清水理史の「イニシャルB」

メールや資料の作成をGeminiがサポート! 「Gemini for Google Workspace」を試す

Google Workspaceで利用可能になったGemini。英語UIに切り替えればGmailなどからも利用できる

 Googleの生成AI「Gemini」が、法人向けのGoogle Workspaceでも利用可能になった。より高性能なモデルの利用が可能なことに加え、現状は英語のみだが、GmailやGoogleドキュメントなどでもGeminiを利用したさまざまな支援を受けることが可能になる。実際の環境で、その実力を試してみた。

ややこしいGeminiブランドを「個人/法人」「無料/有料」で整理しておく

 マイクロソフトの「Copilot」もだが、どうしてこう生成AIのブランドは、ややこしいものが多いのだろうか?

 Googleの生成AIが「Gemini」ブランドに統一された。これまで、BardやDuet AIなどの名称も使われてきたが、今後は「Gemini」という名称でさまざまなサービスが展開されることになる。

Googleの生成AIサービスはGeminiに統一される。従来のDuet AIもGemini Enterpriseに変更され、新たにGemini Businessも追加された

 現状のサービスをまとめると、チャット形式で対話する一般的なサービスとして、無料の「Gemini」と、有料の「Gemini Advanced」(月額2900円)がある。この違いは、利用できる言語モデルだ。

 同社の言語モデルは、パラメーター数やバージョンの違いによって、現状「Gemini Nano 1.0」「Gemini Pro 1.0」「Gemini Pro 1.5」「Gemini Ultra 1.0」の4つのモデルが存在する。

 このうち、Gemini Nanoはスマートフォンなどの端末向けだ(ローカル動作)。そして、Gemini 1.5 Proはリリースされたばかり(2月15日リリース)で、まだ実装が進んでいない。つまり、本稿を執筆している2024年3月2日時点では、無料のGeminiとGemini Advancedの違いは「Gemini Ultra 1.0が使えるかどうか」という点になる(本稿の記載した情報は短い期間でアップデートされる可能性が高いと思うが、内容はすべて執筆している2024年3月2日時点のものとなる。)。

利用可能なモデルの違い
Gemini(無料)Gemini Advanced(有料)
Gemini Nano 1.0--
Gemini Pro 1.0
Gemini Pro 1.5--
Gemini Ultra 1.0-

 話はさらにややこしくなるが、これらを利用するためのサービスのプランが、また別の名称で存在する。コンシューマー向けの有料版プランは「Google One AI Premium」となっており、月額2900円でGemini Advancedの機能が利用できる。

 一方で、法人向けは、「Gemini for Google Workspace」という大きな枠の中に、「Gemini Business」と「Gemini Enterprise」(旧Duet AI for Google Workspace Enterprise)という2つのプランが用意される。これらのプランは、Google Workspaceのアドオンとして提供されるため、前提として法人向けのGoogle Workspaceを利用している必要がある。

法人向けのGemini Businessで利用できるチャットサービス。入力した情報が学習に利用されない

 コンシューマー向けと法人向けの違いは、ざっくり言ってしまえば情報保護機能だ。エンタープライズグレードのデータ保護と著作権保障が提供されており、入力した情報が学習に利用されることがない。これにより、社内情報などを安心して入力できる。

プランの比較
Google One AI PremiumGemini Business
対象個人向け法人向け
月額料金2900円2260円※1
チャットサービスGemini AdvanceGemini Advance
エンタープライズグレードのデータ保護×
チャット拡張機能※2×(近日提供予定)
Gmail
Googleドキュメント
Googleスプレッドシート
Googleスライド
Google Meet背景画像
Google Meet字幕翻訳?×

※1:Google Workspaceの料金も必要
※2:無料版でも利用可能
参考:Get started with Gemini for Google Workspace

Gmailなどとの連携は「拡張」「直接」の2レベルで整理する

 さて、このようなプランの複雑さをさらに深める要因となっているのが、Googleが提供しているGmailなどの各種クラウドサービスとの連携だ。

 これは、2つのレベルで考えるとわかりやすい。

 ひとつはチャットの拡張機能としてのアプリ連携となる。チャットで「@」を入力すると利用可能な機能で、Gmail、Googleドキュメント、Googleドライブのデータに対してチャットで質問することができる。

