清水理史の「イニシャルB」
品質はしっかりTP-Link! 中国発のWi-Fi 6ルーター、MERCUSYS「MR70X」を試す
2023年5月8日 06:00
中国発のネットワーク機器ブランド「MERCUSYS(マーキュシス)」として、最大1201Mbpsに対応したWi-Fi 6ルーター「MR70X」が登場した。
2022年夏の発表(本誌でも2022年6月末に報じている)から、実際の出荷までにかなり時間がかかったが、国内でようやく発売され、筆者も入手することができた。いかにも電波が飛びそうな巨大なアンテナとコスパの高さが特徴となるが、TP-Linkが手掛けるとあり、思った以上に日本市場に適応した製品だ。
TP-Linkが手掛けるもう1つの低価格ブランド
MERCUSYSは、国内ではすっかりお馴染みとなったTP-Linkが手掛けるもう1つの通信機器ブランドだ。
日本での存在感を高めるTP-Linkの次なる戦略が何を目指しているのかが興味深いところだが、同社のリリースによると、MERCUSYSを「さらにコストパフォーマンスの高いネットワーク製品」と位置付けており、ただでさえもコスパの高いTP-Link製品を、さらに「コスト(が低い)」側に振った製品を展開しようというのが、その狙いだ。
2023年以降は、Wi-Fi 7の登場もあって、個人的にはWi-Fiルーター市場はハイエンドの戦いが展開されると予想している。実際TP-LinkのWi-Fi 7対応機もかなり高価な製品が発表されているが、その一方で、低価格なエントリーモデルを別ブランドで展開してきたことになる。
現状は、各メーカーとも上位モデルに注力している状況だが、TP-Linkは、グループとしてエントリーもしっかりとカバーするという意思表示なのだろう。
低価格がウリのはずが……
今回取り上げるMR70Xは、MERCUSYSの日本市場第1弾として登場したWi-Fi 6ルーターだ。スペックは、1201(5GHz)+574(2.4GHz)Mbpsのデュアルバンド対応で、Wi-Fi 6ルーターとしてはエントリーモデルに位置づけられる。
実売価格は、2023年4月時点で7128円となっており、確かにエントリーモデルとしては妥当な金額だ。
しかしながら、現状、他社のWi-Fi 6ルーターも価格的にはかなり健闘しており、筆者が調べた中での最安はエレコム「WRC-X1800GS-B」の4182円となっているうえ、同グループのTP-LinkのArcher AX23が2023年4月18日時点でセール価格ながら5985円で販売されている。
MERCUSYS | TP-Link | バッファロー | エレコム | |
型番 | MR70X | Archer AX23 | WSR-1800AX4 | WRC-X1800GS-B |
実売価格 | 7128円 | 5985円 | 7000円 | 4182円 |
CPU | (情報非公開) | デュアルコア | (情報非公開) | デュアルコア |
最大速度 | 1201+ 574Mbps | 1201+ 574Mbps | 1201+ 574Mbps | 1201+ 574Mbps |
IPv6(MAP-E/DS-Lite) | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
LANポート | 1Gbps×3 | 1Gbps×4 | 1Gbps×4 | 1Gbps×2 |
USBポート | × | × | × | × |
VPNサーバー | 〇 | 〇 | × | × |
高度なセキュリティ機能 | × | × | 〇 | × |
メッシュ | × | OneMesh | EasyMesh | × |
エントリーモデルだから安い、とは限らないのはもちろんだが、価格的にほかを圧倒するという状況ではない。
2022年8月時点であれば、かなり競争力のある価格だったかもしれないが、発売が延期されたこの数カ月でほかの製品の価格が下がってしまったため、価格的な魅力が薄れてしまったのは残念だ。
TP-Linkのノウハウが詰め込まれている
とは言え、中身は実にしっかりとしている。
日本語化されただけでなく、国内製品同様に4LDKなど推奨利用環境まで記載されたパッケージの印象もいいし、大判かつステップごとに画面とイラストでしっかりと解説され、サポートへの誘導もきちんと明記された「かんたん設定ガイド」が同梱されていることも好印象だ。
もちろん設定も簡単で、PCがなくても設定可能なスマートフォン向け「Mercusys」アプリも提供される。それだけでなく、初回セットアップ時に管理者パスワードや暗号化キーの設定などがきちんと実行されたり、回線種別も自動判別されたりする。エントリーモデルだからといって、どこか「手抜き」があるような印象はない。
要するに、この製品は、単なる「安い輸入品」ではないのだ。
もちろん、よく見てみると、今回のMR70Xの設定画面やアプリは、ロゴやテーマカラーが異なるだけで、TP-Link製品とまったく同じなので、中身はTP-Link Archerシリーズと、ほぼ同じと考えていい。
しかしながら、単なる「流用」ではなく、TP-Linkが日本に進出して蓄えてきたノウハウをしっかりと受け継いだ、と考えるのが妥当だろう。日本市場向けに最適化された状態で販売されているため、いい意味で効率化された製品と言える。
実売価格 | 7128円 |
CPU | (情報非公開) |
