清水理史の「イニシャルB」
Gmailと連携したAI「Bard」で、「Re:」が連鎖したメールを読む苦行から解放されるか? 試してみた
2024年1月15日 06:00
昨年末、GoogleのAIツール「Bard」で拡張機能が利用可能になり、GmailやGoogleドライブなど、同社の各種サービスとの連携が可能になった。使ってみるとなかなか便利で、特に、Gmailで「Re:」が連なったメールのスレッドから情報を取り出せるのが秀逸だ。とはいえ、まだまだ課題もありそうだ。実際に試してみた。
個人向けのGoogleアカウントで利用可能
GoogleのAIツール「Bard」の拡張機能が、日本語環境でも利用可能になった。
現状は個人向けアカウントのみで提供されており、組織向けのGoogle Workspaceのアカウントでは利用できないが(利用条件はBardヘルプ
を参照)、現状5つの拡張機能が提供されており、Googleのサービスと連携したチャットが可能となっている。
- Google Workspace(に含まれるサービス):Gmail、Googleドライブ、Googleドキュメントに保存されているデータにもとづいて回答してくれる
- Googleフライト:最新のフライト情報を取得できる
- Googleホテル:宿泊施設の情報を検索できる
- Googleマップ:ルートやスポットなどを検索できる
- YouTube:動画を検索できる
利用するには、Bardの設定画面の上部に表示される拡張機能アイコンから、利用したい拡張機能をオンにするだけだが、環境によってはGmailの設定で「スマート機能とパーソナライズ」がオンになっている必要がある。これらの設定を確認した上で、接続を許可すれば、BardからGmailなどの情報にアクセスできるようになる。
読み返せないほど連なったスレッドでも、心を折られずに済む?
この機能の何が便利なのかというと、Gmailのスレッドから的確に情報を取り出せることだ。
長年、「Re:」が連続する(Gmailで見ている分には件名に連なる「Re:」を目にすることはないが、それにしても多数の返信が連続する)メールのスレッドの管理に悩まされてきた。しかし、Bardを使えば、この混沌としたスレッドの中から、必要な情報を的確に取り出すことができる。
メールのやりとりで心が折れるのは、スレッドで長々と会話が展開された結果、結局、何がどうなっているのかが分からなくなってしまうことだ。仕事のメールなどでは、結局、タスクの内容や期日が埋もれてしまったり、会話が二転三転して勘違いが生じやすくなり、トラブルに発展したりする。
というわけで今回、控え目に10前後のメールが連なるスレッドをサンプルとして用意してみた。読者の中には、日常的に数十を超えるメールが連なったスレッドを抱えている猛者も少なくなさそうだが、今回は検証なので、この程度でご容赦いただきたい。
また、今回はウェブブラウザーとしてEdgeを利用し、サイドバーにBardを固定してCopilot的に使えるようにした。
このスタイルは、何か作業をしながらAIを使うのに非常に適している。普段のオペレーションを考えても、Bardから直接Gmailなどの内容を調べたいということは稀で、普通は、Gmailの画面で何らの作業をしているときにAIを呼び出したいと思うはずだ。
ChromeのサイドパネルにBardが追加されれば済む話だが、現状はまだないようなので、Edgeで代用することにした。
Bardでメールについて質問する
本題に戻ろう。
まずは、メールから、進行中の仕事を整理してもらう。Bardでは、「@」を使って検索対象を限定できるので、ここでは「@Gmail」として、必ずGmailから回答してもらうように限定する。次のように質問してみた。
@Gmail 進行中の仕事を整理してください
とすると、進行中の作業として、サンプルのスレッドでやり取りをしてた「イベント向け小冊子の制作」の案件が表示され、その内容が表示された。なかなかいい感じだ。
続いて、このスレッドにターゲットを絞って質問する。このスレッドでは、小冊子の制作についての情報がやりとりされている。その中で、やるべきことと期日が記載されているので、これらのタスクを整理してもらう。
「@Gmail イベント向け小冊子制作のタスクと期日を整理して」と依頼すると、次の画面のようにメールのやり取りから、全体のタスクと期日がリストアップされ、メールの内容から誰からの依頼で、誰が作業をするのかも表示される。自分でスレッドをたどらなくて済むのは、実に助かる。
ただし、上の画面に表示されているメールをよく見てほしいが、Bardが提示した情報は一部が間違っている。最新のメールで、イベントの日程が延期され3月30日(土)となっているが、Bardの回答は3月23日(土)のままになっているのだ。
この連絡があったメールでは、イベントの日程が延期になった結果、ラフ制作の締め切りも2日ほどずれ、1月15日(月)から1月17日(水)に変更されているのだが、こちらは的確に反映されている。
うーん。惜しい、実に惜しい。
言語モデルに間違いはつきものだが、こうした細かい日程を間違える可能性があるとなると、結局のところ、自分でスレッドをたどって情報を確認するという、無駄な作業をしなければならなくなってしまう。もう少し精度が欲しいところだ。
さらに、このメールでは冊子の中身についてもやり取りされているので、その点についても聞いてみよう。「@Gmail イベント向け小冊子の目次はどうなっていますか?」と質問する。
回答を見ると、こちらも惜しい。
まず、目次案が送られているのはその通りだが、その内容が全く違う。目次案はExcelのファイルとして添付されているが、その中身まで見ているわけではなく、完全に言語モデルによって生成された(架空の)内容が目次としてリストアップされている。
ここは、「内容まではわからない」旨を回答するか、Excelの添付ファイルのリンクを表示してくれた方がありがたい。
一方で、「ゲームの活用のページ」についての内容はメール内で具体的に述べられているため、この点は正確に回答している。もう一歩という印象だ。
法人向けではより精度が求められる
というわけで、実際にBardとGmailとの連携を試してみた。機能自体は便利だが、回答の精度には、まだ課題がありそうだ。
やり取りの中で変化した最新の情報を正確に把握できていないし、添付ファイルの内容を参照することもできていない。添付ファイルについては仕方がないとしても、わからないことを適当に回答されるのは本当に困る。わからないと答えるか、添付ファイルに関することは添付ファイルへのリンクを示すべきだ。
こうした機能を仕事で使うには、やはり精度が非常に重要になることを実感させられた。早く組織向けのGoogle Workspaceアカウントでも使えるようにしてほしいが、今の精度では不安がある。Googleが昨年末に発表した次世代AIモデル「Gemini」が搭載されたら(英語版ではすでに「Gemini Pro」が搭載されている)変わるかもしれないので、今後の改善に期待したいところだ。