と高いが、リンク速度はAX210が受信576Mbps、送信721Mbps、RZ616が受信432.4Mbps、送信576Mbpsとなっている。

Intel AX210の結果
AMD RZ616の結果

 同等のシグナル強度でもRZ616の方がリンク速度が低いので、おそらく速度選択の基準が安定志向なのではないかと推測される。ただ、今回のテストは5GHz帯なので、6GHz帯でどうなるかは興味深いところだ。

PCを選ぶ際は、Wi-Fi 6Eへの対応をチェック

 以上、AMDプラットフォームのWi-Fi 6EモジュールであるRZ616を検証してみたが、実用としては申し分ない実力を持っていると言えそうだ。

 いずれにせよ、筆者としてお勧めしたいのは、これからPCを購入する場合は、Intel AX210/211でもRZ616でもいいので、Wi-Fi 6E対応、それも160MHz幅に対応する最大2402Mbpsの製品を選んでおくことだ。

 PCの性能は、いろいろな要素によって決まるので一概には言えないが、ビデオ会議やクラウドサービスの利用が欠かせない今の時代、ネットワークの速度は、PC全体の快適さに大きく影響する。Wi-Fiモジュールの交換は電波法の関係で難しいため、後から悔やむことがないように、初めからWi-Fi 6E対応製品を選んでおくべきだろう。

清水 理史

製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できる Windows 10 活用編」ほか多数の著書がある。