メモリ | (情報非公開) |
無線LANチップ(5GHz) | (情報非公開) |
対応規格 | IEEE 802.11b/g/n/a/ac/ax |
バンド数 | 2 |
160MHz対応 | × |
最大速度(2.4GHz) | 574Mbps |
最大速度(5GHz-1) | 1201Mbps |
最大速度(5GHz-2) | × |
チャネル(2.4GHz) | 1-13ch |
チャネル(5GH-1) | W52/W53/W56 |
チャネル(5GH-2) | × |
新電波法(144ch) | 〇 |
ストリーム数(2.4GHz) | 2 |
ストリーム数(5GHz-1) | 2 |
ストリーム数(5GHz-2) | × |
アンテナ | 外付け4本 |
WPA3 | 〇 |
メッシュ | × |
IPv6 | 〇 |
IPv6 IPoE(DS-Lite) | 〇 |
IPv6 IPoE(MAP-E) | 〇 |
WAN | 1Gbps×1 |
LAN | 1Gbps×3 |
LAN(LAG) | × |
USB | × |
高度なセキュリティ | × |
VPNサーバー | OpenVPN、PPTP |
動作モード | RT/AP |
ファームウェア自動更新 | 〇 |
LEDコントロール | 〇 |
サイズ(mm) | 208.8×171.6×41.7 |
低価格なのにVPNサーバーを利用可能
実際の製品を見ていこう。見た目は、はっきり言って、好みが分かれるデザインだ。
大きなアンテナや本体のメッシュ状のデザインなどが、いかにも中国メーカーらしい演出で、力強さは感じるが、アンテナのバランスの悪さが目立つ。初期のTP-Link製品にも感じられた異国感が前面に出ている。
本体サイズはさほどコンパクトではなく、20cm四方ほどの設置面積が必要になるが、本体はかなり軽く、いかにもコストを抑えた製品という印象がある。
インターフェースはシンプルで、背面にWANポート×1、LANポート×3があり、いずれも1Gbps対応となっている。本体サイズのわりに、LANポートが3つまでとなるのが、コスト削減が感じられる点と言えそうだ。
LEDも前面に動作確認のためのものが1つだけとシンプルで、本当に必要最低限の装備のみで構成されている。
機能的には、前述したように最大1201Mbpsと160MHz幅には対応しないWi-Fi 6の最低ラインのサポートにとどまるが、IPv6 IPoE(IPv4 over IPv6)対応で、v6プラス・OCNバーチャルコネクト・DS-Liteに対応している点が秀逸だ。
最近では、海外メーカーもMAP-EやDS-Lite対応が進んでいるが、国内初投入のエントリーモデルで、こうした対応をしっかりと実装してきた点は高く評価したいところだ。
付加機能としては、VPNサーバーを利用可能なのが特徴になる。低価格モデルでは省かれることが多いが、これにより小規模なオフィスや自宅などにVPNでアクセスできる環境を整えられることになる。
ただし、ルーターのVPN機能は、悪用される可能性がある点が話題となっている。運用には注意が必要だろう。
一方で、最近のWi-Fiルーターのトレンドであるセキュリティ対策ベンダーと連携した高度なセキュリティ対策機能(フィルタリングやIPS/IDS)は搭載していない。もちろん、ファイアウォールやファームウェアの自動更新などのベーシックなセキュリティ対策は備えているが、コスト重視モデルらしく、高度なセキュリティ対策を省くという割り切った設計になっている。
インターネットに接続可能で、無線で端末をつなぐという基本を低コストで実現できる製品と言えそうだ。
パフォーマンスも優秀
気になるパフォーマンスだが、これも問題ない。以下は、木造3階建ての筆者宅にて、1階に本製品を設置し、各階でiPerf3の速度を測定した結果だ。
1階の同一フロアで600~700Mbps。3階の端でも200Mbps(下り)となっており、なかなか優秀だ。現代のWi-Fi 6ルーターは、他社製品も含め、エントリーモデルでもかなり性能が高いが、本製品も安いからといって性能が劣る製品ではないことは明らかだ。
1F | 2F | 3F入り口 | 3F窓際 | ||
MR70X | 上り | 646Mbps | 446Mbps | 163Mbps | 97Mbps |
下り | 739Mbps | 584Mbps | 252Mbps | 200Mbps |
※サーバー:Ryzen3900X/RAM32GB/1TB NVMeSSD/Realtekオンボード2.5Gbps/Windows11 Pro
※クライアント:Microsoft Surface Go2(Intel AX200)、Windows 11 Pro
国内市場での存在感を高められるか
以上、MERCUSYSのMR70Xを試してみた。価格もそうだが中身も魅力的な仕上がりとなっており、他社にとってもそうだが、TP-Linkにとっても、強力な競争力を持った製品と言えそうだ。
まだ国内でなじみがないブランドであるため、当面は苦労するかと思われる。しかし、海外と同様に、低価格なスイッチやメッシュ製品までMERCUSYSブランドで投入されるようになると、国内の通信機器市場の競争は一気に熾烈になるだろう。競争に耐えきれなくなるメーカーも出てくるかもしれない。
発売が遅れたことで後手に回った部分はあるが、今後の発展を期待したいところだ。