 例えば、「@Gmail イベント向け小冊子の締め切りはいつですか?」と質問すると、過去のメールのやり取りを検索して、「イベント向け小冊子のラフの締め切りは1月17日(水)までです。」のように回答してくれる。いわゆるRAG(Retrieval Augmentation Generation)の機能だ。

 拡張機能は、執筆時点ではコンシューマー向けサービスのみで提供されており、前述したGoogle One AI Premium契約者向けのGemini Advancedはもちろんのこと、無料のGeminiでも利用できる。なお、Gemini for Google Workspaceでは近日提供予定となっており、現状は利用できない。

チャットの拡張機能としてGmail連携などが搭載される(画面は個人向けの無料Gemini)
法人向けのGemini Businessでは、まだ拡張機能は利用不可

 もうひとつは、Gmailなどのアプリから直接利用できるAI機能だ。執筆時点では英語のみの対応だが、GmailやGoogleドキュメントで下書きを作成できる機能となる。Gmailのメール作成画面などに表示される「Help me write」から、内容をリクエストすることで下書きを作成できる。

 これらのアプリ統合は有料版向けの機能となっており、Google One AI Premium契約者、Gemini for Google WorkspaceのGemini Business、Gemini Enterprise契約者が利用できる。

GmailやGoogleドキュメントなどに組み込まれるGemini。有料版サービスで提供される(現状は英語版のみ)

「結局、自分は何が使えるの?」をまとめる

 このように、なかなか複雑なGeminiだが、結局、誰が何を使えるのかをまとめると、次のようになる。

無課金個人ユーザー

 無料のGoogleアカウントでGmailなどを使っている人は、無料版のGemini(Gemini Pro 1.0モデル)を使ったチャット、およびチャット上での拡張機能によるGmail、Googleドキュメント、Googleドライブに対する質問ができる。

課金個人ユーザー

 Google One AI Premiumを契約している場合は、より賢いGemini Ultra 1.0を使ったチャットを利用でき、チャットのGoogleアプリ拡張機能に加えて、GmailアプリやGoogleドキュメント、Googleスプレッドシートアプリ上で直接Geminiを利用できる。

Geminiアドオンなし法人ユーザー

 現状、Google Workspaceを利用している場合は、無料のGemini(Gemini Pro 1.0)を使ったチャットを利用できる。ただし、拡張機能は利用不可で、近日提供予定という表記も現状はない。もちろん、GmailアプリなどからもGeminiを使えない。執筆時点では、Google Workspaceにお金を払っているのに、無課金個人ユーザーよりもできることが少ないという、もっとも不遇な環境となる。

Gemini Businessアドオン課金ユーザー

 Google Workspaceでプランを購入し、かつライセンスが割り当て済みになっているユーザーは、エンタープライズレベル保護機能を備えたチャットを利用可能。上位モデルのGemini Ultra 1.0も利用可能になる。また、GmailアプリなどからもGeminiを使った生成を利用できる。ただし、チャットの拡張機能は今後提供予定で、執筆時点では使えない。

Gemini Enterpriseアドオン課金ユーザー

 基本的にはGemini Business課金ユーザーと同じだが、アプリ連携がより強化されており、Google Meetでさまざまな言語を利用したライブ翻訳が利用できる。今後、さらに機能差が広がる可能性はあるが、現状はMeetの違いのみとなる。

Google WorkspaceでGemini Businessを使ってみた

 実際に法人向けのGoogle Workspaceを利用する方法を見てみよう。手順としては、プランの購入、ライセンスの割り当てという2ステップになる。ただし、いくつかの注意点がある。

プランの購入

 Google Workspaceの管理コンソールから、[お支払い]-[その他のサービスを利用する]を表示し、[Gemini for Google Workspace]からアドオンを購入する。筆者の環境は小規模環境向けの「Google Workspace Business Starter」なので、選択できるアドオンも「Gemini Business」のみが表示された。

Google Workspaceのアドオンとしてライセンスを購入する

ライセンスの割り当て

 アドオンを購入できたら、[ディレクトリ]の[ユーザー]からユーザー管理画面を表示し、ライセンスを割り当てたいユーザーを選択し、[ライセンス]から[Gemini Business]を選択してライセンスを割り当てればいい。

