清水理史の「イニシャルB」
TP-Link「RE815X」、Wi-Fi 6トライバンド対応中継機の実力を試す
2023年8月7日 06:00
TP-Linkから、Wi-Fi 6トライバンド対応の中継機「RE815X」が2023年7月に発売された。
コンセント直結型のコンパクトサイズながら、トライバンドで最大通信速度2402Mbps+2402Mbps+574Mbpsの通信ができ、1バンドを中継専用に回せるのが特徴だ。その実力を検証してみた。
実用性で選ぶなら「RE815XE」よりもこっち
TP-Linkから登場した「RE815X」は、自宅のWi-Fiの通信エリアを拡張できる中継機だ。
最大の特徴は、コンパクトなコンセント直結型ながらトライバンドに対応している点だ。2402Mbps(5GHz帯)+2402Mbps(5GHz帯)+574Mbps(2.4GHz帯)という構成となっており、3つの帯域を活用できる。
筆者は、「中継機とメッシュはトライバンドを選ぶべき」ということを以前から主張している。5GHz帯+2.4GHz帯のデュアルバンド対応の中継機では、例えば5GHz帯を中継に用いると、同じ5GHz帯に接続するクライアントと、通信が時分割になってしまうため速度が半減してしまう。
これに対して、トライバンド対応の中継機の場合、3つの帯域のうちのひとつを中継用、ほかをクライアント接続用と、用途ごとに割り当てることができる。この場合、クライアントと中継の通信が同時に可能になるため、より高速な中継が可能となるわけだ。
これまで、こうしたトライバンドの中継は、ミドルレンジ以上のメッシュ製品やWi-Fiルーター同士の組み合わせで実現することが多かったが、今回のRE815Xの登場によって、比較的コンパクトなコンセント直結型として提供されるようになった。この意義は大きい。
ちなみに、同社のラインアップには、似たような製品として、2023年4月に発売された「RE815XE」という製品があるが、こちらはWi-Fi 6E対応で6GHz帯+5GHz帯+2.4GHz帯という組み合わせだ。一方で、今回のRE815XはWi-Fi 6対応で、5GHz帯+5GHz帯+2.4GHz帯と、5GHz帯が2系統使える。
ガラガラに空いている6GHz帯を中継に有利できるRE815XEも魅力的だが、現状はまだWi-Fi 6E対応ルーターやクライアントは普及していない。実用性や汎用性という点に加え、実売価格も若干安い(執筆時点でのRE815Xの実売価格は1万5800円前後、対してRE815XEは1万9200円前後)ことを考慮すると、売れ筋になりそうなのは、むしろこの「RE815X」ということになるだろう。
実売価格 | 1万5800円前後 |
対応規格 | IEEE 802.11ax/ac/n/a/g/b |
バンド数 | 3 |
160MHz対応 | 〇 |
最大速度(2.4GHz帯) | 574Mbps |
最大速度(5GHz帯) | 2402Mbps |
最大速度(5GHz-2帯) | 2402Mbps |
チャネル(2.4GHz帯) | 1-13ch |
チャネル(5GHz帯) | W52/W53/W56 |
チャネル(5GHz-2帯) | W52/W53/W56 |
ストリーム数(2.4GHz帯) | 2 |
ストリーム数(5GHz帯) | 2 |
ストリーム数(5GHz-2帯) | 2 |
アンテナ | 外付け4本 |
WPA3 | 〇 |
メッシュ | OneMesh |
LAN | 1Gbps×1 |
USB | - |
ファーム自動更新 | 〇 |
本体サイズ(mm) | 106.6×56.2×348.2 |
アンテナはどうにかならないものか?