ユーザーにGemini Businessのライセンスを割り当てる

 そして、注意すべき重要な点がいくつかある。

機能制限がある

 使える機能が制限されている。筆者が購入した時点(2024年2月29日)では、購入時の注意書きとして「近日提供予定: Google の最上位 AI モデルである Gemini Ultra 1.0 へのアクセス。」となっていた。執筆時点でも同様、つまり、モデルとしてGemini Pro 1.0のみが利用可能な状態となっている。同様にチャットの拡張機能も、今後提供の予定だ。

現状は英語のみ対応

 対応する言語の制限もある。チャットGmailやGoogleドキュメントなどで利用できるGeminiの[Help me write]は、現状、英語版のGoogle Workspaceでしかサービスが提供されていない。このため、GmailなどのUIを英語に変更する必要がある上、もちろん日本語でのメールの下書きやドキュメントの生成はできない。

 なお、ドキュメントベースの情報なので未確認だが、Google Workspace Labsという招待制のベータテストプログラムでは、より多くの機能が使えるようだ。例えば、Gmailのサイドパネルからのスレッド要約や検索などが可能と記載されている。現状、サービスとして利用できる機能は、これよりも少なく、今後、段階的に実装されていくと考えられる。

▼Google Workspace Labsの説明
Get started with Google Workspace Labs

各サービスで実際に使ってみた

 それでは、実際の利用方法を見てみよう。前述したように、現状は英語版のみなので、英語での使い方を紹介する。

Gmail

 Gmailでは、現状、メールの下書き機能が提供される。メールの新規作成画面を表示すると、画面下部に[Help me write]というアイコンが表示されるので、ここをクリックしてメールの概要を入力することで、下書きが生成される。

 例えば、「届いた商品が購入したものと違うので確認と交換を求める内容のメールを書いてください。」と依頼するために、「The product you received is different from the one you purchased, so please write an email requesting confirmation and exchange.」と入力すると、次のような下書きが生成される。

Hi there,

I recently purchased a product from your store, but the one I received is different from the one I ordered. I would like to confirm that this was a mistake and request an exchange for the correct product.

Please let me know if this is possible and how I can proceed with the exchange.

Thank you for your time and attention to this matter.

(以下は、上記出力結果の日本語訳)

こんにちは

最近、あなたの店から商品を購入しましたが、届いた商品は注文したものと異なります。これが間違いだったか確認し、正しい商品への交換を依頼したいと思います。

これが可能かどうか、そして交換をどのように進めることができるか教えてください。

この件にお時間を割いていただき、ありがとうございました。

 もちろん、修正もできる。[Refile]をクリックすると、[Formalize(より厳粛に)][Elaborate(より詳しく)][Shorten(より短く)]という3つの候補が表示される。例えば、[Formalize]を選択すると、丁寧な文章に変更される。

メールの新規作成でHelp me writeを利用してプロンプトを入力
下書きを作成してくれる。トーンなども変更可能

 英語が苦手な筆者には微妙なニュアンスがつかみにくいが、いくつかのトーンを指定して書き換えることは可能となっている。今後、日本語版が登場したときに、これらのトーンがどのように反映されるのか興味深いところだ。

Googleドキュメント

 Google ドキュメントでも基本的には、[Help me write]から下書きを依頼できる。例えば、次のような企画書の作成を依頼するために、英語で入力してみる。

Googleドキュメントで下書きを依頼
企画書を書いてください。農場直送の新鮮な卵を使った目玉焼き専門の飲食店の出店計画。「焼き玉『トリプレス』」。客席の鉄板で客が自由に目玉焼きを焼いて食べられる。個数でオーダー。1個30円。ライス味噌汁セット200円。セット大が350円。5個でもワンコインを目指す。焼き方や味付けは自由。豊富な調味料を席に用意して自由に調理して食べるスタイル。立ち食いにして回転率を上げる。テイクアウトドリンクを+100円で提供することで食後の離席を催す。出店場所は神保町。学生、サラリーマン、古書店向け観光客などが見込める。

Write a proposal. A plan to open a restaurant specializing in fried eggs using fresh eggs directly from the farm. "Grilled ball 'Tripress'". Customers can freely grill and eat fried eggs on the griddle in the audience seats. Order by quantity. 30 yen for 1 piece. Rice miso soup set 200 yen. The set size is 350 yen. Aim for one coin, even if it is 5 pieces. You are free to bake and season it. A style in which a wide variety of seasonings are prepared at the table and cooked and eaten freely. Increase the turnover rate by eating standing up. By offering take-out drinks for +100 yen, you can leave your seat after meals. The store is located in Jimbocho. Students, office workers, and tourists from second-hand bookstores can be expected.

 これで生成されるのが、次のような文章となる。見出しなどのスタイルも適用済みで生成されるので、簡単な手直しで利用できそうだ。

作成された下書き

 もちろん、修正も可能で、出力された結果から範囲を選択して、トーンや形式を変更することもできる。Googleドキュメントではトーンが[Formal]と[Casual]の2種類選択可能なほか、Bulletize(箇条書き)などの形式を指定したり、自由にプロンプトを入力したりして書き換えてもらうこともできる。

 このほか、追記も可能で、検討事項という項目を追記してもらうために「Please add a section called Considerations」と入力することで、作成済みの文章を受けて検討事項を追記してくれる。

範囲を選択してトーンを変更したり、箇条書きにしたり、プロンプトを指定して書き換えたりできる
箇条書きに変更したところ

Googleスプレッドシート

 Googleスプレッドシートでは、まずイチから表を作るシーンでGeminiを活用できる。新しいシートを作成後、ツールバーの[Help me organize]をクリックすると、右側にGeminiのプロンプトを入力する画面が表示される。

 例えば、新規開店店舗のための従業員トレーニングの進捗管理をしたいと仮定しよう。「Create a tracker for employee training to open a new store」と入力すると、ステータスやスケジュールを管理可能な表が自動的に作成される。

表形式で管理したい情報をプロンプトとして入力することでひな形を作成できる

 このほか、セルの内容を言語モデルで判断してオートフィルで値を生成する機能も搭載されている。たとえば、以下の画面は、SNSの投稿分析やアンケート結果などを想定したもので、「comment」欄の内容について、「negative」か「positive」かを入力するものだ。

 途中までnegativeやpositiveを入力していくと、オートフィルによって後半の項目の候補が自動的に表示され、あとはAIまかせで判断を自動入力できるようになる。文字情報を整理する場合に役立つ機能と言える。

生成AIを活用したオートフィルを実装。左側の文章の内容を判断して分類方法を自動的に提案して埋めてくれる

Googleスライド

 Googleスライドでは、イメージの生成が可能となっている。右上の[Create image with Gemini]をクリックして、プロンプトで画像を指定したり、スタイルを一覧から選択したりして、しばらく待つとイメージが生成される。

 例えば、「Golden egg character with knife and fork. Eating a fried egg」と指定し、[Vector art]を指定すると次のように表示される。タッチが独特だが、プロンプトに近いイメージは生成されるようだ。

スライドではイメージの作成が可能。プロンプトを指定して画像を生成できる

 ただし、本稿執筆時点では画像生成結果の偏りの問題が修正されていないため、人物に関しては生成が拒否されるか、限られた画像しか表示されないことがある。この問題が解決されないと、思い通りの画像を使うことは難しいだろう。

Google Meet

 Google Meetでは、背景画像を生成できる。ミーティングの開始後、[Apply visual effects]から[Generative backgrounds]を選択し、プロンプトやスタイルを設定することで生成されたイメージを背景に設定できる。

 「Zombie-infested city」はエラーになってしまったが、「Flower garden」などと入力することで20秒ほどで画像が生成され背景に設定される。気軽に背景を変えられるのはなかなか面白いが、こちらも画像生成エンジンの修正が課題と言えそうだ。

Meetでは背景を生成できる

今後に期待

 以上、Google Workspaceで利用可能になったGemini Businessを実際に試してみたが、サービスを開始するのが少し早すぎたのではないかという印象だ。

 現状、英語環境でしか利用できないのも厳しいが、使える機能がまだ少なく、「便利」という実感を得にくい。また、本稿執筆時点では画像生成の問題もクリアできていない。

 アプリケーションでの生成AIの利用で重要なのは、既存のデータをいかに活用するかという点になる。Microsoftは組織のデータを複合的に結び付けて活用できるGraphをうまく活用しているのが印象的だが、Geminiはこの点がまだこうした工夫が足りない印象だ。せめてGmailの画面から、選択中のスレッドの要約くらいはできて欲しいところだ(現状チャットから「@gmail」で検索などは可能)。

 スタートダッシュで、だいぶ出遅れてしまった感があるので、今後の追い上げに期待したいところだ。

清水 理史

製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 11」ほか多数の著書がある。