それでは、実機を見ていこう。
前述したように、本製品はコンセント直結型のデザインとなっている。特徴的なのは上下に伸びた4本のアンテナで、おそらく5GHz帯の2ストリームずつを担当していると推測される(2.4GHz帯用の残り2本は内蔵)。
外付けアンテナは可動式で、コンセントに接続した状態で手前側に倒すことができる。同社の現状の中継機ラインアップは、ほぼ、この「前へならえ」型のアンテナを採用している。
この方式は、マンションなど水平方向に電波を中継したいときには、特に問題ない。そのまま壁側に沿わせるようにして配置すればいいので邪魔になることはない。
しかしながら、筆者宅もそうだが、1階から2階や3階へ中継したい場合、つまり垂直方向に中継したい場合、アンテナを手前に倒したい。そうすると盛大に壁からアンテナが突き出すかたちになり、何も考えずに歩くと、うっかり足にひっかかってしまう。この点は、どうにかした方がいい。
同社は、積極的にIPv6 IPoE対応を進めてきたり、日本仕様のWi-Fiルーターを企画したりと、ユーザーの声に耳を傾けることに優れた企業だが、中継機のこの仕様はどうにも変更されない。なので、筆者としても、改善されるまで、しつこく言い続けることにする。
また、コンセント直結型ながら、コンセントの使いやすさへの配慮もいまひとつと感じる。アンテナはコンセント差込口よりも横幅が広い上に、有線LANポートも底面ではなく側面(壁には当たらない面)に用意されているため、2口あるコンセント差込口の上側に装着すれば、下側の差込口は何とか利用できる。ただし、余裕はないので、コンセント直結タイプのACアダプターなどは、サイズによっては共存できない可能性がある。
中継機の設計は、バッファローが巧みだが、もう少し実用性を考慮した設計がなされるとうれしいところだ。
他社のWi-Fiルーターとの組み合わせでテスト
続けて、中継機としての性能を検証してみよう。
本製品は、同じTP-Link製のWi-Fiルーターと組み合わせて利用した場合、「OneMesh」というメッシュ機能を利用できる。メッシュ構成の方が、もとのWi-FiルーターのSSIDを継承して1つのネットワークとして利用できる上に、移動中のローミングなどもスムーズになるのでメリットが大きい。
しかし、OneMeshを利用しなくても、一般的な中継機として、他社製品との組み合わせでも利用できる。パッケージにも「あらゆるWi-Fiルーターに対応」と記載されており、他社製品との組み合わせも想定されている。
なお、Wi-Fi Allianceが定めた異なるメーカー間のメッシュの互換性を認証する「EasyMesh」にも将来的に対応予定となっている。ただし、その場合であってもメーカーとして他社製品とのEasyMesh接続が保証されるわけではない。相性がよければEasyMeshで接続されるが、そうでなくても一般的な中継機として接続できるということになる。
そこで、今回は、他社製品との組み合わせとTP-Link製品同士のOneMeshで比較してみることにした。
利用したのは、他社製品がNECプラットフォームズの「Aterm WX11000T12」。Wi-Fi 6E対応で、4804Mbps(6GHz帯)+4804Mbps(5GHz)+1147Mbps(2.4GHz)のトライバンドルーターで、有線LANは10Gbps対応となる。一方、同社製品はOneMesh対応の「Archer AX3000」。Wi-Fi 6対応で、2402Mbps(5GHz帯)+574Mbps(2.4GHz)のデュアルバンドルーターで、有線LANは1Gbps対応となる。
スペックがかなり異なるので、機種ごとの差というよりも、それぞれの機種で単体と中継機ありの差、およびアンテナを縦にした場合と横にした場合の差に注目してほしい。
接続に関しては、TP-Link製の「Tether」アプリを利用した。RE815Xをコンセントに接続後、しばらくすると電源ランプが点灯するので、その後、アプリの指示に従ってRE815Xの初期SSIDに接続してセットアップを実行する。接続先として親機を指定し、中継用のSSIDを設定すれば、中継機として利用可能になる。
このように、中継の設定自体は簡単だが、セットアップ後、メッシュで利用しない場合の手間が発生する。OneMeshの場合は親機のSSIDがそのまま引き継がれるが、一般的な中継機として使う場合は、従来の親機側のSSIDとは別に、中継機SSIDが設けられるため、中継機に接続するスマートフォンなどの端末で、接続先を新たに登録する必要があるのだ。
とはいえ、一度登録してしまえば、あとは自分がいる場所に応じて、親機か中継機の近い方のSSIDが自動的に選択されるので、運用上の手間はない。メッシュの方が切り替えはスムーズだが、レガシーな中継機での運用もさほど手間はかからない。
やはりアンテナが……
実力は悪くない。以下は、木造3階建ての筆者宅にて、1階に親機、3階の階段踊り場にRE815Xを設置して、iPerf3による速度を計測したものだ。1~2階は親機に接続するため、中継機の効果が見られないので、今回は3階の結果のみを掲載している。
ルーター | 中継機 | 上り/下り | 通信速度 (3F入り口) | 通信速度 (3F窓際) |
Aterm WX11000T12 | 単体 | 上り | 507Mbps | 226Mbps |
下り | 604Mbps | 372Mbps | ||
RE815X中継 (アンテナ縦) | 上り | 544Mbps | 547Mbps | |
下り | 676Mbps | 679Mbps | ||
RE815X中継 (アンテナ横) | 上り | 522Mbps | 474Mbps | |
下り | 660Mbps | 662Mbps | ||
Archer AX3000 (OneMesh) | 単体 | 上り | 226Mbps | 199Mbps |
下り | 444Mbps | 374Mbps | ||
RE815X中継 (アンテナ縦) | 上り | 273Mbps | 280Mbps | |
下り | 441Mbps | 439Mbps | ||
RE815X中継 (アンテナ横) | 上り | 361Mbps | 340Mbps | |
下り | 498Mbps | 481Mbps |
※サーバー:Ryzen3900X/RAM32GB/1TB NVMeSSD/Realtekオンボード2.5Gbps/Windows11 Pro
※クライアント:Lenovo ThinkBook 13s(AMD RZ616)、Windows 11 Pro
※テスト方法:上りiperf3 -t10 -i1 -P5/下りiperf3 -t10 -i1 -P5 -R
※テスト時は5GHz帯を100chに手動設定
組み合わせが多いので、ひとつずつ整理しながら見ていこう。まず、Atermとの組み合わせだが、こちらはAtermの優秀さが際立つ組み合わせとなった。
単体でも高性能な製品で、最も遠い3階窓際でも上り226Mbps、下り372Mbpsなのでかなり高速だが、RE815Xと組み合わせることで、同じく3階窓際で上り547Mbps、下り679Mbpsにまで向上している。これなら、家中、どこでも有線とそん色のない速度で使えると言える。
肝心の中継機のアンテナの向きは、ほとんど関係なかった。3階窓際の下りで比べた場合、縦が679Mbps、横が662Mbpsとなった。縦の方が速いが、ほぼ誤差の範囲なので、ほとんど差がないと言っていい。これはAterm WX11000T12の性能が良好な証だろう。
Aterm WX11000T12には、独自設計の「ワイドレンジアンテナPLUS」というアンテナが内蔵されており、これにより端末の向きに関係なく、360度どの方向でもまんべんなく電波が届くようになっている。この恩恵によって、RE815Xのアンテナが縦でも横でも速度があまり変わらない結果となった。親機側のアンテナが優れていると、このようにRE815Xのアンテナの欠点を補えることが分かる。
ただし、Aterm WX11000T12は、Wi-Fi 6E対応で6GHz帯が利用できるため、この製品と組み合わせるのであれば、今回のRE815Xではなく、同じくWi-Fi 6E対応のトライバンド中継機「RE815XE」がおすすめだ。この場合、空いている6GHz帯を中継専用に利用することができるので、より安定した通信が期待できる。
続いて、同じTP-Link製品同士となるArcher AX3000との組み合わせだ。ハイエンドモデルのAterm WX11000T12と比べると基本性能が低い印象があるが、それでも単体で3階窓際が上り199Mbps、下り374Mbpsと、単体性能はかなり優秀だ。
RE815Xを併用したケースを見てみよう。もっとも遠い3階窓際の下りで比べた場合、単体が374Mbpsだったのに対して、アンテナ縦で439Mbps、アンテナ横で481Mbpsとなった。それぞれ50Mbps前後の上澄みがあり、単体とアンテナ横で比べると+100Mbpsを実現できているので、その効果は十分に得られていると言えるだろう。
基本的には、RE815Xのアンテナを親機の方向に向けた方が性能は高くなる。やはりアンテナの可動方向をうまく調整できるようにして欲しい印象だ。
なお、Archer AX3000とRE815Xの組み合わせは、前述したようにメッシュ(OneMesh)となる。メッシュの場合、5GHz帯と2.4GHzが自動的に判別して利用されるケースもある。一般的な中継機の場合、2.4GHzをあえて使わないという選択もできるため、2.4GHz帯の利用を避けたいのであれば、一般的な中継機としてセットアップするのもおすすめだ。
コンセント直結で使える手軽さはやはり魅力的
以上、TP-LinkのWi-Fi 6対応トライバンド中継機「RE815X」を実際に使ってみた。トライバンド対応の威力と、コンセント直結の手軽さが魅力の製品だ。
何度も言って申し訳ないが、アンテナは改善の余地がある。しかし、それにしても、このサイズを実現できているのは、やはり優秀だ。
価格が1.5万円前後と、中継機としては高級品となるが、トライバンド対応のWi-Fi 6対応ルーターは2万円以上するのが一般的なので、コスパも光る製品と言える。高性能な中継機を探している人は検討する価値があるだろう。